ゴールデンスランバー
1,155円(税込)
発売日:2010/11/29
- 文庫
- 電子書籍あり
俺は犯人じゃない! 巨大な陰謀に追い詰められた男。スリル炸裂超弩級エンタテインメント。山本周五郎賞、本屋大賞ダブル受賞。
衆人環視の中、首相が爆殺された。そして犯人は俺だと報道されている。なぜだ? 何が起こっているんだ? 俺はやっていない──。首相暗殺の濡れ衣をきせられ、巨大な陰謀に包囲された青年・青柳雅春。暴力も辞さぬ追手集団からの、孤独な必死の逃走。行く手に見え隠れする謎の人物達。運命の鍵を握る古い記憶の断片とビートルズのメロディ。スリル炸裂超弩級エンタテインメント巨編。
第二部 事件の視聴者
第三部 事件から二十年後
第四部 事件
第五部 事件から三ヶ月後
書誌情報
読み仮名 | ゴールデンスランバー |
---|---|
シリーズ名 | 新潮文庫 |
発行形態 | 文庫、電子書籍 |
判型 | 新潮文庫 |
頁数 | 704ページ |
ISBN | 978-4-10-125026-7 |
C-CODE | 0193 |
整理番号 | い-69-6 |
ジャンル | ミステリー・サスペンス・ハードボイルド |
定価 | 1,155円 |
電子書籍 価格 | 1,100円 |
電子書籍 配信開始日 | 2021/09/24 |
書評
人生で一冊目
子どもの頃から、知りたいことや悩みが出来ると駆け込み寺のように本屋に赴き、本の中でいつも解決してきました。学校の図書室では伝記や児童向け文学もよく読みました。
しかしあえて人生一冊目を挙げるなら、大学時代に友達に薦められた『ゴールデンスランバー』は、初めて頭を打たれた小説です。文字を追うだけで逃走劇の臨場感が映像を見ているかのように感じられたり、感情移入して涙がボロボロ出たりする読書体験は初めてで、ここから小説の魅力にどっぷりハマることになります。
暗殺犯の濡れ衣を着せられて追われる主人公の青柳、彼を匿い、助けてくれる人々。逃走劇のスリルの先にある人間の温かみや信用の大切さが身に染みます。
印象に残っている登場人物は連続通り魔のキルオ。謎めいていてユーモラスなキャラクターと、不思議な存在感。主人公を手助けするキャラクター全員が魅力的な人物像で愛着を覚えるので、読後はしばらく余韻に浸りました。
『レ・ミゼラブル』も心に残っています。これは私の人生で一冊目の翻訳小説でした。有名ミュージカルの原作でもあるのでストーリーは言わずもがなですが、言語化の幅広さや的確さ、描写の掘り下げの深さに驚きました。表現の仕方が非常に新鮮で、思わず蛍光ペンを引いてしまったページもあります。
善と悪について向き合い続けるジャン・ヴァルジャンの葛藤と逃走劇、革命の激しさ、それぞれの人物の悲劇が繊細に丁寧に綴られていました。
印象に残っているのはファンチーヌとエポニーヌのそれぞれの最期です。救いようのない痛々しい最期がこうも生々しく描写されるか、と苦しくなります。その描写は私の脳に、文章としてでなく映像として、トラウマのように残っています。
最後の「人生で一冊目」が『婚活1000本ノック』です。
というのは、この作品を原作とした同名のドラマで、人生初のヒロインを務めさせていただくことになりました。
私が演じるのは、三十三歳の売れない小説家・南綾子。この本は、作家・南綾子さんが「この物語の主人公はわたしである」という書き出しから綴る小説です。かつて自分を捨てた男・山田が幽霊になって現れ、婚活を綾子に命じます。「彼氏と温泉に行きたい」という綾子の願いが叶えば、自分は成仏できるはずだから、と。
婚活中の妙にリアリティーのあるストーリーに奇想天外な「幽霊」が登場することによって、どこからどこまでが実話なの!? と楽しく想像してしまいます。
次に自分のことを好きになってくれた人と付き合おう! と決意するものの、いざ現れると好きになることが難しかったり、頭で判断するなら誠実で真面目な人がいいのに、結局真面目な人といてもつまらなくて、不真面目でも面白い人といたいと思ってしまうところなどは「あるある!」と頷いてしまいました。全女性が共感できるのではないでしょうか。
他にも綾子と私が似ているところは多々ありました。例えば、見た目には自信がないのに、トークや居心地の良さで一見釣り合わないような相手が近寄ってくるが、結局誰も本気では言い寄ってこないところ、など……(笑)。
ドラマのオファーをいただいたときは、絶対に私がヒロインのはずがないと思ったのですが、綾子のパーソナリティーを知るにつれ、実在する南綾子さんには失礼ですが、「ちょうど私だ」と思うようになりました(笑)。
そして何と言ってもこの本を語るにおいて文章の面白さは外せないです。どんなに悲惨な思いをするシーンでも常に自分自身を俯瞰で見ていて、たとえや自虐を駆使して面白く笑いに昇華するところは、芸人である自分とも通ずる部分です。
ドラマの中でもモノローグとして綾子の心の声が常に聞こえており、原作を読んでいるときと同じような面白さが味わえるかと思います。
誰もが憧れるヒロインではなく等身大のリアルな女性の綾子には、多くの女性から共感してもらえると思います。逆に男性から見ると、女性はこんなふうに思っているの!? と驚いたり、新鮮に感じることも多いかもしれません。
山田役の八木勇征さんとのコンビネーションにもご期待ください。
婚活のリアルとコメディとしての面白さが両立している本作、ぜひ原作でもドラマでもお楽しみください!
(ふくだ・まき 芸人/俳優)
波 2024年1月号より
僕を小説沼に導いた新潮文庫
「きっと幼少期から小説をたくさん読まれてきたんですよね」
小説紹介クリエイター・小説家として活動する僕は、応援してくださる方からこのようなことを頻繁に言われます。幼い頃から読書に親しんでいたと思われるのは自然なことかもしれません。しかし、僕が一冊の本を初めて読んだのは大学一年生のときです。東野圭吾さんの代表作『白夜行』が初読書でした。2022年現在、社会人二年目なので読書歴は約五年。短いですよね。それでも、いまでは読書が趣味だと胸を張って言えるようになったと思います。
読書の魅力をまだ知らないころの僕は、小説=難しい、という凝り固まった偏見を持っていました。そんな僕でしたが、趣味が欲しくて小説を読み始めることになります。ここで当時の自分に一言だけ言わせてください。「よく最初にあの作品たちを選んでくれた!」と。最初に『白夜行』を読んだ後、宮部みゆきさん著『火車』、伊坂幸太郎さん著『ゴールデンスランバー』の順番で小説を読みました。そして海外文学初挑戦作品が『老人と海』です。小説をよく読まれる方ならお気づきかもしれませんが、僕はきっと小説を好きになるべくしてなったのです。もはや、新潮文庫のおかげで好きになったとさえ言えるかもしれません。今回は僕を小説沼に導いた新潮文庫三作品の魅力をご紹介します。
まずは『火車』です。三十年前の作品なので情景描写は古く感じますが、いまこそ読まれなければならない作品の一つと言えます。
現代では、「キャッシュレス化」がかなり進んでいますよね。現金を持ち歩かないという人も珍しくはありません。一昔前に比べて、ネットが普及し、クレジットカードを使う機会も増え、いまや学生でもカードを持つ時代になりました。
『火車』をネタバレせずに一言でまとめると、金融地獄に落ちていく人の話です。クレジットカードをはじめ、ローンや消費者金融など、手元に存在しないお金を使うことができる仕組みはかなり便利ですよね。当然ですが、そのような金融サービスを使えば返済を求められます。何かを購入する際に代金を支払うことは常識です。
では、もし返済が不可能になったとしたら――その人はどうなるでしょうか。
お金は便利な反面、人生をどん底に落とすほどの力を持っています。この学びのある不朽の名作を現代の学生さんに届けることが、小説紹介クリエイターである僕の使命なのかもしれません。
夜通しで一心不乱に読み耽った作品があります。それこそが、『ゴールデンスランバー』です。数々の名作を生み出してきた伊坂幸太郎さんの作品の中でも、特におすすめします。
首相暗殺の濡れ衣を着せられ、逃亡する主人公を描いた物語。この短いあらすじだけでもワクワクしませんか? 誇張でなく、こんなに緊迫感のある作品は、なかなかありません。
主人公は平凡な配達員だった男。彼はあることをきっかけに、ちょっとした有名人になった過去があります。そのブレイクはあっという間に過ぎたのですが……、次は日本中から犯罪者として追い回されることになるのです。その謎が全て繋がったとき、この作品を読んでよかったと心底思いました。より多くの人に届けたい、究極のエンタメ小説です。
突然ですが、ここで質問があります。海外文学にどのようなイメージを持っていますか? 難しそう、と思われている方も多いのではないでしょうか。事実、僕はそう思っていました。
しかし『老人と海』を読んで、そのイメージはなくなりました。
この作品は、ただひたすらに漁師の老人とカジキマグロが格闘をする話です。それだけなのに感動が止まりませんでした。物語の老人に生きる勇気をもらえたんです。さすがはノーベル文学賞受賞作。言わずもがなの名作です。これから海外文学に挑戦する人にピッタリな作品です。
もう三冊紹介してしまいました……。まだまだ紹介したい作品は山ほどありますが、文字数の上限が迫ってきたので、続きはSNSを使って紹介することにします。
(けんご 小説紹介クリエイター)
波 2022年7月号より
著者プロフィール
伊坂幸太郎
イサカ・コウタロウ
1971(昭和46)年、千葉県生れ。1995(平成7)年東北大学法学部卒業。2000年『オーデュボンの祈り』で、新潮ミステリー倶楽部賞を受賞し、デビュー。2004年『アヒルと鴨のコインロッカー』で吉川英治文学新人賞、2008年『ゴールデンスランバー』で本屋大賞と山本周五郎賞、2014年『マリアビートル』で大学読書人大賞、2017年『AX』で静岡書店大賞(小説部門)、2020(令和2)年『逆ソクラテス』で柴田錬三郎賞を受賞した。他の作品に『ラッシュライフ』『重力ピエロ』『砂漠』『ジャイロスコープ』『ホワイトラビット』『火星に住むつもりかい?』『キャプテンサンダーボルト』(阿部和重との合作)などがある。