
成瀬は信じた道をいく
693円(税込)
発売日:2026/06/24
- 文庫
- 電子書籍あり
2024年本屋大賞受賞作続編! 天下無敵の主人公がますますパワーアップした最高の青春小説!
我が道を突き進む成瀬あかりの人生は、今日も誰かと交差する。お笑いコンビ「ゼゼカラ」ファンの小学生、娘の大学受験を見守る父、バイト先に現れたクレーマー、観光大使になるべくして生まれた女子大生。個性豊かな面々が新たな成瀬あかり史に名を刻むなか、幼馴染の島崎が故郷に帰ると、成瀬が書き置きを残して失踪しており……。最高の主人公が再び登場する2024年本屋大賞受賞作続編!
ときめきっ子タイム
成瀬慶彦の憂鬱
やめたいクレーマー
コンビーフはうまい
探さないでください
大津ときめき紀行 びわ湖さんぽ
解説 駒場 孝(ミルクボーイ)
書誌情報
| 読み仮名 | ナルセハシンジタミチヲイク |
|---|---|
| シリーズ名 | 新潮文庫 |
| 装幀 | ざしきわらし/カバー装画、新潮社装幀室/デザイン |
| 雑誌から生まれた本 | 小説新潮から生まれた本 |
| 発行形態 | 文庫、電子書籍 |
| 判型 | 新潮文庫 |
| 頁数 | 288ページ |
| ISBN | 978-4-10-106142-9 |
| C-CODE | 0193 |
| 整理番号 | み-73-2 |
| ジャンル | 文芸作品 |
| 定価 | 693円 |
| 電子書籍 価格 | 693円 |
| 電子書籍 配信開始日 | 2026/06/24 |
書評
今なら成瀬がついてくる!
読み終えるのがもったいない本だった。読みたい、でも読むと終わってしまうという葛藤を感じながら一日で読んでしまった。
この小説の魅力はなんといっても主人公である成瀬あかりの圧倒的な存在感だろう。
うまいこと喩えたいのだが、あまりにこれまでに読んだことがない物語なのでいい喩えが見つからない。
強いて言えば、大津に天まで届く巨大な柱が現れて、周囲の人が戸惑う物語ではないかと思う。ほら、全くうまく喩えられていない。
マンションのチラシの完成予想図のような光り輝く柱ではなく、もっとゴリゴリに堅そうな鋼の柱だ。
成瀬あかりは常にかっこいい。最初の作品「ときめきっ子タイム」では「いかにもわたしが成瀬あかりだ」と言って登場する。そんな元寇に対峙した鎌倉時代の武士のような女子高生いるかね。
でも、成瀬がとる行動は常にストレートなのでそんないざ鎌倉みたいな口調にも違和感はない。
郷土愛、防犯、人助け……どの行動もストレートでまっとうである。だけど、事前にへんな資料で勉強してしまった宇宙人のようにパワフルでおかしい。
そしてこの本のもうひとつの魅力は、成瀬あかりを取り巻く人たちの弱さだ。
成瀬ファンの小学生、父親、主婦……、どれもくよくよしている。鋼のような成瀬とは真逆の柔らかい存在だ。
特に「ときめきっ子タイム」の北川みらいの心情は、忘れかけていた小学生の頃の不安な気持ちが描かれていて胸がざわざわした。
仲がいい人を目の前にしたときの仲間はずれになったかのような錯覚、転校して友人がいなくなったのに世界が続く不安、知らない人に電話をかけることへの緊張感。作者の宮島さんはよくこんな感情を覚えていたと思う。ありがとうございます!
そして父親も弱い。成瀬慶彦というロッテの元エースと広島の元スター選手をくっつけた名前にニヤリとしたが、村上龍が小説『走れ!タカハシ』で描いたような高橋慶彦らしさはまったくない。
その弱い人たちが町に現れた鋼鉄の柱に恐る恐る触れていく。その堅さや唐突さに驚いたりしつつも、無視するわけにはいかない。前作でテレビに映り込んでいたころは直径の細い棒だったが、どんどん大きな存在になっていよいよ琵琶湖を覆い尽くそうとしている。そんなスピルバーグの映画なかったっけ。そう思って検索したが、なかった。でも本作品は日常に現れた違和感スペクタクルだと思う。
とても読みやすい小説をむしろ分かりにくく説明しているような気もする。
だが、成瀬を見習ってためらわずに続ける。
その鋼と柔らかいものがぶつかったときの笑いがとても愛おしいのだ。一発ギャグのような単独の笑いではなく、関係性の笑いだ。
誰もふざけていないのにコントになってしまうことがあるだろう。大人だったら法事や会社の会議で経験があるはずだ。イベントを開催したとき、ホワイトボードを貸してくれと担当者に頼んだら、伝言ゲームで間違って伝わってベニヤの板が届けられたりとか。「頼まれた板です!」とハンサムな若者がボロボロの板を笑顔で持ってきたときのストップモーションのような感覚。
本作に詰まっているのはこういう真空状態だ。「なんだったんだ、あれは?」と長く思い出し笑いができる宝石が詰まっている。
いちばん変な声が出たのは成瀬がくじの結果をコントロールしているという発言をするシーンだ。ついに人知を超えた能力を発揮し始めた。
そんなことあるかよと思いつつも成瀬だったらできるかもしれない……と納得してしまう。そう考えている時点で、僕は読者ではなくきっちり物語に参加してしまっている。
そう、本作品を読むと成瀬だったらできるかもしれない、こう言うだろうと考えていることに気づく。読後に心のなかに成瀬あかりが住み着くのがなんといってもこの作品の最大の特典だと思う。
スマホゲームのCM風にいえば「いまなら成瀬がついてくる!」なんだけど、この喩えはまた安っぽくてうまくないですね。でも成瀬なら「そういうものか」と言ってくれると思う。
(はやし・ゆうじ デイリーポータルZウェブマスター)
波 2024年2月号より
単行本刊行時掲載
インタビュー/対談/エッセイ

特集「新潮文庫の100冊」の50年
この街で暮らし、この街を書く
R-18文学賞の最終候補常連、受賞作の主人公は中学生、大人になって暮らした場所を舞台に描く──。共通点の多いお二人ですが……。
恋がぜんぜん進まない!
宮島 去年R-18文学賞の贈呈式の二次会でLINEを交換しましたね。
一木 そのときに「宮島です」「一木です」とやり取りをして、今日に至ります(笑)。このたび文庫化された『成瀬は信じた道をいく』(以下、『成信』)、とても楽しく読みました。一作目の『成瀬は天下を取りにいく』(以下、『成天』)同様、滋賀県大津市が舞台でありつつ、そこから飛び出していく気配もあり、住んでいる街で善きことをしたくなる作品だと思いました。
宮島 嬉しいです。成瀬の大津愛は琵琶湖より大きいので。
一木 私は『成天』の「レッツゴーミシガン」に登場する西浦くんが大好きです。競技かるたの大会で成瀬と出会う広島の高校生。この二人、恋の進み方がゆっくりでかわいいです。
宮島 なかなか関係が進展しないですよね。
一木 私の小説だと、すぐ恋が始まってしまう(笑)。
宮島 私、一木さんの作品を全部読んでいるほど大好きなんですが、読むたびに、恋愛って実はすぐ近くにあるのかもと思わせてくれる小説が沢山あります。それに、一木さんの描く男性はミステリアスだったり、色気があったり、恋愛が似合う人が多いですよね。西浦はその対極にいるタイプかも。
一木 西浦くんや成瀬のお父さんの慶彦さんも、宮島さんの描く男性は鷹揚というか、良い意味で呑気ですよね。
宮島 『成天』を書き始めたとき、登場人物全員が、破天荒な成瀬のことを受け入れる、そういう物語にしようと決めたんです。正直、現実では万人から受け入れられるなんて無理じゃないですか。それでも、この作品は成瀬の全てが肯定される物語にしたかったんです。
一木 そこがすごく素敵ですよね。成瀬の行動は、常人には理解できないところもありますが、周りの人が受け入れているから、読者も自然と受け入れられるんだと思います。『成天』で西浦くんのことが大好きになったので、『成信』も期待して読んだら……。
宮島 出てこないんですよね(笑)。
一木 三部作の完結編の『成瀬は都を駆け抜ける』(以下、『成駆』)でふたたび登場するまで待ち遠しかったです。でも『成信』も濃いキャラクターが沢山登場しています。
宮島 北川みらいとか篠原かれんとか呉間言実とか。
一木 「ときめきっ子タイム」に登場するみらいちゃんは、とにかく可愛かったです。成瀬が幼馴染の島崎と組んだお笑いコンビ・ゼゼカラのファンで、小学校の課題として二人のことを熱心に調べるんですよね。ほのぼのとした話だと思って読んでいたのですが、終盤にドキッとさせられるシーンがあって……。あの場面は最初から決めて書きましたか?
宮島 いえ、書きながら考えました。だいたいの流れというか、プロットのようなものはあるんですが、細かいことは決めずに書き始めます。
一木 じゃあ、成瀬がびわ湖大津観光大使になる「コンビーフはうまい」で、観光大使同期のかれんさんがマニアックな質問をされるシーンも書きながら考えたんですか?
宮島 そうですね。
一木 あの場面、ピンチを乗り切る盛り上がりと、かれんさんが本当の自分を出せたことへの喜びがこみ上げてきて、泣きそうになりました。
宮島 最初、かれんはもっとイタい子として書いていたんです。内容も全然違いました。編集者の意見をもらいながら、あんなことさせてみよう、こんなことさせてみようと改稿をして今の姿になりました。
一木 すごく愛しい子ですよね。あと、成瀬のアルバイト先のスーパーに現れるクレーマーの主婦、呉間言実さんも好きでしたね。夫の祐生さんにも、宮島さんの描く男性の良さが出ていたと思います。
宮島 優しいですよね。
一木 書き置きを残して失踪した成瀬を探すために、みらいちゃんや島崎と一緒に呉間夫妻が、スーパーのイートインスペースで作戦会議をするじゃないですか。あの場面を読みながら、祐生さんの座り方が目に浮かんだんです。
宮島 え、どう座っていたんですか?
一木 絶対に脚を閉じていて、お行儀よくみんなの話を前のめりで聞いていると思いました。
宮島 あ、分かります。祐生さんは電車でもきっと脚を広げないですよね
いつか受賞するはず
一木 R-18文学賞には何回応募しましたか?
宮島 四回ですね。
一木 私もです。
宮島 一木さんが四回目で受賞されたと知ったとき、一木さんですらそんなにトライされたんだから、私は十回以上応募しないといけないだろうな、と思いました。落選したときは落ち込みました?
一木 さすがに最初の一回は落ち込みましたが、その次からは平気でした。
宮島 え、そうなんですか?
一木 いつか受賞するかなと思っていたので……。三回目に最終選考に残った作品が、女の人の体液を飲みたがる男の人の話だったんです。四回目に、中学時代の恋愛を忘れられない女性を描いた「西国疾走少女」で受賞して、友人から「三回目で受賞しなくて、本当に良かったね」と言われました(笑)。

宮島 受賞作の作風は、大切ですよね。私も成瀬で受賞できて良かったと思っています。
一木 成瀬を書く前までは、性的なことも書いていましたか?
宮島 実は書いていました。今でも濡れ場とか、すごく書きたいんです。
一木 書いてくださいよ!
宮島 いや、今は書けないです……。成瀬は小学生も読んでくれていますから、いきなり男女の話を書いたら、読者さんが驚いちゃうかなと。でも、いつか絶対書きたいと思っています。
一木 えらいなぁ。
宮島 一木さんの小説には、気持ちがずーんと重くなるようなことも描かれていますよね。物語に引っ張られて落ち込むこともありますが、それでも読むのをやめられない。
一木 私は自分自身のヒーリングのために書いているところもあります。過去と向き合って、治療するような。
宮島 小説に書くと、過去の辛さは解消されますか?
一木 解消されますよ。デビュー作の『1ミリの後悔もない、はずがない』では、父親のことをあまり書けませんでした。その後、別の作品を書いているときに、当時の担当者から「一木さんはお父さんのことを書かないと前に進めないと思います」と言われて、全てを書いたのが『全部ゆるせたらいいのに』です。そうしたら、父親への割り切れない思いが、スパッと消えたんですよ。
宮島 ちゃんと治療になったんですね。私はまだ過去の記憶に向き合いたくないので、もう少し時間がかかりそうですが、いつかちゃんと書きたいと思っています。
忘れたくない場所を書く
一木 宮島さんも私も、住んでいる/住んでいた土地を舞台に、小説を書いていますよね。
宮島 暮らしている場所って、よく知っているから書きやすいです。『成駆』は京都を舞台にしていますが、私自身が京都で大学時代を過ごしたので馴染みのある土地でした。
一木 滋賀から京都に舞台を移すとき、街の雰囲気の変化は意識しましたか?
宮島 言われてみると、ホームはあくまで滋賀で、京都は出かける場所という私の感覚は反映されているかもしれません。一木さんの『結論それなの、愛』は夫の海外赴任に同行してタイに住むことになった女性が主人公ですよね。その夫がマレーシア出張に行ったきり、コロナの影響で七カ月も帰ってこられなくなり、心細い思いをしていたところに、テオというタイ人の男性が現れて……。タイの熱気がじかに感じられる大好きな作品ですが、一木さんもかつてタイにお住まいだったんですよね?
一木 タイのバンコクに九年住んでいました。離れることが急に決まったとき、寂しくて、忘れたくないと思って、バンコクを舞台にした小説を書いたんです。花の香りや湿気、男女の愛憎とか、書いて残しておきたくて。成瀬あかりシリーズの爽やかさとは真逆ですね(笑)。
宮島 日本にはいつ戻られましたか?
一木 四年前です。久しぶりに東京で暮らして、次に出る本は東京を舞台にして書きました。
宮島 それは楽しみです。

一木 バンコクにいたころは、一時帰国もしていましたが、日本への印象がぶつ切りでした。でも、四年間日本に住んでみると、梅雨にはアジサイが咲いて、秋にはドングリが落ちてと四季の移り変わりを感じられました。それに気づいたとき、東京を舞台に書けるかもと思ったんです。ただ、実際に住んでいる場所を舞台に小説を書くと、自分の話だと思われることがありませんか?
宮島 あります! 成瀬って宮島さんですか? とよく言われます。成瀬は破天荒で大津が大好きな子で、もちろん自分に似ている部分もあるものの、架空の人物として書いています。
一木 私も全て実体験だと思われがちです。
宮島 小説に登場する大津市も、実在の街をモデルにはしていますが、あくまでフィクション。私も大津は好きですが、成瀬の地元愛とは全くの別物です。
一木 もちろん愛はたくさん込めているんですけどね。私、実は琵琶湖に行ったことがないんです。今度必ず伺います!
(いちき・けい 作家)
(みやじま・みな 作家)
著者プロフィール
宮島未奈
ミヤジマ・ミナ
1983(昭和58)年、静岡県富士市生れ。滋賀県大津市在住。京都大学文学部卒。2021(令和3)年「ありがとう西武大津店」で「女による女のためのR-18文学賞」大賞、読者賞、友近賞をトリプル受賞。2023年同作を含む『成瀬は天下を取りにいく』でデビュー。静岡書店大賞小説部門大賞、坪田譲治文学賞、本屋大賞など多くの賞に輝き話題となる。「成瀬あかりシリーズ」は『成瀬は信じた道をいく』『成瀬は都を駆け抜ける』の三部作で完結した。他の著書に『婚活マエストロ』『それいけ!平安部』がある。


































