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気仙沼ニッティング物語―いいものを編む会社―

御手洗瑞子/著

1,540円(税込)

発売日:2015/08/19

  • 書籍
  • 電子書籍あり

震災後の気仙沼で編み物会社を起業! 「地方」だからこそ、できること。

被災地への最大の貢献は仕事を生み出し、生活の循環を取り戻すこと。マッキンゼーを経てブータンの公務員、そして今度は気仙沼へ。傷跡がまだ残る現地に単身入った著者が、下宿しながら起業した会社は、初年度から黒字となり、市に納税を果たすまでに。編み物で「世界のKESENNUMA」を目指し、毎日てんやわんや奮闘中!

目次
プロローグ
1章 ブータンから気仙沼へ
あの日、ブータンで。/気仙沼へ
2章 毎日が発見! 気仙沼生活
なぜ気仙沼?/斉吉さんのおうち/「入浴中」の札をつくる/鱈のムニエル/ばっぱの万年筆/朝の羊羹タイム/じっちの「き」と「ち」
3章 編み物の会社を起ち上げよう
なぜ編み物か/アラン諸島へ/アランセーター/なにもないから始めよう/毛糸ができるまで/どうやって、編み手さんに出会う?/手袋ワークショップ/編み手さんの練習/価格のこと/MM01ができた日/最初は4着の受注から/ドキドキしながら編んでいく/「編み直し」とは/MM01を初めてお届けすることができました
4章 恐るべし、気仙沼
同じ日本でも得る情報はずいぶんと違う/子ども時代談義/沖が時化ると/買い物でお金がまわる/遠い家路/祈る文化
5章 てんやわんやニッティング
シンプルなセーター/編み手さん、たくさん入る/会社設立/気仙沼ニッティングが目指すこと/女子校みたいな編み会/手編みのセーターの難しさ/社長の商品チェック/大変なことも笑いのネタ/気仙沼ニッティングだより/エチュードの販売/決算黒字!/一緒に働く若者たち/バーター経済とお米の差し入れ/気仙沼にお店をつくる/気仙沼ニッティングの「メモリーズ」/赤いニットを着たミッフィー
6章 気仙沼ニッティングで学ぶ意外なあれこれ
地方のお客さんが多い/高校生のみつける価値/フレキシブルな働き方で、人は集まる/気仙沼の人は肉も好き/毛糸は工業製品ではない/お客さんが、気仙沼まで来てくれる/会社を支える「おばちゃん力」/海外のお客さんも、地元の小学生も/現場は明るく、メディアは難しい
気仙沼で起業することのメリット・デメリット
 メリット1 周りの人に助けてもらえる
 メリット2 多くの人にとって未知な分、興味を持ってもらいやすい
 メリット3 賃料が安い
 メリット4 地域の街の中で存在感を持ちやすい
 デメリット1 大消費地から遠い?
 デメリット2 人が少ない?
小さきものの戦略/編む人にこそ経営の話をする
7章 種をまき、木を育て、森をつくるような仕事
種をまく仕事/編み手さんの望むこと/老舗の経営/幸せになる力/つつじの山を育てた人/豊かな森へ
おわりに

書誌情報

読み仮名 ケセンヌマニッティングモノガタリイイモノヲアムカイシャ
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判
頁数 224ページ
ISBN 978-4-10-332012-8
C-CODE 0095
ジャンル ノンフィクション、産業研究
定価 1,540円
電子書籍 価格 1,232円
電子書籍 配信開始日 2016/02/12

書評

教え子に読ませたい一冊

三宅秀道

 ベンチャーの商品開発を研究している私は、2014年の2月に気仙沼で本書の著者、御手洗瑞子さんに会った。超高級手編みセーターの会社の立ち上げに奮闘している、その現場の話を聞けるなら私だけではもったいないと、東北出身の教え子も連れて行った。
 教え子は故郷の復興に貢献できないかとずっと悩んでいたが、就活シーズンに入って、故郷の町おこしNPOに就職すると言い出した。すぐにも復興に貢献し、なにかはしようと決意していたのである。だが、震災直後ならばボランティアは貢献できるだろうが、いつまでもその段階ではない。その後は地域の産業を繁栄させることが課題になる。そのためにまずは営利事業を経験しなさいと私は水を差したが、てんで聞く耳を持たなかった。
 地方で事業を興すとしたら、もちろん主役は土地の人たちになるが、それをビジネスとして成り立たせるには、よほどの舞台監督がいないといけないし、そういう人材が地元にいるとは限らない。気仙沼ニッティングの場合は編み手さんたちが主役だが、デザインにしろ毛糸にしろ、品質と付加価値を高めるために、町の外から来た御手洗さんが東奔西走した。そして各地のお客さんに説得力を持って商品を届けるべく、あれこれ趣向を設えるための、しっかりした戦略構想を練っていた。その体験談を聞いて、横でメモをとっていた教え子はショックを受けていた。
 本書を読むと、気仙沼の人たちを巻き込みながら、その土地ならではの条件を活かし、事業として離陸を果たしたようである。元コンサルタントからブータンでの経験を経て、今ではさらに経営者として新境地を拓いた経緯は、本書の後半部分に詳しく書かれているが、起業譚としても極めて懇切で平易な説明で、中小企業論でもブランド論でも本書を教材に使えるくらいである。
 著者は気仙沼で事業を営みながら、少しずつ地元の人々の価値観や気質を、そして、もっと普遍的な人間性について学び、洗い出していく。津波で針も糸も流され、楽しむことさえ自分に禁じてしまっていた人たちが、ニットを通して救われていくのである。
 おそらく誰も気づかない小さな編み間違いを見つけて、何日もかかったところを躊躇なく解いた編み手がいう。「たとえお客さまが気づかなくても、きっとずっと自分の心には引っかかるでしょ」そして会社が初年度から黒字になり、市に納税できることを報告すると、多くの編み手が「これで、肩で風を切って気仙沼を歩けます」と喜ぶ。
 編み上がったニットが同社を通じてお客さんに届く。そして商品の価値が堂々と相手に認められ、事業が回る、そのことで、自分の価値を再確認できる。それは誇りをつかみ取ることでもある。大震災後の被災地で立ち上がった多くの社会起業は、「同情需要」に頼っている限り、そこに達するには時間がかかるかも知れない。
 人によっては本書を、麗しい復興美談として読むかも知れない。しかしそれではもったいない。本書は実戦的な地域起業のテキストとして読めるのである。そして経営学と民俗学、ふたつの世界の対話の物語でもある。ドラッカーが宮本常一の縁側に来てお茶飲んでいる風情である。
 東北のみならず全国に、衰微した故郷の再生に貢献しようとして、なかなかうまくいかない、多くの若者がいるだろう。まずその人たちに、本書を薦めたい。そして、こんなすごい人がいるんだ、ではなく、こういうやり方を学ぼう、と思って欲しい。しかも本書は気負わずに、おもしろく読めるひとりの若者の奮闘記である。
 東京で就職したあの教え子に、御手洗さんがとても面白い本を書いたよ、と伝えたら、いま気仙沼ニッティングのセーターを買うために貯金しているという。早くお金が貯まるように、本書は私がプレゼントしてやろうと思う。

(みやけ・ひでみち 経営学者)
波 2015年9月号より

イベント/書店情報

著者プロフィール

御手洗瑞子

ミタライ・タマコ

1985年、東京生まれ。東京大学経済学部卒業。マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、2010年9月より1年間、ブータン政府に初代首相フェローとして勤め、産業育成に従事。帰国後の2012年に、宮城県気仙沼市にて、高品質の手編みセーターやカーディガンを届ける「気仙沼ニッティング」の事業を起ち上げて、2013年から代表取締役に。著書に『ブータン、これでいいのだ』(新潮社)がある。好きなものは、温泉と日なたとおいしい和食。

気仙沼ニッティング (外部リンク)

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