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太陽系の謎を解く―惑星たちの新しい履歴書―

NHK「コズミックフロント」制作班/著 、緑慎也/著

1,760円(税込)

発売日:2022/06/23

  • 書籍
  • 電子書籍あり

太陽系の「履歴書」を書き換える壮大な探査の旅へ――。

水星の極地で1兆トンの氷が観測され、金星では海の痕跡が見つかった。土星の衛星からは美しい間欠泉が噴き出し、冥王星にはハート型の窒素の氷河が……。探査機ボイジャーの打ち上げから45年。次々と明らかになってきた、まったく新しい「太陽系」の姿とは――。NHKの人気番組に最新の知見を加えて描く宇宙研究の現在地。

目次
まえがき 太陽系の旅に出よう 渡部潤一 国立天文台上席教授
プロローグ 太陽系探査の旅へ
偉大なる航海者ボイジャー/「惑星直列」のグランドツアー/画期的だった自律飛行システム/地球と月を同時に撮影/生きていた衛星イオ/土星到達/トラブル発生/臼田の挑戦
第1章 最大惑星との遭遇
I 太陽系の王者、木星
第1のミステリー〈小さすぎる火星〉/第2のミステリー〈小惑星帯の謎〉/第3のミステリー〈天王星と海王星の謎〉/最高神の名を冠して/系外惑星の発見が木星を動かした/グランド・タック・モデル/地球が命の星になった理由/天王星と海王星を動かした/太陽系からはじき飛ばされた惑星
II 木星の謎に挑む
探査機ジュノーの挑戦/日本の木星オーロラ研究/大赤斑の渦の巻き方/上空の気温は1300℃/止まない嵐/小さくなる大赤斑/コア集積モデル/円盤不安定モデル/小石集積モデル/大阪大学のレーザー実験/ジュノーの結論
第2章 土星に突入せよ!
I 土星に生命が!?
激しい気象/濃い大気に包まれたタイタン/エンケラドス/シリカを手がかりに/大量の有機物/生命誕生に必要な時間
II 土星最接近! カッシーニのグランドフィナーレ
カッシーニとホイヘンス/もっとも危険な航路/タイタンの大地へ/さよならのキス
第3章 地球の隣人たち
I 近くて遠い水星
マリナー10号の挑戦/水星に磁場が/新発見続々! 探査機メッセンジャー/風になびく磁場/水星の起源/見えてきた水星の新しい姿/水星探査の未来
II ビーナスの素顔に迫れ!
水のあふれる世界/灼熱の大地/金星でもプレート運動/金星の海は、いつ、どこへ消えたのか?/金星最大の謎「スーパーローテーション」/加速する大気/謎を解く新たな鍵/「あかつき」の挑戦
III 私たちは火星人?
火星人の都市/水発見!/太古の火星に海と陸/大陸が生んだ生命/RNAの合成も/常識を覆す男/火星隕石という宇宙船
IV 火星「完全植民地」計画の最前線
月面着陸とは話が違う/火星の素顔/人類は火星で生き残ることができるのか?/火星での暮らし方/テラフォーミング
第4章 氷の星々
I 太陽系の果てへ
ボイジャーの旅、再び/消滅した渦巻きの謎/トリトンの奇妙な生い立ち/ライバルはタイタン/冥王星のための秘密結社/氷の世界のミステリー/窒素の由来/冥王星のハート/君に月をあげる/天体衝突シミュレーション/太陽系最後のフロンティア
第5章 知られざる「もう1つの惑星」たち
I 幻の第8惑星「ケレス」
200年の謎/探査機ドーン、幻の惑星へ/小惑星に刻まれた太陽系の創世記/地球を変えた小惑星/地球の水はどこから来たのか?
II 巨大惑星「プラネット9」を探せ!
太陽系の新たな惑星/惑星定義を巡る大論争/謎の天体「プラネット9」発見!?/マイナス230℃の可能性/くじら座の近くにある
III すべてが想定外! 謎の金属天体「プシケ」
始動! メタルワールドへの冒険/宇宙になぜ鉄の塊があるのか?/宇宙空間の鉄/大予測「プシケ」誕生のシナリオ/無数のプシケ
IV 太陽系の外からやって来た「宇宙船」
未知との遭遇/未確認飛行物体の片鱗/彗星か、小惑星か、それとも……/加速していたオウムアムア/新しい太陽系の姿が見えてきた
エピローグ さらなる未知へ
われらのメッセンジャー/太陽系を越えて
あとがき 緑 慎也 サイエンスライター

書誌情報

読み仮名 タイヨウケイノナゾヲトクワクセイタチノアタラシイリレキショ
シリーズ名 新潮選書
装幀 駒井哲郎/シンボルマーク、新潮社装幀室/装幀
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 288ページ
ISBN 978-4-10-603884-6
C-CODE 0344
ジャンル 宇宙学・天文学
定価 1,760円
電子書籍 価格 1,760円
電子書籍 配信開始日 2022/06/23

書評

萩原聖人、11年間、「宇宙」を読んでいます。

萩原聖人

 のっけから妙なタイトルをつけてしまったけど、もちろん怪しげな宗教にハマった芸能人の話でもなければ、「読んでいるのはカミチャの手牌だろう」という麻雀的ツッコミも、この際脇に措いておこう。ここから先は大変マジメな話になるから、まずは厳密に言うことにする。
「僕、萩原聖人はNHKのBSプレミアムの『コズミックフロント』のナレーションを11年間続けています。」
 最近はテレビを見ない人も多いというから、「コズミックフロント?」と言われるかもしれないけど、これはNHKがBSプレミアムを始めて以来ずっと続けている科学番組。名前の通り、“宇宙コズミック研究の最前線フロント”を毎週、様々な角度から伝えている。そんな番組のナレーションを、僕はスタートから今に至るまでずっとさせてもらっているのだ。
 ナレーションの収録はだいたい月に2、3回行われる。収録の3、4日前に台本と映像のDVDが届いて、それを開くところから仕事は始まるのだけど、その作業は楽しみでありつつも、実は恐怖の一瞬でもある。なぜならNHKの優秀なスタッフが総力かけて制作した結果なのだから、その内容たるや大変な密度。ごく身近な天体観測の話もあれば、厄介な宇宙物理もあるから理解するだけでひと苦労だ。しかも大変な思いをしながら世界中を飛び回って取材しているのも知っているから、上手く伝えられなかったらどうしよう――。あれこれ考えるほどに受けるプレッシャーは、ハンパじゃない。
 でも、本当に怖いのは、実は番組の主役だったりもする。すなわち「宇宙」そのもの。
 宇宙って、知れば知るほど、考えれば考えるほど怖くなったりしませんか? そこでは生身の人間が生きていけないというのは当然のことだけど、調べても調べても永遠に謎が続く、決して手に触れることのない世界。子供の頃に抱いた「この広い宇宙に地球人だけ?」という言い知れない不安感、孤独感も、知識や情報が増えるほどに一層深まって来る、いわく言いがたい感覚。
 でも、そんな不安感も、捉えようによってはワクワク感に変わるのが宇宙の魅力でもある。例えば、現在、地球外生命体がかなりの確率で存在することが分かりつつあるのもその一つで、僕のお気に入りの星、土星の衛星エンケラドスの話もそれにあたる。
 NASAが20年かけて送り込んだ探査機カッシーニが明らかにしたエンケラドスの表面にはタイガーストライプという縞模様の裂け目があって、そこから氷の粒が噴出している。これだけでも十分にワクワクするのだけど、氷の素となる液体には有機物が含まれているという。冷たくて無機質だった宇宙が、途端に色彩を帯びてくる。
 さらに言えば、誰もが知る土星という主役を、衛星という脇役が見事に食ってしまうという展開も、役者視点から見て、実はちょっと興味深かったりもする。
 で、そんな話を、僕は11年、ずっとナレーションで語ってきたのだけど、自分が語ってきたものが今回本になったというので、ずいぶん驚いた。
 だって、映像あってのテレビでしょ。しかも凝りに凝りまくった精緻な映像がコズミックフロントの真骨頂。それを文字と少しの写真で、どれだけ表現できるのかって、正直、疑っていた。でも、読み始めると、そんな疑いはサラリと晴れて、役者の性というのかな、気が付いたら声に出して読んでいた。エンケラドスのところなんて、引き込まれっぱなしで、だから改めて思ったのだ。「やっぱり、言葉ってすげえや」「宇宙ってすげえや」と。
 僕は役者をさせてもらいながら、声の仕事も結構している。よく知られたもので言えば、「冬のソナタ」のペ・ヨンジュンだったり、「闘牌伝説アカギ」のアカギ役だったり。でも、こういったドラマやアニメの声の仕事と比べると、コズミックフロントのナレーションはちょっと違う。
 海外ドラマの吹き替えにせよ、アニメのアフレコにせよ、役を演ずるときはやっぱり演じなければならないけど、コズミックの場合は演ずるのではなく伝えることが一番の課題。そこに俳優萩原聖人は存在してはならず、主役である「宇宙」をいかに言葉で分かり易く伝えるか。つまりは黒子になり切れるかが勝負となってくるのだ――。
 と、言い始めるとエラそうな演技論になりそうなので、早々に切り上げるけど、そもそものところ、聞くだけで不安になるくらいの壮大なドラマを見事に演じてきた宇宙に、役者として張り合うこと自体、無理な話なのかもしれない。
 映像、音声、文字……人類が生み出した、どんな表現方法を用いても、伝えられる宇宙の物語は、針の先にも満たない、ほんの一部だろう。でも、針の先でも、いろんな方法を積み重ねれば、もしかしたら楊枝の先ぐらいにはなるかもしれないし、繰り返せば、竹串の先になるかもしれない。今回、本になった「コズミックフロント」を読みながらそんなことを思っていたら、机の上には、まだ開けていない次の収録の台本が……! 僕の宇宙を巡るあれやこれやの物語は、まだまだ続きそうだ。

(はぎわら・まさと 俳優)
波 2022年7月号より

著者プロフィール

NHK「コズミックフロント」制作班

エヌエイチケイコズミックフロントセイサクハン

2011年4月に始まったNHKの科学番組。毎回、天文学、宇宙物理、歴史など、さまざまな視点で「宇宙の謎」に迫ってゆく。開始から11年、制作本数は300本を超える。制作班のディレクターは大学院で天文学、地球科学を専攻した専門家から、医学、動物のエキスパートまで多彩。CGや音楽、リサーチも含めスタッフは総勢50名以上がかかわる。毎週木曜夜10時のNHK-BSプレミアムの他、世界中で放送されている。

コズミック フロント公式HP (外部リンク)

緑慎也

ミドリ・シンヤ

サイエンスライター。1976年、大阪府生まれ。出版社勤務後、月刊誌記者を経てフリーに。科学技術を中心に取材・執筆活動を続けている。著書に『消えた伝説のサル ベンツ』(ポプラ社)、『認知症の新しい常識』(新潮新書)、共著に『山中伸弥先生に、人生とiPS細胞について聞いてみた』(講談社)、『ウイルス大感染時代』(KADOKAWA)、翻訳に『「数」はいかに世界を変えたか』『「代数」から「微積分」への旅』(共に創元社)など。

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