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夢はプロサッカー選手。でも、それは遠い夢――。子供と親にとって、スポーツって何だろう?

ここからはじまる

はらだみずき/著

1,650円(税込)

本の仕様

発売日:2014/04/22

読み仮名 ココカラハジマル
雑誌から生まれた本 小説新潮から生まれた本
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 271ページ
ISBN 978-4-10-335551-9
C-CODE 0093
ジャンル 文芸作品
定価 1,650円

小学3年生の勇翔の夢は、プロのサッカー選手だが、本人は自分のレベルがわかっていない。そんな息子に歯がゆさを感じる、かつて同じ夢を抱いた父の拓也はある行動を起こす。それをきっかけに、勇翔は「サッカーノート」を書き始めるのだが……。プロのサッカー選手になる。それは誰の夢? 共に悩みながら歩む、親と子の成長物語。

著者プロフィール

はらだみずき ハラダ・ミズキ

千葉県生れ。商社、出版社勤務を経て作家に。2006(平成18)年『サッカーボーイズ 再会のグラウンド』でデビュー。「サッカーボーイズ」シリーズの他に、『スパイクを買いに』『帰宅部ボーイズ』『ホームグラウンド』『サッカーの神さまをさがして』『最近、空を見上げていない』『ようこそ、バー・ピノッキオへ』『海が見える家』などがある。

書評

「身代わりアスリート」への、救いの物語

池上正

 私はこの小説をどこかで見たような気がしました。サッカーコーチになって三十五年、いろいろなことがありましたが、このような家族をいくつも見たことを思い出しながら読んでいました。読み進めるうちに、書かれているシーンが私の頭の中で、そのままの光景で蘇ってきました。子どものスポーツや、それにまつわる家族の様子を、リアリティをもって、本当によく表しています。
 主人公である、父親・草野拓也の変化――同じスポーツをしてきた父親が、次第に子どもの習い事にのめり込んでしまうこと――は、子どもを持つ親ならば、誰しもが一度は経験したことではないかと思います。
 私は常々、「中途半端にスポーツを経験した大人が一番危ない」という言い方をしてきました。それはまさに、物語中で拓也が進んで行った道なのです。我が子によくなってほしいという思いが強くなりすぎて、ついつい厳しくなってしまい……子どもの気持ちは、どこかに置き去りにされてしまうのです。そのような現実が、本当によく表現されている小説だと感心しました。
 また家族の様子――娘の恵里、妻の聡子――も上手く描かれています。聡子は、スポーツがあまりわからないのですが、スポーツのこと以外になれば、我が子の性格や心の動きをよく知っている母親であり、拓也がどんどん父親として成長して行く過程で、娘の恵里にも心が向き始める姿は、微笑ましいものでもありました。
 またこの小説は、スポーツだけではなく、あらゆる「習い事」と呼ばれているものに通じる話だと思います。特に、作中に出てきた「身代わりアスリート」については、私が大学の先生から聞いた話を思い出しました。先生は「親子共倒れ」という言い方をされていて、子どもの夢に親が寄りかかること、そして、子どもが夢破れたときに親までもが倒れてしまうことを言います。なおかつ、子どもの上に大人が倒れてしまうので、子どもは一人で起き上がれなくなることでもあり、親の干渉が過度になりすぎると、このようなことが起きるのです。この小説ではそれがリアルに表現されています。
 小学三年生の息子・勇翔がサッカーを始めたのは、父である拓也がきっかけだったのに、忙しくてなかなか見にいくことができなかったわけですが、そんな拓也が久しぶりに見ることができた試合で、勇翔はベンチをあたためていた。悔しそうでもなく、笑顔で。そんな息子の姿に、拓也はふがいなさを感じます。それは、同じサッカーをしていたからこそ、より強く腹が立ってしまったのでしょう。しかも、自分の過去の出来事も重なってしまった。拓也が抱いたこの感情に、共感される方はきっとたくさんいるのではないでしょうか。
 ともに味わった挫折感を抱きながら、そこから抜け出すために、草野親子は一緒に自主練を始めるわけですが、我が子をなんとか上手くしたいという思いで始めた練習に、父親がどんどんはまって行く姿も非常に上手く表現されています。
 勇翔の変化もとても丁寧に表されていると思いました。練習をしたからといってすぐに上手くいかないこと、それでも続けることで少しずつ上手くなり自信を持ち始めていく様子。一歩一歩ですが、勇翔が上手くなっていく姿には、何より救いを感じながら読み進めました。父である拓也にとっても、どれほど幸せなことだったでしょう。現実には、なかなか上手くならない子どももいて、それは親と子どもどちらにとっても酷なことなのです。
 私はこの小説を多くの親子に読んでもらいたいです。親子のつながり、コミュニケーションの大切さ、家族のあり方ということを、物語をとおして深く考えるきっかけになるはずだからです。拓也や作中の他の保護者たちのように、我が子に過度の期待をかけすぎてしまう親たちが、今は多すぎると思います。子どもたちがスポーツをすることの、真の意味はどんなことなのでしょうか? 楽しいからスポーツをするのであって、楽しくないものを続けさせることは、子どもにとってはストレスでしかないと、長年の経験から私は感じています。
 この小説が世の中の多くの「身代わりアスリート」を救うことを、願っています。

(いけがみ・ただし 京都サンガF.C.)
波 2014年5月号より

判型違い(文庫)

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