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躁鬱大学―気分の波で悩んでいるのは、あなただけではありません―

坂口恭平/著

1,760円(税込)

発売日:2021/04/28

書誌情報

読み仮名 ソウウツダイガクキブンノナミデナヤンデイルノハアナタダケデハアリマセン
装幀 SANDER STUDIO/装画、新潮社装幀室/装幀
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判
頁数 268ページ
ISBN 978-4-10-335953-1
C-CODE 0095
ジャンル 文学・評論
定価 1,760円
電子書籍 価格 1,760円
電子書籍 配信開始日 2021/04/28

誰にも言えない悩みだと思っていたのに、そうじゃなかった?!

31歳で躁鬱病と診断され、気分の浮き沈みの激しさに苦しんでいた僕がみつけた、ラクに愉快に生きる技術。みんな、人からどう見られるかだけを悩んでいる。鬱のどうにもならない落ちこみ、自己否定をどう扱うか。はたまた躁の周囲を疲れさせてしまうほどに過剰なエネルギーをどうするか。自らの経験をもとに、ユーモアあふれる対処法を徹底講義!

目次
はじめに
その1 躁鬱病が治らないのは体質だから
その2 心が柔らかい躁鬱人のための返事の術
その3 「居心地悪いなぁ」と感じたらすぐ立ち去る
その4 資質に合わない努力を避けるための吐露の術
その5 「今から作り話をします」と前置きして話そう
その6 「自分とはなにか?」ではなく、「今なにがしたい?」と聞いてみる
その7 【鬱の奥義・一の巻】鬱のときに「好奇心がない」と嘆く理由
その8 【鬱の奥義・二の巻】心臓と肺だけがあなたをラクにする
その9 【鬱の奥義・三の巻】自己否定文にはカギカッコをつけろ
その10 トイレを増やせば、自殺はなくなります
その11 人の意見で行動を変えないこと
その12 孤独を保ち、いろんな人と適当に付き合おう
その13 躁鬱超人への道
その14 実例:躁鬱人の仕事の歴史(坂口恭平の場合)
その15 最終講義:それぞれのあなたへ

書評

人生の参考書

養老孟司

 書評を書くと、いつも思う。こういう仕事を野暮というに違いない。本を読んでもらえば済むだけのことではないか。
 とくに坂口恭平の著作は前作『自分の薬をつくる』(晶文社)もそうだが、平易かつ明解であって、読めば誰にでもわかるのだから、余計な感想や注釈などはいらない。
 本書は躁鬱病の心理のあるべき姿を描いた作品である。小学生の頃から躁鬱人として生きてきた坂口恭平の上手に生きて行くための解決策が具体的かつ徹底的に示されている。
 本書はまず第一に「躁鬱病が治らないのは体質だから」から始まる。体質という表現は、つまり「生まれつきそうなんだから、仕方がないだろう」という自己肯定、言い替えれば開き直りである。だから作者は世の中には躁鬱人と非躁鬱人がいるというところから語り始める。現状を躁鬱人が非躁鬱人の社会に少数派として混ざっているという状況だと解釈する。そこをしっかり把握すれば、次の問題は躁鬱人とはどういう存在かの理解である。
 そこで坂口恭平は躁鬱人を自分で代表してしまう。それ以外に方法がないからである。
 躁鬱人としての自分を徹底的に理解すれば、次は周囲との関係になる。坂口恭平は長いこと自分の電話番号を公開して、「死にたくなったら、この番号にかけろ」を実践してきた。
 その結論として、人生の悩みとは「他人が自分をどう思うか」に尽きるという。躁鬱人は「心が柔らかい」から、合わせることはできる。無理に自分を周囲に合わせれば、いずれ破綻する。それを避けるには、自分を徹底的に理解するしかない。
 周囲に合わせないで上手にやっていくには、どういう状況を避ければいいか。「居心地が悪いと感じたら、すぐに立ち去る」「資質に合わない努力を避ける」といった具合である。非躁鬱人がこれをやると、具合の悪いことが起きそうな気がするであろう。しかし躁鬱人の場合は、まさにそうするより「仕方がない」のである。
 私にも躁鬱人の友人がいる。頼まれて医者を紹介したが、それよりこの本を紹介して本人に読んでもらおうと思う。効くか、効かないか、読ませてみないとわからない。今から結果が楽しみである。
 私は躁鬱人ではないが、坂口恭平の自由さ、明るさには常に感服する。付き合うのも楽である。当たり前で、「居心地が悪い」状況ではすぐに立ち去るのだから、私と付き合っている時は、居心地が悪くないはずであって、気楽な付き合いができる。自分にとって、「居心地がいい」状態がどういうものかを把握することは、非躁鬱人にとっても重要なことである。その状態とは明らかに生物学的なものであって、要するに身体の調子である。
 その状態からしばらくズレたままでいることを、現在ではストレスというのであろう。ただ問題はそうした自分にとって適切な生物学的状態を現代人の多くが把握できなくなっているということである。坂口はその状態に関して参考になるのは、肺と心臓だという。呼吸と脈拍はある程度自分で調節が可能だからである。
 本書が躁鬱大学と名付けられているのは、既述の作品より高度の内容を扱っているという意味かもしれない。随所に参考として引かれるのは、神田橋條治の『神田橋語録』である。これはネットで読めるから、関心のある人はこれを参考にされればよい。
 読了して、私はすっきりした気分になった。非躁鬱人にとっても人生の良い参考書になると感じる。私自身は近年ネコのマルを参考にして生きてきた。そのマルは身体の具合が悪くて、この世の居心地が悪くなり、どことも知れず消えたらしい。ネコもまた居心地の悪い状況から、ただちに立ち去るのである。

(ようろう・たけし 解剖学者)
波 2021年5月号より
単行本刊行時掲載

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著者プロフィール

坂口恭平

サカグチ・キョウヘイ

1978年、熊本県生まれ。2001年、早稲田大学理工学部卒業。作家、建築家、絵描き、音楽家、「いのっちの電話」相談員など多彩な顔を持ち、いずれの活動も国内外で高く評価される。『TOKYO 0円ハウス 0円生活』(河出文庫)、『独立国家のつくりかた』(講談社現代新書)、『幻年時代』(幻冬舎文庫/熊日出版文化賞受賞)、『坂口恭平 躁鬱日記』(医学書院)、『自分の薬をつくる』(晶文社)、『Pastel』(左右社)ほか著作多数。

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