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源氏物語を知っていますか

阿刀田高/著

1,100円(税込)

発売日:2015/11/28

  • 文庫
  • 電子書籍あり

あの超大河小説『源氏物語』が読まずにわかる! 学生からシニアまで全国民必携の一冊。

男女の愛欲と孤独。野心と諦観。縦横無尽に張り巡らされた伏線の糸。平安貴族を熱中させた、極上華麗な大ベストセラー大河小説『源氏物語』五十四帖を、短編小説の名手・阿刀田高があなたのかわりに読みました。大人のユーモアとエロス溢れる軽妙な語り口で、70年以上にわたる長大なストーリーと複雑に絡み合う人間関係が、すんなり頭に入ります。学生からシニアまで全国民必携の一冊。

目次
1 初めにエロスがあった 桐壺 帚木
2 そっくりさんの系譜 空蝉 夕顔 若紫
3 二兎も三兎も追いかけて 若紫 末摘花 紅葉賀 花宴 葵
4 恋の責め苦をなんとしよう 葵 賢木
5 明石の雨に打たれて 花散里 須磨 明石
6 大河の脇に溜池がチラホラ 澪標 蓬生 関屋
7 今年ばかりは墨染に咲け 絵合 松風 薄雲
8 朝顔に背かれ心は雨模様 朝顔 少女 玉鬘
9 夕顔のあとにくすしき玉鬘 初音 胡蝶 蛍 常夏
10 姫君はいずれ桜か山吹か藤 篝火 野分 行幸 藤袴
11 こじれた恋には藤の宴 真木柱 梅枝 藤裏葉
12 因果はめぐる小車の 若菜(上・下)
13 涙は教養の証しですか 柏木 横笛 鈴虫 夕霧
14 夕霧は父とはちがう恋の道 夕霧 御法 幻
15 君去りて後のことども 匂宮 紅梅 竹河
16 ウジウジと薫は宇治へ眼は涙 橋姫 椎本 総角
17 行方も知らぬ浮舟の旅 早蕨 宿木 東屋 浮舟
18 末はエロスか仏の道か 浮舟 蜻蛉 手習 夢浮橋
男と女、古典と現代、それぞれのビヘイビア 島内景二

書誌情報

読み仮名 ゲンジモノガタリヲシッテイマスカ
シリーズ名 新潮文庫
発行形態 文庫、電子書籍
判型 新潮文庫
頁数 672ページ
ISBN 978-4-10-125539-2
C-CODE 0195
整理番号 あ-7-39
ジャンル 古典、文学賞受賞作家
定価 1,100円
電子書籍 価格 979円
電子書籍 配信開始日 2016/05/20

書評

「それでも変わらないもの」を伝える三冊

たられば

 先日調べものをしていて、iPhoneの日本発売が2008年7月だと知って愕然としました。スマホはわずかこの十二年間で、日々の生活やコミュニケーションを大きく変えてしまいました。
 そしておそらく、十二年後の生活やコミュニケーションだって今とはまったく変わっているだろうとも予測できます。
 だとしたら、何を積み上げていけばよくて、何を信じればいいのでしょう。そんなとき、たとえば千年前の古典文学を読んでいると、人間の何が変わって、何が変わらないかを再発見して安心することがあるのです。
 もちろん千年前を生きた作者とわたしたちでは、使う言葉も生活様式も、人間に対する考え方もまったく違います。
 それでも、春の朝日に感激したり夏の夜の雨に趣を感じたり、好きな相手から手紙が届かなくてクヨクヨしたり振られて泣いたり、人間はいつでも人間で、変わらないものもあるんだと安心できる。今回はそんな「古典の醍醐味」を味わえる三作品をご紹介します。

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「古典文学作品を読んでみたいのですが、何から手をつければよいですか」と、SNSで質問を受けることがあります。よくそんな雑な質問を……と頭を抱えつつ、とはいえ鉄板の作品としてわたしがよく薦めるのが、小倉百人一首です。
 小倉百人一首って、柿本人麻呂、大伴家持、小野小町、在原業平、紀貫之藤原道綱母紫式部清少納言、そして『新古今和歌集』の選者でもある藤原定家や後鳥羽院……と、飛鳥〜奈良〜平安〜鎌倉初期の古典作家「全部盛り」なコンピレーションアルバムなんですよね。
 そんな百人一首の「味わい方」を独特な視点で紹介するのが、白洲正子氏の『私の百人一首』です。日本文化と美意識にこだわり続けた白洲氏が、「自分の感触だけは見失いたくない」として書いた百人一首の手引き書は、読んでいると不思議と「自分自身の百人一首」が見えてくるのでした。

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 また前述の「雑な質問」にはもう一パターンあります。それは「『源氏物語』を読んでみたいのですが」というもの。
 与謝野晶子谷崎潤一郎橋本治瀬戸内寂聴などなど、錚々たる作家がそれぞれの解釈と文体で『源氏物語』の現代語訳を刊行しています。そして多くの人が「よし読んでみよう」と手に取り、途中で挫折してきたはず。それがなぜわかるのか。『源氏物語』にはわたしも何度も跳ね返されたからです。いやお恥ずかしい。何度も何度も挫折したわたしが『源氏物語』を通読できたのは、いきなり本文に挑まず、まずは筋書きを記した「ガイド」を頭に入れていたからです。
 阿刀田高氏の『源氏物語を知っていますか』は、『源氏物語』という日本文学の最高峰に登頂するうえで最良のガイドのひとつです。阿刀田氏の流れるような講談調の解説を読むと、光源氏や紫の上、六条御息所や朧月夜が「キャラクター」として動き出すのがわかって、なにより作家としての紫式部の息遣いが聴こえてきます。この息遣いを覚えておくことこそが、あの大著を完走するほとんど唯一の方法なのだと思うのです。

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 そして日本文学における古典の代表的な伝道師といったらやっぱり田辺聖子氏であり、田辺氏の一冊をといえばこれ、『文車日記』がお薦めです。
 この本は『萬葉集』から新・旧約聖書(の日本語訳)、額田王から松尾芭蕉まで、田辺氏が好きな作品を好きなように語っていて、しかもその視線、語り口がまったく「やさしくない」ところがいいんですね。恋を語るときはとびきりロマンチックな筆遣いなのに、たとえば清少納言は「石女ではなかったか」と書き、井原西鶴は「屈折の多い、いやな中年男」と書く。少女のようなあどけなさと残酷性が共存していて、このギャップこそが「田辺文学」の真骨頂だといえるでしょう。

 やや駆け足で紹介してきましたが、コロナ禍でわたしたちの世界と日々の生活は、大きく変わってしまいました。しかし、それでも、変わらないものはあるはずです。そうしたものを見つけるのに、不安に追いつかれないために、「古典」は最良の宝箱のひとつだと思うのです。

(たられば 編集者)
波 2021年3月号より

著者プロフィール

阿刀田高

アトウダ・タカシ

1935年、東京生れ。早稲田大学文学部卒。国立国会図書館に司書として勤務しながら執筆活動を続け、1978年『冷蔵庫より愛をこめて』でデビュー。1979年「来訪者」で日本推理作家協会賞、短編集『ナポレオン狂』で直木賞、1995年『新トロイア物語』で吉川英治文学賞を受賞した。短編小説、古典教養入門書、エッセイの名手として知られ、他の著書に『花あらし』『闇彦』『ローマへ行こう』『地下水路の夜』『ギリシア神話を知っていますか』『シェイクスピアを楽しむために』『知的創造の作法』『老いてこそユーモア』など多数。2003年に紫綬褒章、2009年に旭日中綬章を受章。2018年には文化功労者に選出。文化審議会会長や日本ペンクラブ会長、山梨県立図書館名誉館長を務め、妻で朗読家の阿刀田慶子と結成した「朗読21の会」の公演を通じて短編小説の魅力を伝える活動も行っている。

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