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大家さんと僕 これから

矢部太郎/著

1,430円(税込)

発売日:2019/07/25

  • 書籍
  • 電子書籍あり

日本中がほっこりしたベストセラー漫画、涙の続編、いよいよ発売!

季節はめぐり、初めての単行本が大ヒットとなった僕は、トホホな芸人から一躍時の人に。忙しい毎日を送る一方、大家さんとの楽しい日々には少しの翳りが見えてきた。僕の生活にも大きな変化があり、別れが近づくなか、大家さんの想いを確かに受け取り「これから」の未来へ歩き出す僕。美しい感動の物語、堂々完結。

目次
僕の大家さん
ニーハオ
愉快なご近所さん
ジェラシー
美容室と詐欺
新宿中村屋
ヤミ市
矢部太郎映画祭
お寿司と手術
シャンソン同窓会
ちいさいふたり
検索
文学談義
季節がめぐる(1)
季節がめぐる(2)
のちゃーん、ふたたび
8月
歌舞伎町のタヌキ
リハビリ
車いすアドベンチャー
大家さんと戦争
えんぴつ
すべらないでね
最高のお部屋
大家さんのために
四月馬鹿
お祝いのうた
結婚
おばあちゃんと僕
晩餐会
ささやかな贈り物
伊勢丹遠隔操作
ひとりきりの草むしり
ゲット・アウト
僕の願い、大家さんのお願い
みかんとヒーロー
大家さんのお話
おかえりなさい
大家さんと僕 これから
あとがき

書誌情報

読み仮名 オオヤサントボクコレカラ
装幀 矢部太郎/装画、山田知子(chichols)/装幀
雑誌から生まれた本 週刊新潮から生まれた本
発行形態 書籍、電子書籍
判型 A5判
頁数 176ページ
ISBN 978-4-10-351213-4
C-CODE 0079
ジャンル エッセー・随筆
定価 1,430円
電子書籍 価格 1,210円
電子書籍 配信開始日 2019/07/25

書評

「僕」が育んだ奇跡の友情

古市憲寿

 友情には何一つ書類が必要ない。
 結婚には婚姻届がある。子どもができたら出生届を出す。親が死んだら死亡届を出す。そんな風に「家族」と呼ばれる人間関係には法律的な裏付けがある。
 だけど友情は違う。誰かと仲良くなるのに契約書はいらないし、離れるときに裁判をする必要もない。どちらかが友達を止めたいと思った段階で友情は終わる。だからこそ気楽だし、だからこそはかない。
 だけどその友情に見えるものも、実は「教室で一人にならないため」だとか「職場でうまくやるため」といったように、必要に迫られて育まれることが多い。ほとんど共通点のない人々が、「純粋な友人」になることは非常に難しい。奇跡と言ってもいい。
 その意味で『大家さんと僕』は奇跡の物語である。
「僕」ことカラテカの矢部太郎さん(相方さんの騒動、大変でしたね)が、木造二階建ての一軒家に引っ越すところからマンガは始まる。家は外階段になっていて、二階が借家で、一階に大家のおばあさんが住んでいる。
 彼女は時にお節介。洗濯物を干していて雨が降れば電話をくれる。お裾分けも当たり前。初めは大家さんとの距離感に戸惑っていた矢部さんだったが、ついには一緒に旅行に出かけるような深い仲になる。
 興味深いのは、大家さんと僕は性格から文化資本まで、何もかもが違うということ。いちいち話はかみ合わない。それにもかかわらず、二人は仲良くなった。
 ここまでが一巻のあらすじ。この奇跡のエッセイマンガは大変な反響を呼び、約80万部のベストセラーとなった。世代を越えた友情の物語は、現代のおとぎ話のようだ。適度に力の抜けた絵柄の、8コマごとに完結する構成も非常に読みやすい。
 その『大家さんと僕』に待望の続編が出版された。だけど一巻とはまるで違う。
 なぜなら本作は、喪失の物語だから。
 すでに公表されている通り、大家さんのモデルになったおばあさんは、もうこの世にはいない。そして矢部さんも新しい家へと引っ越しているという。
 続編ではきちんと大家さんとの「別れ」も描かれている。だけど主題は決して「別れ」ではない。むしろ前作以上に大家さんが主役のエピソードが多い。
 仏壇用のロウソクとさくらんぼで誕生日を祝ってくれる大家さん。悲惨な戦争経験について回想する大家さん。電子レンジを爆発させたことのある大家さん。
 どの大家さんも愛おしい。どのページを開いてもくすっと笑えるのは前作と一緒。だけど違うのは、作者である矢部さんと読者が、この物語の結末を知っていること。だからその分、どんな些細なエピソードでさえも、かけがえのないものに思えてくる。笑いと悲しみが同時に押し寄せてくる。
 相変わらず、二人の関係性は興味深い。大家さんは矢部さんとの関係を「血のつながらない親族」と表現する。矢部さんも、芸人にとってかき入れ時の年末年始、仕事を断ってまで大家さんと過ごす。
 そんな奇跡の友情は、どんな結末を迎えてしまうのか。それはもう読んでもらうしかないが、読後感が決して悪くないことだけは約束しよう。むしろ多くの読者は、矢部さんという媒介を通して、大家さんと何らかの友情を育んだという感覚を持つのではないか。
 友情とは、たかが死ぐらいで終わるものではないと思う。大家さんは家族との思い出を語りながら、こんなことを言う。「こうして矢部さんとお話ししていると亡くなった父や姉にまた会えるわ」。
 本作も同じである。『大家さんと僕』を読むたびに、「僕」や読者は大家さんに会うことができる。そこに何らかの意味での喪失は存在するが、決定的な別れではない。「僕」が育んだ奇跡はそう簡単には終わらない。
 矢部さん、素敵な人を紹介してくれてありがとう。

(ふるいち・のりとし 社会学者)
波 2019年8月号より
単行本刊行時掲載

インタビュー/対談/エッセイ

鉄拳さんと僕

矢部太郎鉄拳

2017年刊行後、手塚治虫文化賞短編賞を受賞するなど大きな話題となった矢部太郎著『大家さんと僕』。その続編にあたり、芸人でパラパラ漫画家の鉄拳さんと矢部さんの対談が実現しました。プライベートでも仲が良いお二人に「人気漫画家」としての喜びや苦労、創作のヒミツなど大いに語って頂きました!

矢部 いきなりですが謝りたいことがありまして……。

鉄拳 え!? なんですか!?

矢部 随分前のことになりますが、バラエティ番組「エンタの神様」で「せっけん」という鉄拳さんをパクッたキャラで、しかも「こんな○○は嫌だ」という鉄拳さんのフリップネタをそのままやっていた時期がありまして……。

鉄拳 なんだ、その話ですか(笑)。もう20年近く前のことですよね。

矢部 プロデューサーに言われるがままだったとはいえ、本当に申し訳ありませんでした! 公の場で一度きちんと謝罪しないといけないなと思って。

鉄拳 僕は一度しか出たことがないのに「エンタの神様毎週見てました!」といまだに声をかけられることがあります。でも結果、僕のネタの宣伝をしてくれたわけですから、全然気にしていませんよ。

矢部 何か食べたいものとかあったら言って下さい!

鉄拳 って随分簡単な謝罪じゃないですか!(笑) でも食事よりも、漫画の方がいいかな。1話分だけでいいから、「鉄拳さんと僕」を描いて下さいよ。

矢部 わ、そんなことでいいならいくらでも描きます!

鉄拳 『大家さんと僕』は1冊目の雑誌連載時に初めて読みました。4ページの1話分だけ読んで正直、「物足りないな」と思ったんです。でも1冊にまとまった後に再度読むと、その物足りなさがちょうど良かった。全編「濃い内容」だったらこれほどヒットしなかったと思います。

矢部 ありがとうございます! 僕自身が漫画を読んでいて「疲れるな……」と感じる瞬間が結構あるので、そうならないように、背景の描きこみやセリフを可能な限り減らすなど気を付けました。

鉄拳 駄菓子で例えると……シフォンケーキなんですよね。

矢部 駄菓子じゃないし!(笑)

鉄拳 一口がさらっとしているから、気持ちよく最後まで食べられる。1冊を通じて、すっきり読むことができました。

矢部 80代の大家さんにも読んでもらいたかったので、単純なコマ割にしたり真っ黒く塗るベタ塗りを避けたり、「見え方」にもかなり気を使いました。

鉄拳 実は全部計算の上なんですね、すごいなぁ。

ヘタなままでいましょう

鉄拳 今回発売される続編もそうですが、矢部君は「構成」も抜群に上手いですよね。1ページずつオチがありながら4ページで一つのお話になっているという各話ごとの構成もそうですが、まず最初に笑いをとって、しばらくは淡々としたエピソードを描き、そして時々感動できる話を挟んで……という全体の構成も素晴らしいと思いました。

矢部 1冊目を読んだ鉄拳さんが「僕に才能があったら映画化したい」と言って下さったこと、本当に嬉しかったです。

鉄拳 あまりに上手いから、ゴーストライターならぬ、裏に別の構成作家がいるんじゃないかと思ったくらい(笑)。

矢部 いませんよ!(笑)

鉄拳 笑い、ほっこり、そして感動という要素が絶妙なバランスで配置されているのは、矢部君がこれまで触れてきた映画や漫画、小説の影響はもちろん、俳優業もやってきた経験、それにやっぱり「芸人」だからこそ描けたものなんだな、ということも改めて感じました。普段の矢部君から笑いのセンスを感じたことは正直ないですが(笑)。

矢部 ちょっと! はっきり言い過ぎですよ!(笑)

鉄拳 そういう僕も人前で緊張して上手く喋れないタイプなので、描くことで何かを表現する方が向いているんだと思います。「エンタの神様」のプロデューサーも僕たちにそういう共通点を見出していたのかもしれませんね。ちなみに、漫画を描くにあたって、誰かに習ったりはしたんですか?

矢部 独学です。漫画を描くデジタルソフトの使い方をプロの漫画家さんに教えて頂くことはありましたが、漫画自体の描き方を習うことはありませんでした。

鉄拳 僕のパラパラ漫画も同じです。でも、師匠につくことも専門的な学校に行くこともしなかったから、「すでにあるもの」と一線を画せて見る人に新鮮に映ったのかなと思っています。だから僕、なるべく絵が上達しないように気を付けているんです。たくさん描いていると自然に上達してしまう部分があるのですが、僕にとっては必ずしもそれがプラス要素にはならないことで……。ヘタな絵だからこそ妙な味が出て応援してもらえていると思っているので。

矢部 まったく同じです! 色んな意味で調子に乗らないように気を付けています……。

鉄拳 僕たち、ネガティブなんだかポジティブなんだか(笑)。

偶然に導かれて

矢部 僕の場合、漫画原作者の倉科遼先生に薦められて描き始めたのですが、鉄拳さんは何がきっかけだったんですか?

鉄拳 まったくの偶然で、最初は番組の企画でした。ちょうど吉本興業に入って3年くらい、周りの芸人さんのあまりの天才っぷりに落ち込み帰郷して別の仕事をしようか迷っていた時期だったんです。

矢部 それが何年か後にあの傑作、「振り子」へと繋がったのですね。

鉄拳 運が良いことに、「振り子」が大きな話題になり賞まで頂いて。以降、パラパラ漫画の依頼をたくさん頂くようになり何とかここまでやってこられました。そもそも、パラパラ漫画を描く人が他にあまりいなかったということが僕にとっては最大のラッキーでしたが(笑)。

矢部 そんなことはないです。鉄拳さんの作品はパラパラ漫画としての質も高いですし、何より鉄拳さんの人柄の魅力がそのまま現れています。真面目さはもちろんですが、人生を肯定している感じも僕は大好きです。

鉄拳 照れますね……。家族愛や友情といったテーマは、リクエストされることが多いということもあるんですけどね。実は今日この後、ちょうど納品する新作があって、持ってきました。

(封筒から次々と原稿の束が出てくる)

矢部 うわー、すごい! これで何枚くらいですか?

鉄拳 1500枚くらいかな。繰り返す部分もありますが、約6分の動画になります。

矢部 コピーとかしないで、全部描いているんだ。すげーー!!

鉄拳 僕の場合、パラパラになった時の「揺れ」も重要なので、1枚1枚全て描いています。

矢部 僕だったら絶対コピーしてます。コピーして少しずらしてごまかしちゃうだろうな……。実際、漫画の背景とかコピペしてますし。

鉄拳 僕の仕事は漫画家とアニメーターの間にいるようなもので、実作業の割合が大きいというか、〆切を守るためにとにかく手を動かすしかなくて、下書きもせずにひたすら毎日10時間くらい描いています。だから常に利き手は腱鞘炎で、もはや肩まで痛み出している……。

矢部 アスリート的な悩みだ……。それにしても下書きをしないとは驚きです。

鉄拳 場面ごとに一番最初の絵となるものだけ描いて、あとは常に直前の絵がそのまま下書きになります。構成や流れも描きながら考えていると言ってもよくて。 描き損じたところが細部だったら直さないで適当にごまかしちゃったりもしています。でも、そういった「偶然」が面白みを与えてくれることもあるんですよね。

矢部 すごく分かります! 僕も続編の最終回では、そんな「偶然」がものすごくいい方向に働いてくれました。

鉄拳 ちなみにどこですか?

矢部 テレビ番組に密着されていた事情があって、いったん最終回とその直前の回を入れ替えてみたらそっちの方がしっくりきて、そのままにしました。

鉄拳 そんな重要なポイントが偶然だったとは……。そもそも大家さんと出会ったこと自体が偶然ですもんね。

矢部 そうですね。大家さんと出会わなかったら、僕は漫画を描いていなかったでしょうし。

鉄拳 この先も、もちろん漫画は描いていくんでしょう?

矢部 理想としては80歳になっても漫画を描いていられたらいいなと思います。

鉄拳 僕は自主制作でアクションやホラーというような、これまでとはまた違うジャンルのパラパラ漫画を描いてみたいなと思ってます。

矢部 それは面白そう! 緊張しいの僕が芸人だけで食べていくのはしんどいので、漫画家芸人の先輩である鉄拳さんがこの先どんな道を切り拓かれるのか……めちゃめちゃ参考にさせて頂きます!

鉄拳 またパクらないで下さいよ~(笑)。

矢部 は、はい……!

鉄拳 「鉄拳さんと僕」楽しみにしてます。

矢部 それは絶対描きます!

(てっけん お笑い芸人、パラパラ漫画家)
(やべ・たろう お笑い芸人、漫画家)
波 2019年8月号より
単行本刊行時掲載

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著者プロフィール

矢部太郎

ヤベ・タロウ

1977年生まれ。お笑い芸人・漫画家。1997年に「カラテカ」を結成。芸人としてだけでなく、舞台やドラマ、映画で俳優としても活躍している。初めて描いた漫画『大家さんと僕』で第22回手塚治虫文化賞短編賞を受賞。他の著書に『大家さんと僕 これから』『「大家さんと僕」と僕』(共著)『ぼくのお父さん』『楽屋のトナくん』『マンガ ぼけ日和』がある。

矢部太郎「大家さんと僕」

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