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たとえ理想とは違っていても、今の自分も愛おしい。背中をそっと押してくれる優しい物語。

遠すぎた輝き、今ここを照らす光

平山瑞穂/著

637円(税込)

本の仕様

発売日:2015/05/01

読み仮名 トオスギタカガヤキイマココヲテラスヒカリ
シリーズ名 新潮文庫
発行形態 文庫、電子書籍
判型 新潮文庫
ISBN 978-4-10-135484-2
C-CODE 0193
整理番号 ひ-27-4
ジャンル 文芸作品
定価 637円
電子書籍 価格 702円
電子書籍 配信開始日 2015/10/30

月刊誌記者として働く小坂井夏輝、31歳。取材先で中学の同級生・瀧光平と再会する。かつて周囲を見下していた瀧を夏輝は疎んじ、片や誰彼なく優しくする夏輝を瀧は偽善者と嫌っていた。だが次第に夏輝は瀧が抱える痛みを、瀧は夏輝の葛藤を知るようになる。過去を受け止め、前を向いて歩くために、二人はある行動に出る。逃げたくなる自分の背中をそっと押してくれる、優しい物語。

著者プロフィール

平山瑞穂 ヒラヤマ・ミズホ

1968(昭和43)年東京生れ。立教大学社会学部卒業。2004(平成16)年『ラス・マンチャス通信』で、「日本ファンタジーノベル大賞」の大賞を受賞し、デビュー。著作はその他に、『忘れないと誓ったぼくがいた』『あの日の僕らにさよなら』『プロトコル』『全世界のデボラ』『マザー』『遠い夏、ぼくらは見ていた』『出ヤマト記』『夜明け前と彼女は知らない』『僕の心の埋まらない空洞』『彫千代』『遠すぎた輝き、今ここを照らす光』、糖尿病体験に基づく小説『シュガーな俺』などがある。

平山瑞穂の白いシミ通信 (外部リンク)

書評

最悪な再会の意外な効能

瀧井朝世

 2004年にダークでマジカルな成長小説『ラス・マンチャス通信』で日本ファンタジーノベル大賞を受賞しデビューを果たした平山瑞穂氏は、実に多様な作品を生み出す作家だ。最近映画化されたSF的な設定で描かれる切ない青春恋愛小説『忘れないと誓ったぼくがいた』、生真面目すぎる女性会社員の一人称の文体がユーモラスで愛らしい『プロトコル』、伝説の彫り師を登場させた歴史エンタテインメント『彫千代』等々、新作を出すたびに読み手をワクワクさせてくれる。
 文庫化の際に改題しロングセラーとなったのは『あの日の僕らにさよなら』。これは青春時代のイタイ思い出に向き合う男女の成長物語で、新作『遠すぎた輝き、今ここを照らす光』はその系譜にある作品といえる。
 編集者の小坂井夏輝は31歳、文芸編集を希望して出版社に就職、念願の部署に配属されていたが、今はビジネス誌に異動となっている。正論をふりかざす真っ直ぐすぎる性格が災いして、大物作家を怒らせたのが原因の模様。そんな彼女が病欠の同僚に代わり、急きょ石膏像の制作工房に取材に行くことになる。そのオンボロ工房には年配の社長と若手の職人の2人しかおらず、夏輝とその職人、瀧光平は互いの名前を確認して驚く。2人は中学生の頃の同級生だったのだ。しかも、互いにとって、相手は苦い記憶しか呼びさまさない、できればいちばん再会したくない相手だったのである。
 物語は2人の視点を交互に、再会してからの現在と、中学生の頃の苦い思い出、そして現在に至るまでそれぞれの歩んだ道が語られていく。中学生時代、孤高を気取っていつも1人で行動していた光平は、“正しいこと”ばかり口にして実行しようとする夏輝の態度を、単なるポーズだろうと決めつけて冷ややかな目で見ていた。そんな光平の、周囲を見下した目線を感じて居心地の悪い思いをしていた夏輝。誰とでも親しく“せねばならない”と思い込んでいた彼女は、彼と仲良くしようと接近して撥ねのけられ、傷ついたことがある。
 その後、光平はアーティストを目指すが挫折して無職状態から現在の仕事に辿りついた。夏輝は同業者と結婚したものの離婚、しかしそのことは後悔していない。2人とも望み通りの人生を歩んできたわけではないが、だからといって、今いる場所が決して不満だというわけではない。光平は石膏像を作る仕事と誠実に向き合っているし、夏輝だってビジネス誌の仕事に満足してはいないが、プロとしてきちんと作業をこなしている。30歳を過ぎた今、2人とも万能感に満ちていた中学生時代とは違い、挫折を味わい、多少は自分の短所も人の痛みも分かる年になっている。しかし充分大人といえる年齢になった今も、再会した2人はまた衝突してしまう。やはり相変わらず、互いにとって相手はコンプレックスを刺激する存在なのだ。しかも真っ直ぐすぎる夏輝と、斜に構える癖のある光平という、正反対の性格の2人である。互いにイタイところを突きまくり、さらに卑屈になってしまう彼らの会話の生々しいこと! ついムキになって自分の理屈を相手に押し付け、失敗して後悔に苛まれる姿は、滑稽であると同時に身につまされるものがある。
 ただ、そんな“仇”と再会したからこそ、2人は自分の性格を、自分の来し方をきちんと見つめ直すことになる。なりたい自分になろうとあがいていた思春期の空回りを、家族をはじめ周囲との関係性を、仕事との向き合い方を、再確認していくのだ。それはちょっぴり辛い作業でもある。でもこの正反対の2人に共通する美点は、自分のダメな部分を、素直に認めようとする点だ。それはもともとの気質というよりは、三十路を過ぎて、酸いも甘いも経験して、今いる場所で生きていく覚悟があるからこそ、できることだ。
 以前別の原稿にも書いたが、著者にとって記憶は重要なモチーフだと思われる。先述の『あの日の僕らにさよなら』も、思春期の負の遺産からどう卒業するかが大きなテーマとなっていた。本作の彼らは思春期を引きずっているわけではないが、それでも、心のどこかにずっとひっかかってきた記憶と改めて向き合うことにより、彼らのなかでほのかな精神的な変化が生まれていく。大げさにいえば、歴史を振り返ることで現在と未来を見据えていくのである。その過程を丁寧に描き出した本作は、自分と折り合いをつけて生きている大人たちへ向けた成長小説だといえる。きっと、我が身を振り返り、今を頑張る自分のことをちょっぴり好きになれる読者は多いはず。読後は、ほんのり甘い。

(たきい・あさよ ライター)
波 2015年5月号より

目次

第一章 不都合な再会
第二章 不具合な二人
第三章 不可解な磁力

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