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ちょっと不運なほうが生活は楽しい

田中卓志/著

649円(税込)

発売日:2026/02/28

  • 文庫
  • 電子書籍あり

笑って泣ける、アンガールズ・田中が綴る悲喜こもごも(悲、強め)のおかしな日常エッセイ!

真面目すぎる性格なのにふざける仕事を志し、第一印象が「キモい」だった山根とコンビを組み、港区女子合コンの悔しさをバネにめでたく結婚! 人気芸人の悲喜こもごも(悲、強め)の日常は、ちょっとおかしくて、じんわり感動。母のお弁当の思い出を綴った「最高の食事」(「ベスト・エッセイ2022」選出)を含む初エッセイ集に、書き下ろし「建築士になる」と穂村弘さんとの対談を特別収録。

  • 受賞
    第14回 広島本大賞 文芸部門
目次

まえがき

停電したなか卯で通じ合った
いじめっ子とお笑いと
18歳、なんでもない人間
人生で一番の修羅場
休み時間の変態ごっこ
ブレイクはしたものの
最高の食事
朝のパチンコ屋で
「待て! そこの新選組!!」
初めてのテレビ収録
空手と嘘
ヤンキーにからまれたら
無防備な魅力
山から降りてくる鳥使い少年
18年目のジャンガジャンガ
幻のパワーワード
港区女子と紅茶と僕と
リミッターが外れた
ランキングの信憑性
薄毛の僕だから
相方か友達か
結婚相手の条件

あとがき

【文庫特別書き下ろし】
建築士になる

文庫化記念対談 田中卓志✕穂村弘
「ジャンガジャンガ」という魔法

書誌情報

読み仮名 チョットフウンナホウガセイカツハタノシイ
シリーズ名 新潮文庫
装幀 小幡彩貴/装画、青木登(新潮社写真部)/写真、新潮社装幀室/デザイン
雑誌から生まれた本 小説新潮から生まれた本
発行形態 文庫、電子書籍
判型 新潮文庫
頁数 256ページ
ISBN 978-4-10-106741-4
C-CODE 0195
整理番号 た-140-1
ジャンル エッセー・随筆、ノンフィクション
定価 649円
電子書籍 価格 649円
電子書籍 配信開始日 2026/02/28

インタビュー/対談/エッセイ

停電の夜、牛丼と

田中卓志穂村弘

お笑いの道へのきっかけ、母の愛情弁当
第一印象が「キモい」だった山根さんとのコンビ結成……
悲喜こもごものデビューエッセイ集について語り尽くす。

田中 僕の奥さん、穂村さんの大ファンなんですよ。「今回の『ちょっと不運なほうが生活は楽しい』文庫化にあたってどなたかと対談しませんか?」と新潮社に提案されたとき「ほむほむがいいんじゃない?」って言ったのも奥さんでした。もともと本が好きな人なのでいろんな作品を薦めてくれるんですが、その中に穂村さんのエッセイがあって、僕が「おもしろいね」って言ったのを覚えていてくれたんです。

穂村 ありがとうございます。実は、田中さんにお会いするのは約二十年ぶり。前回は僕がオファーしました。当時テレビでジャンガジャンガを見て、衝撃を受けて。その少し後かな、NHKのラジオ番組で「ゲストに呼びたい人はいますか」と訊かれたので、アンガールズさんのお名前を挙げました。

田中 それ、マネージャーから聞いてびっくりしました。覚えていなくて、申し訳ない……。

穂村 いえいえ。おふたり、すごくシャイでしたから。2005年頃かなあ。

田中 まだ僕らが駆け出しの頃だったと思いますが、どこに注目してゲストに呼んでくださったんですか?

穂村 やっぱりジャンガジャンガの衝撃と謎が気になったのが大きいです。妻とふたりで顔を見合わせて「これは一体なんなんだろう。正体を探らなくちゃいけない」と、駅前のTSUTAYAでアンガールズのネタのDVDを借りて。それですっかりファンになりました。見て笑っただけでは済まないような不思議な魅力がありましたね。

田中 確かにそう言われることは多かったな。僕としては、ジャンガジャンガの前の部分──例えば初対面の人と肘がぶつかって、お互いにどうしたら良いのか分からなくなるだとか──そういった日常で起こる微妙な瞬間がおもしろいと思って、ネタをつくっていたんです。だけど、他の人に見せたら「それ、オチてるのか?」と問われて、「え、オチてるかは……ちょっと分かりません」って。

穂村 日常のくすっと感という意味では、短歌とも通ずる部分がありますよね。そもそもこの本のタイトルがそうなんだけど、例えば、「銀座で高級なお寿司を食べた」とか「合コンでモテた」とかは短歌にはできない。そんな自慢を歌にしても、読んだ人が不快になるだけ。かといって逆に、大きな悲劇や事故なども、そのままでは言葉にできない。何が書けるかと言えば、それこそジャンガジャンガ的な「微妙になりました」という、「ちょっと不運」なものが短歌ではおもしろいんですよね。みんながなんとなく感じているけど見過ごしていることにちゃんとフォーカスできると、うまくいく。

田中 その意味では、短歌とジャンガジャンガの空気感はすごく近いですね。

真面目だからこそ笑いがある

穂村 この本のひとつひとつのエピソードがとてもおもしろかったんですが、実は細かい気遣いがされていますよね。例えば、キーパーのことを「僕みたいなしょぼい人間がやらされがち」と自嘲するんだけど、その前に、「(本来は)ゴールを守り全体を見ながら指示も出すキーパーは、大切なポジション」とある(「いじめっ子とお笑いと」)。お母さんのお弁当を番組内で悪く言われた場面でも、「タレントさんも何か言わなければならないから、仕方なくそう理由を言ったのだろうし、悪くはない」って(「最高の食事」)。

田中 びくびくする性格なんでしょうか。でも、穂村さんもエッセイの中でよく心配なさっていますよね? 「こう思われるんじゃないか」という。

穂村 だから僕は「ジャンガジャンガ」に惹かれたのかな? あれがあれば……。

田中 微妙になった空気を一瞬で消し去れるという(笑)。

穂村 魔法のワードですから。エッセイを書くときに決めているルールはありますか?

田中 ルールというほどではないんですが、笑いを無理に入れることは絶対にしないように気をつけています。僕が誰かのエッセイを読んでいるとき、「おもしろいな」という部分は自分で見つけるし、そんな発見を自然と引き出されているなと思うんです。だから「ここおもしろいでしょ」と、書いている側が押しつけるような笑いにはしたくないなと。

穂村 田中さんのエッセイには真面目さをひたすら突き詰めたおもしろさがあります。真面目だからこそ芸人になったということが、先ほど挙げた「いじめっ子とお笑いと」のエピソードでもよく分かりますね。サッカーの授業でキーパーを任されたとき、緩いシュートを倒れながら全身で抱えて取ったら、いじめっ子たちがドッと笑って、次の日からいじめられなくなった。

田中 笑わせようとしたつもりはなくて、真剣にやっただけなんですが。

穂村 ウケを狙ったわけではなく、真面目に生きていた先に笑いがあったんですね。

「山根」を掘りたい

穂村 相方の山根さんを描いたエッセイもありますよね(「相方か友達か」)。田中さんと山根さんの身長があと10センチずつ低ければ、ジャンガジャンガはあそこまでのオーラを生み出すことはなかったのかも。

田中 コンビだと「長身と小さい人」や「太っている人とガリガリ」といった組み合わせが多いですもんね。山根は、面白いエピソードがあっても自分からは話さないから、もったいないんです。

穂村 芸人さんにしては珍しい。

田中 若手で本当に金がない頃、番組の忘年会で、山根がヴィトンのバッグをビンゴで当てたことがあるんですよ。そのバッグを、質屋で売るでもなく、自分で使うでもなく、山根は、実家の親に渡して「買ってくれ」って。

穂村 親に売りつけたんだ(笑)。

田中 それを「こっそりご両親にエピソードを聞いてきました」と、トーク番組で暴露されて。芸人だったら「ちょっと~言わないでよ~」なんて盛り上げるのが王道なんですが、山根は「言うなよ……」と、本気で引いていた(笑)。恥をかくのを異常に嫌がるんですよ!

穂村 いわゆる「おいしい」とは思わない方なんですね。

田中卓志 芸人。2000年に山根良顕と「アンガールズ」を結成。2022年、エッセイ「最高の食事」が日本文藝家協会編「ベスト・エッセイ2022」に選出され、話題に。初エッセイ集『ちょっと不運なほうが生活は楽しい』で、広島本大賞を受賞。

田中卓志
芸人。2000年に山根良顕と「アンガールズ」を結成。2022年、エッセイ「最高の食事」が日本文藝家協会編「ベスト・エッセイ2022」に選出され、話題に。初エッセイ集『ちょっと不運なほうが生活は楽しい』で、広島本大賞を受賞。

田中 芸人だったら喜ぶはずなのに、山根は違う。そこがおもしろいんです。大声でリアクションしていればウケるという状況のなかで必死に嫌がるから「あれ? これまずいことだった?」って笑えない空気になる。それが山根という男なんですよ。

穂村 しかし田中さんの「やーまーねー!」という声がみんなの耳に残るぐらいだから、やっぱりずいぶん掘ってるわけですよね。

田中 掘って、掘って、僕は、山根の秘めている部分をもっと引き出したい。

穂村 山根さんは自分から秘密を話すタイプじゃないから、田中さんが書くしかない(笑)。本書には、そういった「田中さんが書かなければ他の誰にも書けない」テーマがたくさんありますよね。「抱かれたくない男」ナンバーワンと言われた気持ちを吐露する、みたいな(「ランキングの信憑性」)。

田中 僕のエッセイは、自分だけが経験したところにみんなを引き込んでいく感じだと思っています。ところが穂村さんは、みんなが行ったことのある場所で起こるほんのちょっとした出来事から、こんな広がりがあったかと驚くような世界を描く。僕は、それに憧れます。

穂村 でも、この本に登場する「なか卯」は、誰もが行ったことのある場所ですよね(「停電したなか卯で通じ合った」)。暗闇のなか、アルバイトのおじさんに頼まれてブレーカーの場所を一緒に探すという。あれ、僕が同じ立場になったら停電した時点で逃げちゃうかもなぁ。

田中 僕はただ、牛丼を食べている途中だったので。真っ暗になって見えなくなったから、電気が点くまで待たないとって。

穂村弘 歌人。1990年に歌集『シンジケート』でデビュー。『短歌の友人』で伊藤整文学賞、『鳥肌が』で講談社エッセイ賞、『水中翼船炎上中』で若山牧水賞を受賞。歌集、エッセイ集以外にも、詩集、対談集、評論集、絵本、翻訳など著書多数。

穂村弘
歌人。1990年に歌集『シンジケート』でデビュー。『短歌の友人』で伊藤整文学賞、『鳥肌が』で講談社エッセイ賞、『水中翼船炎上中』で若山牧水賞を受賞。歌集、エッセイ集以外にも、詩集、対談集、評論集、絵本、翻訳など著書多数。

穂村 食べて帰っちゃおうとは思わなかったんですか?

田中 えー。真っ暗な中で!? 食べて帰るとか、そんな……食べて帰ることはできたでしょうけど、でも……なんか不味いじゃないですか。明るいところで食べるから美味しいんじゃないですか。

穂村 僕だったら……。

田中 どうしたと思います?

穂村 真っ暗な中で食べて帰っちゃうかも。それで後から「なんで逃げたんだろう」って自分を責める。

田中 「なんでそこに残らなかったんだろう」という後悔を書く?

穂村 うん(笑)。

田中 「おじさんがひとりで働いていたのが見えていたのに、なぜ僕は……」と(笑)。

穂村 田中さんは優しいから残ったのか、それともブレーカーを見つけられるという自信があったのか。

田中 僕はただ牛丼を食べるために、明るくなるのを待ってただけです。そしたら話しかけられたから、「えぇ!?」って。

穂村 そもそもそんな特殊な状況で、困っているおじさんから話しかけられるっていうのが、いい話。その後、特に二人の距離が詰まらなかったのも、またいい。場所が「なか卯」っていうのも妙に良いんだよな。

田中 そのまま書いただけなんですが(笑)。

穂村 アクシデントを引き寄せる特異体質のようなものも含めて田中さんの魅力なんですね。エッセイは、その後も書かれているんですか?

田中 今は書いていないんです。でも文庫化にあたって、「建築士になる」というエッセイを書き下ろしました。昨年12月に、二級建築士試験に合格したんですが、そのときのエピソードを。

穂村 いいですね。弟さんの話とか、山根さんの話とか、もっといろいろ読んでみたいです。

(たなか・たくし 芸人)
(ほむら・ひろし 歌人)

波 2026年3月号より

誰かが笑ってくれるなら

田中卓志蛭子能収

2023年8月末に初エッセイ集を刊行した田中さん。田中さんにとって蛭子さんは「20年以上芸人を続けてこられた恩人」だそう。久しぶりの対談に、どうにも笑いが止まらないのは……。

忘れられない蛭子さんの言葉

田中 8年くらい前、蛭子さんと二人でドライブする番組で共演した以来ですね。所沢のうどん屋さんでご飯を食べ、狭山のスキー場で一緒にスキーをして。スマホに写真が残っているかな。

蛭子 (田中さんの本のカバーを指さして)ちょっと不運なほうがいい?

田中 そうです、これ、僕の初エッセイ集です。あ、写真ありました!

蛭子 (本の帯を見て)「向かい風の多い人生です」って書いてある。不運を、他の人を喜ばせる方に変える……?

田中 そうです、そうです! 僕はこれまで、人生で「ちょっと不運なこと」が色々とあったけれど、それをエッセイに書くことで、誰かがクスッと笑ってくれたらいいなと思って。

蛭子 そうですね。

田中 これ、一緒にドライブしたときの写真です。偶然にも、二人ともオレンジ色の服だったんすよ。

蛭子 なんで裸なの?

田中 裸……? え……僕、服着てますよ! 裸でロケしないですよ(笑)。(スマホの画面を拡大して)ほら見て下さい、裸じゃないでしょ?

蛭子 へへ、もう大丈夫です。そうと言われたら、そうとしか言えないんで(笑)。

田中 この本の中に、蛭子さんとの思い出も書かせてもらったんです。

蛭子 へぇ~。

田中 覚えていらっしゃるか分かりませんが、僕が芸人になって4年目くらいにテレビに出始めて……。

蛭子 えっ、芸人さんでしたっけ?

田中 蛭子さん、僕、お笑い芸人なんですよー。蛭子さんがよく共演されている、有吉(弘行)さんと同じです。

蛭子 そうか。

田中 今から20年前くらいですかね、アンガールズとしてブレイクできたタイミングの時、テレビに出ても全然笑いが取れなくて、スベってばかりで。実力がないのに人気だけはあってお仕事は頂けていたから、仕事を受けてはスベるという悪循環で……。

蛭子 20年前ね。

田中 何もかも楽しくなく、精神的に追い詰められていた時に、雑誌の企画で蛭子さんと対談させて頂いたんです。もともと蛭子さんの漫画が大好きだったので、僕から希望させてもらって。

蛭子 ああー。

田中 それで対談の最後に当時のその悩みを相談したら、蛭子さんが、昔、同時期に漫画の連載をしていた競艇雑誌とエロ雑誌の締め切りが両方ギリギリだった時、慌てて原稿を送ったら、競艇の方にエロ漫画を、エロの方に競艇漫画を送っちゃってて、あとで気が付いて焦ったんだけど、両方ともそのまま掲載されたことがあったって。

蛭子 へへへへ(笑)。

田中 だから、田中君もテレビでスベることを気にしているけれど、そもそも世の中の人はそんなに田中君のことを見ていないから大丈夫、って言って下さったんです。テレビに出るたびにスベって、情けない姿を全国民に見られている……なんて、僕が思い込んでいただけだったと、蛭子さんのそのお話に気持ちがぐっと楽になりました。

蛭子 それは良かった。

田中 それからは、とりあえず目の前のことをしっかりやろうと無心になれて、仕事も少しずつ楽しめるようになって……。蛭子さんの言葉がなかったら、芸人をやめていたかもしれません。

蛭子 そうだったんですね。でも、お金とかは全然、要求しないですから。

田中 あはははは! 要求されたら払いますよ(笑)。それくらい、蛭子さんには助けて頂きました。今日のこの対談の謝礼もちゃんと払いますからね。

蛭子 いやいや、そこまでしてもらわなくてもいいですよ。

田中 今日はぜひもらって下さい(笑)。

書くことは、ちょっと楽しい?

田中 蛭子さんは3年前、ご自身が認知症を患われていると公表されましたが、認知症になる前、あの8年前のドライブの時すでに、僕と初めて対談した時のことも、僕にかけてくれた言葉も、覚えていらっしゃいませんでした。

蛭子 そうだったかな。

田中 今思い出しても、あの時の話の嚙み合わなさに僕は笑ってしまうのですが、蛭子さん自身が忘れてしまったとしても、あの時の僕と同じように、今必死にもがく誰かの救いになったらいいなと願いながら、今回エッセイに書かせてもらいました。蛭子さんは週刊誌で、読者の悩みに答える「人生相談」の連載もされていましたが、人の悩みに答えるのは得意ですか?

蛭子 そうですね。やっぱり人って、他人からの言葉に弱いところがあるというか……。逆の方に考えるっていうのは楽しいんですよ。

田中 逆の方? 真剣に考えすぎない方がいいってことですか?

蛭子 うん、そうそう(笑)。

田中 違うでしょ、今の僕の質問に答えるの、面倒になってるでしょう(笑)。

蛭子 へへへ(笑)。

田中 全然いいですけど(笑)。漫画や人生相談以外にも、蛭子さんはエッセイの本も色々出されていますよね。

蛭子 そうでしたっけ?

田中 『ひとりぼっちを笑うな』とか、僕、何冊も持っています。

蛭子 一人か二人、騙されて買ってくれた人がいたらいいのだけど。

田中 一人か二人どころか、ベストセラーになりましたよ!

蛭子 どっちが儲かってる?

田中 え、蛭子さんの本と僕のと? それは蛭子さんのです。印税がたくさん入ったと思いますよ。

蛭子 それなら何の文句もないです(笑)。

田中 僕も蛭子さんみたいに、読者の感情をちょっとだけでも震わせられたらいいな、そんなエッセイが書けたらなと、1年半以上連載を続けました。書くと決めた日は朝から近所のルノアールでパソコンに向かうのですが、話がうまく運ばない時ももちろんあって、ルノアールからルノアールにはしごしても終わらないことも……。それでも、「締め切りには必ず間に合わせる」という自分に課したルールは、最後までなんとか守ることができました。

蛭子 へへへへ(笑)。

田中 これまでもコンビでやるネタを書いてきましたが、エッセイを書く時に、頭で考えていたままに面白い文章が書けた時はすごく楽しくて、ネタを作っている時に面白いくだりが書けた時と同じような快感を覚えました。それにエッセイでは、その時々の自分の感情や情景を細かく書き込めるのも新鮮でした。テレビのエピソードトークだと、例えば15秒以内にはオチをつけないと間延びする、一言で笑わせないとダメといった意識が働くので……。

蛭子 へへへへへへ(笑)。

田中 って蛭子さん、なんで笑ってるんですか? 「田中君、語っちゃってるよ~」みたいな?(笑)

蛭子 (笑いが止まらない)

田中 僕も語るときだってありますよ~!(笑)

蛭子 ごめんなさい、すぐ笑う癖があって。何でこんなにおかしいんだろう。

田中 しんどいこともあったけど、楽しい瞬間もあったという話でした(笑)。

蛭子 (まだ笑いが止まらない)

田中 もう少しだけ語らせてもらうと、今回、エッセイに書くネタは、思いついたらスマホにメモしていたのですが、蛭子さんは漫画を描かれていた時にはネタのメモってされていましたか?

蛭子 俺は新しいことを描くのが好き。

田中 その場で思いついたことを筆が進むままに描いていた、ということですね。天才だなぁ。

蛭子 ……すみません、なんか大袈裟に言っちゃったかも。

田中 すぐ否定した!(笑)。アイディアが出ない時もありました?

蛭子 うん、ほとんどって言っていいくらい。

田中 ほとんど!(笑)。締め切りが近づいて追い込まれたら何か出る、という感じですか?

蛭子 そうでした。

田中 描くこと自体は楽しかったですか?

蛭子 楽しいです、やっぱり。そう、楽しいんですけど、急に笑わせないといけないから……。適当にはやれない。

田中 なるほど。蛭子さんの場合、ギャグの要素を入れるから、そこはきちんとやらないといけない、と。今度、「最後の展覧会」という絵の個展もやられますよね(編集部注・AKIO NAGASAWA Gallery AOYAMAにて、2023年9月30日までの開催)。全点新作と伺って、蛭子さんがまだ絵を描かれているということが、僕はすごく嬉しくて。

蛭子 ありがとうございます、本当に喜ぶと思います。

田中 急に他人事じゃないですか(笑)。

蛭子 (田中さんの本のカバーを指さしながら)これはいいですね。

田中 イラストレーターさんにヤンキーの絵を描いて頂いて、僕の写真と合成したんです。イラストで、僕の写真に「汗」が足されているのがいいでしょう? 汗は蛭子さんの漫画にもよく出てきますよね。

蛭子 汗は簡単だから……。

田中 そうそう! 「汗を描けば感情が一発で伝わるから」って以前もおっしゃっていました。

蛭子 楽しそうですね~。

田中 え、楽しそう? 電車で居眠りしたヤンキーが、僕の肩にもたれかかってきちゃっているのに!?

蛭子 そうかそうか、ごめんなさい(笑)。

田中 汗の意味が伝わってないじゃないですか(笑)。

田中はこれからどう生きるか?

田中 今日は蛭子さんとせっかく再会できたので、また悩みを相談してもいいですか?

蛭子 どうぞどうぞ。

田中 僕はまだまだ芸人を続けていきたいのですが、47歳になって、どこまで続けられるんだろうという不安も最近感じるようになりました。今後、どうしていけばいいですかね?

蛭子 そうですね……。「生活は楽しい」か……うん、楽しいな。

田中 タイトルに、ずっとすごい食いついて下さっていますよね! 結構悩んだタイトルだったので、蛭子さんの琴線に触れたのなら嬉しいです。

蛭子 そうだね、タイトル変えた方がいいかな、うん。

田中 え? 変えた方がいいですか!? もう発売しちゃってますけど(笑)。

蛭子 本当はね。

田中 どこを変えたらいいですか?

蛭子 「不運は生活の方がいい」かな……。

田中 深い……! もし次作を出せることになったら、そのタイトルにしますか(笑)。今日は久しぶりにお目にかかれて、本当に嬉しかったです。ありがとうございました。

蛭子 面白い方、ですね。

田中 えっ! それは光栄です!

蛭子 (また笑いが止まらない)

田中 そんなに笑って下さって、嬉しいなぁ。蛭子さんに、芸人として認めてもらえた気がします。これからも、蛭子さんやみなさんに笑ってもらえるように頑張ります。また一緒にドライブロケにも行きましょう!

蛭子 へへへへへ(笑)。

(たなか・たくし アンガールズ)
(えびす・よしかず 漫画家)

波 2023年10月号より
単行本刊行時掲載

著者プロフィール

田中卓志

タナカ・タクシ

1976(昭和51)年、広島県生れ。広島大学工学部第4類建築学部を卒業後、2000(平成12)年に山根良顕と「アンガールズ」を結成。ネタ作りを担当している。紅茶、苔、バイオリンなど多趣味でもある。2022(令和4)年、エッセイ「最高の食事」が日本文藝家協会編「ベスト・エッセイ2022」に選出され、話題に。2024年、初エッセイ集『ちょっと不運なほうが生活は楽しい』で、広島本大賞を受賞。

アンガールズ田中卓志(@ungirls_tanaka) • Instagram (外部リンク)

判型違い(単行本)

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