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ある日の午後、平積みの文庫から1冊を手に取ったお客さんが、通りがかった書店員を呼び止めた

  「店員さん! 何コレ。ひどいよこの本」
書店員「お客さま、いかがいたしました?」
  「いかがも何も、コレ見てよ、コレ」
書店員「新潮文庫の『生者と死者』。泡坂妻夫さんによる空前絶後のミステリーですね」
  「そりゃたしかに空前にして絶後だよ。小口側が幾つも袋とじになっちゃって、頁が開けないんだから」
書店員「ああ、ちゃんと、とじてますね」
  「しかもこの1冊だけかと思ったら、他の本も全部とじてる。製本ミスってこんなに起こるものなの?」
書店員「これでいいんです、お客さま。『生者と死者』はとじていない方が製本ミスなのです」
  「?????」

書店員「実は『生者と死者』は1冊で二度楽しめる作品なのです。袋とじされた状態では25ページの短編小説として読めます。ところが袋とじを切って読み直すと、200ページの長編ミステリーとして読めるのです」
  「えーっ。でもそんなことしたら話の辻褄が合わなくなるんじゃ?」
書店員「いやいやそれが。短編が長編の中に埋もれると、かつてそこにあったことすら気づかぬほど滑らかにストーリーは繋がっています」
  「ほんとうにそんなことができるの?」
書店員「奇術師としても鳴らした泡坂さんの超絶的テクニックとしか言いようがないですね。パソコンがない時代に」
  「すごいなあ。そりゃ空前絶後だね」
書店員「でもこの本には一つだけ欠陥があるのです。お客さま」
  「欠陥?」
書店員「はい。袋とじを開けてしまうと短編は長編の中に埋もれてしまい、二度と読めなくなります。だから古本屋や図書館で『生者と死者』を見つけても、短編の方は読めません。それを避けるためには……」
  「分かった分かった。それ以上は言わなくても。解決策は……」
書店員「はい、まことにありがとうございます。それではこちらのお客さまが『生者と死者』2冊お買い上げで~す」

朝日新聞「売れてる本」で紹介! 「紙の本ならではのトリック」瀧井朝世(2013年12月8日)

この本は絶対に立ち読みできません。はじめに袋とじのまま、短編小説の「消える短編小説」をお読みください。そのあと各ページを切り開くと、驚くべきことが起こります――。そして謎の超能力者と怪しい奇術師、次々にトリックを見破るヨギ ガンジーが入り乱れる長編ミステリー「生者と死者」が姿を現すのです。史上初、前代未聞驚愕の仕掛け本です。読み方にご注意してお楽しみください。

●泡坂妻夫『生者と死者―酩探偵ヨギ ガンジーの透視術―

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2014年02月20日   今月の1冊
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