火車
1,210円(税込)
発売日:1998/01/30
- 文庫
【山本周五郎賞受賞作】カード破産の凄惨な現実【現代ミステリーの金字塔TOP3】
休職中の刑事、本間俊介は遠縁の男性に頼まれて彼の婚約者、関根彰子の行方を捜すことになった。自らの意思で失踪、しかも徹底的に足取りを消して――なぜ彰子はそこまでして自分の存在を消さねばならなかったのか? いったい彼女は何者なのか? 謎を解く鍵は、カード社会の犠牲ともいうべき自己破産者の凄惨な人生に隠されていた。山本周五郎賞に輝いたミステリー史に残る傑作。
書誌情報
読み仮名 | カシャ |
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シリーズ名 | 新潮文庫 |
発行形態 | 文庫 |
判型 | 新潮文庫 |
頁数 | 704ページ |
ISBN | 978-4-10-136918-1 |
C-CODE | 0193 |
整理番号 | み-22-8 |
ジャンル | 文芸作品、ミステリー・サスペンス・ハードボイルド、文学賞受賞作家 |
定価 | 1,210円 |
書評
僕を小説沼に導いた新潮文庫
「きっと幼少期から小説をたくさん読まれてきたんですよね」
小説紹介クリエイター・小説家として活動する僕は、応援してくださる方からこのようなことを頻繁に言われます。幼い頃から読書に親しんでいたと思われるのは自然なことかもしれません。しかし、僕が一冊の本を初めて読んだのは大学一年生のときです。東野圭吾さんの代表作『白夜行』が初読書でした。2022年現在、社会人二年目なので読書歴は約五年。短いですよね。それでも、いまでは読書が趣味だと胸を張って言えるようになったと思います。
読書の魅力をまだ知らないころの僕は、小説=難しい、という凝り固まった偏見を持っていました。そんな僕でしたが、趣味が欲しくて小説を読み始めることになります。ここで当時の自分に一言だけ言わせてください。「よく最初にあの作品たちを選んでくれた!」と。最初に『白夜行』を読んだ後、宮部みゆきさん著『火車』、伊坂幸太郎さん著『ゴールデンスランバー』の順番で小説を読みました。そして海外文学初挑戦作品が『老人と海』です。小説をよく読まれる方ならお気づきかもしれませんが、僕はきっと小説を好きになるべくしてなったのです。もはや、新潮文庫のおかげで好きになったとさえ言えるかもしれません。今回は僕を小説沼に導いた新潮文庫三作品の魅力をご紹介します。
まずは『火車』です。三十年前の作品なので情景描写は古く感じますが、いまこそ読まれなければならない作品の一つと言えます。
現代では、「キャッシュレス化」がかなり進んでいますよね。現金を持ち歩かないという人も珍しくはありません。一昔前に比べて、ネットが普及し、クレジットカードを使う機会も増え、いまや学生でもカードを持つ時代になりました。
『火車』をネタバレせずに一言でまとめると、金融地獄に落ちていく人の話です。クレジットカードをはじめ、ローンや消費者金融など、手元に存在しないお金を使うことができる仕組みはかなり便利ですよね。当然ですが、そのような金融サービスを使えば返済を求められます。何かを購入する際に代金を支払うことは常識です。
では、もし返済が不可能になったとしたら――その人はどうなるでしょうか。
お金は便利な反面、人生をどん底に落とすほどの力を持っています。この学びのある不朽の名作を現代の学生さんに届けることが、小説紹介クリエイターである僕の使命なのかもしれません。
夜通しで一心不乱に読み耽った作品があります。それこそが、『ゴールデンスランバー』です。数々の名作を生み出してきた伊坂幸太郎さんの作品の中でも、特におすすめします。
首相暗殺の濡れ衣を着せられ、逃亡する主人公を描いた物語。この短いあらすじだけでもワクワクしませんか? 誇張でなく、こんなに緊迫感のある作品は、なかなかありません。
主人公は平凡な配達員だった男。彼はあることをきっかけに、ちょっとした有名人になった過去があります。そのブレイクはあっという間に過ぎたのですが……、次は日本中から犯罪者として追い回されることになるのです。その謎が全て繋がったとき、この作品を読んでよかったと心底思いました。より多くの人に届けたい、究極のエンタメ小説です。
突然ですが、ここで質問があります。海外文学にどのようなイメージを持っていますか? 難しそう、と思われている方も多いのではないでしょうか。事実、僕はそう思っていました。
しかし『老人と海』を読んで、そのイメージはなくなりました。
この作品は、ただひたすらに漁師の老人とカジキマグロが格闘をする話です。それだけなのに感動が止まりませんでした。物語の老人に生きる勇気をもらえたんです。さすがはノーベル文学賞受賞作。言わずもがなの名作です。これから海外文学に挑戦する人にピッタリな作品です。
もう三冊紹介してしまいました……。まだまだ紹介したい作品は山ほどありますが、文字数の上限が迫ってきたので、続きはSNSを使って紹介することにします。
(けんご 小説紹介クリエイター)
波 2022年7月号より
著者プロフィール
宮部みゆき
ミヤベ・ミユキ
1960(昭和35)年、東京生れ。1987年「我らが隣人の犯罪」でオール讀物推理小説新人賞を受賞。1989(平成元)年『魔術はささやく』で日本推理サスペンス大賞を受賞。1992年『龍は眠る』で日本推理作家協会賞、『本所深川ふしぎ草紙』で吉川英治文学新人賞を受賞。1993年『火車』で山本周五郎賞を受賞。1997年『蒲生邸事件』で日本SF大賞を受賞。1999年には『理由』で直木賞を受賞。2001年『模倣犯』で毎日出版文化賞特別賞、2002年には司馬遼太郎賞、芸術選奨文部科学大臣賞(文学部門)を受賞。2007年『名もなき毒』で吉川英治文学賞を受賞した。他の作品に『ソロモンの偽証』『英雄の書』『悲嘆の門』『小暮写眞館』『荒神』『この世の春』などがある。