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こんなにバイトして芸人つづけなあかんか

ピストジャム/著

1,430円(税込)

発売日:2022/10/27

  • 書籍
  • 電子書籍あり

慶應卒、吉本所属、芸歴20年。僕はずっと手取り13万円で生きてきた――。

極貧生活を招いた時給90円の深夜バイト、笑いが止まらない超絶ラクな自治体仕事、金髪NGを突破する裏ワザ、二度と経験したくない飛び降りの後始末、宅配ピザチェーンをかけもちしたばかりにミスを連発した話など。これまで一度も売れなかった芸人が、やむにやまれず生業としてきた数多のアルバイト遍歴を綴るエッセイ集。

目次
はじめに
第1章 バイト遍歴、語ります
達磨と僕とスキンヘッド
特攻服を着たマルコムX
「てめぇ殺すぞ」
これ以上殺すことはできない
六缶和尚、テンパる
社長さんの秘密
寝床はコンクリートの上
就職活動しないなんてありえない
ブルースをけとばせ
第2章 売れない芸人の「やむにやまれぬ」バイト事情
ヒクソン・グレイシーばりに
俺は神だ!
片道3時間半のバイト
アウトなバイト
下北沢で一番小さなバー
先輩づらで赤っ恥
第3章 バイト先で起こったトンデモ事件簿
恐怖のピザ配達人
店長補完計画
ご近所バイトのリスク
これが集団無視か
バイトガチャの勝敗
じゃ、あとはよろしくお願いします
二度の事故で身に染みた
僕たちの受験勉強
かけもちのすすめ
ポスティングで出会った光り輝く少女
金髪NGはヅラで突破
第4章 こんな仕事アリ!? 驚くべきバイトの世界
こんなバイトどうやって探すねん
OASISには会えなかったけれど
笑いが止まらない超絶ラクなバイト
アイドルのチェキスタ
先輩のお宅に緊急出動
管理職は鼻ピアス
ピストジャムワールド
芸人の本業
社長さんの代わりに
年越し助っ人バイト
報酬は油そば
伝説の語り部
おわりに

書誌情報

読み仮名 コンナニバイトシテゲイニンツヅケナアカンカ
装幀 平野光良(新潮社写真部)/写真、新潮社装幀室/装幀
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 208ページ
ISBN 978-4-10-354821-8
C-CODE 0095
ジャンル ノンフィクション
定価 1,430円
電子書籍 価格 1,430円
電子書籍 配信開始日 2022/10/27

書評

芸人じゃなければ100点満点

中山功太

 その男は毎年欠かすことなく、元旦にLINEでこんな年頭の挨拶を送ってくる。「今年こそはバイトを辞められるように頑張ります」。このメッセージの送り主は、僕と同じ吉本所属のピン芸人、ピストジャムだ。
 彼との付き合いはもう10年ほどになる。たまたまライブで一緒だった時、向こうから声をかけてきたのがきっかけだった。ぱっと見、高身長でハンサム、物腰も柔らかで、僕の知る限り、こういうタイプの芸人は本当に珍しい。それから何度か会ううちに、同じ関西出身、年も二つ違いということで気が合い、ちょくちょく遊ぶようになった。やや褒めすぎかもしれないが、彼ほど言葉遣いが丁寧で、気配りもでき、信頼のおける奴はなかなかいない。
 本書は、そんなピストジャムが初めて書いたエッセイ集である。タイトルにある通り、テーマはアルバイト。今年で芸歴20年を迎えた彼が、やむを得ず生計を立てるために続けてきたバイト経験を綴っている。
 芸という本業だけで食べている芸人がほんの一握りであることは、僕も痛いほどわかっている。「R-1ぐらんぷり」で優勝経験のある自分自身も、東京進出後はぱったりと仕事が来なくなり、ほんの数年前まで都内のバーや薬局でバイトをしていた。下積み時代も含め、芸人は、芸人であり続けていくためにバイトを続けているのだ。
 様々なバイトをしていることは彼から聞いていたが、実際にエッセイを読み始めて驚いた。とにかくありとあらゆる職種を経験していて、そのエピソード一つ一つがめちゃくちゃ面白い。こんなに文章が巧い奴とは知らなかった。
 子どもの頃からずっと親に期待されてきたピストジャムは、やがて慶應大学への推薦入学を果たした。だが、漠然とバイトだけで食っていける自信のあった彼は、親の期待に応えるのはもう御免だと、普通に就職することを止める。「とりあえず就活はした」という言い訳のために何社かエントリーしたものの、わざと上半身裸の写真を貼った書類を送り付け、それでも通過した面接ではふざけた受け答えを繰り返した。そして、何故か最終まで進んだ商社では、女性社員が美人ぞろいで心が揺らぐが、予想外の緊張のために最後の最後で撃沈してしまう。
 高身長で高学歴、ちゃんと就職して高収入を得られれば、いわゆる3高でモテまくっただろうに、結局は芸人の道を選び、それを拒絶したのである。僕からすると、本当にもったいない。そこから彼の長いバイト生活が始まる。
 とここまで書くと、単なる人生の選択を誤った男の話に聞こえるかもしれないが、本来は勉強家で、誰からも信頼される誠実な男であるピストジャムは、そのバイト先でまさにプロフェッショナルな仕事ぶりを発揮する。
 酒屋の配達では、時間を短縮しようと無駄のないルート探しを怠らない。ピザ屋の配達の仕事はどの店もほとんど同じだと気づき、同じ地区で3チェーンを掛け持ちする。ウィークリーマンションの夜の管理人バイトでは、突然起きた飛び降り自殺の後始末をして、毎朝線香をあげる。知り合いのお嬢さんの家庭教師を引き受け、配点から考えたテストの解き方を教えて志望校に合格させたエピソードは、彼のあまりの優秀さに、僕は思わず「家庭教師だけやれよ」と突っ込んでしまった。
 ちょっと失礼な言い方ではあるが、彼は、芸人じゃなければ100点満点の人間なのである。
 しかし、僕は同時に、彼の芸人としての才能も認めている。誰よりも笑いを愛しているし、平場のトークも面白い。ただ、彼には「欲がないな」と感じていて、本人に伝えてもきょとんとしていたのだが、この本を読んで腑に落ちた。彼にとっての欲望は、バイトをしなくても芸人を続けられる未来なんだと。元旦の「今年こそはバイトを辞められるように頑張ります」は、彼の心からの願いだった。
 最近になって、彼にも風が吹いてきた。本書の後半に出てくるのだが、アイドルイベントのMCの仕事が定着してきたのである。会場を仕切るトーク力はあるし、アイドルに手を出すようなことは絶対にないと、彼女たちの所属事務所から信頼されているのだと思う。
 そのピストジャムから、急に電話がかかってきた。いつもならLINEで済ませているのに直電なんて、もしや「辞めます」なんて話じゃないだろうな。少し躊躇した後に電話に出た。彼は丁寧に名乗った後、こう言った。「今度、僕の本が出るんです。その書評を書いていただけませんか」。それで僕はこの原稿を書いている。彼がずっと芸人を続けてくれることを願いながら

(なかやま・こうた 芸人)
波 2022年11月号より
単行本刊行時掲載

著者プロフィール

ピストジャム

ピストジャム

1978年9月10日生まれ。京都府木津川市出身。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。大学卒業後、こがけんを誘って吉本興業の養成所へ入所(東京NSC7期生)。2002年4月にデビューし、「マスターピース」「ワンドロップ」など、いくつかのコンビを経て、ピン芸人となる。ネットメディア「FANY Magazine」で「シモキタブラボー!」を連載中。アイドルのイベントMCなどでも活躍。下北沢カレーアンバサダー。かまぼこ板アート芸人。

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