婚活1000本ノック
693円(税込)
発売日:2023/12/25
- 文庫
- 電子書籍あり
みんなちょっと不器用で、幸せになりたいだけなんだよ――。激しく切ない婚活小説!
これは実話であり、登場するすべての人物・団体は実在する――。南綾子31歳、独身、売れない小説家。冬の夜、かつて「クソ男・オブ・ザ・イヤー」を授与した山田が現れ、わたしに婚活を命じる。遊び相手に殺されて幽霊となった山田は、わたしの婚活成功を頼みに成仏を狙うらしい。お料理合コン、お見合いパーティ、漁師の嫁募集。奮起しては絶望する綾子だったが。熾烈で切実な婚活小説!
第二話 うにとかんぴょう
第三話 なんかムリ、なんかイヤ
第四話 誰が不良債権
第五話 生きてるように生きる
第六話 お見合い戦争
書誌情報
読み仮名 | コンカツセンボンノック |
---|---|
シリーズ名 | 新潮文庫 |
装幀 | 加藤木麻莉/カバー装画、新潮社装幀室/デザイン |
発行形態 | 文庫、電子書籍 |
判型 | 新潮文庫 |
頁数 | 320ページ |
ISBN | 978-4-10-102582-7 |
C-CODE | 0193 |
整理番号 | み-66-2 |
ジャンル | 文芸作品 |
定価 | 693円 |
電子書籍 価格 | 693円 |
電子書籍 配信開始日 | 2023/12/25 |
書評
人生で一冊目
子どもの頃から、知りたいことや悩みが出来ると駆け込み寺のように本屋に赴き、本の中でいつも解決してきました。学校の図書室では伝記や児童向け文学もよく読みました。
しかしあえて人生一冊目を挙げるなら、大学時代に友達に薦められた『ゴールデンスランバー』は、初めて頭を打たれた小説です。文字を追うだけで逃走劇の臨場感が映像を見ているかのように感じられたり、感情移入して涙がボロボロ出たりする読書体験は初めてで、ここから小説の魅力にどっぷりハマることになります。
暗殺犯の濡れ衣を着せられて追われる主人公の青柳、彼を匿い、助けてくれる人々。逃走劇のスリルの先にある人間の温かみや信用の大切さが身に染みます。
印象に残っている登場人物は連続通り魔のキルオ。謎めいていてユーモラスなキャラクターと、不思議な存在感。主人公を手助けするキャラクター全員が魅力的な人物像で愛着を覚えるので、読後はしばらく余韻に浸りました。
『レ・ミゼラブル』も心に残っています。これは私の人生で一冊目の翻訳小説でした。有名ミュージカルの原作でもあるのでストーリーは言わずもがなですが、言語化の幅広さや的確さ、描写の掘り下げの深さに驚きました。表現の仕方が非常に新鮮で、思わず蛍光ペンを引いてしまったページもあります。
善と悪について向き合い続けるジャン・ヴァルジャンの葛藤と逃走劇、革命の激しさ、それぞれの人物の悲劇が繊細に丁寧に綴られていました。
印象に残っているのはファンチーヌとエポニーヌのそれぞれの最期です。救いようのない痛々しい最期がこうも生々しく描写されるか、と苦しくなります。その描写は私の脳に、文章としてでなく映像として、トラウマのように残っています。
最後の「人生で一冊目」が『婚活1000本ノック』です。
というのは、この作品を原作とした同名のドラマで、人生初のヒロインを務めさせていただくことになりました。
私が演じるのは、三十三歳の売れない小説家・南綾子。この本は、作家・南綾子さんが「この物語の主人公はわたしである」という書き出しから綴る小説です。かつて自分を捨てた男・山田が幽霊になって現れ、婚活を綾子に命じます。「彼氏と温泉に行きたい」という綾子の願いが叶えば、自分は成仏できるはずだから、と。
婚活中の妙にリアリティーのあるストーリーに奇想天外な「幽霊」が登場することによって、どこからどこまでが実話なの!? と楽しく想像してしまいます。
次に自分のことを好きになってくれた人と付き合おう! と決意するものの、いざ現れると好きになることが難しかったり、頭で判断するなら誠実で真面目な人がいいのに、結局真面目な人といてもつまらなくて、不真面目でも面白い人といたいと思ってしまうところなどは「あるある!」と頷いてしまいました。全女性が共感できるのではないでしょうか。
他にも綾子と私が似ているところは多々ありました。例えば、見た目には自信がないのに、トークや居心地の良さで一見釣り合わないような相手が近寄ってくるが、結局誰も本気では言い寄ってこないところ、など……(笑)。
ドラマのオファーをいただいたときは、絶対に私がヒロインのはずがないと思ったのですが、綾子のパーソナリティーを知るにつれ、実在する南綾子さんには失礼ですが、「ちょうど私だ」と思うようになりました(笑)。
そして何と言ってもこの本を語るにおいて文章の面白さは外せないです。どんなに悲惨な思いをするシーンでも常に自分自身を俯瞰で見ていて、たとえや自虐を駆使して面白く笑いに昇華するところは、芸人である自分とも通ずる部分です。
ドラマの中でもモノローグとして綾子の心の声が常に聞こえており、原作を読んでいるときと同じような面白さが味わえるかと思います。
誰もが憧れるヒロインではなく等身大のリアルな女性の綾子には、多くの女性から共感してもらえると思います。逆に男性から見ると、女性はこんなふうに思っているの!? と驚いたり、新鮮に感じることも多いかもしれません。
山田役の八木勇征さんとのコンビネーションにもご期待ください。
婚活のリアルとコメディとしての面白さが両立している本作、ぜひ原作でもドラマでもお楽しみください!
「婚活1000本ノック」は2024年1月17日(水)22時よりフジテレビ系にてスタート!
(ふくだ・まき 芸人/俳優)
波 2024年1月号より
インタビュー/対談/エッセイ
このドラマの主人公はわたし……なのか?
『婚活1000本ノック』が連続ドラマに! 著者は驚愕し、そして戸惑う。なぜなら、この物語の主人公はわたし=売れない作家・南綾子だから――。
作者本人が主人公として登場する原作モノのドラマや映画は、実はそんなにめずらしくない。麒麟田村裕さんの『ホームレス中学生』、リリー・フランキーさんの『東京タワー~オカンとボクと、時々、オトン~』など。しかし、それらと拙著『婚活1000本ノック』は同じかといえば、実は全然違う。上記の二作品に限らず、作者主人公モノの多くが、自伝という形式をとっている。つまり、基本的には事実をベースにしている。ここではっきり宣言するが、『婚活1000本ノック』は嘘ばっかりだ。霊視体験なんて一度もしたことがない。あるはずがない。
つまりわたしは拙著をおもしろおかしくするために、自分自身をおもちゃにしてもてあそんだのだ。すぐに男性と関係を持ったり、他人にひどいあだ名をつけたり(本当にそれは全部嘘だ)。当時、わたしは小説家として全く売れてなかったので(すみません今もです)、人がやっていないことをやらねばという一心で、自分自身を利用したというわけなのである。
それが今年一月から、フジテレビで連続ドラマとして放送されることになった。
これは非常に複雑で難しい話だ。わたしがわたしを脚色するのはいい。しかし、他人がわたしを脚色して、あることないことを映像にするのはいかがなものなのか。原作に輪をかけてむちゃくちゃな人物として描かれてしまうことだってありうる。
そんなわたしの困惑、戸惑い、葛藤に対し、今回のドラマでは最大限配慮してくださったように感じている。原作の分量上、ストーリーの改変は必至、オリジナルキャラクターも何人も登場させる。しかし、南綾子というキャラクターはできる限り忠実に再現する。“忠実に”は小説内の南綾子と生身のわたし自身、どちらともに、だ。撮影に入る前に二人のプロデューサーさんと三人のディレクターさんがわざわざ会いにきてくださったのだが、わたしの人となりをできるだけ知っておこう、という気持ちが感じられてとてもうれしかった。わたしは事前に渡された脚本にあまり訂正や注文は入れないつもりでいたのだが、自分は絶対にそんなことはしない、という部分は意見をだし、それは滞りなく修正していただいた。例えば、わたしが家でネット動画を見ている場面。当初の脚本では西村博之氏の切り抜き動画を見ていることになっていた。「ひろゆきの切り抜きなんて断じて見ません。最近はバキ童チャンネルしか見ていません」と担当編集者を通して伝えたところ、実際の放送では何の動画であるかわからないような演出に変更されていた。
しかし、ここで一つのジレンマが生じる。南綾子に忠実であれば万事OKなのかというと、それはそれで違う。
なぜなら、原作においての南綾子は性格がまあまあ悪いのだ。共感を呼ぶようなキャラクターでは全くない。そのまま描いたって視聴者に嫌われるのは必至。しかし、共感を呼ぶような人物に改変してしまったら、それはそれで全く南綾子ではない(そうです、わたしはまあまあ性格が悪いんです)。
そんなジレンマをうまく解消してくれたのが、主演の福田麻貴さんの巧みなコメディ演技だろう。間の取り方やセリフまわし、その一つ一つが効果を発揮して、主人公を嫌いになる前に笑わされてしまう。それは福田さんが長年、お笑い芸人という職業に真摯に取り組み続けてきた努力のたまものだと思う。
相方の幽霊山田は原作だとわたし以上に嫌なヤツだ。これはかなり改変され、かわいらしく憎めない幽霊になった。SNSを見る限り、おおむね好評でうれしい限りだ。
二月中旬には都内某所での撮影を見学させていただいた。福田さんがスタッフの方から「綾子さん」と呼びかけられるたび、自分が透明人間になったようでもありつつ、ドラマにかかわる方々に綾子が大切にされているようにも思えて、じーんとしてしまった。
そしてそして、実はドラマ化が決まってからというもの、わたしはことあるごとに「文庫の帯をバキ童に書いてほしい」「お見合い相手の一人としてバキ童に出てほしい」と担当の編集さんに言い続けてきた(ひろゆきの切り抜き動画のくだりでも名前を出したのは先述の通り)のだが、その熱い思いがついにドラマ制作陣に伝わり、わたしが今一番夢中になっているバキ童(バキバキ童貞)こと春とヒコーキのぐんぴぃさんと相方の土岡さんが、ドラマに出演してくださることになった!
見学時にお二人がわたしに向かって丁寧にあいさつをしてくださった姿が、今でも目にやきついている。全てがまさに夢のようなひとときで、こんなに何もかもよくしてもらったわたしは本当に幸せ者だと感無量だった。
単行本刊行から九年のときを経て奇跡のドラマ化が実現し、放送後には毎度たくさんの人が本のタイトルや作中に出てくるキャラクター名をSNSでつぶやいてくれる。山田、小池、ヤギオ……単行本刊行時、誰の心にも残ることなく宇宙の藻屑となっていった男たちに再び命が吹き込まれ、愛されたり悪口を言われたりしているのだ。こんなにうれしいことはない。
この文章を書いているのは第七話の放送前。あと一カ月もすれば“南綾子”がわたしのもとに帰ってきてくれる。それは少しさみしいけれど、実は待ち遠しくもある。やっぱり自分自身をエンタメのためにもてあそばれるのは少し怖い。って書いているこの文章もぜんぶ嘘かもしれないけどね。
(みなみ・あやこ 作家)
著者プロフィール
南綾子
ミナミ・アヤコ
1981年愛知県名古屋市生れ。2005年「夏がおわる」で第4回「女による女のためのR-18文学賞」大賞を受賞。おもな著作に『ほしいあいたいすきいれて』『ベイビィ、ワンモアタイム』『わたしの好きなおじさん』『すべてわたしがやりました』など。今後の人生の目標は、カップ焼きそばの頻度を月三以下に抑えること。