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トヨタ物語

野地秩嘉/著

990円(税込)

発売日:2021/11/27

  • 文庫
  • 電子書籍あり

今日やっている仕事を疑い、明日のために工夫を凝らすシステム。それがトヨタ生産方式だ。

同じような部品や機械を使っても、できあがった自動車の性能はまったく違うものになる。その違いを生むのは生産方式だ。「ジャスト・イン・タイム」「かんばん方式」――トヨタ自動車は「トヨタ生産方式(TPS)」に則り優れた自動車を作り続けてきた。「日本人が作った車で生活が豊かになる」と夢見た三河の自動織機会社が世界のトヨタになるまで。TPSの最深部を描き切った巨編ノンフィクション。

目次
プロローグ ケンタッキーの名物
第1章 自動車会社ができるまで
第2章 戦争中のトヨタ
第3章 敗戦からのスタート
第4章 改革の始まり
第5章 倒産寸前
第6章 トヨタ生産方式の進展
第7章 意識の改革
第8章 クラウン発売
第9章 7つのムダ
第10章 カローラの年
第11章 規制とショックと
第12章 誤解と評価と
第13章 アメリカ進出
第14章 現地生産
第15章 リアリストたち
第16章 トラックに乗り込んだ男
第17章 21世紀のトヨタ生産方式
第18章 未来
エピローグ 誇り
あとがき
文庫版あとがき
解説 千住博

書誌情報

読み仮名 トヨタモノガタリ
シリーズ名 新潮文庫
装幀 Getty Images/Photo、新潮社装幀室/デザイン
発行形態 文庫、電子書籍
判型 新潮文庫
頁数 592ページ
ISBN 978-4-10-136255-7
C-CODE 0195
整理番号 の-13-5
ジャンル 文学・評論
定価 990円
電子書籍 価格 990円
電子書籍 配信開始日 2021/11/27

書評

僕はまだまだ甘かった。

柳井正

 トヨタ自動車工業の副社長だった大野耐一さんが書かれた『トヨタ生産方式―脱規模の経営をめざして』を拝読したことがあります。熟読しましたが、何が書いてあるのか、トヨタ生産方式(TPS)とは何なのか、さっぱりわかりませんでした。今回『トヨタ物語』を拝読して納得。大野さんご自身が〈俺の本を読んでもわからないのは当たり前だ。中身がわからないように書いてある〉とおっしゃっているのですから。つまりTPSは本を読んだだけではわからないということです。
 本書もまたTPSを解説する本ではありません。ここに書かれているのはトヨタの本質です。この会社は本気です。自分たちの今の成功が明日の失敗になるとわかっている。だからこそ昨日と同じことをやっていてはいけないのだと肝に銘じています。徹底した認識と実行こそが企業の明日を作る。それがトヨタの本質です。
 厳しい人たちです。トヨタの創業者・豊田喜一郎さん、大野耐一さん、本当に厳しい。僕はまだまだ自分が甘いと気付きました。これからはもっと自分にも社員にも厳しく経営していきます。僕は頑張りが足りませんでした。
 本書を拝読して気付きましたが、経営と経営学は別物です。トヨタがやっていることは、経営。経営とは企業のありかたそのもので、そして彼らは常に変わろうとしている。経営は維持ではありません。変化であり、成長です。
 ユニクロも日々、どう変わっていくべきかを考えています。自分の企業だけではなく、社会までをも変えていくような商品、サービスを作る。それが心意気であり、使命です。トヨタがすごいのは、あれだけの大企業になってもまだその気持ちを持ち続けていることでしょう。
 生産でも販売でも、現場には文字にできない重要なことがいくつもあります。働く人間の意識、心構え、チームワーク。そういったものは文字にすることができないし、録画してもわからない。指導者が現場に行ってやって見せて、そして自分の言葉で伝えなければならない。大野さんはそうやってTPSを伝えたのでしょうね。
 ただしそれだけでは足りません。現場をよく見なければならないのです。本書は現場をよく見た上で書かれていると思います。しかし、よく見ている人は実は意外と少ない。
 僕は現場に行ったら働く人をよく見ます。表情、顔色、作業の中でやりにくいところはないかを見て、話をして、改善する。経営者がやるべきことは労働環境をよくして現場のストレスをなくすことだけ。そうしなければ良い製品はできません。
 本書にあった印象的なエピソードですが、トヨタのケンタッキー工場の従業員が、2009年から始まったリコール問題で、豊田章男社長が窮地に立っているのを看過できず、進んでワシントンまで公聴会を見に行きました。アメリカの従業員がここまでやるなんて、普通ありえません。結局、豊田喜一郎さんという創業者が立派なのです。「人間は仕事をする上では平等だ」という意識を現場に植え付けていたのでしょう。世界で成功するには現場の平等を忘れてはいけません。
 ユニクロも世界進出をしました。「グローバルワン 全員経営」と言っています。最初は地域の事情がわからずに売れない色の商品を作ったり、大きなサイズばかりを作ったりして売れ残してしまいました。しかし日本から派遣した店長たちがグローバル化とローカライズのバランスをうまくとって経営をし、結果を出すことができるようになってきました。今、中国、韓国ではユニクロがナンバーワンショップになりました。地元の店よりもユニクロのほうがはるかに多い。これをさらに進めていくつもりですし、そのために僕らもトヨタと同じように、現場の平等を強烈に意識しています。ですから中国と韓国だけではなくアメリカでも東南アジアでもヨーロッパでもナンバーワンになれるでしょう。
 本書では「ジャスト・イン・タイム」つまり無駄な在庫は持たないトヨタの経営について触れています。我々の業界は在庫で潰れます。僕は仕事を始めたころから在庫の存在が負担でしたし、嫌でした。売れないから在庫が残る。それでマークダウンして在庫を処分する。既に損です。在庫の処分ばかりしていたら今度は正規の価格の商品が売れなくなる。そうこうしているうちに、会社は立ちいかなくなる――。
 売れない商品を作ることは罪悪に等しい。価値のある商品を作る、それがテーマでした。今やっと会社の体質が強化され、データを蓄積し、情報の使いこなし方がわかってきました。在庫をなくすことは以前から考えていたけれど、やっと実現できるだけの能力が備わってきました。
 僕は「厳しい経営者」と呼ばれています。しかし豊田喜一郎さん、大野耐一さんに比べれば甘い。彼らが持っていた危機感を持たなくてはなりません。トヨタというベンチャー企業の本質は、経営者が危機感を持ち続けたことです。
 大競争時代ですが、ユニクロはトヨタに負けません。僕らは実業の人間ですから、実業で結果を出します。

(やない・ただし 株式会社ファーストリテイリング代表取締役会長兼社長)
波 2021年12月号より

著者プロフィール

野地秩嘉

ノジ・ツネヨシ

1957(昭和32)年、東京生れ。早稲田大学商学部卒。美術展のプロデューサーなどを経て、ノンフィクション作家に。著書に『サービスの達人たち』『サービスの天才たち』『トヨタ物語』『キャンティ物語』『ビートルズを呼んだ男』『芸能ビジネスを創った男』『TOKYOオリンピック物語』『京味物語』などがある。

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