ホーム > 書籍詳細:母親になって後悔してる、といえたなら―語りはじめた日本の女性たち―

母親になって後悔してる、といえたなら―語りはじめた日本の女性たち―

高橋歩唯/著 、依田真由美/著

1,650円(税込)

発売日:2024/10/24

  • 書籍
  • 電子書籍あり

ずっと忘れていた。私は私なんだということを。NHK「クローズアップ現代」から待望の書籍化。

「母親なんだから」と我慢を強いられ、自らの「理想の母親像」に縛られ、理不尽な目に遭っても口をつぐんできた――「後悔」を口にした日本の女性たちは、どのような人生を歩み、何を経験してきたのか。切実な想いを丁寧に聞き取った、社会現象になった話題書『母親になって後悔してる』の「日本版」というべきインタビュー集。

目次

はじめに

1章 母親の「責任」
「女腹」と呼ばれた母/充実した仕事と急いだ結婚/前向きな気持ちで始めた子育て/寝ない、食べない息子/分娩台で泣きながら第2子を出産/子どもをコントロールするのが母親?/息子の思いもよらない言葉/母親をやめる/それでもケアは続く/夢はないし輝かなくていい

2章 「理想のお母さん」とのギャップ
産んで楽になりたい/髪を切る時間もない/良いお母さんにならなくては/乳幼児健診でダメージ/仕事も家庭も「ちゃんと」/ワンオペで信頼関係は崩壊/愛情深くない母親だな/父親像とのダブルスタンダード/こころの健康相談に連日電話/「あなたはどう思うの」/お母さんらしくなくていい/母親業は充足感につながらない/自分らしさをかき集めた/後悔の意味

3章 消えてゆく自分
専業主婦の母への反発/良妻賢母を育成する高校/「早く子どもを作りなよ」/産んだ瞬間に感じた後悔/「母親」になった自分と、変わらない夫/自分が透明になっていく/育児にかこつけて遊んでる?/取り戻した自分の名前/子ども会やPTAの役員 求められる無償労働/「頑張りすぎなくて大丈夫」

4章 働く母親
氷河期の就職「女子は中途半端」/両方を手にするのが「自己実現」/復帰で思わぬ異動/営業復帰も「できていたことができない」/忙しい管理職の夫と帰宅後嵐の4時間を過ごす妻/実母のバックアップに助けられるも/41歳で「中年の危機」?/夫婦間の認識の差/分担のせめぎ合いのなかで/自分の限界を受け入れた/「両立」の答えは見えない

5章 ぬぐえない罪悪感
自立した女性への憧れ/天職だったホステスの仕事/予期せぬ妊娠/出産を喜べない/「母親」であることを楽しめない罪悪感/家事育児が十分にできていない罪悪感/自分らしく生きることへの罪悪感/ふたつの罪悪感/罪悪感と共に生きていく

6章 子どもを絶対に愛せるか
就職で夢を叶えるも職場復帰は選べず/母乳育児に熱心な病院/行政に助けを求めるも/男の子を産んでほしい/「産後うつ」だったのかもしれない/このままだと子どもを殺してしまいます/職場復帰に壁/特別養子縁組もよぎった「心はロボット」/1年後の取材で心境に変化/夫にも変化が

7章 社会の構造を変えるには
「子育て罰」 といわれる社会/「中国に行きたい」変わり者の少女が抱いた夢/避妊を拒まれて/中絶の同意がもらえない/逃げられない母親と逃げられる父親/弱音を口に出してはいけない/新生児の遺棄事件や虐待、父親はどこへ/「社会を足元から変えたい」市議会議員の道へ/母親の参加を前提としていない議会/「母親」でなく「保護者たち」で育児をする社会に

8章 母親になったのは自己責任?
母親になった葛藤描くセルフ・ドキュメンタリー/私の不幸は自分のせい/「女性」という型にはめられて/保育園に落ちて復学できない/「若い女性」から「理想の母親」に/夫が悪いのか、社会が悪いのか/どんなに“いい子”でも/自分で決めたことだから後悔してはいけない/子育てで生じた問題は自己責任なのか

9章 子どもはどう思う?
子どもにとっての母の後悔/母から「人生返して」と直接言われた子ども/不意に聞いてしまった子ども/小学生での忘れられない言葉/妹を守ろうとした姉/自己否定と回復までの長い年月/「後悔」が子どもを傷つけないケース/子どもたちはどう思ったのか/娘から見た「母親像」の違和感/子どもたちが想像する未来は/母親の後悔と子ども

終章 母親の「後悔」の意味
母親たちの実像/後悔する理由/誰と比較しているか/社会か個人か/選択肢はあったか/後悔の効果/怒りを伴う激しい非難/父親の視点/後悔の先へ

おわりに
注記

書誌情報

読み仮名 ハハオヤニナッテコウカイシテルトイエタナラカタリハジメタニホンノジョセイタチ
装幀 早瀬とび/装画、新潮社装幀室/装幀
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 288ページ
ISBN 978-4-10-355841-5
C-CODE 0095
ジャンル 文学・評論、社会学、コミュニティ、思想・社会
定価 1,650円
電子書籍 価格 1,650円
電子書籍 配信開始日 2024/10/24

書評

「母親にならない方がいい」と言われた私が母親になって

佐野亜裕美

「あなたは母親にならない方がいいと思う」と言われたことがある。
 その言葉を聞いた時、なんだか妙に納得してしまった。こんなに独善的で他者に厳しくて不寛容な自分が、子供を愛せるような気がしなかった。ちょうど不妊治療を続けるかどうか悩んでいた時だったから、そこでやめればよかったのかもしれない。それでもなぜか諦められなかった。まあ40歳までは続けてみようと治療を継続したものの、その言葉は絶えず私につきまとった。不妊治療にまつわる様々な選択をするたびに「母親にならない方がいいお前が、本当に母親になる気なのか?」と誰かに問われているような気持ちになった。流産を経験したときには、「やっぱり自分は母親になるべきではないのか」と感じた。
 その後妊娠し安定期に入った時、その人に妊娠のことを伝えざるを得ない状況になって伝えたところ、(それはもちろんそうなるだろうとは思っていたけれども)非常に喜んでくれた。そして私は思い切って聞いてみた。私のどういうところがそう思わせたのか? と。
「そんな言葉を言ってしまったことを申し訳なく思う。その上で、なぜそう言ったのかと聞かれたら、こう答える。あなたはまだ自分自身を本当の意味で大切にできていないように見える。自罰と自責をやめられない限り、その自罰の刃は必ず自分を貫いた後に子供に刺さると思う」
 子供が生まれてもうすぐ一年がたつが、その間、この「自罰の刃」について考えなかった日は一日もない。今も毎朝起きると「今日も自分を責めない」と心に誓うことから始めるし、「子供に刃が刺さっていないか? ちゃんと愛せているか?」をたびたび確認してしまう。まだちゃんと“母親”をやれていないような、漠然とした不安はずっと続いている。「母親にならない方がいい」という言葉を言ってくれたことには感謝しているが、どうやったら自罰と自責をやめられるのか、その答えはまだ出ていない。
 今回この書評の依頼をいただき、まずこの本ができるきっかけとなったイスラエルの社会学者オルナ・ドーナト氏の『母親になって後悔してる』を一年ぶりに読み返してみた。ちょうど妊娠中に読んでいたので、その時は何となくまだ自分は取材者のような立場で、観察するように母親たちの言葉を追ったものだった。子供が産まれ、母親という当事者になった今は、全く違う本のように感じられた。その切実さも祈りも、取材対象としてではなく、自分自身の延長線上に存在するように身近なものになっていた。
 そして本書を手に取ると、自分に刃を刺さざるを得ない数多の母親たちの姿がありありと描かれていて、一人一人の言葉を読み進めるごとに、涙が止まらなくなった。どの言葉にも深く頷き、その痛みを想像して苦しくなってしまった。どう追い詰められてきたか、そこからどう抜け出したか/抜け出せていないか。その過程は人によって様々だが、社会のありようも人々の価値観も大きく変化していく中で、世間が考え、押し付けてくる「母親」の役割についてはなぜかほとんど変わらない、ということに起因して追い詰められているケースが多いように感じられた。
 育児は減点方式だと思う。“女が子供を産み育てることは普通にできて当たり前”とされる社会の中で、今日は離乳食を食べてくれなかった、絵本を読んであげられなかったと、毎日小さな減点が積み重なっていく。どんどん追い詰められていき、できない自分を責め、罰してしまう。自分だけがうまくできないように思い、深い孤独を感じる。私自身も育休期間中はほぼそんな日々だったような気がするし、今もまだ続いている部分もある。たとえば夫と遊んでいた娘がぐずり始め、そばにいって抱き上げると娘が泣き止む。「やっぱりママが好きなんだね」と夫に言われたとき、私は喜びよりも先に「よかった、母親をちゃんとやれているんだ」と安堵してしまう。そこで泣き止まなかったら、また減点されたようで落ち込む。だからこの本を読み、月並みだが「自分だけじゃないんだ」と、誰かから許してもらったような気持ちになった。
 頼ることができる人が身近におらず、孤独な状態で乳児の育児に追われている今の自分が、果たしてこの本の的確な書評を書けているかはわからない。あまりに切実さの親和性が高すぎて、冷静に読めていない部分もあるかもしれない。でも一つだけ言えるのは、ここに登場してくれた母親たちの言葉によって、自分も語りはじめることができた、ということだ。冒頭に書いたエピソードは、これまでごく身近な人にしか話したことがなかったし、恥ずかしいことなので話すつもりのなかった話だった。母親にならない方がいいと思われるような自分でもどうにか母親をやっている。そのことを語ることが、誰かの気持ちを楽にすることもあるかもしれないと思った。この社会で生きる母親たちが抱える困難は、一朝一夕にどうにかなるようなことではないが、この本のタイトルが示すように「語りはじめる」ことが、何かを変える大きな一歩になるように思えるのだ。

(さの・あゆみ ドラマプロデューサー)

波 2024年11月号より
単行本刊行時掲載

著者プロフィール

高橋歩唯

タカハシ・アイ

1989年新潟県生まれ。2014年NHK入局。松山放送局を経て、報道局社会部記者。『母親になって後悔してる、といえたなら―語りはじめた日本の女性たち―』のきっかけとなったWEB特集「“言葉にしてはいけない思い?” 語り始めた母親たち」、クローズアップ現代「“母親の後悔” その向こうに何が」を執筆・制作。家族のかたちをテーマに取材。

依田真由美

ヨダ・マユミ

1988年千葉県生まれ。2015年NHK入局。札幌放送局を経て、報道局社会番組部ディレクター。クローズアップ現代「“母親の後悔” その向こうに何が」のほか、同「ドキュメント “ジェンダーギャップ解消”のまち 理想と現実」、BSスペシャル「再出発の町 少年と町の人たちの8か月」などを制作。若者やジェンダーの問題を中心に取材。

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