
ハリネズミは月を見上げる
781円(税込)
発売日:2023/04/26
- 文庫
- 電子書籍あり
高校2年生の鈴美と比呂。まったく似ていない2人の運命が響き合う、青春小説の新たな傑作!
あなたも最低。許せない――。高校二年生の鈴美は逆上した痴漢から守ってくれた比呂に感謝するが、予想外のきつい言葉を返され戸惑う。周りから浮くことを恐れる鈴美は、独りでも毅然とふるまう比呂と接するなかで次第に変化してゆく。だが比呂もまた、誰にも言えない悩みを抱えていて……。両親の離婚、中退した幼馴染み、壊れてしまった心。まばゆい出会いが胸に響く青春小説の新たな傑作。
二 微かな風音と香り
三 小波立つ
四 森の王国
五 わたしのこと、あなたのこと
六 風の通り道
七 空に星を数える
八 思いがけない風景たち
九 雲間の空色
十 耳と目と口と心
十一 わかったこと、わからないこと
十二 明日、逢うために
十三 ハリネズミの物語
書誌情報
読み仮名 | ハリネズミハツキヲミアゲル |
---|---|
シリーズ名 | 新潮文庫 |
装幀 | 今日マチ子/カバー装画、新潮社装幀室/デザイン |
雑誌から生まれた本 | 小説新潮から生まれた本 |
発行形態 | 文庫、電子書籍 |
判型 | 新潮文庫 |
頁数 | 384ページ |
ISBN | 978-4-10-134034-0 |
C-CODE | 0193 |
整理番号 | あ-65-4 |
ジャンル | 文芸作品 |
定価 | 781円 |
電子書籍 価格 | 781円 |
電子書籍 配信開始日 | 2023/04/26 |
書評
手書きPOPと本屋大賞
30年勤務した老舗書店を退職し、フリーで本の紹介をするようになって早いもので5年経つ。半世紀以上も生きてきて、本当にピンチの連続であった。大きな溝を乗り越えれば、高い壁が待ち受けている。心が折れそうになったことも数知れない。しかし悩める時には、いつも本があり、本に関わる人たちがいた。
僕が毎日手書きPOPを書くようになったのは、『白い犬とワルツを』がきっかけである。約25年前、千葉のデパート内書店に勤務していた僕は、あまりの激務に仕事を辞めたいと思い悩んでいた。書店に就職して約10年。それまでほとんど小説を読んでこなかったのだが、この店舗で初めて文芸書を担当し、その奥深さに打ちのめされて、人生を一変させるような物語を、読者に伝えることのできる書店の仕事の尊さにも気づかされた。

しかしどんなに売りたい本があれども、百貨店内の書店のルールとして手書きPOPは「見栄えが悪い」という理由でNGだった。そんな時に、千葉からほど近い津田沼の書店で『白い犬とワルツを』が手書きPOPで大ヒットしているという話題が、TVの情報番組で取り上げられた。決して派手ではないが、『白い犬とワルツを』の深淵なる感動を「肌が粟立つ」と優しい文体で表現した名作POPだ。すると昨日まで認められなかった手書きPOPを「今日からは積極的に書くように」という奇跡的な通達が、百貨店側から出たのである。
本当に何が幸いするか分からない。思いがけない手書きPOPブームによって日々の仕事が激変。「手書き」の力にも魅了されて、これまでに書いたPOPは6000枚以上に。縁あって『POP王の本!』を出版し、現在は全国学校図書館POPコンテストのアドバイザーでもあり、「目指せPOP甲子園!」を合言葉に、各地でPOPワークショップを実施するようにもなった。『白い犬とワルツを』はまさに人生を変えた1冊なのである。
POPを書き始めた時期に書店仲間たちと本屋大賞設立に関われたことも大きな転機であった。素晴らしい本を1冊でも多く、一人でもたくさんの読者に伝えたい。たった1枚のPOPも日本最大の書店のお祭りである本屋大賞も「志」はまったく同じである。しかし今年で22回目を迎える本屋大賞が、これほど長く続くことになろうとは、始めた当初はまったく想像すらできなかった。本を愛する数人の仲間たちで始めた賞が、いまやなくてはならない存在にまで成長した。その理由はこの賞に関わる多くの方々の情熱の賜物であると同時に、第1回『博士の愛した数式』を筆頭に『夜のピクニック』、『ゴールデンスランバー』といった、読んで絶対に損はさせない名作たちの力も大きい。
文芸書を読み始めて日の浅い僕が本屋大賞実行委員になることによって、多くの作家たちとも巡りあうことができた。
第10回本屋大賞を受賞した百田尚樹さんから『夏の騎士』の文庫解説の執筆をご指名いただけたことも書店員時代の最高の思い出である。『夏の騎士』は少年時代を鮮やかに再現した青春のバイブル。仲間たちとの冒険の日々がこの上なく清々しい。理不尽な時代を生き抜くための「勇気」を教えてくれる。百田さんに「いい解説やなぁ」と褒めていただいた文庫本は一生の宝物である。

そして忘れてはならないのは『ハリネズミは月を見上げる』だ。POPを通じて学校や図書館との縁が強まっている僕にとって、いま最も関わりたいのは若い読者と作り手(著者)をつなげることである。昨年、POPの授業で15年来のお付き合いのある東京・世田谷の学校にあさのあつこ先生をお連れする機会に恵まれた。講堂には『ハリネズミは月を見上げる』の主人公と同世代の200名の生徒が集まり熱気に包まれた。あさの先生と生徒たちとは、祖母と孫ほどの世代差がある。しかしいい作家、作品は時代も場所も軽々と超える。

あさの先生が子どもに寄り添う作品を書き続けられるのは、決して綺麗ごとばかりではない少女時代の記憶を消し去らず、ずっと心の中で持ち続けているからだ。ハリネズミの針は人を傷つけることもあれば、自分を守る武器にもなる。話を聞き終えた生徒たちの目の輝きを見て、「本と人」の力には無限の可能性があると確信した。子どもたちにとって好きな作家との出会いは一生の宝物になるはずだ。そして生涯、「本と人」を信じて生きていくだろう。こうした生身の体験を通じて、これからの読者を育てていきたい、改めてそう思った。
(うちだ・たけし ブックジャーナリスト)
高校生の満足度、93%! 圧倒的支持を得た青春小説が登場。
少女よ、心に針を持て。
引っ込み思案な高校生・鈴美が出会った、凜とした雰囲気を纏う同級生の比呂。本作は、そんな二人の少女が悩みながら成長する姿を描いた青春小説です。
同世代である高校生からどんな反応が返ってくるのかを知りたく、刊行前に読書アンケートを実施しました。しかも、予備知識のない状態で読んでもらうために、著者名とタイトルを伏せて敢行!
ご協力いただいた埼玉県立浦和第一女子高等学校の生徒のみなさんから熱い感想が寄せられましたので、一部をご紹介します。
波 2020年9月号より
単行本刊行時掲載
著者プロフィール
あさのあつこ
アサノ・アツコ
1954(昭和29)年、岡山県生れ。青山学院大学文学部卒業。小学校講師ののち、作家デビュー。『バッテリー』で野間児童文芸賞、『バッテリーII』で日本児童文学者協会賞、『バッテリーI~VI』で小学館児童出版文化賞、『たまゆら』で島清恋愛文学賞を受賞。著書は『福音の少年』『No.6』シリーズ、『弥勒の月』『ありふれた風景画』『ランナー』『夜叉桜』『The MANZAI』『晩夏のプレイボール』『ぬばたま』『ゆらやみ』『火群のごとく』『透き通った風が吹いて』『ハリネズミは月を見上げる』『神無島のウラ』など多数。