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それでも、あなたは回すのか

紙木織々/著

781円(税込)

発売日:2020/12/01

書誌情報

読み仮名 ソレデモアナタハマワスノカ
シリーズ名 新潮文庫nex
装幀 れおえん/カバー装画、川谷康久(川谷デザイン)/カバーデザイン、川谷デザイン/フォーマットデザイン
発行形態 文庫、電子書籍
判型 新潮文庫
ISBN 978-4-10-180204-6
C-CODE 0193
整理番号 し-88-1
定価 781円
電子書籍 価格 781円
電子書籍 配信開始日 2020/11/30

僕たちは「物語」の歴史の最先端を走ってる。

編集者になりたい。そんな夢を胸に出版社を受けるも、就職活動がまったく上手くいかず、ソーシャルゲーム開発会社に入社することになった友利晴朝。配属されたのは、社内で「サ終(サービス終了)」と呼ばれる赤字チームだった……。ユーザーの声がダイレクトに届く運営現場。課金。ガチャ。そして、炎上。急成長するエンターテインメント業界、その内幕を描く新時代のお仕事小説。

目次
序章 特別になりたいって図々しく思ったって、誰も笑わない
第一章 きみにふさわしい価値を、きみが見つけなくてどうするんだ
第二章 人は皆、自分は不器用に、他人は器用に見えるもの
第三章 魔法の使い方を教えてやる
第四章 私も、あんたも、周回遅れなのよ
第五章 こんな大人には、なりたくないと思っていた
終章 本当は飛び出したいくせに

インタビュー/対談/エッセイ

本気の創作は「悔しい」から始まる

島﨑信長紙木織々

ソーシャルゲーム業界を舞台にしたお仕事小説『それでも、あなたは回すのか』を巡って、創作に対する価値観、ソシャゲの今と未来、ペンネームの由来、さらには奈須きのこ作品への愛と、声優と作家が互いの「大好き」について、縦横無尽に語り合った。

島崎 この作品はソーシャルゲーム業界を題材にした小説ですが、僕は仕事で関わらせていただくことはもちろん、個人としてソーシャルゲームが大好きで、興味を持っているので、とても楽しく読ませていただきました。そうか、こんな風に作っているのか、と。現実の仕事にはもっと細かいこと、大変なことがたくさんあるんだと思いますが、小説として読むことで、ソシャゲ開発がどんな環境で行われて、どういったスケジュールで進行し、そしてどのような雰囲気の職場なのか、という部分が具体的にイメージできた、というか。

紙木 ありがとうございます。『それでも、あなたは回すのか』は、ソーシャルゲーム業界というものをリアルに描く、ということと、ソシャゲをやっていない人が読んでも面白い物語を作る、という点を意識して書いた作品なので、「リアル」の部分を感じていただけるのは、とても嬉しいです。

島崎 読んでいて、いちばん面白かったのは、主人公の友利くん(ハト)の成長ですね。彼が新卒として社会に出て、モノを作るという仕事を始めて、揉まれて、悩んで、苦しんで。その上で、楽しんで、成長していく。その姿を追っていくのがとても楽しかったです。友利くんの社会人としての成長、これはつまり、プロのクリエイターとしての成長でもあると思うんですけど、僕自身と重なる部分も多かったんですよね。実は僕らの仕事、声優という職業も、まず何をしたらいいのかわからない、努力をしたいけど努力の方向がわからない、という壁にぶち当たるところから始まる部分があって。友利くんがたどっていく道、考えていること、そうしたすべてが、たぶんどの分野で社会に出ても共感できる感情で、その彼と一緒に成長していく感覚が好きでした。

紙木 主人公に関しては、執筆を始める前段階のイメージとして、「歩き方を知らない人間」というものが頭の中にありました。正確には、クリエイターとしての歩き方を知らない青年、ですね。そうした主人公が唐突にゲーム制作の現場に放り込まれることで、一歩目の踏み出し方を知り、覚悟を決める物語を書こう、と。

島崎 この作品は最後、「悔しい」で終わるじゃないですか。「やった!」じゃなくて「悔しい」。そこがたまらなくクリエイティブの話だな、と思ったんですよね。「悔しい」は何かを渇望しないと出てこない感情で、しかもその必死さは「ダサい」と言われちゃうこともあると思うんです。「悔しい」じゃなくて「まあ、余裕だし」みたいに構えていた方がかっこいい、とか。

紙木 僕はまだ本気を出していない、というスタンスですよね。

島崎 そう。でも、本気で向き合ったとき、それが叶わなかったり、できなかったら「悔しい」はずなんですよ。だから、一巻かけてやっと本気で向き合えた、始まった、というところにすごく共感できたし、その通りだな、とも感じられて。

紙木 ラストシーンは書き始める前の段階から「こうしたい」という想いがあって、だからあの場面は僕にとって、この作品のすべてなんですよね。その主人公に感情移入して読んでいただけて、本当に嬉しいです。ありがとうございます。

島崎 ソーシャルゲーム業界に興味がある人は当然として、これから社会に出る学生さんにぜひ読んでほしい作品ですよね。この小説を読むと、彼ら彼女らの今後の人生が、より良くなる、あるいは、そのきっかけを与えてくれる、そんな物語だと思います。

紙木と式と織

島崎 ところで、紙木さんのペンネーム、これは奈須きのこさんの作品が由来だったりするんでしょうか。作中で「Fate/Grand Order(FGO)」ならぬ「FDO」が出てきたりしていますし。

紙木 その通りです(笑)。奈須きのこさんの『からの境界』に登場する「両儀式」というキャラクターから。僕の大好きな作品です。

島崎 ああ、やはり(笑)。「式」が「紙木」なんですね。少し突っ込んだ質問になりますが、「織々」が「織」なのも、『空の境界』の設定を意識されていますか?

紙木 はい、意識しています(笑)。凄いですね、全て見破られてしまった。僕は中学生の頃に「CLANNAD」というノベルゲームをプレイして、心から感動して、それで二次創作で小説を書くようになったんです。あの当時は、たくさんのノベルゲームが開発、発売されていて、そうした流れで、奈須さんがシナリオの「Fate/stay night」という作品を知りました。その奈須さんが小説も書かれていると知って、まず『空の境界』を読んだんですが……。

島崎 めちゃくちゃ面白い、と?

紙木 はい、やばい! となって(笑)。

島崎 『空の境界』は何と言えばいいんでしょう、奈須さんの「原文ママ」という感じがしますよね。「これぞ、奈須きのこ!」といったような。

紙木 まさにそうですね。地の文を含めて、すべてが決め台詞といえる作品で、衝撃的でした。小説に関する、原体験の一つです。

島崎 僕と紙木さんは二歳差ですから、ちょうど同じ時期に奈須作品に出会っているんですね。僕は高校生の頃、当時はゲームセンターによく行っていたんですが、そこで格闘ゲームの「MELTY BLOOD」に触れて。それで、家でもプレイしたいと思ってPC版を購入したところ、ストーリーがものすごくしっかりしていて、驚いた。「格闘ゲームじゃないの?」という。そこから他の奈須作品を読んだり、プレイしたりするようになりました。今は「エモい」という言葉があって、それで表現できてしまいますけど、まさにエモさの塊のようなテキストですよね、奈須さんは。

島崎信長

紙木 僕は初めて小説を書いたとき、詩と小説が混ざったような、謎の文章を量産してしまって、誰に読んでもらっても「つまらない」「わからない」となったことがあって、「僕はそんなに下手なのか……」と落ち込んだんです。それで、奈須さんの文章をそのまま書き写す、筆写をしたのですが、そのとき「あ、これは自分で書くものではないぞ」と悟りました(笑)。

島崎 真似ると事故になる(笑)。

紙木 そうです。だから、ペンネームにはいただいているのですが、筆写して以降、僕は奈須さんを真似て文章を書こう、と思ったことは一度もないですね。仮に真似をしても、絶対に奈須さんのようには書けない、出来の悪い二番煎じにしかならない、と気が付いて。その後、奈須さん以外にも、文芸の方の文章をたくさん書き写して、その中で自分の形を構築していきました。

誰も読まない

紙木 ペンネームの由来を抜きにしても、奈須きのこさんという書き手、そして「FGO」という作品は、ソーシャルゲームの歴史の中で本当に大きな存在だと僕は感じています。あれほど「シナリオ」が重視されるソシャゲというのは「FGO」以前にはなかなか表に出てこなかったんですよね。正確には「チェインクロニクル」というタイトルがあって、あくまで僕の認識では、この作品が流れを変えるきっかけ、というか、火を起こした。でも、そのころはまだ、僕が当時いた会社でも「キャラクターものはウケる」という話にはなるんですが、シナリオについては「誰も読まないよ」と言われて、企画はなかなか通らなかった。「ユーザーは限られた時間の中でソシャゲをやるんだから、シナリオを作り込む必要はない」と。そこに「FGO」が出てきて、作り手から見ても、「以前」と「以後」を分けるぐらいの衝撃を与えた。

島崎 声優として関わっている身でいうのもあれですが、「FGO」というゲームがあったお陰で、ソーシャルゲームというコンテンツ自体が一段重くなった、というか、シナリオが重要視されるようになった印象があります。仕事の上でも、世界観やシナリオに特に力を入れた作品が増えたなあ、と。

紙木 ユーザーのクオリティに対する期待もどんどん高まっていますし、これからは今まで以上に、その期待に応える作品が増えてくるんじゃないかな、と思っています。開発期間であったり、費用であったり、クオリティを求めるのは大変なことではあるんですが、ソシャゲ自体が大きく変わってきているな、と。

ガチャという「発明」

島崎 『それでも、あなたは回すのか』は、タイトルも素晴らしいと思うんですが、一方で、これは作品の内容と一〇〇%マッチしているわけではないですよね。物語はガチャを「回す」側の、つまりユーザー側のお話ではなくて、回させる側、制作のお話ですし。でも、引きがあって、魅力的で、いいタイトルで。これはどうやって決まったんですか。

紙木 初校段階の原題は違うものだったんですが、担当編集さんと打ち合わせをする中で、タイトルで「ソーシャルゲーム」のイメージを喚起させたい、という話になったんです。それで、ソシャゲを代表するものは「ガチャ」だろう、と。ソーシャルゲームが爆発的にプレイされるようになった理由、僕は二つあると感じていて、一つがガチャ、もう一つが無料、という点です。それから、問いかける形も意識的にやっています。先ほどの二つの理由は、片方だけでは成立しないんですよね。無料であればたくさんの方がプレイしてくれる反面、それでは売上がたたない。でも、ガチャは確率ですから、どんなにお金をかけても出ないときは出ない。だから、作中でも「本当に、それでも回すだろうか」という問いかけは何度もしていて、ここは僕自身も考えてしまう部分ではあります。

島崎 僕は最初の頃から「僕は回すけど、みんなは自分の楽しめる範囲で、楽しくやってね」と発信するように心がけていました。

紙木 一人のユーザーとしては、誰より僕自身がガチャが大好きなんです。ガチャって回すと楽しいんですよね(笑)。好きなキャラクターを引ければ嬉しいし、どのゲームも演出に凝っていて、鮮やかで。ソーシャルゲームというジャンルは今、文化的に成長している真っただ中なんだと思います。僕は「FGO」のようなビッグタイトルとは全然違う、業界の端っこでプランナーをやっている人間ですが、そんな僕から見ていても、運営もユーザーもだんだんと付き合い方というか、距離感を学んでいるのかな、と。

島崎 作中で言及されていて驚いたんですが、ソーシャルゲームというジャンルが生まれて、大きくなって、それはこの十年ぐらいの話で、でも国内の市場規模としてはもう出版業界と同じぐらい大きいんですね。

紙木 はい、国内で一兆円を超えて、世界では七兆円と言われています。急成長ですね。

島崎 そうした業界にあって、運営さん側もユーザーの懐事情を含めて、いろいろなことを考えて、悩みながら開発をされているんだな、ということが小説から伝わってきました。あとは、KPIの数字が具体的に出てきて、そのあたりのリアルな描写も、面白かったです。

「2」は作れるのか

島崎 続きの話を聞いちゃいますが、物語の終わりでクリエイターとしての自覚を持った友利くんは、今後、どうなっていくんですか。

紙木 第二巻はまだ、構想が固まっていないのですが(笑)、一つ考えているのは「ソーシャルゲームで『2』は出せるのか」ということなんです。

島崎 なるほど、「2」ですか。ソシャゲで「2」が出たことは過去にあるんですか。

紙木 ないです。正確にいえば「2」と銘打っていないながら繋がっている作品はあります。でも、明確な「2」はない、と思います。

島崎 ゲームとしてクライアントが古くなった作品には、どうしたって限界がきますよね。

島崎信長

紙木 「クライアント」という単語がすぐに出てくるところが凄いです(笑)。まさにそうで、「1」の運営が続く中で「2」を作り、その上でユーザーが納得いく形で「1」を終わらせて、ということができるのか、そこに踏み込んでみたいな、と思っています。

島崎 難しいですね。「1」だってユーザーがすぐに離れるわけじゃないですし、そちらに関わり続ける開発の人も出てきますよね。一方で「2」を作るチームも必要で。新しい方に目が行きがちですけど、縁の下で「1」を作り続けている人たちも大事でしょうし。どうなるのかな。

紙木 いま、まさにそこを考えているところで、そうした環境の中で、友利はもう一歩、プランナーとして成長するし、青塚凜子との関係もだんだんと変わっていくのかな、と思っています。今日は作品を深く読み込んでいただけて、しかもペンネームの由来まで看破していただいて(笑)、とても楽しい時間でした。また島崎さんに「面白い」と言っていただけるような第二巻を書けるよう、頑張ります。本当にありがとうございました。

島崎 世代的にも近くて、好きな作品も被っていて、あっという間でしたね。楽しい時間、ありがとうございました。

 2020年11月、神楽坂にて

(しまざき・のぶなが 声優)
(しき・おりおり 作家)
波 2021年1月号より

物語の「主人公」になるために

悠木碧紙木織々

急成長を続けるソーシャルゲーム業界を舞台にしたお仕事小説『それでも、あなたは回すのか』。現役のゲームプランナーでもある紙木氏と、声優としてゲームのキャラクターを演じるのみならず、自身も創作者として活躍する悠木碧さんが、ソーシャルゲームと「主人公」について、熱く語り合った。

悠木 私は四歳から芸能界にいて、会社で働いた経験がないので、『それでも、あなたは回すのか』で描かれる会社組織というものがとても新鮮でした。生まれてこの方、個人プレーしかしてこなかったので、絶対的な集団プレーで作られていくゲーム制作の現場に、なるほど、となって。紙木さんは小説家である一方で、今もプランナーとして働かれているんですよね。

紙木 はい、そうですね。僕は新卒でソーシャルゲーム開発会社に入り、プランナーとして働き始めたので、作中の主人公・友利(ハト)と同じです。その後は、ディレクターに上がったり、プロジェクトマネージャーをやったり、シナリオライターも経験して、まあ、一通りいろいろな仕事をやりました。

悠木 主人公が配属されたセクションには、筋トレが趣味のプランナー、SNSでイラストが大人気のデザイナーなど、個性的なキャラクターがたくさん登場しますけど、ソーシャルゲームの開発現場って、こんな方々ばかりなんでしょうか(笑)。モデルになった方がいるんですか?

紙木 ソーシャルゲーム業界というのは変な……というと語弊があるので(笑)、「面白い人」がたくさんいて、キャラが強すぎるので、そのまま書くとアニメ以上に「アニメのキャラクター」になってしまうところがあって、むしろ書けなかったですね。だから、そこまで「モデル」という感じの方はいないです。僕がこの業界に入って一番感じたのは「本当にどんな人でもいるんだな……」ということで。たとえば、管理部に行くともうかっちりスーツを着ている人がいて、でも同じ会社で休日出勤すると会社の大画面に好きな声優のライブ映像流して盛り上がっている人もいて。「あなたは何しに会社にきたんですか」という(笑)。

悠木 すごい、面白い(笑)。そんな人もいるんですか。

紙木 いるんです。

悠木 作中でもいろんなキャラクターがでてきて、なんて言ったらいいんでしょう、これは小説で、物語なんですけど、「事実は小説より奇なり」なんだ、とは強く感じました。いろいろな人がいて、社会が成り立っている、ということの縮図がある気がして。そんな中で、最初に主人公に仕事を教えてくれる安村さん、すごくいいですよね。大好きです。一番のお気に入りキャラクターです。

現代人らしさ

悠木 安村さんは最初、全然ヒロイン枠ではないと思って読んでいたんですけど、最後まで読むと彼女がヒロインだったような気がしてきて。猫を飼っているところにキュンとしたり。

紙木 彼女に関しては、最初の方は情報を隠して隠して、ちょっとずつ見えてくる感じで描いていったので、そこがはまったようで、ほっとしました。よかったです。

悠木 主人公との距離感が絶妙ですよね。一生懸命に仕事をしていると、職場の人を恋愛の目で見る余裕ってないじゃないですか。普通に仕事をするのに必死、というか。「そうそう、こうなんだよ」みたいな気持ちに凄くなりました。友利くんの同期で、天才的なイラストレーターの青塚凜子ちゃんも可愛いんですけど、とにかく若い。「ちょっと、おまえ……」という行動が多くて、若すぎる(笑)。

紙木 一八歳、すごいな、という感じですよね。

悠木 主張が強すぎる。個人プレーをしてきた私でも「足並みを揃えることが会社員の鉄則」なのでは? と心配になっちゃうくらいに(笑)。紙木さんは書かれていて、筆が乗る、というか、楽しかったキャラクターはいましたか。

紙木 筆が走ったという意味だと、やっぱりエピローグの最後、友利がモノローグで畳みかけるシーンです。僕はああした展開が得意だし、自分としても好きなので、一気に書き上げました。

悠木 ハトくんは全編通じて、好感度が高いですよね。これは読んだタイミングが影響しているかもしれないんですが、今の年齢で読むと「新卒の子がこんなに頑張っている。泣ける」みたいな気持ちになって。まるで、お姉さんのような視線(笑)。

紙木 確かにハトは高校生ぐらいで読むと「もっと主人公らしく振舞えよ」と思われてしまいそうなキャラクターですよね。ただ、これは僕自身もそうだったんですが、ゲームを一切作ったことがない状態でソーシャルゲーム業界に入るのは、不安が大きくて。同じ新卒でも、ゲームの専門学校に通っていたり、プログラミングのスキルを持っていたり、既にゲームを作った経験がある人達も入ってくる。そうすると当然、強いことを言えるはずもなく……。

悠木 ああ、なるほど。ハトくんは「人生の主人公は自分」とは捉えていないところがとても印象的で。彼は自分のことを「モブなんですけどね」みたいに語りますが、本当はいろんなことを考えているし、できる限りのことをやろうとしている。そういうところがとても現代人っぽくて、読み進めていくうちに、主人公だな、と思いました。

紙木 いま、悠木さんはとても本質的なことを言ってくださって、それが伝わっていて僕は本当に嬉しいんですが、僕はハトを「これから主人公になろうとする人物」として描く、と最初に決めたんですよね。学生生活が終わって、自分が「物語の主人公ではない」と思ってしまった人が、もう一度、社会人という別のステージで輝ける形を示したい、というか。すごく良いところを突いていただきました。

悠木 本当ですか、嬉しいです。

自分のことを主人公だと

悠木 声優というのは傭兵集団みたいな感じなんです。ここに戦場があります、と言われて、そこに最強の傭兵集団が集まってくる、というか。レイドバトルみたいな感じで(笑)。

紙木 一つ一つのゲームやアニメが「戦場」みたいな感じですね。

悠木 そうそう。レイドに呼ばれて、その中で上位十人だけが最終戦で戦える、みたいな。そういう点では、自分のことを主人公だと思っていないと、とてもじゃないけど、パーティに参加できない。だから、最初から「チームプレイです」と始まった協調性の人たちとは見えている世界が違いましたし、それを知れたことは人として勉強になりました。

悠木碧

紙木 悠木さんが「主人公でなければやっていけない」と話されて、それにすごく感銘を受けたのですが、実はゲーム制作の場でも時にそういう主張をしなければいけない場面があるんですよね。そうじゃないと、妥協ばかりになってしまう。「イベント開始は来週だし、もうここまでで」となったときに、大人の選択としてそれは当然ありなんですが、そこで「主人公」となった人が踏み込んで、粘って、新しいステージが見えたりすることがある。この物語でいえば、ハトはそうした「主人公」になれるか、という点がシリーズの一番大きなテーマなので、悠木さんの言葉にはヒントをもらえた気がします。

エポックメイキングな作品

悠木 実は私、昔はソーシャルゲームをあまりやっていなくて。コンシューマーゲームが大好きだったこともあって、隙間の時間でプレイするゲームに少し抵抗感を持っている部分がありました。

紙木 ソーシャルゲームに抵抗感がある方は元々多かったと思いますよ。ここ数年でぐっと環境が変わった印象です。

悠木 そうですよね。私も、「Fate/Grand Order(FGO)」をプレイするようになって、捉え方が全く変わって。最初、周りから「絶対、プレイした方がいい」と勧められても断っていたんですが、やってみたら「ああ、申し訳ない、面白い、ごめんなさい」となって(笑)。これは「逆だ」と。本格的なゲームとしての遊び甲斐もあるし、隙間の時間にもプレイできる。隙間だからやるゲームではなくて、隙間にもしっかりとできるゲームなんだ、と。だから、自分がはまってからはソシャゲという形態が現代に生きる人たちにあっているんだな、と納得して。

紙木 「FGO」は本当にいろいろなものを塗り替えた作品で、プランナー目線でみるとリリース初期はちょっと不安定な時期もあったんですが、そんなことが関係なくなるレベルの、圧倒的な熱量みたいなものがあって、それは奈須きのこさん、という天変地異みたいな才能の力なんですが、それが通じたんですよね。あれ以降、ソシャゲではシナリオやキャラクターに力を入れたゲームがどんどん増えていきました。類を見ないエポックメイキングな作品です。

悠木 ちなみに、プランナーとしての紙木さんにぜひ聞いてみたかったんですが、自分の好きなキャラクターのピックアップのときに、そのガチャをたくさん回すと「あ、このキャラは人気があるな」となって、ストーリーで出番を増やそう、とか、グッズを作ろう、とか、なったりするんでしょうか。

紙木 なるかと言われたら、なります(笑)。

悠木 よしっ(笑)。「FGO」でいえば、私はカルナというキャラが好きで、一昨年には最高レベルの「宝具5」にしてるんですけど、それでもピックアップがくると必ず一枚出るまでは引くんです。

紙木 それは、凄い……。「FGO」だと、悠木さんが声をあてられている酒呑童子というキャラクターを、僕も最高レベルの宝具5まで上げています(笑)。

文字という「一」に戻す

悠木 私は字を読んで、その公式からもらっている情報を膨らませて、人間を分析する仕事をしているんですよね。許された範囲の中で、項目が面だったものを球体にしていく作業というか。一を二にして、二を三にしていく。小説家というのは、書こうとする物語、頭の中にあるそれを文字という「一」に戻す、という作業ですよね。

紙木 ああ、いろいろな情報、百や千とあるものを文字媒体に凝縮する、という意味ではそうですね。

悠木 そう、ゼロから一を生み出すことも凄いですし、そもそも、百を一にしている仕事でもある。私たちが箱から取り出す仕事だとすれば、箱にしまう仕事をしている。すごいな、と。

紙木 なるほど。そういう考え方をしたことがなかったのですが、それは確かにそうですね。

悠木 表現したいことは一緒かもしれないのに、手法が全然違いますよね。声優と小説家。お話ししながら、その流れ、思考の違いが面白いな、と思いました。

悠木碧

紙木 小説は書いているとき、ずっと辛いんですよね。「まだ終わらないな」ってよく思います。でも、自分で自由に書けるし、ゲーム業界に入る前から、それこそ中学生ぐらいの頃から小説を書いてきて、今回の題材は自分の仕事ともかかわっていて、だから、嘘にならない物語を書きたかった。もちろん、小説は虚構なのでぜんぶフィクションではあるんですけど、ゲーム作りの現場も、ガチャというシステムも、美化するのではなく、ちゃんと伝わるといいな、と。

悠木 作品を読んで、紙木さんとお話をして、すごくゲームが好きで、人間愛に溢れている人たちが一生懸命ゲームを作っているんだな、ユーザーに向き合いながら作っているんだな、ということがわかって、もちろん物語の部分があると思うんですけど、そうありたいということは伝わってきて、感動しました。タイトルは『それでも、あなたは回すのか』ですけど、読んだ方がガチャを回したくなりますよね、これ。

紙木 読み終わって、小説が好きな人はソシャゲを、ソシャゲが好きな人は小説を、どちらも好きになってもらえたら嬉しいですね。今日は刺激的なお話をたくさん伺えて、本当に楽しかったです。ありがとうございました。

悠木 ありがとうございました。

 2020年11月、神楽坂にて

(ゆうき・あおい 声優)
(しき・おりおり 作家)
波 2020年12月号より

著者プロフィール

紙木織々

シキ・オリオリ

1990(平成2)年、新潟県生れ。2019(令和元)年、『弱小ソシャゲ部の僕らが神ゲーを作るまで』でオーバーラップ文庫大賞金賞を受賞し、デビュー。ソーシャルゲームの開発会社にてゲームプランナーとして働く。他の著書に『それでも、あなたは回すのか』がある。

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