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ギンイロノウタ

村田沙耶香/著

605円(税込)

発売日:2013/12/25

  • 文庫
  • 電子書籍あり

少女の顔をした、化け物が目覚める。戦慄の女子小説、誕生! 川上弘美さん、角田光代さん、瀧井朝世さん大注目! 野間文芸新人賞受賞作。

極端に臆病な幼い有里の初恋の相手は、文房具屋で買った銀のステッキだった。アニメの魔法使いみたいに杖をひと振り、押入れの暗闇に銀の星がきらめき、無数の目玉が少女を秘密の快楽へ誘う。クラスメイトにステッキが汚され、有里が憎しみの化け物と化すまでは……。少女の孤独に巣くう怪物を描く表題作と、殺意と恋愛でつむぐ女子大生の物語「ひかりのあしおと」。衝撃の2編。

  • 受賞
    第31回 野間文芸新人賞
目次
ひかりのあしおと
ギンイロノウタ
解説 藤田香織

書誌情報

読み仮名 ギンイロノウタ
シリーズ名 新潮文庫
発行形態 文庫、電子書籍
判型 新潮文庫
頁数 288ページ
ISBN 978-4-10-125711-2
C-CODE 0193
整理番号 む-17-1
ジャンル 文芸作品
定価 605円
電子書籍 価格 539円
電子書籍 配信開始日 2019/03/01

書評

普通がわからなかった私のための三冊

齋藤明里

 本棚から、新潮文庫はすぐに見つかります。背表紙のふもとに小さく書かれたゴシック体の文字。文庫本なのにスピンがついている高級感。特徴的な上部のギザギザは天アンカットという手間のかかるものだと、YouTubeで本を紹介するお仕事を始めてから知りました。今、私の本棚にあるボロボロの新潮文庫は、学生の頃に出会ったものの証です。
 ただただ本が好きだった学生時代。エンターテイメント性が強い本も、純文学も、近代文学もなんでも、気になったら読んでいました。しかしながら、心に残るのはいつも他者から異常だと言われてしまう人の物語でした。
 例えば、村田沙耶香さんの『ギンイロノウタ』。表題作は、極端に臆病で人と話すことが出来ない少女、有里が、文房具屋で出会った銀の指示棒を魔法少女のステッキに見立てて心の支えとするお話です。子供部屋の押し入れの中で銀のステッキを持てば、満たされていた彼女の世界。ある出来事をきっかけにその世界は破壊され、彼女は次第に狂ってしまいます。

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 私も小さい頃、有里のように自分だけの世界を作りました。うるさい現実を遮断して、大人になればこの訳のわからない息苦しさから解放されると信じ、閉じこもっていました。普通に生きたいだけなのに、周りからおかしいと言われる。何も出来ないと決めつける親にも、他の生徒と足並みを揃えさせようとする教師にも苛立ち、黒い感情が爆発しそうになる。周囲と自分のギャップに悩む有里の心を覗いていると、自分の感情を初めて言語化してもらえた気がしました。こんな薄暗い感情が自分にもあったのかと驚きながらも、苦しかったのは私だけではないのだと、気持ちが楽になったのです。
 嶽本野ばらさんの『ロリヰタ。』を読んだ時も心がぎゅっと鷲掴みされました。ロリータ・ファッションを愛する作家の「僕」と、美少女モデルのピュアな愛の物語。乙女のカリスマと呼ばれる作家の恋愛は、事実と異なるスキャンダラスな報道によってめちゃくちゃになり、2人は引き裂かれてしまいます。彼らの恋には、嫌悪感を抱く人が多いかもしれません。「絶対に許されない」と思う人もいるでしょう。それでも好きな人との愛を貫こうとする強さに、私は惹かれました。恋も愛もよくわからない時期に読み、『ロリヰタ。』で描かれている強い感情こそが「恋愛」なのだと学んだのです。ラストで綴られるまっすぐな愛のメッセージは、何度読んでも切なくなってしまいます。
 許されざる想いといえば、中村文則さんの『遮光』も衝撃でした。恋人を事故で亡くした男性が、死を受け入れられず、彼女が生きていると嘘をつき続けるお話です。彼は事故でばらばらになった彼女の遺体から、指をこっそり持ちかえり、ホルマリン漬けにして持ち運ぶようになります。この本を初めて読んだ時、彼の行動に驚きました。普通の感覚からすれば、死を受け止めてきちんと弔うことが彼女のため。でも大切な人が亡くなった時、簡単に受け入れられるわけがありません。だから彼がしたことは全く異常ではないのです。彼女への愛が募り続けるなか、嘘をつくことを誰が止められるのか、その愛を誰が否定できるのかと、読むたびに考えてしまいます。人は、こんなにも深く誰かを愛することが出来るのだと胸を揺さぶられました。

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 周りを見ると、みんな上手に生きていていいなっていつも羨んでいました。普通とか当たり前とかがわからなくて、人との付き合い方も苦手で、そのくせ自分の生き方は曲げたくない。私はとても不器用だなと感じていました。だけど小説のなかには、不器用でわがままで、必死に自分を生きようとする人がいる。私は彼らに救われ、もっと頑張って生きなければと思えたのです。
 久しぶりに読み返した新潮文庫は私の手に馴染み、出会った時を思い出させてくれました。そしてまたいつでも読み返せるように私はしっかり本棚に差し直しました。

(さいとう・あかり 女優/読書系YouTube「ほんタメ」MC)
波 2023年10月号より

著者プロフィール

村田沙耶香

ムラタ・サヤカ

1979(昭和54)年千葉県生れ。玉川大学文学部芸術文化学科卒。2003(平成15)年「授乳」で群像新人文学賞(小説部門・優秀作)受賞。2009年『ギンイロノウタ』で野間文芸新人賞、2013年『しろいろの街の、その骨の体温の』で三島賞、2016年「コンビニ人間」で芥川賞受賞。著書に『マウス』『星が吸う水』『ハコブネ』『タダイマトビラ』『殺人出産』『消滅世界』『生命式』『変半身』『丸の内魔法少女ミラクリーナ』などがある。

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