この気持ちもいつか忘れる
1,760円(税込)
発売日:2020/10/19
- 書籍
大ベストセラー『君の膵臓をたべたい』の著者による、初めての恋愛長篇!
退屈な日常に絶望する高校生のカヤの前に現れた、まばゆい光。それは爪と目しか見えない異世界の少女との出会いだった。真夜中の邂逅を重ねるうち、互いの世界に不思議なシンクロがあることに気づき、二人は実験を始める――。最注目の著者が描く、魂を焦がす恋の物語。小説×音楽の境界を超える、新感覚コラボ!
書誌情報
読み仮名 | コノキモチモイツカワスレル |
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装幀 | loundraw(FLAT STUDIO)/装画、新潮社装幀室/装幀 |
雑誌から生まれた本 | 週刊新潮から生まれた本 |
発行形態 | 書籍 |
判型 | 四六判変型 |
頁数 | 384ページ |
ISBN | 978-4-10-350833-5 |
C-CODE | 0093 |
ジャンル | 文芸作品 |
定価 | 1,760円 |
インタビュー/対談/エッセイ
住野よる「恋」を語る
本作は、THE BACK HORNとのジャンルを超えたコラボレーションが話題を呼んでいる。キーワードの一つ「恋心」を巡るインタビュー。
――本作は初めての恋愛長篇と謳っているので、『君の膵臓をたべたい』(以下『膵臓』)を思い浮かべて、「あれ?」と疑問を持った方も多いようですね。
まさにそんな風に引っかかってほしくて「恋愛」と打ち出してもらったところがあります。読者の方にはどう受け取っていただいてもいいのですが、『膵臓』は恋愛小説として書いたつもりはないのに、そう思われることが多かったんですよね。恋愛を自分が描くのなら、もっとちゃんとやるのに、という気持ちがあって(笑)。ずっとそう感じていたのと、せっかくTHE BACK HORNと一緒に作品を作らせていただくチャンスなんだから、自分にとって初めて挑戦するものを捧げたいと思っていて。だったらこのタイミングで恋愛長篇を書こうと決めました。
――住野さんにとって恋愛を恋愛たらしめるもの、他の関係性との違いはどんなものなのでしょう。恋愛物って、どう定義されていますか。
難しいですが、恋心を持った方がそれを恋心と気づくかどうかですかね……。主人公のカヤが自分の中に芽生えた気持ちの正体に悩む場面があるのですが、あそここそが恋愛小説らしいところなのかもしれません。好きだと認める瞬間と、後から「あの時好きになった」と気づく瞬間が、僕は恋愛小説の醍醐味だと思うんです。
あと、ずっと思っていることなのですが、恋愛とか友情って心に浮かんだ瞬間だけが本物な気がして。例えば恋人がいて、「この先も一緒にいたい」と思うことは恋愛だけど、それを相手に伝えるのは恋愛ではないと感じます。
――面白い捉え方ですね。そういった瞬間もすぐに過去のものになっていくわけですが、本作では時間の経過による変化も大きなテーマになっていますよね。
そうですね。自分の中に、忘れることも含めて変わっていくことを否定したくないという気持ちがあるんですよね。デビューから時間が経ちましたし、僕はもう打ち合わせに呼ばれた時の喜びも、初めて出版社に行った時の緊張も思い出せない。でも、ずっと素人気分でいることが美しいわけでもないはず。純粋であることだけが美しいとは限らないし、それを書きたいと思っています。
これはTHE BACK HORNと仕事をする中で強固になってきた考えでもあります。途中までは、仕事でご一緒していても、逆にただのファンでいなきゃと思っていたのですが、それでは責任を放棄しているようにも感じ始めて。ただのファンであるのを止めて責任を自覚することが醜いわけではないよなと。変化することとしないこと、どちらが善で悪とは決めつけられない。自分が変わっていく過程があったからこそ、そんな話を書きたかったのかもしれません。
――変化を肯定的に描いた作品になっているのは、住野さんの心境の変化が出ているんですね。
かなり出ていると思います。だって人生でどんなに幸福な瞬間が訪れても、そこで留まっているわけにはいかないし、毎日は続いていくわけで。人生にハイライトなんてありません。自分の作家人生でも『膵臓』が全盛期じゃないと思ってますし。今回、ずっと大好きだったバンドの皆さんと仕事をさせていただいたからといって、この記憶の飴玉を舐めて生きるわけにはいかない。それはTHE BACK HORNにも失礼ですよね。数年後、お会いした時に「今の方がすごいもの書けますよ」と言えるようでありたい。だから、今はどうやったら長くこの仕事を続けていけるか考えています。全てはTHE BACK HORNに向けた意思表示なのかもしれませんね。僕も、十年も二十年もきっと書き続けます、という。
――お話を伺っていると、THE BACK HORNへのお気持ちに恋愛的なものを感じるのですが……。
完全に恋心です(笑)。作中でカヤがチカへの想いを語るモノローグは、ほぼ僕からTHE BACK HORNに向けた気持ちですし。今回の企画のおかげで彼らが仕事をする様子を間近で見られたのですが、それで学んだ一番大きなことは、次の世代からの提案に向き合う姿勢だと思います。この先、僕も長く仕事を続けて、全然違うジャンルの若い人から同じような依頼を受けたとしたら、今回そうしていただいたように全力でエネルギーを注げないとだめだなと。だから今は、そんな自分であれるようにというのが目標なんです。
聞き手/編集部
(すみの・よる 作家)
波 2020年11月号より
単行本刊行時掲載
住野よるからTHE BACK HORNへの公開質問状
住野よるが学生時代から敬愛するTHE BACK HORNとのコラボ作となった『この気持ちもいつか忘れる』。2020年9月16日に刊行された先行限定版には、CDが付属していることでも話題を呼んでいる。本作は住野とTHE BACK HORNが創作の過程を共有し、双方に影響を与え合いながら小説と楽曲が完成した。小説タイトルと同名のE.Pには、物語と密接に繋がった5曲が収録されている。3年間に亘る制作の裏側では、THE BACK HORNと頻繁に打合せを重ねた住野だが、メンバーにこれまで聞いてみたかったことがあるという。この機会に、それぞれへの質問に答えてもらった。
【THE BACK HORN】プロフィール
1998年結成。“KYO-MEI”という言葉をテーマに、聞く人の心をふるわせる音楽を届けていくというバンドの意思を掲げている。2001年シングル「サニー」をメジャーリリース。
FUJI ROCK FESTIVALやROCK IN JAPAN FESTIVAL等でのメインステージ出演をはじめ、近年のロックフェスティバルでは欠かせないライブバンドとしての地位を確立。そして海外のロックフェスティバルへの参加を皮切りに10数カ国で作品をリリースし海外にも進出。そのオリジナリティ溢れる楽曲の世界観から映像作品やクリエイターとのコラボレーションも多数。2018年には結成20周年を迎え、その勢いを止めることなく精力的に活動中。
【住野よるから山田将司さん(Vo)へ質問】
今回のお話のテーマの一つに好きなものとの関係性がありますが、山田さんはTHE BACK HORNリスナーとの関係性をどのように捉えていらっしゃいますか。
リスナーという存在は「同じ時代を共に生きる仲間」だと思っています。「生きる」という何気ない行為でさえ、し続けるのが難しくなってきている現代において、お互いを強く想い合い、信じ合う事で生まれる強いエネルギーが「今」を生き抜いていくチカラになると思っています。そしてそのチカラが瞬間だけで消えてしまわないよう、精一杯の心と精一杯の体で、しっかりと向き合った表現は、時を超えてリスナーに何かを残す事ができると信じています。
形だけに囚われることの無いよう、目に見えない「歌」という行為が持つ果てしない可能性を信じています。リスナーの存在はとても大きな支えになっています。
(山田将司)
【住野よるから岡峰光舟さん(Ba)へ質問】
ライブで拝見する岡峰さんの演奏中の佇まいがとても印象的です。ライブ中どんなことを考えて演奏されているのでしょうか。
ライブ中は何も考えていない! って言いたいんですけど、自分は真逆で色んなことを考えてしまいます。基本的には演奏のタッチやニュアンスとか、曲によってはその曲ができた時の雰囲気や風景が頭をよぎったり、何故かその曲とは全く関係のない、ホントになんでその情景が浮かぶんだろう、ってこともあります。
例えば「美しい名前」のイントロを弾いてる時。地元の電車の高架下にある薄暗い公園のブランコが揺れている、何故かそのシーンがよぎります。そんなに遊んだ記憶も、想い出もあるわけじゃないのに。「舞姫」は黒澤明監督の映画「乱」前半のハイライト、城が炎上して落城するシーンが脳裏に浮かびます。これは曲のイメージと映画が自分の中で完全に合致した結果でしょうか(笑)。
やはり頭の中は色んなことがグルグルしてますね。結果考えている、というよりは色んな情景が音やその会場の雰囲気でフラッシュバックしてる感じなのでしょうか。
(岡峰光舟)
【住野よるから菅波栄純さん(Gu)へ質問】
今回の5曲にも繋がるTHE BACK HORNらしさみたいなものが、菅波さんの意図の中にあるのでしょうか。
THE BACK HORNの音楽はドラマチックな部類に入ると思うんですが、それはどの曲も基本、「進行形の感情」を書いてるからだと思います。
「今すぐに走り出したくなるような昂ぶり」とか「心が動いてるその瞬間」とか、そういう衝動的な「現在」感が自分たちらしい世界観だな、と思います。一方で輪廻転生めいた考えが出てきたり、偽悪的に世の中を呪ったり、その時々の旬のモードが作品に影響を与えるので、かけ算してるうちに一筋縄ではいかない音楽性になっていってしまうわけですが。
今回の5曲も基本的には「進行形の感情」が描かれつつも、住野よるという世界とのかけ算によって新たなロックが生み出せたことを心から嬉しく思っております。
(菅波栄純)
【住野よるから松田晋二さん(Dr)へ質問】
松田さんの書かれる歌詞はとても叙情的なイメージです。歌詞を書かれる際、アイディアを出すためにされていることなどがあれば伺いたいです。
曲が先で後から歌詞を乗せる時は、その曲が持っている温度や世界観を感じ取ってから、言葉を探し構築するようにしています。
昔から叙情的な歌詞が好きで、日々メモしている言い回しや比喩などを使う時もありますが、一からアイディアを考える時は公園や街に出ます。外に出ると「自分もこの世界の中に居る」と実感できて、歌詞の物語性と伝えたいメッセージのバランスが上手くとれる気がして、作詞中は夜な夜な公園や街に出かけてます。
(松田晋二)
(すみの・よる)
(THE BACK HORN)
波 2020年10月号より
単行本刊行時掲載
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著者プロフィール
住野よる
スミノ・ヨル
高校時代より執筆活動を開始。2015年、デビュー作『君の膵臓をたべたい』がベストセラーとなり、累計部数は300万部を突破。2023年『恋とそれとあと全部』で第72回小学館児童出版文化賞を受賞。他の著書に『また、同じ夢を見ていた』、『よるのばけもの』、『か「」く「」し「」ご「」と「』、『青くて痛くて脆い』、「麦本三歩の好きなもの」シリーズ、『この気持ちもいつか忘れる』、『腹を割ったら血が出るだけさ』、『告白撃』がある。