【冒頭部分掲載】
川を泳いで渡る蛇
舞城王太郎
夏。零時三十五分。栄美子を待っていて、兄貴からの電話が鳴る。
「あ、俺。起きてた?」「うん。どうしたの?」「今平気?」「大丈夫。何?」「いやさ、さっきさ、また母ちゃんと喧嘩しちゃってさ」「もー、またかよ。つーか兄貴、また母ちゃん殴ったんじゃねえだろうな」「え?はは。やっちゃいました。でも軽くだよ」「軽くじゃねーよバカ。やめろっつったじゃん」「だってつまんねーことでうるせーんだもん」「我慢しろって、なんだかしらねーけど、ちょっとくらい」「でさ、」「つーか怪我させたんじゃねーだろうな」「いや、怪我とかしてないよ。ホントちょっと頭小突いただけだもん」「で、何よ」「あ、そんでさ、母ちゃん出てっちゃってさ、また、家。今祐子が探しにいってっけど、おめーんとこタクシーとかで向かったかもしんねーから、来たら保護しといてよ」「はあ?また?ちょっとさー、だからせめて、家から出すなって言ってんじゃん、これもー」「でも出てったもんは仕方ねーじゃん」「仕方ねーじゃねーよ。ちゃんとやれよ」「うるせーなてめーも。そんじゃ頼んだぞ」
電話が切れる。
続きは本誌にてお楽しみ下さい。
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