ホーム > 書籍詳細:超一極集中社会アメリカの暴走

超一極集中社会アメリカの暴走

小林由美/著

1,650円(税込)

発売日:2017/03/24

  • 書籍
  • 電子書籍あり

0.1%の超富裕層がすべての富を収奪する国の凄まじき現状と絶望的未来!

ひとつまみの支配層による富の独占。それはさらなる富を生み出す技術革命を推し進め、コストに過ぎない労働者からあらゆる仕事を奪い、産業構造を激変させていく。富の暴走は、トランプ政権を誕生させたごとく、社会基盤を崩壊させるまで続くのだ。在米36年のトップアナリストが豊富なエビデンスで明らかにする大国のリアル。

目次
はじめに
I.「0.1%」対「99.9%」の現実
上位0.1%の所得だけが増え続ける
下位90%の純資産は減り続ける
純資産1億円超の富裕層でも借金は増えている
II.高騰する「勝ち組」へのパスポート
エリート校はますます狭き門に
幼稚園の授業料は年間300万円
大学4年間で3,000万円
借金まみれの学生たち
III.実は復活しているアメリカの製造業
アメリカ「一人勝ち」のエンジンは何か
自動車メーカーはシリコンバレーを目指す
石油・天然ガスはクリーンではないがカネを生んだ
3Dプリンターが自己増殖する
ファストフード店で接客するロボット
ロボットがロボットに学習させる
製造業の国内回帰の先に
IV.強欲資本主義は死なず
商品に客を売る
なぜファンドは大半が損でも潰れないのか
大量破壊兵器を開発する数学者たち
政治に回遊する富
金融サービスの基本的機能は三つだけ
労働者は年金のために解雇される
「資金の移動にかかるコスト」というバロメーター
「浪費ファンド」が獲物を探して徘徊する
V.シリコンバレーの錬金術師たち
湧き出る金が政治を呼び寄せる
電子書籍を読むスピードまで丸裸に
個人情報はどのくらい儲かるのか
4,000社のデータ・ブローカーが個人情報に群がる
ピーター・ティールとCIA
バイブレーターの使用状況データをリアルタイムで収集
AI医師が見えない病因を見つけ出す
フェイスブックが蓄積した1,200ページの個人情報
情報提供者には権利も利益も与えられない
VI.情報革命が人間を駆逐する
弁護士の役割も機械が代替する
世界市場を席巻する「白タク」「民泊」斡旋業
「究極の臨時雇い」が世界の利益を吸い上げる
プラットフォームは誰のもの?
「ブロック・チェーン」は銀行や役所の独占を突き崩すか
人間を排除して価格を下げた商品を買うのは誰か
VII.「超一極集中」が社会を破壊する
2010年以降の高利益が意味するもの
作業プロセスから労働力を排除する
勝者が全てを取る
上場企業は20年間で半減した
高収益企業は四つに類型化できる
ウェルチとバフェットの教えが示す未来とは
金権政治が富の集中を加速させる
「トランプ大統領」というパラドックス
VIII.押し寄せる巨大なうねり
メガ・トレンドを一望する
生き残りそうな職は何か
IX.絶望の先へ生き延びるために
21世紀の開拓時代を生きる
世界共通言語は数式とプログラミングだ
コンピューター・セキュリティ・エキスパートは引く手あまた
マイ・ビッグデータは自身で保護するしかない
アメリカの自律は期待できない
流動性を恐れるな
あとがき

書誌情報

読み仮名 チョウイッキョクシュウチュウシャカイアメリカノボウソウ
装幀 新潮社装幀室/装幀
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判
頁数 240ページ
ISBN 978-4-10-350871-7
C-CODE 0030
ジャンル 地理・地域研究
定価 1,650円
電子書籍 価格 1,650円
電子書籍 配信開始日 2017/04/14

書評

たった0.1%の超富裕層が富を独占する国の現実

池上彰

 アメリカ大統領選挙でドナルド・トランプ大統領が誕生したことは、アメリカ社会の格差拡大が尋常ではないことを示しました。アメリカの主要なメディアはヒラリー・クリントン候補の勝利を予想していました。ところが、こうした主要メディアの本拠地はニューヨークやワシントンといった東海岸。民主党の支持者が多い所です。アメリカ中西部や南部の人々の思いを掬いとることができませんでした。国家や社会から「忘れられた」と絶望の淵にいる貧しい白人労働者たちの怒りに気づかなかったのです。
 しかし、気づけるチャンスはあったはずです。それは、同じ民主党で大統領候補になろうとクリントン氏と争ったバーニー・サンダース氏が、若者たちの熱烈な支持を得ていたからです。大統領選挙中、サンダース氏の政治集会に取材に入った私は、高校生や大学生たちの熱気に圧倒されました。彼らは、大学の学費の異常な高騰に悩まされ、将来の夢が描けないでいたのです。
「公立大学の学費を無料化する」「北欧のような社会福祉を導入する」という彼の主張が受け入れられた背景には、アメリカの深刻な格差の現実があったのです。
 無意識のうちにインテリ富裕層の側に立っていた主要メディアは、どちらの動きも軽く見ていました。ところが、これらの潮流は、左派であれ右派であれ、格差社会からの「チェンジ」を求めていたのです。
 ところがサンダース候補は民主党の大統領候補にはなれませんでした。共和党の大統領候補になれたトランプ氏だけが、国民に投票できるチャンスを与えたのです。
「少なくともチェンジはなし遂げるはずだ」という貧しい白人層の期待が、「まさか」の政権を誕生させました。
 そのアメリカは、これからどこへ向かおうとしているのか。最新事情に精通した著者は、驚くべき実態を描き出します。
「国民は富の集中や金権政治にうんざりしています。労働者の味方だったはずの民主党が、クリントン政権の頃から都市の進歩派富裕層を主要な資金源に取り込み、彼らの利益を代弁するようになりました」「権力者もお金も東海岸と西海岸を飛行機で往復するだけで、その空路の下にある大陸中央部は完全に無視され、馬鹿にされている。中西部や南部の労働者は、生活困窮の原因をそのように認識していました」
「民主党は都市の進歩派富裕層やハイテク産業から政治資金を得て、都市部に集中しているマイノリティを取り込み、共和党は重厚長大産業やエネルギー、金融界から政治資金を得て、中西部や南部に集中している貧しい白人を取り込んだということです。いずれも政治資金を確保するために、富裕層や企業の利益を守る必要があるわけですから、富の集中が進むのは当然です」
 では、どれくらい富の集中が進んでいるのか。全米の階層別平均実質所得を見ると、上位0.01%の平均は2900万ドル。日本円にして29億円を大きく超えます。1980年代以降、上位0.1%の所得は増え続けているのに、それ以下の所得はほとんど増えていません。アメリカでは一時、「我々は99%」という政治スローガンが叫ばれました。富の大部分は1%の金持ちが独占しているという格差を告発するものでした。ところが、いまや富を独占するのは0.1%ないし0.01%に集中する事態になっています。
 アメリカは日本以上の学歴社会。こうした富裕層の仲間入りをするには、幼児期からのレベルの高い教育が求められます。アメリカに国立大学はありませんから、教育熱心な家庭の子はエリート私立大学に進学。この学費が年々上昇し、4年間で3000万円という金額も珍しくありません。サンダース旋風が巻き起こった理由がわかろうというものです。
 その一方、教員試験を目指す学生たちの大半が分数の計算もできない現実を小林氏は報告します。こうした学生たちが教師となって教えるのは、公立の小学校や中学校。こうして格差は再生産されていきます。
 こんなアメリカに未来はあるのか。トランプ大統領はアメリカの製造業の復活を約束しますが、いまのアメリカの製造業では、労働力としての人間が必要とされなくなっているのです。経営コストの削減によって、雇われる側の所得は減り続けます。かつて明るい未来として描かれた「情報社会」は、いまや悪夢になりつつあります。
 アメリカで起きたことは、やがて日本でも起きる。アメリカを他山の石として、日本は何ができるのか。この本は、それを考えるための手掛かりになるでしょう。

(いけがみ・あきら ジャーナリスト)
波 2017年4月号より
単行本刊行時掲載

著者プロフィール

小林由美

コバヤシ・ユミ

東京都生まれ。1975年東京大学経済学部卒。日本長期信用銀行に女性初のエコノミストとして入社。長銀を退職後、スタンフォード大学でMBA取得。1982年ウォール街で日本人初の証券アナリストとしてペインウェバー・ミッチェルハッチンスに入社。1985年経営コンサルティング会社JSAに参加後、ベンチャーキャピタル投資やM&A、不動産開発などの業務を行い、2017年3月現在にいたる。(株)ジャングル、(株)トライピボットの社外取締役兼任。 著書に『超・格差社会アメリカの真実」(日経BP社)がある。

この本へのご意見・ご感想をお待ちしております。

感想を送る

新刊お知らせメール

小林由美
登録
地理・地域研究
登録

書籍の分類