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友は野末に―九つの短篇―

色川武大/著

2,200円(税込)

発売日:2015/03/31

  • 書籍
  • 電子書籍あり

人生もバクチも九勝六敗のやつが一番強い――。そんなことを教えてくれた作家がいた。彼は途方もない屈託と優しさを抱えて生き抜いた。

奇病、幻視、劣等感、孤絶、放蕩、芸能好き、人恋しさ、人嫌い――無頼と称され、無比に優しい人とも呼ばれた作家が遺した、魂をさらけ出す私小説名品集。強靭で、懐の深い文章が紡ぎ出す、あざやかな人物造形と生々しい心象の数々。立川談志、嵐山光三郎との対談と、夫人へのインタビューを附す。全篇単行本初収録。

目次


友は野末に
卵の実
新宿その闇
多町の芍薬
右も左もぽん中ブギ
奴隷小説
吾輩は猫でない



* *

対談 博打も人生も九勝六敗のヤツが一番強い 嵐山光三郎と
対談 まず自分が一人抜きん出ることだよ 立川談志と

* * *

色川孝子インタビュー
「虚」と「実」のバランス――「最後の無頼派」と呼ばれた夫との二十年――
あとがき――不思議な怪物とその後の私 色川孝子

書誌情報

読み仮名 トモハノズエニココノツノタンペン
雑誌から生まれた本 小説新潮から生まれた本
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 256ページ
ISBN 978-4-10-331105-8
C-CODE 0093
ジャンル 文芸作品、文学賞受賞作家
定価 2,200円
電子書籍 価格 1,760円
電子書籍 配信開始日 2015/09/04

書評

色川武大の「晩年」に年が近づいて改めて読む色川武大

坪内祐三

 色川武大と阿佐田哲也は、特に色川武大は、私の大好きな作家で、現代作家で珍しく(というか例外的に)全集を揃えている。
 だから作品も繰り返し読んでいる。
 そして、読むたびに新たな感慨にふける。
 私は昔から作家の年齢問題に強い関心を持っていた。
「作家の年齢問題」というのは、こういうことだ。
 35歳になった時、私は芥川龍之介に追いついたのかと思った。
 40歳は太宰治
 45歳は三島由紀夫
 そして50歳が夏目漱石だ。
 つまり、今年57歳になる私は、もうずい分前に「漱石越え」してしまったのだ。
 そういった「文豪」たちが次々と私の年下になっていっても(芥川なんて20歳以上若い)、読者である私と彼らとの関係はあまり変りない。
 何故なら彼らは私の同時代の作家ではないからだ(三島由紀夫が亡くなった時私は小学校6年生でその衝撃的な死は生々しく憶えているがまだ彼の読者ではなかった)。
 それに対して色川武大は私の同時代の作家だ。
 1977年4月に刊行された『怪しい来客簿』は新刊で入手したし、やはり同年から「海」で始まった「生家へ」も愛読した(と書くとウソが混じる――初出ではなく79年7月に刊行された単行本で愛読したのだ)。
 1987年9月に「東京人」の編集者になって、色川さんの原稿を頂戴した(短い原稿で直接お目にかかるのは図々しい感じがしたので電話だけのやり取りだったが)。
「東京人」でも何か連載を、と私なりに仕掛けを考えていたのだが、色川さんは1989年3月に岩手県一関市に転居し、同年4月10日、亡くなられた。
 色川さんの誕生日は3月28日だから、ちょうど60歳の時だ。
 先にも述べたように私は今年(5月8日に)57歳になる。
 つまり色川武大が亡くなった年に近づきつつある。
 これは不思議な気持ちだ。
 愛読者であるから私は色川武大の晩年(といっても50代だ)の作品も繰り返し読んでいる。
 昔は落ち着いて読めたのだが、今は不安な気持ちにさせる。
 この、単行本未収録作を集めた作品集の巻頭に載っている短篇「友は野末に」はこのように書き始められる。

 某日、小さなホテルにこもって仕事をしているとき、家からの電話でまた一人の友の死を知らされた。五十をすぎるとそういうことが頻繁になってきて不思議はないし、自分の命だって風前の灯なのだから、他人が死のうと自分が死のうと日常茶飯のことといえなくもない。

 初出は「オール讀物」昭和58年3月号だから、色川武大53歳の時の作品だ。
 少年時代の旧友との思い出が回想される。
 その旧友は別の学校に進み、戦後の混乱の中で関係がとだえた。
 その彼から30年振りの来信があり、今は東北に住む彼と再会することになったが、その前に彼はあっけなく死んでしまった。
「多町の芍薬」はその戦後の混乱期における、世代を越えた、奇妙だが濃厚な人間関係が描かれる。初出は「別册文藝春秋」昭和60年1月だというから今の私の年齢に近い。
 すなわち私が、三十数年前の大学生時代を振り返る距離感だ。
 しかし私にはそれが同じ距離だと思えない。
 私は、いや私たちは、とても薄い時代を生きてきたのだ。色川武大の「晩年」の作品を今改めて読んで行くと、そのことを痛感し、私を不安な気持ちにさせる。
 ところで、この作品集の目玉とも言えるのは「蛇」だ。未完とはいえ素晴らしい作品だが、注目してもらいたいのはその初出。
「文学者」1971年2月号。すなわち色川武大が阿佐田哲也だった時代の純文学作品なのだ。
 靖国神社小説としても優れたこの作品を今まで知らないでいたことは、『靖国』の著者として少しくやしい。

(つぼうち・ゆうぞう 評論家)
波 2015年4月号より
単行本刊行時掲載

著者プロフィール

色川武大

イロカワ・タケヒロ

(1929-1989)東京生れ。東京市立三中に入るが、学校になじめず中退。戦後の数年間、放浪と無頼、映画と演劇の日々をおくる。雑誌編集を経て、1961年「黒い布」で中央公論新人賞を受賞。その後、阿佐田哲也名義で『麻雀放浪記』など多くの麻雀小説を手掛ける。1977年『怪しい来客簿』で泉鏡花賞、1978年『離婚』で直木賞、1981年「百」で川端康成賞をそれぞれ受賞する。1988年には『狂人日記』で読売文学賞を受賞した。他の作品に『引越貧乏』『生家へ』『恐婚』など。

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