Y/y
父なき姉妹
一月十七日に、ららは新交通ゆりかもめに乗らなかった。この日は土曜で出勤する必要がなかったからである。午後、ちらつき出した雪を部屋の窓から眺められた。ららの部屋は八階にあって窓とベランダは真西に向いている。雪は、つかもうとすればつかめるふわっとした大きさだ。おもてに出よう、と考える。カバー付きの本を一冊増やそう、とららは考える。
思いついて二分後には外出した。マフラーをしっかりと巻いた。
JRの駅まではだいぶ距離がある。大きな運河が二つ、それから小さな運河が一つ。計三つの橋を歩いて渡り、おおよそ十五分で田町駅の西口――正式名称は三田口――に抜ける。その間、幾度も空を仰いだ。都心の雪だ、そう思った。
駅前の本屋に入る。中規模店舗だが文庫本の品揃えが充実している。ららは棚と棚のあいだの通路を歩み、いかにも慣れた
視線が止まれば、それが“当たり”だ。
ららは棚から抜き出す。
レジに行って購入した。税抜きで九百四十円した。店員に「カバーをお掛けしますか?」と問われる。書店のオリジナル・カバーは要りますか、と。ららはうなずいた。その
ハンバーガー店に入った。やや高級感のあるメニューで知られるハンバーガー・チェーン、しかし頼んだのはいちばんシンプルな、小ぶりのバーガーだ。それからMサイズのコーヒー。
ららはゆっくり噛む。
バンズを丁寧に咀嚼する。挟まれたレタスも。
食べ終え、文庫本を出す。掛けられている書店のオリジナル・カバーを、まず脱がせる。それから現われた文庫の本体のカバーもいったん外す。外したそのカバーを
その、裏向きの形で、カバーを付け直した。もともとの折り目は全部逆にした。白い文庫本が誕生して、さらにそこに――その上に――書店のカバーを掛ける。
ページをぱらぱらと捲って、もともと出版社がさし
ららはそれからコーヒーを口に運ぶ。
(続きは本誌でお楽しみください。)