ナイス・エイジ
1,760円(税込)
発売日:2018/01/31
- 書籍
- 電子書籍あり
「2112年から来た未来人だけど質問ある?」
真実不在の時代の新文学。嘘かホントか勝負しろ!
未来人がオフ会に降臨!? 興味本位で参加したAV嬢の絵里は自分の孫と名乗る青年と知り合い同棲。その日常はネット民の際限なき好奇心の餌食となってゆく……。自分が信じるものだけが真実となる時代の炎上騒ぎをクールに描いた話題作と、啓蒙欲と性欲をこじらせた男子中学生が暴走する新潮新人賞受賞作「二人組み」を収録。
二人組み
書誌情報
読み仮名 | ナイスエイジ |
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装幀 | うとまる(THINKR/POPCONE)/装画、新潮社装幀室/装幀 |
雑誌から生まれた本 | 新潮から生まれた本 |
発行形態 | 書籍、電子書籍 |
判型 | 四六判変型 |
頁数 | 208ページ |
ISBN | 978-4-10-351461-9 |
C-CODE | 0093 |
ジャンル | 文芸作品 |
定価 | 1,760円 |
電子書籍 価格 | 1,408円 |
電子書籍 配信開始日 | 2018/07/06 |
書評
みんなが優勝できる「祭り」
嘘か真か。正か誤か。なにかを裁定するのはとても気持ちがいい。だからこそあからさまに「嘘」とわかるものを見つけると人びとはこぞって興奮する。けれど、このとびきり胡散臭くて面白い小説を読み終わったとき――じわじわと胸に滲み出すのは、むしろいつまで経っても消えない疑念だ。
表題作はAV女優として生計を立てている絵里が「アキエ」という偽名を使ってインターネットの匿名掲示板のオフ会(ネット上での知り合い同士が実際に顔を合わせる会)に参加する場面から幕をあける。そこにいる面々はみな「2112」なる人物の降臨を期待して集まっている状態だ。2112とは、くだんの掲示板で「2112年からやってきた」と主張する「未来人」、つまり自称タイムトラベラーのことで、東日本大震災とおぼしき災害の影響など、数年前に書き込んだ予言がすべて的中したことから熱心なウォッチャーを生み出している。結局2112の正体は掴めないままオフ会はお開きになるものの、2次会、3次会と飲み歩くうち、進次郎という歳下の男とふたりきりになった絵里は、彼から頓狂な告白を受けることに。すなわち、自分は未来からやって来た絵里の孫であり、2112その人である、と――。絵里は進次郎を自宅に住まわせながらこっそり観察し、その動向を実況中継的に掲示板に書き込むことで真相を暴こうと奮闘する。
未来人・進次郎の実態は最初からツッコミどころ満載だ。稼働に「エキゾチック物質」(!)なる自然界の謎の資源が必要となるらしいタイムマシンは、どう見ても普通のキャリーケース(コロコロのついたあれ)だし、タイムトラベルの原理や矛盾を問い質しても、最低限の言葉で抽象的な表現を繰り返すばかり。だが、進次郎が2112本人かどうかわからないのはもちろん、そもそもネット上で2112を名乗っている人物自体がひとりだけとは限らないのだ。最初からあやふやな足場しか持ち得ない絵里は、どうしても進次郎の「嘘」を証明することができずにもどかしさを募らせていく。
実際、現実の絵里の視点に寄り添って綴られる同居生活のなまなましさとは裏腹に、掲示板の中の「アキエ」の言動は、読み手にとっても途端に胡散臭く映る。このあたりの作者のセンスと手腕には舌を巻く。凹凸の少ない、つるつるとなめらかな文体を用いながら、立ち位置をさりげなくコントロールすることで、真偽というものが一種のグラデーションにすぎないことを見事に穿っているのだ。
〈「真実が嘘に勝つことを証明するための勝負」〉。絵里は自分のふるまいに対してこんな言い訳を与える。そこに、怪しげな霊感商法にどっぷりハマった実家の母に対する苦々しい感情が重ね合わされていることは、「アキエ」というのが母の実名に由来する点にも端的に表れている。一方、掲示板の住人たちの欲望はもうすこし面妖だ。〈「俺らは心の底で騙されたいんだよ。それが俺らがここに齧り付いている理由なんだよ。アキエ氏、アキエ版は俺たちの総意によって存在していたといっても過言ではない」〉――無責任な立場から投じられる無数の書き込みによって形成されていく空間において、もはや「真実」はあらかじめ虚構と癒着したコンテンツでしかありえない。ゆえに絵里自身も含め、彼らは「アキエ」ないし「アキエ版2112」の胡散臭さに依存する形で積極的にその「勝負」を――すなわち「祭り」を盛り上げていく。
ところが職業の特殊さが仇となり、絵里の身元が特定されたことから「祭り」は変容を遂げる。台東区下谷という住所にちなみ、絵里のマンションに押しかける行為がネット上で「たいとうくした」と呼びならわされ、そこから「たいとうくする」という動詞が誕生。ついには「空中勝負」こと「空中たいとうくする」蛮行へとエスカレートしてしまう。
言葉が実体から乖離し、猛スピードで変遷していく昂揚感と、底知れぬ気持ち悪さ。〈「ポスト
(くらもと・さおり ライター・書評家)
波 2018年2月号より
単行本刊行時掲載
【刊行記念企画】#ナイスな新元号、募集!
新潮新人賞受賞作家の鴻池留衣氏による、未来人が登場する小説『ナイス・エイジ』が2018年1月31日に刊行されます。この書名は、作中登場する、未来人が教えてくれた “新元号が意味するもの”から引かれています。そこで、皆さんがこの書名から連想する「#ナイスな新元号#ナイスな新元号」を投稿してください。著者が選んだ1名様には、お好きな新潮社の本2万円分をプレゼント!
キャンペーン概要
新元号を連想し、ハッシュタグをつけて投稿してください。ルールは以下の3つです。
- 漢字でもカタカナでも数字でも記号でもOK、( )をつけて読み方も併記
- 公序良俗に反しないもの、特定の人物や会社などを侮辱したり傷つけないもの
- ナイスなもの
参加方法
- 「新潮社出版部文芸」Twitterアカウント(@Shincho_Bungei)をフォロー
- 上記3つのルールのもと、ハッシュタグ「#ナイスな新元号#ナイスな新元号」をつけてツイートすれば参加完了
期間
2017年12月28日~2018年2月15日(23時59分まで)
当選者の発表
2018年3月1日
著者による選評と共に発表
賞品
お好きな新潮社の本2万円分(税抜き)
※品切れなどの理由により、選択できない本がある可能性があります。
※雑誌の定期購読は対象外となります。
[→]#ナイスな新元号 を見る
[→]「ナイス・エイジ」を立ち読み(新潮 2017年7月号より)
〈募集に関する注意事項〉
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【刊行記念企画】#ナイスな新元号、決定!
ナイスな新元号は「猫猫」に決定しました。
猫という字は獣偏に苗と書きます。これは古代中国人がある動物を指し示す時、彼らの聞くところのその鳴き声の音をそのまま旁に取り入れて設けた字だと勝手に考えているのですが、その猫という字へ、我々の感覚によって聞くところのにゃんにゃんという鳴き声を充ててしまう、図々しさ、清々しさ、的確さを、日本人の特色と見做し、新元号としてナイスであると判断いたしました。
また、昭和生まれ、平成生まれなどと、生まれた年の元号によってこの国の人々は世代をカテゴライズし、相手とコミュニケートする際の基礎的な条件を各々が勝手に拵えるものです。
「鴻池さんって、LUNA SEAきくんすか。絶対昭和生まれ」
「そうだよ。君は、平成生まれだよね? ボカロ好きだし」
「はい。自分平成ボーイっす。お前も平成生まれだったよね?」
「いや、僕はギリギリ平成じゃないっす。猫猫生まれっすね」
「へえ、にゃんにゃん生まれなんだ」
人間は基本的に、にゃんにゃんによって生まれるのです。男女間のにゃんにゃんが原因で生まれます。誰しもが皆、にゃんにゃん生まれなのです。即ち、「にゃんにゃん生まれ」という言葉を、世代の一つとして導入する事によって、昭和生まれや平成生まれ、或いは団塊の世代、ゆとり世代と言ったレッテル貼りを相対化する事が出来るのであります。どの時代に生まれようが、関係ないじゃないか。猫猫という元号は、世代間の対立概念を無効化しうるわけです。ナイスでは、ありませんか。
著者プロフィール
鴻池留衣
コウノイケ・ルイ
1987年、埼玉県川口市生まれ。慶應義塾大学文学部中退。2016年、「二人組み」で第48回新潮新人賞を受賞。2018年、受賞作を収録した初の単行本『ナイス・エイジ』を上梓。2019年1月現在、出版社でアルバイト勤務。東京都在住。