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わたしたちに翼はいらない

寺地はるな/著

1,815円(税込)

発売日:2023/08/18

  • 書籍
  • 電子書籍あり

他人を殺す。自分を殺す。
どちらにしても、その一歩を踏み出すのは、意外とたやすい。

同じ地方都市に生まれ育ち現在もそこに暮らしている三人。4歳の娘を育てるシングルマザー――朱音。朱音と同じ保育園に娘を預ける専業主婦――莉子。マンション管理会社勤務の独身――園田。いじめ、モラハラ夫、母親の支配。心の傷は、恨みとなり、やがて……。2023年本屋大賞ノミネート、最旬の注目度No.1作家最新長篇。

書誌情報

読み仮名 ワタシタチニツバサハイラナイ
装幀 コハラタケル/写真、新潮社装幀室/装幀
雑誌から生まれた本 小説新潮から生まれた本
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判
頁数 240ページ
ISBN 978-4-10-353192-0
C-CODE 0093
ジャンル 文芸作品
定価 1,815円
電子書籍 価格 1,815円
電子書籍 配信開始日 2023/08/18

書評

わたしたちを助けてくれる小説

前田敦子

「自分だけが、ひとりぼっち」。そう思いがちな私に、寺地はるなさんの長編『わたしたちに翼はいらない』は、優しく寄り添ってくれました。
 この作品に登場する朱音、莉子、園田は、子どもの頃に負った心の傷を癒やせないまま、大人になりました。
 最初はそれぞれの生活が静かに描かれていますが、三人が交差し始めてから徐々にサスペンスのような展開になって、驚きました。とりわけ莉子と園田は危ない橋を渡りそうになって――。
 これまでの人生、それほど本を読んでこなかったのですが、場面ごとに自分の中から様々な感情が湧き上がってくるので、「次は誰が、どうなってしまうんだろう」と期待が止まらず。夜な夜な読みふけってしまいました。
 私には彼らのような経験はありませんが、心に少しすき間ができた時、ふいに出会った誰かに依存してしまう人は実際に存在して、私ももちろん例外ではないと自然に思えて。小説ですが、ドキュメント作品のような印象も受けました。
 朱音と莉子が喫茶店にいる場面では、人間関係のズレが生まれる瞬間を目の当たりにしました。同じ場所にいるのに二人の心の声がまるで違うんです。
 シングルマザーの朱音は飄々としているようで、実はかなり周囲を気にしていて、ワンオペで育児と家事をこなし夫のパワハラに耐える莉子は保育園のママ友との関係性を考え過ぎている。
 苦しみはそれぞれ切実だけど、全然違うことを考えていて、「あぁ、だから大人になるにつれて、『なんでこんなに』と思うほどに人間関係は複雑にゆがむんだ」と、日頃疑問に感じていたことに答えが見つかりました。
 私は、ひどいいじめを目撃したことも、その被害にあったこともありません。けれど、幼い頃の対人関係はトラウマのように残ってもいるし、「悩みなんてなさそう」と思われていても、大人になった今だって悩みは尽きない。
 自分で下した決断なのに「これで良かったのかな」と不安になることもある。それでも、そういう想いを抱えていても、「これが私の人生だと思えるのならいいんだ」と気付かせてもらいました。
 結婚や出産などで自分自身を最優先できなくなった時、将来が明るく感じられなくなってしまう女性も多いと思います。
 そういう人達がこの小説を読んだら、私が感じたみたいに、自分の人生に安心できるんじゃないかな。この作品は、わたしたちを助けてくれる小説です。

寺地はるな『わたしたちに翼はいらない』書影

(まえだ・あつこ 女優)
波 2023年9月号より
単行本刊行時掲載

著者プロフィール

寺地はるな

テラチ・ハルナ

1977(昭和52)年佐賀県生れ。大阪府在住。2014(平成26)年『ビオレタ』でポプラ社小説新人賞を受賞しデビュー。2020(令和2)年『夜が暗いとはかぎらない』が、山本周五郎賞候補。2021年『水を縫う』が吉川英治文学新人賞候補となり、同年同作で河合隼雄物語賞を受賞する。2023年『川のほとりに立つ者は』が本屋大賞9位に入賞、『わたしたちに翼はいらない』が大藪春彦賞候補となる。他の作品に『カレーの時間』『白ゆき紅ばら』など。

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