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迷子の龍は夜明けを待ちわびる

岸本惟/著

1,705円(税込)

発売日:2021/03/17

  • 書籍
  • 電子書籍あり

少年の消えたその山で、私は私の運命と出会う――。【日本ファンタジーノベル大賞2020 優秀賞】

余命わずかな老人のために、天空語で書かれた日記を読んでやってほしい。天空族のセイジはその依頼を受けることに。しかし、訪れた山の屋敷には、ある家族を襲った哀しい事件の真相と、天空族の秘密が眠っていた。過去を打ち明けないまま消えていこうとする龍と、さまよう少年の亡霊を救うために、セイジはある決意をする。

  • 受賞
    日本ファンタジーノベル大賞 2020 優秀賞

書誌情報

読み仮名 マイゴノリュウハヨアケヲマチワビル
装幀 tono/装画、新潮社装幀室/装幀
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 256ページ
ISBN 978-4-10-353911-7
C-CODE 0093
ジャンル 文学・評論
定価 1,705円
電子書籍 価格 1,705円
電子書籍 配信開始日 2021/03/17

インタビュー/対談/エッセイ

会社員の私がストレスで小説家になった件

岸本惟

美しい自然描写は、窮屈な職場環境の反動だった!? 期待の新人のデビュー前夜とは。

 子供の頃からずっと書くことは好きだったのですが、本格的に書くようになったのは2015年頃のことです。その時に働いていた会社は高層ビルの上層階にあって、季節の移ろいも感じられないような環境で息が詰まってしまって。それに、待機時間が長かったんです。さすがに本を読んだりするわけにはいかなかったのですが、何か書くことはできたので、仕事の合間にノートに思いついたアイディアを書いてみたりして。ちょこちょこ小説も書いていました。
 そうやって息抜きしていたつもりだったのですが、ストレスフルな職場環境にすっかり疲れてしまって、結局、次の仕事も決まっていないのに退職することになりました。合理性の塊のような都会のオフィスビルで働くことに疲弊して、もう抜け殻のようだったんです(笑)。無職になって転職するまでの半年間はゆっくり小説を書いていました。その時期に書いたのが「植物たちの隠れ家」という作品で、2018年の日本ファンタジーノベル大賞の最終候補にしていただきました。あのお話は実は自分を癒すために書いたようなもので、自然が沢山出てくるのは頭の中を大好きな自然でいっぱいにしたい気持ちがあったからなんです。書いている間ずっと楽しかったのを覚えています。
 昔からファンタジーノベル大賞のファンというか、注目していたもので、それまでの受賞作も読んだりしていました。ファンタジーといっても、ジャンルの枠に留まらない時代小説やSF、青春小説もあって、懐が深いところが魅力で。でも、まさか初めての応募で最終候補に残していただけるとは思いもしなかったので、本当に驚きました。
 ご連絡をいただいてから選考会まで一ヶ月あったのですが、すっかり浮き足立ってしまって、どうやって暮らしていたのかと思うくらい記憶がありません。その時は受賞はできませんでしたが、憧れの存在だった選考委員の先生のご感想を聞けたので、何だかすごいことが起こったぞと思いました。それまで自分の書いた作品を誰かに読んでもらう機会もあまりなかった分、好意的なご感想をいただいたり、技術的な問題点についてご指摘いただいたりしたことがあまりに鮮烈で。
 翌年応募した作品は最終には残りませんでしたが、二次選考までは上がったので、前年の候補入りもただのビギナーズラックではなかったのかもしれないと少し手応えを感じました。それに、以前の応募作を覚えていて下さった編集者さんから感想やアドバイスをいただいたりして、とても嬉しかったんです。だから今ここで書くのを止めるべきではないなと思いました。
 そうして三回目に応募したのが、受賞作となった「迷子の龍は夜明けを待ちわびる」です。元々は祖母を亡くして遺品を片付けに行ったら龍が炬燵にいた、というようなお話でした。でも書き始めたら、どんどんストーリーが変わってきて。あれこれ設定を直しながら書き進めていたので、主人公を少数民族である天空族ということにしたのもかなり後になってからでした。
 一年間かけて書き終えて、また応募はしてみたものの、設定が固まっていないまま書き始めてしまったのでダメかもしれないと思っていました。だから、最終に残ったことに驚いて。未熟な点があるのもよく分かっていましたし、正直まだとれないだろうと思っていたので、来年はどんなお話を書いて応募しようかと考えていたんです。
 更にそれが受賞したと聞いて勿論すごくびっくりしたのですが、受賞発表の小説新潮に掲載するコメントやプロフィールの締め切りまであまり時間がなかったので、一気に慌ただしくなって。ようやく実感がこみ上げてきたのは掲載誌を受け取った時でした。同時に、こんな状態でデビューしてしまうことに不安も湧いてきて……。今も心配は尽きませんが、とても美しい装画を描いていただいたので、本を手に取っていただくのが楽しみです。
 自分の経験から、同じく文学賞の新人賞を目指している方に言えることがあるとすれば、やりたいと思った時にやらないと結局いつまでも走り出せないので、エンジンがかかった瞬間にぜひ実行してほしいということです。私も書きたいと思っていたのに漫然と過ごしていた時間が長く、後悔もあるので……。「“いつか”は永遠にそこにあるわけじゃない」という意味の台詞を「迷子の龍」でも主人公に言わせたのですが、それは私がずっと思っていることです。何に時間を使うかは、何に命を使うかと同じことなんですよね。私もそれを忘れないように、これからも書いていきたいと思います。 (談)

(きしもと・たもつ 作家)
波 2021年4月号より
単行本刊行時掲載

著者プロフィール

岸本惟

キシモト・タモツ

千葉県出身。2020年、「あけがたの夢」(「迷子の龍は夜明けを待ちわびる」に改題)で日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞してデビュー。植物、犬、深煎りコーヒーが好き。好きな木はシマトネリコ、バオバブ。

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