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金融の世界史―バブルと戦争と株式市場―

板谷敏彦/著

1,925円(税込)

発売日:2013/05/24

  • 書籍
  • 電子書籍あり

金融の歴史とは、お金に変えた人間の欲望か、それとも叡智の足跡か――。

シュメール人が発明した文字は貸借記録の必要に迫られたものだった。ルネサンス期に生まれた銀行・保険業と大航海時代は自由な金融市場をもたらし、国家間の戦争は株式・債券の基を創った。そして今日、進化したはずの国際市場では相変らずデフレ・インフレ・バブルが繰り返される……人間の営みとしての「金融」を通史として俯瞰する試み。

目次
まえがき
第一章 金利も銀行もお金より先にあった
一話 メソポタミアのタブレット
二話 ハムラビ法典の上限金利規制
三話 紀元前のマーチャント・バンク
四話 牛や穀物で利子を考える
第二章 貨幣の幻想
五話 ディオニュシオスの借金返済
六話 紙幣は中国の発明
七話 日本の貨幣の話
八話 大きな石の貨幣の物語
第三章 アリストテレスの考え方
九話 世界初のオプション取引
一〇話 アリストテレスの財獲得術
一一話 ギリシャの両替商
一二話 ローマ法による財産権の確立
第四章 中世の宗教と金融
一三話 中世キリスト教の考え方
一四話 パクス・イスラミカの恩恵
一五話 フィボナッチの偉大な貢献
一六話 ダティーニ文書――活気あふれる地中海世界
一七話 簿記の父ルカ・パチョリ
一八話 銀行創設の功績はヴェネツィアのもの
第五章 大航海時代
一九話 起業家の時代
二〇話 新大陸からの銀流入――価格革命
二一話 ドルの起源
二二話 英国繁栄の礎を築いた海賊
二三話 『ヴェニスの商人の資本論』再考
第六章 東インド会社と取引所
二四話 会社の誕生――特許株式と無限責任
二五話 東インド会社
二六話 取引所の歴史
二七話 チューリップ・バブルとカルヴァン派と欲得
第七章 国債と保険の始まり
二八話 国債の誕生――財政制度の大改革
二九話 損害保険の誕生――ロイズ・コーヒーハウス
三〇話 多岐にわたる生命保険の起源
第八章 ミシシッピ会社と南海会社
三一話 戦争債務処理――南海会社の株式募集
三二話 ジョン・ローのミシシッピ会社買収
三三話 はじけた英仏バブル――資本蓄積に明暗
三四話 すずかけの木の下で
三五話 大坂堂島米会所
第九章 アムステルダムからロンドンへ
三六話 スコティッシュ・ウィドウズとコンソル国債
三七話 ナポレオンとロンドン市場
三八話 ニュートンが金本位制にした
三九話 国際通貨会議と通貨同盟
第一〇章 イギリスからアメリカへ
四〇話 有限責任制と株式市場発展の基礎
四一話 鉄道と株式市場
四二話 南北戦争とリテール・セールス
四三話 メディアとダウ・ジョーンズ株価指数
第一一章 戦争と恐慌と
四四話 日露戦争に見る国際協調融資
四五話 第一次世界大戦と有価証券の大衆化
四六話 ワイマール共和国のハイパー・インフレーション
四七話 大暴落とチャップリンの『街の灯』
四八話 長期投資の幻と株価の回復
四九話 ペコラ委員会とグラス・スティーガル法
第一二章 大戦前後の日本の金融市場
五〇話 戦前の株価指数
五一話 戦前のドル円相場
五二話 第二次世界大戦と東京株式市場
五三話 戦前の投資信託の話
五四話 焼け跡の二つの株式ブーム
第一三章 戦後からニクソン・ショックまで
五五話 第二次世界大戦とニューヨーク市場
五六話 ブレトン・ウッズ協定とGATT
五七話 「黄金の六〇年代」と利回り革命
五八話 欧米に追いついた日本の高度経済成長
五九話 戦後の投資信託の盛衰と証券恐慌
六〇話 ニクソン・ショックと金融テクノロジー
第一四章 日本のバブル形成まで
六一話 七〇年代のインフレとレーガン大統領
六二話 プラザ合意
六三話 ブラック・マンデーと流動性
六四話 金融制度から見る日本のバブル形成
第一五章 投資理論の展開
六五話 テクニカル分析と投資銀行
六六話 コウルズ委員会と株式市場の予想
六七話 ランダム・ウォーク理論と効率的市場仮説
六八話 オペレーションズ・リサーチとアセット・アロケーション
六九話 インデックス・ファンド
七〇話 バフェット対ジェンセン
七一話 効率的市場仮説への攻撃
七二話 最後に――グレート・モデレーションとリーマン・ショック
あとがき
注(参考文献)

書誌情報

読み仮名 キンユウノセカイシバブルトセンソウトカブシキシジョウ
シリーズ名 新潮選書
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 288ページ
ISBN 978-4-10-603728-3
C-CODE 0333
ジャンル 一般・投資読み物
定価 1,925円
電子書籍 価格 1,144円
電子書籍 配信開始日 2013/11/22

書評

ココロとフトコロに効く冒険の書

藤野英人

 本屋さんって一般的には静かな世界にみえる。ガヤガヤしていないし、本はそこに整然と並んでいて息を潜めている。しかし、本を書いてみるとわかります。弱肉強食の恐ろしい世界であるということを。本は静かに昔からあるような顔をしてそこにあるけれども、売れなければどんどん撤去され新しい本に変わっていく。自分が著者として書いた愛着のある本も売れなければ棚から排除され、市場からまたたくまに消えていく。
 今回の板谷さんの本はそのような弱肉強食の本の世界の中でもしっかり読み継がれ語られていく本になると私は確信している。10年経っても古くならないだろう。
「金融の世界史」ということだけれども、これは本当に面白い。ここに書いてある歴史は暗記物でもなく年号の羅列でもなく、古臭い過去の事象でもない。現代人の目線で、溢れるリスペクトと若干の好奇の目(覗き見視点)で歴史をみつめている。著者の板谷氏自身がプロの金融マンである。プロの金融マンがタイムマシーンでその場に行き、経済・金融の当時の仕組みやからくりを今度はプロの作家の語り口で私達に伝えている。面白く無い訳はない。そもそも金融というのは小難しい計算式で煙にまいたり、一般の人になじみの薄い世間から隔絶されたりした世界ではなく、生活に根ざした生々しいものなのである。そのような素材を歴史から取り出して、鮮やかな包丁さばきで見事に調理し、きれいに盛りつけている。ただ手に取り味わえばよい。
 この本は世界史の本なので、ハンムラビ法典、アリストテレスやニュートン、ナポレオンなど哲学者や偉人、英雄などがたくさん出てくる。しかし、書かれてあることはすべて金融。それが面白い。なぜなら法律や物理の法則、そして英雄の戦争などもすべてお金や金融と密接なつながりがあるから。世界の歴史の裏には経済的動機があり、経済的動機の裏には金融の仕組みがある。世界の覇権を取った国には経済の面で隆盛を誇らない国はなく、経済の隆盛には金融の仕組みがかならずある。
 世界史というと通常学ぶのは、軍人と政治家の物語である。せいぜいその他に脇役として芸術家や作家などが出てくる程度で、経済人が出てくることはめったにない。世界史の学問の中にある隠れた「士農工商」だ。歴史の教科書に商人はめったに出てこないし、金融マンはまず登場しない。この本にはたくさんの金融マンや金融の仕組みを作った人が出てくる。そしてそれがまた個性的だ。
 国債も株式も現代特有のものではなく、「歴史的」なものだ。金利の概念もハンムラビ法典に書かれており、とても古い。経済活動が始まり、石や貝、金属などで貨幣ができるとそれを粘土で作ったタブレットに記録をし始める。そのようなタブレットはメソポタミア地方から山ほど出土され、その当時の生活がしっかり残っている。日々の活動から年次の決算報告書までタブレットに記録されている。情報開示は紀元前二、三千年のころから重要であったのである。
 世界の歴史が金融という観点でぎゅっと凝縮されている。少ない紙面の中にそれぞれの時代の金融の歴史が詰まっているので、行間にある思いがまたすごい。何よりも金融という業に対する愛情が深いのである。正確に誤解のないように丁寧に書かれている抑制的な文章がそれを引き立たせる。そしてそれを感知するのも、私が同様にこの金融業界に対する愛情がある故かもしれない。
 時こそアベノミクス相場。リーマン・ショック以来低迷していた日本の株式市場も復活しているようにみえる。アベノミクス相場の先行きを書いた本はたくさん本屋にある。
 この本はアベノミクス相場のことはまったく触れていない。しかし、この本は知的好奇心を満たしてくれる知的な冒険の書であると同時に、未来へのみちしるべでもある。だからこそ、プロのファンドマネジャーとして日々現場で投資をしている私にとっては座右の書になるだろう。なぜならば、エドマンド・バーグが語るように「歴史に学ばぬものは歴史を繰り返す」からである。この本を読めばたちどころに儲かるというような下世話なものではないが、「ココロとフトコロ」に効く本ではなかろうか。歴史の好きな人、金融業界の人、資産形成をしたい人、お金のしくみを知りたい人。MUST READ!

(ふじの・ひでと 投資家)
波 2013年6月号より

担当編集者のひとこと

本当のところ、「金融」っていったい何?――

 大胆な金融緩和を講ずる「アベノミクス」、デフレ脱却を目指す「インフレ・ターゲット」、貨幣の供給量を増やす「リフレ政策」……専門書はもちろんのこと、新聞、テレビでも毎日のように繰り返されるこれら金融に関する言葉。分かったつもりで見聞きし、分かったつもりで使ったりもしますが、でもそれらの意味合いを、私たちは本当に理解していると言えるでしょうか? だいいち「金融」の定義からして、そもそも何なのでしょう?
「金融」という言葉は、明治時代に「finance」という英語に対して当てられた造語だといわれています。福沢諭吉が『西洋事情』の中で、「金貨の融通を盛んにし世の便益となり」と訳し、この「金貨の融通」を短く省略したものなのだとか。では、「finance」とはどのような意味かというと、接頭語の「fin」は、フランス映画のエンドロールでよく見る「fin」=「The End」と同じで、もともとは借金を終らせて完済することを意味していました。一七世紀頃から使われ始めたといいます。この当時は、王侯による借金踏み倒しが日常的だった時代から、国債発行への進化が見られた時代。返す気がないものは強奪であって「finance」とは呼べない。そうした背景から新しい言葉が生まれてきたようです。
 金融の仕組みを知るには、まず、その歴史を知る必要があると思います。一対一のお金の貸し借りの場合、借りた人は利子と元本返済の期限を借用証書に書いて、お金を貸してくれた人に渡す――こうした金融の基本形は、すでにメソポタミア文明の粘土板に残っています。それが次第に大きな金額を扱うようになり、さらには仲介業者を立てて広い範囲の人からお金を借り集め、貸し付けるようになっていく。それがやがて銀行となり、債券となり、株式となっていくのです。そして忘れてはならないことは、それらの金融制度が生まれてきた背景には、ルネッサンスや大航海時代、あるいは産業革命が発達した結果としての国家間の戦争といった「人の営み」が常にあったことです。
 本書は、現在の経済や市況がどのように成立してきたのかを理解しやすいように、金融の歴史を通史として俯瞰した一冊です。通読していただければ、「アベノミクス」や「リフレ」の真の意味をはじめ、デフレ・インフレ・バブルはなぜ繰り返されるのか、あるいは現代投資工学のからくりまで、我々を取り巻く金融・経済のリアルな姿がしっかりと見えてくるはずです。

2016/04/27

著者プロフィール

板谷敏彦

イタヤ・トシヒコ

1955年、西宮市生まれ。県立千葉高校、関西学院大学経済学部卒業。石川島播磨重工業を経て日興證券へ。株式部、NY駐在、機関投資家営業を経験。その後、ドレスナー・クラインオート・ワッサースタイン等でマネージング・ディレクター、みずほ証券で株式本部営業統括に就く。2006年、和製ヘッジファンドを設立して話題となる。著書に『日露戦争、資金調達の戦い―高橋是清と欧米バンカーたち―』(新潮選書)、『金融の世界史』(新潮選書)、『日本人のための第一次世界大戦史』(角川ソフィア文庫)

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