今月の表紙の筆蹟は、加藤シゲアキさん。
波 2022年7月号
(毎月27日発売)
発売日 | 2022/06/28 |
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JANコード | 4910068230720 |
定価 | 100円(税込) |
阿川佐和子/やっぱり残るは食欲 第58回
【J・D・サリンジャー『彼女の思い出/逆さまの森』刊行記念先行掲載】
[翻訳小説]J・D・サリンジャー、金原瑞人 訳/彼女の思い出
【加藤シゲアキ『チュベローズで待ってる AGE22・AGE32』文庫化記念】
[インタビュー]加藤シゲアキ/“ジャニーズの子”から文壇を担う作家へ
【結城真一郎『#真相をお話しします』刊行記念】
[“同窓”対談]結城真一郎×伊沢拓司/「謎」は、進化する。
【第35回三島由紀夫賞受賞作】
岡田利規『ブロッコリー・レボリューション』
星野智幸/一人称ではない私
沢木耕太郎『飛び立つ季節―旅のつばくろ―』
稲垣えみ子/耕太郎はめげていない
アリ・スミス、木原善彦 訳『夏』(新潮クレスト・ブックス)
江南亜美子/分断を生む斥力に抗う力
クリストファー・イシャウッド、横山貞子 訳『キャスリーンとフランク―父と母の話―』
黒川 創/切れ目なく流れるもの
ヤマザキマリ『リ・アルティジャーニ―ルネサンス画家職人伝―』(とんぼの本)
青柳正規/マンガだから表現できたルネサンスの文化的空間
つげ義春、つげ正助、浅川満寛『つげ義春 名作原画とフランス紀行』(とんぼの本)
浅川満寛/予測不能な人のバーチャルミュージアム
伊藤まさこ『あっちこっち食器棚めぐり』
太田祐子/毎日使う器にはその人らしさがにじみでる
藍銅ツバメ『鯉姫婚姻譚』
大森 望/異類婚姻譚史上、最高の恋
澤村伊智『怪談小説という名の小説怪談』
朝宮運河/小説ならではの恐怖を追い求めて
山崎章郎『ステージ4の緩和ケア医が実践する がんを悪化させない試み』(新潮選書)
山崎章郎/『病院で死ぬということ』から30年、がんになった私
NHK「コズミックフロント」制作班、緑 慎也『太陽系の謎を解く―惑星たちの新しい履歴書―』(新潮選書)
萩原聖人/萩原聖人、11年間、「宇宙」を読んでいます。
村山 治『工藤會事件』
奥山俊宏/権力と暴力団の対決を活写した貴重な記録
【短篇小説】
北村 薫/不思議な島
【私の好きな新潮文庫】
けんご@小説紹介/僕を小説沼に導いた新潮文庫
宮部みゆき『火車』
伊坂幸太郎『ゴールデンスランバー』
ヘミングウェイ、高見 浩 訳『老人と海』
【今月の新潮文庫】
ドナルド・キーン、角地幸男 訳『石川啄木』『正岡子規』
キーン誠己/父は本質的に詩人だった
【コラム】
梨ちゃん/はじめての純文学ノススメ
乗代雄介『皆のあらばしり』
絲山秋子『逃亡くそたわけ』
川端康成『伊豆の踊子』
三宅香帆/物語のふちでおしゃべり 第4回
三枝昴之・小澤 實/掌のうた
スージー鈴木『桑田佳祐論』(新潮新書)
スージー鈴木/桑田佳祐の言葉を語ろう。今こそ。
[とんぼの本]編集室だより
【連載】
南沢奈央 イラスト・黒田硫黄/今日も寄席に行きたくなって 第31回
二宮敦人/ぼくらは人間修行中 第20回
伊与原 新/翠雨の人 第7回
春画ール/春画の穴 第9回
川本三郎/荷風の昭和 第50回
編輯後記 いま話題の本 新刊案内 編集長から
立ち読み
編集長から
今月の表紙の筆蹟は、加藤シゲアキさん。
◎編集者の大切な仕事に座談会類の構成がありますが、(笑)記号の扱いは常に難問です。津野海太郎さんの『編集の提案』を読むと、この斯界の大先輩は便利すぎる(笑)が嫌になり一切使わない時期があったものの、やがて(笑)に潜む力――耳に聴こえなくても、その場の「笑いに類する感情のすべて」を表す――を再発見した由。僕も『人生、成り行き―談志一代記―』で談志師匠の語りに(笑)を使わずに通しましたが、粋がり過ぎだったかもしれません。
◎(笑)の可能性を広げようとした先達に松本清張の口述筆記を九年務めたこともある速記者福岡隆がいます。彼は座談会の臨場感を伝えようと、戯曲を書いた経験から(苦笑しながら)などト書き風に工夫していたところ、某作家に〈それはあなたの主観的なものだ。そこまでやるのは越権ではないか〉と指摘され、試みは頓挫しました(『活字にならなかった話 速記五十年』)。
◎ならば、擬声語を凝るのはどうか。出席者が池波正太郎風に「うふ、ふふ」とか、殿山泰司風に「ヒヒヒヒ」とか、一同顔を見合わせて筒井康隆風に「わははははは」と笑うのは面白そう。でも、作家の得意技を真似するのは至難なんですね。山下洋輔さんの精緻な分析(「リズムの実践と若干の分析」)によれば筒井文学の笑い声の基本は三拍子で、人物の心理状態に伴い細かく変化する。名作「経理課長の放送」の「ピアニシモです。はは、はははははは、わはは」「ここは展開部ってやつなんですよははは。はは。わはははははは」等の使い分け(この分析が凄い!)なんて、とてもマスターできません。
◎井伏鱒二曰く作家は「が」「そして」「しかし」と語尾に一生手こずるそうですが、かくして編集者も(笑)に悩み続けるわけです。
▽次号の刊行は七月二十七日です。
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雑誌から生まれた本
波とは?
1967(昭和42)年1月、わずか24ページ、定価10円の季刊誌として「波」は誕生しました。新潮社の毎月の単行本の刊行数が10冊に満たず、新潮文庫の刊行も5冊前後という時代でした。こののち1969年に隔月刊に、1972年3月号からは月刊誌となりました。現在も続く「表紙の筆蹟」は、第5号にあたる1968年春季号の川端康成氏の書「風雨」からスタートしています。
創刊号の目次を覗いてみると、巻頭がインタビュー「作家の秘密」で、新作『白きたおやかな峰』を刊行したばかりの北杜夫氏。そして福田恆存氏のエッセイがあって、続く「最近の一冊」では小林秀雄、福原麟太郎、円地文子、野間宏、中島河太郎、吉田秀和、原卓也といった顔触れが執筆しています。次は大江健三郎氏のエッセイで、続いての「ブックガイド」欄では、江藤淳氏がカポーティの『冷血』を、小松伸六氏が有吉佐和子氏の『華岡青洲の妻』を論評しています。
創刊から55年を越え、2023(令和5)年4月号で通巻640号を迎えました。〈本好き〉のためのブックガイド誌としての情報発信はもちろんのことですが、「波」連載からは数々のベストセラーが誕生しています。安部公房『笑う月』、遠藤周作『イエスの生涯』、三浦哲郎『木馬の騎手』、山口瞳『居酒屋兆治』、藤沢周平『本所しぐれ町物語』、井上ひさし『私家版 日本語文法』、大江健三郎『小説のたくらみ、知の楽しみ』、池波正太郎『原っぱ』、小林信彦『おかしな男 渥美清』、阿川弘之『食味風々録』、櫻井よしこ『何があっても大丈夫』、椎名誠『ぼくがいま、死について思うこと』、橘玲『言ってはいけない』、ブレイディみかこ『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』、土井善晴『一汁一菜でよいと至るまで』などなど。
現在ではページ数も増えて128ページ(時には144ページ)、定価は100円(税込)となりました。お得な定期購読も用意しております。
これからも、ひとところにとどまらず、新しい試みを続けながら、読書界・文学界の最新の「波」を読者の方々にご紹介していきたいと思っています。