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歌行燈・高野聖

泉鏡花/著

473円(税込)

発売日:1950/08/15

  • 文庫
  • 電子書籍あり

飛騨天生(あもう)峠、高野の旅僧は道に迷った薬売りを救おうとあとを追う。蛇や山蛭の棲む山路をやっと切りぬけて辿りついた峠の孤家(ひとつや)で、僧は匂うばかりの妖艶な美女にもてなされるが……彼女は淫心を抱いて近づく男を畜生に変えてしまう妖怪であった。幽谷に非現実境を展開する『高野聖』ほか、豊かな語彙、独特の旋律で綴る浪漫の名作『歌行燈』『女客』『国貞えがく』『売色鴨南蛮』を収める。

書誌情報

読み仮名 ウタアンドンコウヤヒジリ
シリーズ名 新潮文庫
発行形態 文庫、電子書籍
判型 新潮文庫
頁数 288ページ
ISBN 978-4-10-105601-2
C-CODE 0193
整理番号 い-6-1
ジャンル 文芸作品
定価 473円
電子書籍 価格 473円
電子書籍 配信開始日 2013/06/01

書評

踊ること、生きること

草刈民代

 2001年秋にモスクワで「カルメン組曲」を踊りました。長年憧れていた作品です。二十世紀最高のバレリーナと称されたロシアのマイヤ・プリセツカヤさんの映像を何度も見てリハーサルに備えました。
 この作品はまだソヴィエト連邦時代、マイヤさんが国と戦いながら、ご自身でプロデュースなさり、世界的に有名になった渾身の作品です。マイヤさんにもリハーサルしていただく機会に恵まれ、コケティッシュな魅力がありながらも、当代一の芸術家がもつ華やかさ、神々しさを目の当たりにしながら教えていただきました。
 演じる役を深く理解するため、バレリーナ時代から原作や関連書籍は出来るだけ多く読むようにしてきました。小説のカルメンはマイヤさんが表現した女性像とは全く違いました。野性味に溢れ、生き延びるために手段を選ばない狡猾さや生活感のある女性だったのです。しかし、「カルメン組曲」はマイヤさんが作られたもの。お手本にしながら、私なりのカルメンを作り上げるつもりで稽古しました。

メリメ/著、堀口大學/訳『カルメン』書影

 2006年には韓国国立バレエ団で、コンテンポラリーダンスの巨匠、スウェーデンの振付家マッツ・エック版の「カルメン」に出演する機会を得ました。この「カルメン」は小説の世界観に近く、カルメンの生の欲望に惹かれてしまったドン・ホセの哀れさ、その残酷さが描かれた作品でした。
 その稽古中に、ある記憶が蘇ってきました。
 1992年に旧ユーゴスラビアやルーマニアなど四都市に招かれて「ジゼル」を踊ったことがあるのですが、ある時、セルビアのノヴィ・サドからベオグラードへ向かう長距離バスの停留所で、ひときわ目を引く女性たちを目にしたのです。光沢のあるドレスに、コインを編み込んだ三つ編み。周囲とは自然と距離ができるほどに張りつめた気配を感じましたが、彼女たちが周囲の視線に頓着しているようには見えませんでした。
「あの人たちはロマの人だよ」。同行のダンサーが教えてくれました。
 それはまさに、メリメの小説世界やマッツ・エックの世界観と重なるものでした。そしてその記憶が、私のカルメン像を支えるイメージの核となっていったのです。
 つい最近読んだのは『歌行燈・高野聖』です。作曲家の池辺晋一郎先生が作られたオペラ「高野聖」が2011年の初演以来十四年ぶりに再演されることになって、昨年11月に金沢へ観に行きました。語りを坂東玉三郎さんが演じていらっしゃいましたが、素晴らしい存在感でした。

泉鏡花『歌行燈・高野聖』書影

 以前、同じく泉鏡花の「天守物語」を、玉三郎さんの富姫で拝見しています。作品の世界から抜け出てきたような佇まい、セリフ回しに圧倒されました。「東海道四谷怪談」でお岩を演じられたときにも、「うらめしや~」と、宙に吊られて舞台上に迫り出していらっしゃった時には本当にお化けが出てきたのかと思ったほどでした。あの浮遊感、人ならざるものの凄み。どうしてあんなことができるのでしょう。
 オペラ「高野聖」も、作品の真髄が表現されていて、ぜひ原作を読んでみたいと思って手に取ったのです。
 独特の文体に最初は戸惑いも感じたのですが、この文体だからこそ、僧侶の語りに真実味を感じ、幽玄の世界に引き込まれるような感覚がありました。
 平松洋子さんの『筋肉と脂肪 身体の声をきく』は、身体と食事の関係をどう考え、どう実践していくか、とても興味深かったです。

平松洋子『筋肉と脂肪 身体の声をきく』書影

 バレリーナ時代はよく踊りたいという目標が最優先で、食事もそのための行為でした。食べるものと食べないものの線引きも明確でしたし、食べないと決めたものは見るのも嫌だと思うくらい、徹底していました。
 平松さんとはお食事をご一緒する機会があったのですが、「食」を心と身体全体で楽しむ姿勢に感服させられました。「これは一口でいくのがいちばん美味しいわよ」「このデザートはすぐに食べてほしいの」など、丁寧に説明してくださるのです。食が単なる栄養補給だった時間が長かった私には衝撃的な経験でした。
 どう生きていきたいか、どんな自分でいたいかということがしっかり見えていないと、自分に合った食事には辿りつけないんですよね。これから長く健やかに働くためにも、食事のあり方に真剣に向き合わなければならない時期にきていると感じています。

(くさかり・たみよ 俳優)

波 2026年2月号より

著者プロフィール

泉鏡花

イズミ・キョウカ

(1873-1939)金沢生れ。本名・鏡太郎。北陸英和学校中退。1890(明治23)年上京、翌年より尾崎紅葉に師事。1895年発表の「夜行巡査」「外科室」が“観念小説”の呼称を得て新進作家としての地歩を確立。以後、「照葉狂言」「高野聖」「婦系図」「歌行燈」、戯曲「天守物語」等、浪漫的・神秘的作風に転じ、明治・大正・昭和を通じて独自の境地を開いた。絶筆「縷紅新草」も三島由紀夫の絶賛を受ける。生誕百年の1973(昭和48)年には金沢市により泉鏡花文学賞が創設された。

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