フランス革命の女たち―激動の時代を生きた11人の物語―
825円(税込)
発売日:2024/01/29
- 文庫
- 電子書籍あり
「ベルサイユのばら」著者が語り尽くす、マンガでは描けなかったフランス革命の真実。
永遠の名作『ベルサイユのばら』から50年を越え、今、新たな真実の歴史が明らかにされる――。ロココの薔薇マリー・アントワネット、美貌の画家ヴィジェ=ルブラン、暗殺の天使シャルロット・コルデー……。美貌と愛によって、才気と知性によって、歴史の表舞台へと躍り出た女たちに寄り添い、その激しい人生を豊富な絵画と共に活写する。マンガでは語り尽くせなかったフランス革命の物語。
書誌情報
読み仮名 | フランスカクメイノオンナタチゲキドウノジダイヲイキタジュウイチニンノモノガタリ |
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シリーズ名 | 新潮文庫 |
装幀 | 池田理代子画『ベルサイユのばら』より (C)池田理代子プロダクション/カバー装画、新潮社装幀室/デザイン |
発行形態 | 文庫、電子書籍 |
判型 | 新潮文庫 |
頁数 | 240ページ |
ISBN | 978-4-10-104871-0 |
C-CODE | 0195 |
整理番号 | い-147-1 |
ジャンル | 歴史読み物、歴史・地理・旅行記、世界史 |
定価 | 825円 |
電子書籍 価格 | 825円 |
電子書籍 配信開始日 | 2024/01/29 |
書評
ずるさも潔さもかけがえのない人物像
来年は『ベルサイユのばら』誕生五十年にあたるのだそうだ。あの偉大な作品が世に出てから、もう半世紀が経ったのか!
女子高の入試問題にフランス革命が出題されたのでラッキーだった、『ベルばら』を読み込んでいるからフランス革命の年号も悲劇の王妃の名前も正確に書けたと、得意気に鼻を膨らませて言った同級生がいたのを思い出す。しかし、あのころの女子中学生はみんな『ベルばら』を読んでいたから、それが受験に有利とも言えなかった。わたしが高校受験をしたのは、1979年のことである。『ベルばら』は、宝塚歌劇の名作となり、テレビアニメとなり、劇場映画が作られ、その後もたいせつに読み継がれ、いまや古典と言ってもいい存在だ。
本書は、1985年に「とんぼの本」シリーズの一冊として上梓され、ロングセラーとなったものだという。わたしは手に取るのがこの〈新版〉で初めてだけれど、『フランス革命の女たち―激動の時代を生きた11人の物語―』を読みながら、ルイ十六世と聞いて、瞬時に「錠前づくり」の趣味を思い出したりするのは、わたしの中にも深く『ベルばら』が根づいている証拠だと思われる。
とうぜん、第五章の〈ロココの薔薇 マリー・アントワネット〉を読めば、スウェーデンの貴公子ハンス・アクセル・フォン・フェルゼンがパリ・オペラ座の仮面舞踏会でマリー・アントワネットと運命の出会いをするシーンを恍惚として思い出してしまうし、ヴェルサイユに押し寄せて王妃の首を要求する女たちに向かって、バルコニーで悠然とお辞儀をする名場面もくっきりと思い浮かぶ。別に一章を割かれているデュ・バリー夫人も、あのキャラクターが脳裏に像を結ぶ。
おそらく、そういう『ベルばら』的教養が手伝ってということになるのだろう。フランス革命そのものに対するおおまかな知識が、本書に登場する十一人の女性たちの人生に彩られて鮮やかに立ち上がってくる。
たとえば、マリー・アントワネットといえば、教科書にも載っているような有名な肖像画があるけれども、その作者には〈美貌の女流画家 ヴィジェ=ルブラン夫人〉として第四章が充てられている。女性の活躍が今よりずっと制限されていた時代に生まれた彼女が、十八世紀に画家として存分にその才能を開花させることができたのは、ほかならぬ王妃マリー・アントワネットに愛されたためだが、また、その事実ゆえに、大革命の大波に巻き込まれることにもなった。
その大革命の揺籃期に、フランス革命を支える自由思想をはぐくんだ一大サロンの中心人物であった〈エスプリの女神 ジョフラン夫人〉の章も魅力的だ。本も読まない凡庸な夫のもとに嫁いだことにショックを受けつつも、自分の知的能力を〈閨秀サロン〉という時代の申し子のような場で花開かせ、グリム、ヴォルテール、ルソーなど、時代を造った人物を集わせた。天才モーツァルトが八歳のときにクラヴサンの演奏を披露したのも彼女のサロンでだった。ジョフラン夫人の先輩格にあたるタンサン夫人のサロンで、モンテスキューは『法の精神』を書き上げたという。フランス革命やそれを準備した啓蒙主義、自由思想の重要人物といえば、誰でもいくつかの名前を挙げることができるだろうけれど、いずれにしろ男性ばかり。本書はそれに対する、女性作家からの異議申し立てである。
ただし、本書の魅力は、取り上げる女性たちがいかに後世に貢献したかのような視点からではなく、その時代を生きた、かけがえのない一人の女性として、長所も短所も、急進性も保守性も、ずるさも潔さも同時に持つ人間として、魅力的に描き分けている点だ。
とにかく、稀代のストーリーテラーによる人物像は巻を措くにしのびないおもしろさ。
そして、巻末のあとがきにも書かれているように、二十一世紀になってもあいかわらずの女性軽視ぶりがはなはだしい日本という国で、いま一度、ひろく読まれるにふさわしい、名著なのである。
(なかじま・きょうこ 作家)
波 2021年8月号より
単行本刊行時掲載
著者プロフィール
池田理代子
イケダ・リヨコ
1947(昭和22)年大阪府生れ。漫画家、声楽家。東京教育大学(現・筑波大学)在学中の1967年に「バラ屋敷の少女」でデビュー。1972年に連載を開始した『ベルサイユのばら』が空前の人気を博す。1980年『オルフェウスの窓』で日本漫画家協会賞優秀賞を受賞、1995(平成7)年、47歳で東京音楽大学声楽科に入学。卒業後はソプラノ歌手として舞台に立ち、オペラの演出や台本も手掛ける。2009年、フランス政府からレジオン・ドヌール勲章を授与される。歌人としても知られ、2020(令和2)年に第一歌集『寂しき骨』を上梓。