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自衛隊失格―私が「特殊部隊」を去った理由―

伊藤祐靖/著

693円(税込)

発売日:2021/05/28

  • 文庫
  • 電子書籍あり

北朝鮮工作船から拉致被害者を奪還できるのか。元自衛隊特殊部隊員が明かす国防の真実。

戦前生れの厳格な祖母から「女々しいことをするくらいなら死を選べ」と言い渡されて入隊した海上自衛隊。イージス艦「みょうこう」の航海長だった'99年、人生が一変する。能登半島沖で北朝鮮工作船と対峙したのだ。一触即発の事件を機に防衛庁初、特殊部隊の創設に関わることになる。日本人の奪還という迫り来る使命の為に全精力を傾けた8年間。『邦人奪還』の著者が本気(マジ)で明かす国防の真実。

目次
はじめに
第一部 軍国ばばあと不良少年
高校で人生が一八〇度変わった/生きていくには金が要る/ 父親とサシで語り合う/父の受けた暗殺命令/ 根性論は完全否定する/痛快な「勝利の法則」/ 約束された体育教員への道/軍国ばばあの昔話/ なんでまた自衛隊なんかに?/陸軍中野学校出身の父は/ 遺髪をおいての入隊/女々しいことをするくらいなら死を
第二部 幹部になるまでの「学び」
変なことだらけの自衛隊/取り返しのつかない過ち/ 他律的な新兵教育の毎日/塀の内側の山本五十六/ 脱走と捕獲の日々に/脳ミソは筋肉でしかなかった/ 生まれて初めての試験勉強/「幹部になるための試験」/ 分隊長の呼び出し/横須賀教育隊二五一期練習員/ 「命より大事なものは?」/軍艦乗りの始まり/ アジフライと感謝の言葉/江田島の幹部候補生学校へ/ セーラー服にアイロンをかけて/遵法精神を学ぶシステム/ 「赤鬼」「青鬼」への面従腹背/人としての器の違い/ 未体験の肉体の使い方/七階級降格の恐怖/ 海軍の「先輩」たちの遺書/二度と振り返るな/ 寄港地の駄目ジジイたち/実習生の評価基準/ ハンモックナンバーの順位争い/ 米国陸軍大佐の語る「ベトナム戦争」
第三部 防衛大学校の亡霊たち
こんな自分が指導教官に?/防大での三つの顔/ 自衛隊内でも特異な防大/魂の抜け殻たちの行進/ 彼らのジレンマ/米を食べるとパワーがつく?/ 二〇歳前後ですでに「中年自衛官」/上陸作戦用の巨大軍艦/ 米軍らしい膨大な準備/若者は成長する/ 卒業生が帽子を投げる理由/女子大の担任の先生になる/ 非常時に立ちはだかる常識の壁/何のために生き、死ぬのか
第四部 未完の特殊部隊
航海長として着任す/緊急出港の下令/ 拉致船との遭遇/帰投する巡視船/ 海上警備行動の発令/突然止まった工作母船/ 総員戦闘配置につけ/命令が間違っているという確信/ 特殊部隊創設への道/忘れられない三つのこと/ 愚直なまでに命令に従う/サンディエゴのコーストガード/ 無茶な特殊部隊の創設準備/『007』をすべて観ろ/ 特殊部隊一期生/ひがみ、やっかみを超える/ 人間の肉体はどこまで耐えられるのか/ もっとも重要な隊員の素養/潜水訓練中、事故発生/ 「訓練を中止しないでください」/いったい何が起きたのか/ 事後処理の理想のかたち/はだかの王様になりたくない/ 突然の異動の内示/なぜ退職に至ったのか/ 「生きていたい」本能を外す/ペナルティーと実行の天秤/ 自衛隊失格
あとがき
解説 かわぐちかいじ

書誌情報

読み仮名 ジエイタイシッカクワタシガトクシュブタイヲサッタワケ
シリーズ名 新潮文庫
装幀 時事通信社/カバー写真、新潮社装幀室/デザイン
発行形態 文庫、電子書籍
判型 新潮文庫
頁数 288ページ
ISBN 978-4-10-102961-0
C-CODE 0195
整理番号 い-140-1
ジャンル ノンフィクション
定価 693円
電子書籍 価格 649円
電子書籍 配信開始日 2021/05/28

書評

体を張って、本気で勤めてみたら

養老孟司

 体を張る。本気でやる。どちらも似たような表現だが、精確には意味が違うかもしれない。でもこの本を読んで、要するにそういう主題かなあ、と思う。
 これでは書評にならない。でも著者の作品は、どうも書評に向かない気がする。書評を書きながら、それを言うのは、いささか問題だが、そう思うから仕方がない。書評は傍から見るもので、体を張って、本気で書評するというのは、なんだか変。
 このあたりがこの本の「読みどころ」である。『自衛隊失格―私が「特殊部隊」を去った理由―』というタイトルだが、じつは著者が失格したのではない。失格したのは自衛隊である。防衛大学校に至っては、ほとんど話にならない。だからこの本の中でも、あまり話になっていない。体を張って、本気で勤めてみたら、自衛隊という相手が自分に失格してしまったという物語である。
 軍国バアサンというのは著者の祖母である。この人が防大の卒業式で全員が帽子を投げるのを見て、カンカンに怒る。官給品を放り投げるとは、なにごとか。私も古いから、心中でバアサンに拍手を送る。著者はアメリカの士官学校では、帽子は自費で買うから、と書いている。
 この本は著者の第二作といってよい。前著の『国のために死ねるか』(文春新書)は衝撃的だった。こういう人がまだいたか。そう思った。父親は陸軍中野学校で、祖母は軍国バアサン。それなら右翼だろうというのは、戦後の典型的な偏見である。大学紛争の最左翼は全共闘だが、北一輝を読んだりしているんだから、思想そのものに右も左もない。政治的な情勢で左右という表現が決まるだけのこと。
 この本では前作であまり触れなかった自分の生い立ち、家族のことが詳しい。父親は蒋介石暗殺命令を受けたままで、命令はまだ取り消されてないという。私は教室で教科書に墨を塗ったが、相変わらず教科書は正しくなければいけないという謬見? がまかり通っている。じゃあ間違った教科書を使ったわれわれはどうなるのか。その世代から橋本、小渕、森と、三人の総理が出ている。間違った教科書を使わせ、それを教室で訂正すると、総理大臣クラスの人材が輩出する。
 それは例外だよ、例外。それを言うなら、著者ももちろん例外。中野学校を出て、その頃のことを子どもに明るく話す父親なんて、例外に決まっている。これはとても大切な教育である。明治以降の日本の教育では、親は自分が育ったようには、子どもを育てられない。
 目的を達することだけを考えたら話は簡単だ。著者はそう書く。父親もそれを教えたという。私はそれを機能主義と呼ぶ。機能を果たすことが全てになるからである。機能主義はわかりやすい。私は形を専門に選んだから、機能主義のわかりやすさに憧れる。しかしもちろん世界は機能だけでできているのではない。生きものでは、形と機能は共存していて、両者は不可分である。自衛隊という組織は形だが、戦いの実践は機能である。
 解剖学と生理学はもともと不可分で、英国では、形を扱う解剖学と、機能を扱う生理学は、解剖生理学雑誌と題する学術雑誌で共存していた。この二つを分けるのは、大陸系の学問である。どちらが正しいとは言えない。でもとりあえずこれまでは、アングロサクソンの機能主義が世界を制覇してきた。形と機能を学問的に分けない伝統があった英米文化が、ついにコンピュータを生み出すことになる。それが著者とどう関係するのか。
 形をとるか、機能をとるか。自衛隊という形が、自分が考える機能を果たさなくなった時に、著者は自衛隊という組織、すなわち形を捨てた。しかしいずれそこには、新しい形が生まれてくるはずである。それはいわば、ひとりでに生じてくるに違いない。それを見るのが楽しみだが、残念ながら、もはや私には寿命が不足している。

(ようろう・たけし 解剖学者)
波 2018年7月号より
単行本刊行時掲載

『自衛隊失格』を語る(ロングバージョン)特殊部隊編

『自衛隊失格』を語る(ショートバージョン)特殊部隊編

著者プロフィール

伊藤祐靖

イトウ・スケヤス

1964(昭和39)年、東京都生れ。日本体育大学卒業後、海上自衛隊入隊(2士)。防大指導官、「たちかぜ」砲術長等を歴任。イージス艦「みょうこう」航海長時に遭遇した能登半島沖不審船事案を契機に、自衛隊初の特殊部隊である特別警備隊の創設に関わり、創隊以降6年間先任小隊長を務める。2007(平成19)年に中途退職(2佐)後、拠点を海外に移し、各国の警察、軍隊などで訓練指導を行う。著書に『国のために死ねるか』『自衛隊失格』『邦人奪還』などがある。

判型違い(単行本)

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