
荷風の昭和 前篇─関東大震災から日米開戦まで─
2,860円(税込)
発売日:2025/05/21
- 書籍
- 電子書籍あり
昭和に遊び、昭和に抗った「過激な個人主義者」荷風の生涯!
関東大震災から急激に復興したモダン都市東京、カフェーの女給や私娼などの新しい女たち、テロとクーデターに奔走する軍人……。激変する時代に何を見て、この「最後の文人」は反時代的傑作『ぼく東綺譚』を書き始めたのか? 『断腸亭日乗』など永井荷風の全作品を徹底的に読み込み、昭和をまるごと描き出した文芸評論の到達点!
まえがき
1 偏奇館で関東大震災に遭う
昭和の起点/良き隠れ家、偏奇館/大震災後の東京を歩く/林芙美子の被災/大曲駒村の被災/荷風が「自警団」と遭遇する
2 食と共に復興する東京
「この度の災禍は実に天罰なり」/東京の盛り場が移っていく/復興は食から始まる/銀座の「陳列館」「勧工場」へ
3 作家になるまで
「恋愛と文芸」の底に/「閑文字を弄ぶ」放蕩息子/母恋いの記/文学が認められていない時代に/憧れのフランスで/「変った人間」として生きていく
4 花とオペラと反骨精神
コスモスの種を蒔く/帝国劇場の亡命ロシア・オペラ団/「今日は帝劇」の時代/プラトン社の月刊誌「女性」/日記だから書きえたこと
5 学ぶ荷風――柳北日記との出会い
漢詩の添削を請う/図書館で急死した老人/成島柳北への傾倒/柳北日記を書き写す
6 円本ブーム
曝書の楽しみ/金融恐慌で預金を移す/不況下の円本ブーム/改造社との縁/「大衆」が台頭する
7 私娼という新しい女
銘酒屋が並ぶ盛り場で/「私娼の肩を持つわけじゃないが」/荷風の私娼取材/もっとも艶麗な一夜
8 私娼への思い――「かし間の女」と「ひかげの花」
散娼、「自活」する女たち/「テヨダワことば」の女たち/カフェの女給か、活動の女優か/裏通りの詩情/世の隅にいる二人を
9 銀座復興
時代観察者が市中を散歩する/復興した町の活気と殺気/銀座が繁華街の王者となる/愛妾と提灯行列を見る
10 中洲病院から隅田川へ
荷風のかかりつけ医/復興の魁としての橋/荷風の下町発見/東京、第二の陣痛/共産党への弾圧
11 市川左團次との親交
サラ・ベルナールを見た二人/共同作業への憧れ/ソ連が自由だった頃/エイゼンシュテインも影響を受けた
12 カフェ通い
「カッフェー」の時代始まる/「女給」という新しい女性/不況と「ガールの時代」/「文壇カフェー常連番附」大関の弁/教え子に一本取られる
13 「つゆのあとさき」に描かれた銀座
アドバルーンのある風景/銀座通りの歩き方/カフェの女たち、客たち/アイスコーヒー始めました
14 モダン都市へと出てゆく女性たち
交詢社ビル地下「サロン春」/チャップリンと女給の結婚話/小文字の「昭和」/女給と甘味処で/溝口健二が山田五十鈴に重ねたのは
15 郊外住宅地の誕生
東京が西へ広がっていく/水道の水はまずい/西の郊外を歩く/新開町、渋谷/やがて消えゆく小さな桃源郷
16 犬を飼う、探偵に依頼する
すでにペット霊園がある/ポチの文学史/荷風がシロを飼う/秘密探偵岩井三郎/モダン都市の新しい言葉
17 見え隠れする「暗い昭和」
佐分利公使の自殺/松本清張が推理する/満州へ、満州へ/世の中は明るくなった!/そしてテロとクーデターが始まった
18 小名木川への道
いまも残る江戸の運河/「水の東京」ゆえの工場地帯化/川から川へ/芭蕉の古碑を見つける/現在の向うに歴史を見る
19 荒川放水路のほうへ
「限りもなくわたくしを喜ばせる」/お化け煙突を発見する/放水路という新風景/葛西橋への思い入れ/小津安二郎のアングル
20 満州事変始まる
デパートの商戦にも/ゲンポーとグンシュクの日々/「最高に恰好いい姿」だった/こうして朝日新聞は変化した/天皇への直訴という考え方/荷風が日の丸を買う
21 城東電車が走った町、砂町
世界第二の都市に/路面電車に乗って/城東地区の興亡/モダニズム作家の見た江東/砂町で発見したもの/隅田川以東の地への思い
22 戦争の隣りの平和
小春日和のような日々/「暢気眼鏡」の奥さんのアルバイト/パーマネントが禁止されるとき/文士と麻雀/紙芝居の登場
23 軍人たちの時代
待合とクーデター/「武断政治を措きて他に道なし」/テロリストが賛美されてゆく/五・一五事件とポピュリズム/軍人を肥った豚と呼ぶ
24 貧しい東京、悲惨な東北
「強兵」重視のかげで/四つ木に住む少女/「欠食児童」という流行語/三陸大津波ふたたび/不受不施の生き方
25 私娼たちに「パリ」を見る
「性」を売る町/「ひかげの花」のモデル/パリの娼婦たち/フランスへの「亡命」/時代に背を向ける秘かな楽しみ
26 玉の井への道
玉の井観察/おはぐろどぶバラバラ事件/猟奇的世界から遠く離れて/あらかじめ失われた町へ
27 隠れ里、玉の井
二・二六事件の戒厳令下を/「最低の遊び場」へ通いつめる/荷風の「詩人的配慮」/迷宮を通り抜けた先に/国外脱出の夢、そしてミューズ
28 「ミューズ」、お雪
過去を懐しむ先に/「井戸か水道か」/過去の幻影が立ち現れる/美女と茶漬け/おためごかしの後の自己嫌悪/モーパッサン原作の映画?
29 日中戦争始まる
天皇機関説問題/「個人の覚醒せざるがために」/元愛妾と阿部定の噂話をする/私家版『ぼく東綺譚』始末/出征兵士の別れの挨拶
30 日中戦争下の日々
アッパッパを着た女性/写真機を片手に/ニュース映画の上映館/作家への弾圧が始まる
31 吉原出遊
三十年ぶりの吉原登楼/遊ぶ、見る、書く/「なか」が通じなくなった/没落の遊里取材/「荷風散人墓」/廓内の女たちへの尊敬
32 浅草オペラ館への道
東武電車が浅草に/松屋デパートの屋上から/軽演劇の人びとと交わる/浅草の観客/エノケン、ロッパの去った街へ/「一味の哀愁をおぼえたり」
33 浅草で、歌劇「葛飾情話」上演
「写真を撮ってくれるおじいさん」/オペラへの愛情/ドビュッシイのレコード/荷風歌劇、大入満員/一九九九年の「葛飾情話」
34 第二次世界大戦まで
幻の映画「浅草交響曲」/戦死者が日常的になる/軽演劇のヒトラー/同調圧力にさからって
35 「非国民」の悲しみ
金の国勢調査/パーマの髪と短いスカート姿/「ぜいたくは敵だ!」の時代に/「非国民」同士の共感/パリ落城
36 昭和十五年、「紀元二千六百年」
米穀通帳が始まる/荷風が炭を失敬する/口を開けば「新体制、新体制」/「駅馬車」日本公開の年に/「祝賀」のあと/ひそかな荷風ブームがおきる
37 太平洋戦争まで
遺書を書く/朝鮮の踊子たちが歌う/ある舞姫の物語/荷風の覚悟/「模倣ナチス政治」の世で
書誌情報
読み仮名 | カフウノショウワ1カントウダイシンサイカラニチベイカイセンマデ |
---|---|
シリーズ名 | 新潮選書 |
装幀 | 駒井哲郎/シンボルマーク、新潮社装幀室/装幀 |
雑誌から生まれた本 | 波から生まれた本 |
発行形態 | 書籍、電子書籍 |
判型 | 四六判変型 |
頁数 | 576ページ |
ISBN | 978-4-10-603927-0 |
C-CODE | 0395 |
ジャンル | 評論・文学研究 |
定価 | 2,860円 |
電子書籍 価格 | 2,860円 |
電子書籍 配信開始日 | 2025/05/21 |
著者プロフィール
川本三郎
カワモト・サブロウ
1944年東京生まれ。文学、映画、漫画、東京、旅などを中心とした評論やエッセイなど幅広い執筆活動で知られる。著書に『大正幻影』(サントリー学芸賞)、『荷風と東京』(読売文学賞)、『林芙美子の昭和』(毎日出版文化賞・桑原武夫学芸賞)、『白秋望景』(伊藤整文学賞)、『成瀬巳喜男 映画の面影』、『「男はつらいよ」を旅する』(共に新潮選書)、『マイ・バック・ページ』、『いまも、君を想う』、掌篇集『遠い声/浜辺のパラソル』など多数。訳書にカポーティ『夜の樹』、『叶えられた祈り』(共に新潮文庫)などがある。