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遮光

中村文則/著

506円(税込)

発売日:2011/01/01

書誌情報

読み仮名 シャコウ
シリーズ名 新潮文庫
発行形態 文庫
判型 新潮文庫
ISBN 978-4-10-128953-3
C-CODE 0193
整理番号 な-56-3
ジャンル 文芸作品、文学賞受賞作家
定価 506円

黒ビニールに包まれた謎の瓶、それが私のすべてだった。純愛か、狂気か? 極限の愛を謳う衝撃の物語。野間文芸新人賞受賞。

恋人の美紀の事故死を周囲に隠しながら、彼女は今でも生きていると、その幸福を語り続ける男。彼の手元には、黒いビニールに包まれた謎の瓶があった──。それは純愛か、狂気か。喪失感と行き場のない怒りに覆われた青春を、悲しみに抵抗する「虚言癖」の青年のうちに描き、圧倒的な衝撃と賞賛を集めた野間文芸新人賞受賞作。若き芥川賞・大江健三郎賞受賞作家の初期決定的代表作。

  • 受賞
    第26回 野間文芸新人賞
目次
遮光
あとがき
文庫解説にかえて 『遮光』について 中村文則

書評

書き残された自意識

佐久間由衣

 自分の家の本棚にも、図書館や本屋さんにある“本の検索機”があればいいのに……と、本のお仕事で自宅の本棚をひっくり返すたびに、思う。といっても、そんなに大袈裟に大量な本があるわけでもないし、家を訪ねて来てくれた友達の鞄に、こっそり本を入れる悪趣味のお陰で“適量”を保てている気がする。そんなこんなで「この本もう一度読んでみよう」から何時間、そして何日間もひっくり返したままの本が散らばっている状態。意外に悪くない。

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 そんな私が文学を好きになったのは、十八歳か十九歳で読んだ『パンドラの匣』という作品集に入っている「正義と微笑」との出会いがきっかけだった。
 人間が生まれて初めて会話する相手は、テレビの中のキャラクターでも、母親でもなく、“自意識”ではないのか。そんな風に感じてしまうタイプの人間は、最後にお別れを告げる相手さえも、自意識なのではないか。と思うと、謎に震え上がる。己への永遠の問いかけに、それを破壊しようとするエネルギーで生かされている気もする。
 日記というものは、私自身、ずっと末恐ろしかった。ただただそれと向き合わなければならない。真正面で、目まで合った状態で。
 この小説は、そんな面倒臭い私が初めて出会った日記形式の小説で、本屋さんで少しの高揚と興味本位で、立ったまま一ページ目をめくったその時、「人間は、十六歳と二十歳までの間にその人格がつくられる」と言う平たい文字。私の目にはそこだけが大きく映った。当時その年齢の渦中だった私には、自分の悩みの種に、太宰の文章は栄養を与えて、それはどんどん成長し、芽が出て花までさかす勢いだった。
 物語の行く先に明るさを感じる事が、太宰の小説の中では珍しいと知るのは、そのすぐ後の事だった。
 太宰好きな人が「出会った」ではなく「出会ってしまった」と言う言葉をよく使う気がするが、その気持ちが「分かってしまった」気がした。
 呪いをかけられた。その呪い、私は未だに解けていない。はぁ。

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 私は料理が好きだ。家事も好きだし、手先を動かす仕事が大好きだ。一般的にはそういった女性は、“穏やかで家庭的な女性”そういうカテゴリーに当てはめられるのであろう。私自身も何回かそういう言葉を言われてきたが、褒め言葉としてその度に笑顔で返してきた。
 けれど、どうだろう。家事ほどエネルギーが必要で、料理ほどエゴイズムが強いものはないのではないか。
 そんな事を気づかされた『BUTTER』。私はこの高カロリーな小説を読んでいる間、ずっと具合が悪かった。
 似たような経験を思い出す。
「本が好きだから、大人しくて内向的で言葉が綺麗なんですね」
と言っていただくことも多いけれど、
「本が好きな人はドロドロしていて、凄くアクティブで探究心の塊だと思う」
といつも私は心の中で呟いて、少し寂しくなるのだった。
 身体を洗っても洗っても、落ちない汚れがある。それは、日々蓄積されているようで、すり減っていく。気持ちとは裏腹に、“空っぽ”はどんどん空っぽという言葉が似合っていく。問題なのは、そこに気が付いているってことだ。気が付いているのに、どうしたらいいかわからないってところに問題があるんだと思う。
 気が付いていなければ、気が付いていないというところが問題だけれど、気が付いているのに分からないって事の方が長い人生でもっともっと辛いんだ。

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 皆、自分にかけてあげる言葉を探している。そんなことを考えていた時期に、『遮光』に出会った。
 確かにこの登場人物の精神状態は異常だし、果てしなく逃げ場も隙もない暗い小説ではあるけれど、中村文則さんの小説は、どんなに暗い小説でも、それを産み落とした最強ポジティブなエネルギー(私はそう呼んでいる)が、その暗さに負けない力でいつも存在してると思う。私はいつもそのエネルギーに感銘を受ける。そして文学にいつも救われている。だから、小説が好きなんだと思う。そして憧れるんだと思う。

(さくま・ゆい 俳優)
波 2021年5月号より

著者プロフィール

中村文則

ナカムラ・フミノリ

1977(昭和52)年、愛知県生れ。福島大学卒業。2002(平成14)年、「銃」で新潮新人賞を受賞してデビュー。2004年、「遮光」で野間文芸新人賞、2005年、「土の中の子供」で芥川賞、2010年、『掏摸(スリ)』で大江健三郎賞を受賞。同作の英語版『The Thief』はウォール・ストリート・ジャーナル紙で「Best Fiction of 2012」の10作品に選ばれた。2014年、日本人で初めて米文学賞「David L. Goodis 賞」を受賞。他の著作に『悪意の手記』『最後の命』『何もかも憂鬱な夜に』『世界の果て』『悪と仮面のルール』『王国』『迷宮』『惑いの森』『去年の冬、きみと別れ』『A』『教団X』がある。

小説家 中村文則公式サイト (外部リンク)

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