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救国ゲーム

結城真一郎/著

2,420円(税込)

発売日:2021/10/20

書誌情報

読み仮名 キュウコクゲーム
装幀 jyari/装画、新潮社装幀室/装幀
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 383ページ
ISBN 978-4-10-352233-1
C-CODE 0093
ジャンル ミステリー・サスペンス・ハードボイルド
定価 2,420円
電子書籍 価格 2,420円
電子書籍 配信開始日 2021/10/20

稀代のカリスマは、なぜ首なし死体と化したのか。ミステリ界次世代の旗手が仕掛ける極上の頭脳戦、開幕。「日本推理作家協会賞」受賞後初作品。

“奇跡”の限界集落で発見された惨殺体。その背後には、狂気のテロリストによる壮絶な陰謀が隠されていた――。〈ドローン無差別攻撃〉のタイムリミットが迫るなか、集落の住人である陽菜子と〈死神〉の異名を持つエリート官僚・雨宮は、日本の存亡を賭けた不可能犯罪の謎に挑む。俊英が放つ、堂々たる本格ミステリ長編。

目次
犯人の独白(1)
プロローグ
第一章 すべての国民に告ぐ
犯人の独白(2)
第二章 八千万人の人質
犯人の独白(3)
第三章 絶望の新証言
犯人の独白(4)
第四章 未来のゆくえ
エピローグ
犯人の独白(5)

書評

最新のテクノロジーと偉大な遺産

千街晶之

 次にどんな手で勝負を挑んでくるか全く読めない作家――第三長篇にあたる本書『救国ゲーム』を含む今までの作品から受けた、結城真一郎という作家の印象である。
 第五回新潮ミステリー大賞を受賞したデビュー作『名もなき星の哀歌』は、記憶の取り引きという設定を盛り込んだ青春ミステリ色の濃い物語であり、第二長篇『プロジェクト・インソムニア』は、特殊設定ミステリが花盛りの現在でも決して作例が多いとは言えない、夢の世界を扱った本格ミステリだった。特殊設定という共通点はあるとはいえ、この二作は読み心地が全く異なっており、一筋縄ではいかない作家だという印象を受けた。
 では、「#拡散希望」で第七十四回日本推理作家協会賞短編部門を受賞した後の初の長篇となる本書は、どのような小説なのだろうか。
 岡山県の奥霜里という集落へと向かう道で首なし死体が発見された。被害者の神楽零士は東大卒の元経産官僚で、六年前に奥霜里に移住するや、消滅寸前だったこの過疎集落をあっという間に復活させた。日本が直面する「山村集落の過疎化問題」という課題に、ある種の解答例を示したのだ。そんな国民的スターの彼に、動画投稿サイトに現れた《パトリシア》と名乗る匿名の人物が喧嘩を売る。《パトリシア》は「経済的に不合理なすべての地方都市を放棄し、あらゆる政策資本を大都市圏にのみ集中投下すべき」という過激な主張を掲げ、神楽を「綺麗ごとを抜かすだけの“理想主義者”」と切り捨てる。あまつさえ、《パトリシア》はすべての過疎対策関連予算・施策を撤廃し、それらの政策資本を政令市および東京特別区のためにのみ投ぜよ、六十日以内にそれが行われなければ次なる行動に出る――と政府に要求して姿を消したのだ。神楽の死体発見後、再び現れた《パトリシア》は神楽殺害を告白し、地方在住のすべての国民を人質に取り、ドローンを用いた新たなテロを予告する。《パトリシア》の主張の是非をめぐって世論が真っ二つに割れる中、テロを阻止すべく行動を開始したのは、奥霜里に住むカリスマブロガーの晴山陽菜子や、彼女の元同級生のエリート官僚・雨宮雫たちだ。
 さて、この殺人事件は不可解なことだらけである。神楽の胴体は、住民の足とも言うべき自動運転車両「スマイリー」に乗せられていたが、車が第一発見者の目前で炎上したため、胴体は損傷が激しい状態だった。ところが、神楽の頭部はドローンに据えつけられている物資輸送用のボックスからあっさり見つかっている。つまり、身元を隠すことが首を切断した理由とは考えられず、犯人の意図が全くわからないのだ。他にも、頭部をどのように輸送したのか、明らかに計画的犯行なのに凶器としてその場にたまたまあった鋸を使ったのはどうしてか……等々、謎は幾つもあって、そのすべてに合理的説明をつけるのは至難の業としか言いようがないのである。
 官僚の雨宮は性格には難ありの変人だが(元同級生の陽菜子に言わせれば「人でなしのろくでなし」)、その頭脳は凄まじいほどの切れ味を見せる。切れ者すぎて、物語がまだ半分以上残っている時点で犯人の名前を指摘してしまうのだが、各章のあいだに「犯人の独白」という断章が挟まっているため、読者には雨宮がその名前を挙げるより早く、犯人が誰なのか見当がつくようになっている。
 犯人当ての趣向を半ば放棄した代わり、本書は「どうすればその人物に犯行が可能だったか」というハウダニットの興味を前面に押し出している。中でも面白いのは、神楽の頭部を運んだドローンをめぐる推理だ。ドローンという現代的なテクノロジーの産物がモチーフとはいえ、私はこの推理のくだりを読んで何故か懐かしい印象を受けたのだが、その理由を考えてみると、F・W・クロフツの『樽』や鮎川哲也の『黒いトランク』といった、往年のアリバイ崩しものの古典を想起させるからではないかという結論に至った。樽やトランクの代わりに、本書ではドローンをめぐる緻密なアリバイ崩しの過程が読みどころとなっているのであり、テクノロジーが進化しても過去の偉大な遺産を活用してミステリを書くことは充分に可能なことがわかる。温故知新とは本書のような試みを指すのだろう。
 他にも、本書には地方の過疎化というこの国がまさに直面している問題を扱った面もある。政治的テーマを扱った近年の本格ミステリとしては、市川憂人の『神とさざなみの密室』あたりと並んで出色の出来と言えるだろう。著者はまだどれだけ多くの抽斗を持っているのだろうと、空恐ろしく感じたほどの出来映えである。

(せんがい・あきゆき ミステリ評論家)
波 2021年11月号より
単行本刊行時掲載

著者プロフィール

結城真一郎

ユウキ・シンイチロウ

1991年、神奈川県生まれ。東京大学法学部卒業。2018年、『名もなき星の哀歌』で第5回新潮ミステリー大賞を受賞し、2019年に同作でデビュー。2020年に『プロジェクト・インソムニア』を刊行。同年、「小説新潮」掲載の短編小説「惨者面談」がアンソロジー『本格王2020』(講談社)に収録される。2021年には「#拡散希望」(「小説新潮」掲載)で第74回日本推理作家協会賞短編部門を受賞する。

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