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脳には妙なクセがある

池谷裕二/著

825円(税込)

発売日:2018/01/27

  • 文庫

IQに左右されブランドに拘り、フェロモンに惹かれる……人間的な本性に迫る脳科学!

コミュニケーション最強の武器となる笑顔は、“楽しい”を表すのではなく、笑顔を作ると楽しくなるという逆因果。脳は身体行動に感情を後づけしているのだ。姿勢を正せば自信が持てるのもその一例。背筋を伸ばして書いた内容のほうが、背中を丸めて書いたものよりも確信度が高いという――。とても人間的な脳の本性の「クセ」を理解し、快適に生きるため、気鋭の脳研究者が解説する最新知見!

目次
はじめに
(1)脳は妙にIQに左右される
脳が大きい人は頭がいい⁉
脳は大きければ大きいほど知的か?/IQが120を超える図抜けた脳のヒミツ/運動が得意な生徒ほど、勉強の成績もよい?/脳の衰えを錯覚する理由
(2)脳は妙に自分が好き
他人の不幸は蜜の味
不安の脳回路が活性化するとき/他人の不幸を気持ちよく感じてしまう脳/脳は自分を「できる奴」だと思い込んでいる/クセになる快感を生む場所/弱気な社長はあまりいない/「プライド」と「pride」の違い/「誇り」と「喜び」とは別の感情である
(3)脳は妙に信用する
脳はどのように「信頼度」を判定するのか?
幸せな気分に浸っているときこそ要注意/脳はどのように信頼度を判定するか/「ざまを見ろ」に至るプロセス/整理整頓の極意は「使えるものは捨てる」/「もったいない」はどこから生まれてくるか/「痛そうな写真」を見るとどうなるか
(4)脳は妙に運まかせ
「今日はツイテる!」は思い込みではなかった!
人差し指が短い人は株で儲ける⁉/巨万の富を稼ぐトレーダーには男性ホルモンの影響が/運勢はいつ決まるのか/決断能力を調べる「最後通牒ゲーム」/社会通念や思い込みといった信念も「真実」を生み出す/脳科学の発見は哲学を超えるか?/新たな技術革新を恐れない
(5)脳は妙に知ったかぶる
「○○しておけばよかった」という「後知恵バイアス」とは?
それほど「やっぱり」ではない/避けようにも避けられない「後知恵バイアス」の不思議/所持効果という奇妙な現象/損するとわかっていても宝くじを買ってしまう/動揺するとどうなるか
(6)脳は妙にブランドにこだわる
オーラ、ムード、カリスマ……見えざる力に動いてしまう理由
有機栽培というブランド/音楽評論家たちを困惑させたリパッティ事件/脳はブランドに反応する⁉/苦労して稼いだ10万円、宝くじで当たった10万円
(7)脳は妙に自己満足する
「行きつけの店」しか通わない理由
脳は感情を変更して解決する/サルにも自己矛盾を回避する心理がある/レタスか新キャベツ、どちらを買うか/思いきって冒険脳を開放しよう/用意されていた絶対価値を推量する回路
(8)脳は妙に恋し愛する
「愛の力」で脳の反応もモチベーションも上がる⁉
意中の人の左側に座る「シュードネグレクト」効果/鳥にも左側重視の傾向がある/恋をすると脳の処理能力が上がる⁉/母親の経験は子どもに遺伝する⁉/よい環境に恵まれた生活がなぜ大切か
(9)脳は妙にゲームにはまる
ヒトはとりわけ「映像的説明」に弱い生き物である
脳トレは本当に有効か?/ワーキングメモリを向上させるトレーニング/脳研究と心理学、哲学にあった溝を狭めたMRI/いかにも本当らしい説明を信じる/プレゼンの決め手!
(10)脳は妙に人目を気にする
なぜか自己犠牲的な行動を取るようにプログラムされている
人前でオナラをしないのはなぜか?/協調性のあるサカナ/なぜ私たちは人の物を盗まないのか?/自己犠牲の清き(?)精神/協力か逃亡か――「ジレンマゲーム」/罰はなぜ存在するのか/「泣いて馬謖を斬る 」という二律背反の葛藤/無根拠に歪んだ、人間らしさ
(11)脳は妙に笑顔を作る
「まずは形から」で幸福になれる⁉
コミュニケーションの最強の武器とは/笑顔を作るから楽しいという逆因果/ボトックスの意外な効果/ヒトはなぜ笑うのか/姿勢を正せば自信が持てる⁉/日本語は気合いで、英語は身体で元気を出す/甘い記憶、苦い思い出/ダーウィンが指摘した表情の先天性
(12)脳は妙にフェロモンにかれる
汗で「不安」も「性的メッセージ」も伝わる⁉
汗を介して不安が他人に伝わる⁉/セクシー・フェロモンは実在するか?/性的妄想は女性にバレている⁉/香りの刺激は直接脳に届く/コーヒー豆の香りを嗅ぐと、どうなるか/1000年以上にわたるコーヒーの芳香の秘密
(13)脳は妙に勉強法にこだわる
「入力」よりも「出力」を重視!
もっとも効果的な勉強法とは?/記憶力向上効果のある「カロリス」とは?/ビル・ゲイツが惚れ込んだ「センスキャム」
(14)脳は妙に赤色に魅了される
相手をひるませ、優位に立つセコい色?
アイスコーヒーよりホットコーヒーに親近感/スポーツの成績は赤色で勝率が高まる⁉/パソコンのモニター枠を赤色にすると仕事の能率が低下する/「勉強部屋に赤色系のカーテンは厳禁」の信憑性
(15)脳は妙に聞き分けがよい
音楽と空間能力の意外な関係
「RとL」、発音下手の理由/新生児は母国語と外国語を聞き分けている/怖いくらい通じるカタカナ英語のすすめ/音痴の人は空間処理能力が低い⁉/オーケストラ楽団員たちの空間能力
(16)脳は妙に幸せになる
歳をとると、より幸せを感じるようになる!
幸福感は年齢とともにどう変化するか?/年齢とともに変化するネガティブバイアス/悪しき感情が減っていく
(17)脳は妙に酒が好き
「嗜好癖」は本人のあずかり知らぬところで形成されている
ウィスキーは二日酔いがひどい⁉/アルコール摂取時の脳内メカニズム/なぜ酒を飲んだとき「でっかくなった気分」になるのか?/アル中の親からアル中の子が生まれる/「ただなんとなく」……の裏側
(18)脳は妙に食にこだわる
脳によい食べ物は何か?
ビタミン剤を飲むと犯罪が減る⁉/胃腸の具合が脳の状態とリンクしている⁉/健全な精神は健康な胃腸に宿る/脳のパフォーマンスを向上させる「ドコサヘキサエン酸(DHA)」/脳によい・わるい、12の栄養素、最新リスト
(19)脳は妙に議論好き
「気合い」や「根性」は古くさい大和魂?
問題解決には議論し合うほうがよい?/効果的なリーダーシップとは/本番で実力を発揮するには?/脳科学にみる「気合い」「根性」の有用性
(20)脳は妙におしゃべり
「メタファー(喩え表現)」が会話の主導権を変える
ヒトはネアンデルタール人と交配してきた⁉/血統書付き現代人/人種差別はなぜ、なくならないのか/「奇跡の遺伝子」が生み出したものとは/言語に秘められた二つの役割/「目覚まし時計は拷問だ」というレトリック/メタファー(喩え表現)を利用する/ジョークを楽しんでいるときの脳
(21)脳は妙に直感する
脳はなぜか「数値」を直感するのが苦手
無意識の自分はなかなかできる奴である/「ひらめき」と「直感」の違いとは?/論理的思考と推論的思考/「直感がアテにならない」というレアケース/ヒトの脳の弱味とは
(22)脳は妙に不自由が心地よい
ヒトは自分のことを自分では決して知りえない
80%以上はおきまりの習慣に従っている/自由意志は脳から生まれない/自分の力で決定したつもり/無意識の自分こそが真の姿である/“脳の正しい反射”をもたらすものとは/そもそも脳にとって自由とは何か/意識に現れる「自由な心」はよくできた幻覚/どの脳部位が何を担当しているかを示す脳地図/「自己認識された自分」と「他者から見た自分」
(23)脳は妙に眠たがる
「睡眠の成績」も肝心!
睡眠時間が短いことは自慢にならない/短眠タイプの遺伝子/怠惰思考のすすめ/就寝前は記憶のゴールデンアワー/「地道な努力型」か「要領よく一夜漬け型」か?/睡眠中は記憶の整理と定着が交互に行われている/バラの香りで記憶力がアップ⁉
(24)脳は妙にオカルトする
幽体離脱と「俯瞰力」の摩訶不思議な関係
生命倫理を揺るがす人造生物の誕生/「神」の脳回路を刺激したら何が起こるか?/神を科学で解剖することは冒涜か?/催眠術にかかりやすい人、まったくかからない人/催眠は、いわば人工認知症/「自分」という存在とは?/幽体離脱の脳回路とは?
(25)脳は妙に瞑想めいそうする
「夢が叶った」のはどうしてか?
瞑想と脳の親密な関係/集中することはよいことか?/「20分の瞑想を5日間」でどう変化するか/体の動きと「未来イメージ」との妙な関係/「老ける」とは夢を持てなくなること?
(26)脳は妙に使い回す
やり始めるとやる気が出る
「身体が痛むとき」と「心が痛むとき」/ヒトの思考はどこから派生しているか/「心」は脳回路における身体性の省略/すでにあるシステムをリサイクルする脳/脳は何のために存在するのか?/脳に言語が生まれたのは、いつ?/心はどこにあるのか/ヒトの心がどれほど身体や環境に支配されているか/何事も始めたら半分は終了⁉/身体運動を伴うとニューロンが10倍強く活動する
おわりに
文庫化に寄せて
参考文献一覧
索引

書誌情報

読み仮名 ノウニハミョウナクセガアル
シリーズ名 新潮文庫
装幀 寄藤文平/カバー装幀
発行形態 文庫
判型 新潮文庫
頁数 432ページ
ISBN 978-4-10-132924-6
C-CODE 0195
整理番号 い-101-5
ジャンル 心理学
定価 825円

書評

野生動物医学にも脳科学の視点を!

齊藤慶輔

 私は獣医師である。毎日、動物の命と向き合って暮らしているが、診療の対象にしているのは、犬や猫でも、牛や馬でもない。ワシやフクロウなどの猛禽類、しかも野生だ。様々な原因で傷ついた絶滅の危機に瀕する猛禽類を治療し、再び野生に帰すことを生業にして、この春で四半世紀となる。私が専門にしているのは保全医学。人間と動物の健康、さらには生態系の健康に関わる領域を連携させることを目的に、獣医学や医学の観点から生物多様性の保全を目指す比較的新しい学域だ。
 獣医師だから、薬理学や生理・解剖学を履修したし、今も仕事で応用しているけれども、動物がどのような脳の動態で行動し、生活を営んでいるかなど、気にかけたこともなかった。ましてや、生命活動の中枢であるはずの脳ですら、時として随意にコントロールすることができない“クセ”があることなど、獣医学と生態学の知識を基に動物の疾患や行動のコントロールを試みてきた私にとってまさに青天の霹靂。脳の生態を知り、直接働きかける、という新しい視点を教えてくれたのは、縁あって巡り会ったこの1冊だった。
 最初、『脳には妙なクセがある』とはなんとも不思議なタイトルだと思った。私にとって、脳は、肝臓や腎臓、消化管などと同様に生物種の生活形態に順応するよう高度に分化した器官であり、個体のようにクセを持つ対象とは考えていなかったからだろう。一方で、相手のクセを理解し、これを念頭に置きながら上手に付き合うことによって、より効果的に目標を達成できることを臨床の現場でも体験している。例えば、猛禽類に錠剤を経口投与する場合、「消化困難な固形物を日常的に吐き出す」という彼らのクセ(生理現象)を知っているからこそ、投与経路を注射にしたり、可能な限り身体に未消化物と認識させないよう細粒を餌に混ぜて経口投与しているのだ。脳のクセを把握することは、もしかしたら獣医療において役立つヒントに繋がるかも知れないと、獣医師の視点に立って本書を読み進めてみた。
 文中に登場する脳の持ち主は、基本的にヒト、すなわち私達人間である。本書はこれを俯瞰的に学術評価した興味深い論文の要約とともに、実社会や日常生活での具体例を様々な視点から紹介している脳の仕様書、解説書だ。
 全編を通して見出しと小見出しによって内容が整理され、読みやすい。様々な実験によって解き明かされてゆく脳の姿は衝撃的だ。自分の感情や思考までもが、潜在的に脳にプログラムされたアルゴリズムによって半ば無意識のうちに制御されているらしいとの報告は、自分とは何なのか、心とは何なのかを、ページをめくりながら繰り返し自問することにつながった。脳との付き合い方は、車のエンジンに似ているかも知れない。クセ(特性)が頭に入っていると、扱い方を工夫して最高の性能を発揮させることができるのだ。また、脳のクセを知ることによって、自分自身はもちろん、他人(の脳)をも意図的にコントロールする事ができるのではないか? さらには、脳のクセを掌握し、人間の行動や心理との関連性が完全に解明された場合、(無論、倫理的に許されないと思うが)薬物などを使って脳の特定部位を計算通りコントロールして、目的に応じた人間を作り上げることすら可能となるのではないか? 妄想は膨らみ、映画に登場するような冷酷無慈悲な殺人兵器や癒し技術の高い介護士、相手に気づかれず顧客の購買欲を操れる営業担当者などを思い浮かべて楽しんだ。
 集中力についての一節では、私が日頃体感しているものとは違った解釈がなされ、興味深かった。本書では『野生の動物たちは、一点集中を避け、むしろ、意識を周囲に分散させながら外敵に注意する「分散力」を必要とします。だから、集中しないようにする“非集中力”を発達させてきたわけですし、その能力に長けた動物たちが生き残ってきているわけです。』とある。動物種によって異なると思われるが、少なくとも私が専門にしている猛禽類に関しては、集中するときは驚異的に集中する。例えば、採餌という数少ないチャンスを確度高く成功させるためには、凄まじい集中力をみせるのだ。非集中力に代わる外敵への対応として、重要なことに集中しながらも、そのバックグラウンドである種の常駐ソフトが働き、無意識に「優秀な警備員」のように警戒しているのではないか。視覚や聴覚などの情報を脳内で整理し、あるものを餌として認識しつつ、同時に得られた情報から危険信号を弁別し、忌避や攻撃に繋げていると思われるのだ。
 自分が関心を持っている事柄に対する異分野の専門家による見解や報告は、それまで全く気が付かなかった視点や考え方を教えてくれる貴重な情報源だ。私はこれまで、人間活動が動物にもたらす事故や疾病にはそれに至る原因が必ずあると考え、獣医学のみならず生態や生息環境の面からこれを解明し、再発の防止に取り組んできた。しかしながら、動物の脳が何に対してどのように反応するかなど考えたこともなく、新たな着眼点が増えたように感じる。
 ともあれ、本書を読み終えた私の脳は、新たな情報に満ち溢れ、興奮状態にある。その感想を一言で表すのなら、脳ってすごい! に尽きる。

(さいとう・けいすけ 野生動物専門獣医師)
波 2018年2月号より

著者プロフィール

池谷裕二

イケガヤ・ユウジ

1970(昭和45)年、静岡県生れ。脳研究者。東京大学薬学部教授。薬学博士。神経科学および薬理学を専門とし、海馬や大脳皮質の可塑性を研究。著書に、『海馬』(糸井重里氏との共著)『脳はこんなに悩ましい』(中村うさぎ氏との共著)『受験脳の作り方』『脳はなにかと言い訳する』『脳には妙なクセがある』など。

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