共感障害―「話が通じない」の正体―
1,100円(税込)
発売日:2019/04/25
- 書籍
挨拶を返さない、うなずかない、同僚の仕事を手伝わない。「当たり前のこと」をしない人、あなたの周りにいませんか?
職場や家庭で、誰もが自然とできることをやらず、周りを困惑させる人々。その原因は、性格や知能ではなく、脳の「認識」の違いにあった! 置かれた状況をうまく認識できない――そんな「共感障害」を持つ人と、どうすれば意思疎通を図れるのか。ベストセラー『妻のトリセツ』著者が脳科学から読み解く、驚きの真相。
男たちの気持ちがわかる理由
「定型」を知る
大阪のいじり
京都のはんなり
江戸っ子のすかし
SNSという共通語
ツイッターだと炎上する?
地域差よりもSNS差
人が自分と同じ感覚だと思い込む危険
脳は、世界のすべてを見てはいない
女は男の遺伝子に惚れる
男力を見抜く認識フレーム
美男美女の災難
体臭も重要である
カクテルパーティ効果
「世界」は、脳が作っている
人生の「主賓客」
わかってもらえないのは、認識フレームが違うから
後ろ向きじゃないのに!
認識フレームが違えば、正義が違う
キャッチフレーズを付けよう
人生の黄金の扉
時代が違えば、人の気持ちも違う
尖った時代、べた甘な時代
大衆全体の認識フレームには周期がある
若者が傷つきやすい時代
人生は認識フレームで出来ている
左利きのお尻には“くぼ地”がある?
脳と利き手
逆手使いのアドバンテージ
ものが消える
探していた1ピース
母語が違えば、脳が違う
魔の
フルムーン・ベイビー
勝ち負けって、なんだろう
それでも、男女は違っている
マイノリティの居場所を作る
みんな何かのマイノリティ
脳の理想の使い方
エリート脳、二世脳
天才脳、「時代の寵児」脳
典型フレーム優先か、独自フレーム優先か
自閉症という名称の弊害
自閉症を経済力に変えるアメリカ
障害としての自閉症
感じすぎる脳は、「世界」がわからない
ことば獲得のメカニズム
ことばの始まり
ミラーニューロンが「ことば」と「世界」を創る
「存在」をうまく認知できない自閉症児の脳
愛が足りない?
愛では解決できない
早期療育だけは特別
増え続けている発達障害
ESDMを脳科学で考える
「ぎりぎりセーフ」のほうが深刻
「判定」されない共感障害
自閉症スペクトラム
社交的な共感障害者もいる
私が自閉症?
葉を見て、森を見ず
思い返せば問題児
自閉症なのに、コミュニケーションの専門家
見れば、踊れる
自閉症児はミラーニューロン過活性だった!
記憶の「静止画」
素数の匂い?
ADHDは自閉症の対極
ADHDの素敵な個性
脳内ホルモンが、脳を動かす
ジェットコースターも怖くない
個性か、成績か
エリートを目指さなければいい
「世間をなめているように見える」を自覚する
第三の共感障害
共感障害の正体
二つの指導法
共感障害者を導く方法
「ウルトラマンのカラータイマー」を使え
うなずくこと、メモすること
エナジー・バンパイア
カサンドラを疑え
自分が共感障害かもしれないと思ったら
「気がつかなくて、ごめん」は何より大事
周囲の所作が「風景の一部」に見えている
なぜ、おしり拭きを取ってくれないの?
大人になったら、友だちは選んでいい
やる気のない部下が、かわいい部下に化ける
割り算ができない?
数学のセンスも共感力
共感障害が増えている理由
共感力は授乳中に作られる
人類を進化させよう
書誌情報
読み仮名 | キョウカンショウガイハナシガツウジナイノショウタイ |
---|---|
装幀 | 新潮社装幀室/装幀 |
発行形態 | 書籍 |
判型 | 四六判変型 |
頁数 | 208ページ |
ISBN | 978-4-10-352551-6 |
C-CODE | 0095 |
ジャンル | 政治・社会 |
定価 | 1,100円 |
書評
「認識の違い」が分かれば前進できる
この本は、まるで僕の大好きなちらしずし。テーマである「共感障害」を主軸に、認識の違い、発達障害、自閉症、子育てなど脳科学に関連する重要なトピックが彩り豊かに論じられています。
本書によると「共感障害」とは、一種の脳の認識のトラブル。このトラブルがある人は、挨拶を返さなかったり、適切なタイミングでうなずかなかったり、目を合わさなかったり、つまり「当たり前」とされることをしない。なぜそうなるかというと、自分が置かれた状況を脳が認識できていないから。そのため、「暗黙のうちに学ぶ」ということができません。こういう人がいると、当然周りは困ります。でも、彼らを「気が利かない」「やる気がない」「性格が悪い」と決めつけるのではなく、その認識のしかたの違いを理解して彼らにも分かるように行動すれば、お互いが楽になるというのです。
本書には、こういう人が職場や家庭にいて困っている人へのアドバイスだけでなく、自分が「共感障害」だと感じる人への具体的アドバイスも書かれています。三章構成で、「第一章 脳が違えば、見ているものが違う」は、「第二章 共感障害とは何か」「第三章 共感障害と生きる」へ至る前の「基礎知識篇」という位置づけ。でも、この第一章に「脳の認識」について、とても重要なことが書かれています。黒川さんのご専門ともいえる「男女の違い」もありますが、「江戸っ子のすかし」「京都のはんなり」「大阪のいじり」といった地域別の認識の違いのエピソードが「認識のしかたの違い」を理解するのに絶妙の例。全国各地を講演で廻った経験から、僕にも思い当たることがたくさんありました。今もテレビ番組の仕事のために、毎月一回大阪に通っているのですが、同じ関西の滋賀県出身の僕でも、いまだに大阪に行くたびにマナーの違いに驚かされていますから。
この認識のしかたの違いは、異なる宗教観による正義の違いなど、国際政治や外交でも当然生じることでしょうから、重要なテーマです。意見や行動の相違が「認識のしかたの違い」によるものとわかれば、そこから議論を重ねて本当の意味で理解し合えるのではないでしょうか。それが「絆」と声高に言うような表面的なつながりではなく、深いつながりを生むことになると思います。
さて、「共感障害」ですが、教育の現場では1990年代後半から、小学校の先生が「当たり前のこと」ができない児童について話題にし始めました。ある先生によると、クラス全員に「みんな、わかった?」と呼びかけても、何人もの子が知らん顔する。「鈴木くん」「山田くん」と名指ししたり、「六班の五人」と特定して呼びかけたりしないと応えない。「みんな」という概念を認識しなくなっているというのですね。これが第一波とすれば、次の大きな波は本書でも論じられているとおり、近年のSNSの影響です。2010年頃から、大学のゼミが崩壊寸前という話があちこちで聞こえてきました。SNSでのコミュニケーションが学生の中心になり、教室での議論や決定が軽視されるようになったのです。僕のゼミでは、「SNSは『連絡事項』だけに限定して、『議論』はしない」という決まりにして、やっと崩壊を免れました。
もちろん、SNSすべてが悪者というのではありません。本書でもインスタ、ツイッター、フェイスブックの違いが論じられていますが、画像主体のインスタとことばが主体のツイッターやブログでは、僕の実感でも明らかに違いがありますね。黒川さんが書いているように、写真は「対象の状況」で、ことばは「投稿者のものの見方」。「ものの見方」には反論したくなる人もいるのでしょうが、「状況」に対して反論は生じにくい。確かに、僕のブログは何度も炎上しましたが、インスタには、一方的な反論はめったに届きません。
僕が専門とする臨床教育学は、現場で「探検」し、問題点を「発見」して、「こりゃあほっとけん」と解決へ向けて乗り出す。診断からお薬を処方するまで患者さんの面倒を見る町医者みたいな学問です。本書は、「臨床脳科学」ではないでしょうか。黒川さんが実際に見聞きしたことから「共感障害」を発見し、自己体験も盛り込んで、ママ目線、庶民目線の現場感覚をもって解決へと乗り出していった。ご自身が自閉症スペクトラムと分かって驚いたことや、ひとり息子を育てた経験談など、思わず笑ってしまうほどおもしろい。
「共感障害」に悩んでいる人だけでなく、脳科学の本を読んだことがない人、お母さんお父さん方、教育学の研究者を含め学校の先生にも読んでほしいです。分野を超えていろんな議論が生まれ、コミュニケーションの問題解決へと前進できるといいですね。
(おぎ・なおき 教育評論家)
波 2019年5月号より
単行本刊行時掲載
著者プロフィール
黒川伊保子
クロカワ・イホコ
1959(昭和34)年、長野県生れ。奈良女子大学理学部物理学科卒。株式会社感性リサーチ代表取締役。メーカーでAI研究に携わったのち、ことばの感性の研究を始める。気持ちよいと感じることばに男女の違いがあることを発見、独自のマーケティング論を拓く。著書に、『恋愛脳』『夫婦脳』『運がいいと言われる人の脳科学』『家族脳』『成熟脳』『「話が通じない」の正体』『妻のトリセツ』『夫のトリセツ』など。