
崖っぷちの老舗バレエ団に密着取材したらヤバかった
1,760円(税込)
発売日:2024/12/18
- 書籍
- 電子書籍あり
破たん寸前の苦境から「チケット即完売」の超人気バレエ団へ!
起死回生の一手はリアルで過激なドキュメンタリーYouTube! 「トウシューズを買うのも苦しい」週5バイトの新人バレリーナ、「コロナと戦争で解雇された」ロシアの元プロバレエ団員、動画に批判殺到で「生きた心地がしなかった」芸術監督。個性豊かなダンサーたちと若きディレクターが織りなす、涙と汗の青春ノンフィクション。
はじめに
ダウンタウンに憧れ、お笑い芸人を夢見た10代
超ブラック 地獄のテレビAD生活
テレビディレクターで年収1000万円
人生初のYouTube
バレリーナを撮ってください!
バイトが当たり前 まったく知らないバレエの世界
警戒するバレリーナ 密着撮影開始
ロシアから日本へ 期待の新人
バレエとお金 プロバレエ界のリアル
戦争で帰国 ロシア帰りバレリーナの赤裸々告白
週5バイトのバレリーナ
バレエ素人、初のバレエ観劇で衝撃の結末
バレエ監督の告白「友達に勧められません」
YouTubeでバレエをどう描く?
2分の動画、編集作業は100時間
YouTube配信スタート
批判殺到
動画は誰かを幸せにしているか?
生きた心地がしませんでした
最高年収700万円
バレエ階級トップ プリンシパルになりたいですか?
バレエと子ども、皮肉な話
「あの子、太った?」バレエとルッキズム
男でバレエ なぜ?
バレエ団との衝突 チャンネル存亡の危機
結 論
『くるみ割り人形』禁断の舞台裏
バレリーナの涙
前代未聞の挑戦
22歳、週5バイト「私は恵まれてます」
チケットが売れない!
週5バイトから主役へ 世紀の大抜擢
次元が違う イギリスのトップバレリーナ
43歳、産後復帰、主役挑戦
激 痛
サムネ変えてください
人気と実力 チケット完売後の悩み
ロシアor日本 人生の岐路
『白鳥の湖』開幕
運命の32回転
終演後、想定外の出来事
入団1年目の主役の涙
急にいなくならないでください
衝撃の連絡
バレエだけで食べていく
史上初の快挙
一緒にロシアへ行きませんか?
終わりに
書誌情報
読み仮名 | ガケップチノシニセバレエダンニミッチャクシュザイシタラヤバカッタ |
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装幀 | ネコポンギポンギ/装画、新潮社装幀室/装幀 |
発行形態 | 書籍、電子書籍 |
判型 | 四六判変型 |
頁数 | 256ページ |
ISBN | 978-4-10-355971-9 |
C-CODE | 0095 |
ジャンル | 文学・評論、芸能・エンターテインメント |
定価 | 1,760円 |
電子書籍 価格 | 1,760円 |
電子書籍 配信開始日 | 2024/12/18 |
書評
歌のお姉さんが見た、綺麗事じゃない世界
この本の元になった谷桃子バレエ団のYouTubeを見始めたきっかけは、《【週5バイトのバレリーナ】家賃6万円、家具なし…》という強烈なタイトルとサムネイル画像の動画をたまたま目にしたことです。上京したての新人ダンサーの方が、引っ越し直後のがらんとしたお部屋で「今は経済的にカツカツで、トウシューズを買うのも苦しい」と語る様子に衝撃を受けました。何より、昔から知っていた老舗バレエ団が「公式チャンネル」でこんな赤裸々な動画をアップしていることに驚いてクリックした気がします。
その後は配信される動画にも、谷桃子バレエ団そのものにも見事にはまってしまって。実は私も5歳からバレエを習っていましたが、最近はなかなか公演を観る機会がありませんでした。でもYouTubeをきっかけに久々に生のバレエを観たら、その圧倒的な美しさと優雅さに魅了され、非日常の世界に一気に引き込まれていました。生の舞台ってすごいんだとあらためて実感しました。
動画には、一度は諦めたり、他の進路と迷った末に「やっぱり踊りたい」とバレエの道を選んだダンサーの方が何人も出てきます。日本は習い事としてのバレエは盛んでも、海外と比べるとバレエ観劇の文化が根付いていません。だからみなさんプロのダンサーとして舞台に立つ傍ら、先生として教えたり、バイトをしないと生活できない。密着ディレクターの渡邊さんが書いたこの本を読んで、日本でバレエを職業とすることの難しさがよくわかりました。
私は今でこそ「歌のお姉さん」として活動していますが、もともとは「ピアノの先生になりたい」と思って音楽科のある高校に進学しました。でもすぐに周りのレベルに圧倒されて「自分には無理だ」と挫折してしまった。それでもどうしても音楽と離れたくない、という葛藤の末に大学で声楽にシフトしました。だから、苦境の中でも「バレエが好き」という気持ちで踊り続けているダンサーのみなさんにはとても共感したんです。
舞台に立つだけでは食べていくのが難しいという現状も、とても他人事とは思えませんでした。私の周りでも音楽を続けている人は海外に行くか、日本にいるのであれば「教え」の仕事をしながら、という方がほとんどです。私自身、大学院まで進んだものの、とにかく音楽が好きで、音楽の勉強が楽しくて没頭していたという感じで、演奏家として食べていこうとは考えていませんでした。
自分にそういう経験があるので、密着開始当初、バレエの知識のない渡邊さんが「なぜ給料制にできないのか」とか「海外との待遇の格差」とか、お金やネガティブな面にばかりフォーカスしていたのには少し反発を覚えたりもしたんです。でも、日々無数の動画がアップされるYouTubeの世界で、バレエに興味を持ってもらうことがどんなに難しいか、本を読んでよくわかったし、ダンサーに対する渡邊さんの想いも伝わりました。特に、本番で思うような結果が出せず戸惑うバレリーナに「僕は葛藤する人、苦悩する姿に魅力を感じる。絶対マイナスにはならない、良い動画にする自信があります」と畳み掛ける場面は印象的です。実際、視聴者の立場からすると、そうやってダンサーの頑張りや苦労を動画で知ったからこそ、みなさんの踊りが強く記憶に残るし、「また観たい」という気持ちに繋がっていると思うんです。
本には、密着開始までのプロセスやバレエ団側との衝突も描かれていました。老舗バレエ団がこの挑戦をするにあたって、本当に色々な葛藤や困難があったと思います。私が「歌のお姉さん」を務めていた「おかあさんといっしょ」という番組も、65年間続いている伝統ある番組です。立派な看板や、積み重なってきた歴史があって、というところは谷桃子バレエ団とすごく似ているので、バレエ団の方々が背負っているものの重みもよく理解できます。だから、冒頭の動画のような自宅の撮影や仕事の裏事情をあれこれ聞かれることに自分が対応できるかと考えると「無理かも」と思ってしまうのも正直な気持ちです。番組に携わってきた大勢のスタッフさんや、歴代のお兄さんお姉さん、何より長年応援してくださるファンの方々のことを考えると「一生、死ぬまで歌のお姉さんでいなければ」と思うからです。
なのに、視聴者としてはすごくこのチャンネルに惹かれてしまう。クラシックバレエという古典文化を守りながら興行を成立させるための画期的な挑戦だということもわかるし、何より、動画の中のダンサーの皆さんの生き様に綺麗事では片づけられないほど強烈な魅力を感じるから。だからこそ、こんなにもたくさんの方がYouTubeをきっかけにバレエを観に行くようになったのだと思います。
「人生って誰かに生かされているものだと思う」
産後、引退を考えながらも復帰し、「白鳥の湖」を踊り切ったプリンシパル・永橋あゆみさんのこの言葉が、ずっと胸に残っています。私も「歌のお姉さん」としてパフォーマンスができなくなるその日まで、音楽の素晴らしさを一人でも多くの人に伝えたいという気持ちで、自分にできることをやっていこうと思います。
(おの・あつこ 歌のお姉さん)
波 2025年1月号より
単行本刊行時掲載
インタビュー/対談/エッセイ
老舗バレエ団に怪しいお兄ちゃんがやってきた話
今時こんなことを言うと怒られるかもしれないのですが、私は本当にネットやSNSというものには疎くて、いまだに自分では一切SNSをやっていないんです。日常的に見ているのは、ヤフーニュースについたコメントぐらい。ヤフコメって言うんですか、あれは読みます。
18歳から45歳まで、谷桃子バレエ団でプリンシパルとして踊ってきました。今は芸術監督という立場で、ダンサーの指導をしたり、舞台の演出・制作をしています。
私が現役で踊っていた時代にはインターネットこそあれ、今のように誰もがSNSで発信するという時代ではまったくなかった。だから、公演のお知らせ一つするにも、自分で書いた手紙をコピーして、そこに一言直筆でメッセージを書き、それをチラシと一緒にお客様のご自宅に郵送していました。宛名もすべて手書きだったので、公演前は母と一緒に夜な夜な作業をしていました。この頃はまだチケットノルマがあって、主役はチケットを100枚、自分で売らなければいけなかったので、こういうお手紙を数百枚は出していたと思います。
それが今や、ですよね。なんという時代になったんだろうと思います。今はバレエダンサーもそれぞれSNSをやっていて、自分の踊りを発信したり、公演のお知らせなんかもできる。ファンの方との交流も盛んです。もちろん管理は大変ですが、良い時代になったなあと思いますよ。自分ができるかどうかは別ですけどね。
チケットノルマをなくして、ダンサーには踊ることに集中してもらいたい。その上で「谷桃子バレエ団をチケットの取れないバレエ団にしたい」というのが夢でしたが、現実は客席を7割から8割埋めるのでやっと。広い劇場を満席にするには、団員の関係者や長年のバレエファンの方々以外の人にも劇場に足を運んでもらわないといけない。そのためにできることは何でもやろうと方法を模索していました。アナログ人間だから、と言い訳してはいられません。
厳しい状況に追い打ちをかけるようなコロナ禍をなんとか乗り越えた矢先、運営スタッフから提案されたのが、この本のもとになった密着取材の企画でした。
もちろんそれまでもYouTubeはやっていたのですが、チャンネルをリニューアルして今までとは違う会社に動画制作をお願いすることになりました。例として「進撃のノア」(編集部注※大阪のキャバ嬢密着チャンネル)の動画を見せられた時は、正直言葉を失いました。もちろん彼女達もプロフェッショナルとして素晴らしいお仕事をされています。とはいえ、さすがに毛色が違いすぎませんか、と。でも「どれだけ深く密着してもらえるかということが問題で、その結果『進撃のノア』の視聴者がこんなに増えたという実績に意味がある」と言われて、確かにそうだと納得しました。
いざ密着が始まって、稽古場に初めてディレクターの渡邊さんが来たときは「どこのお兄ちゃんが来たんだろう」とちょっとドキドキしてしまいました。ビジネスマンっぽさはゼロで、かといってバレエの世界でも絶対に見かけない、今まで私の周りにはいなかったタイプの方です。
撮影を始めるにあたって、当然「今日はこういうところを撮ります。ダンサーの○○さんに話を聞かせてください」という説明があるものだと思っていたのですが、まったくなく、いきなり自由に動き回っていることにも驚きました。「あれ、いなくなったな」と思ったら次の瞬間隣にいてカメラを回していたり、そうかと思うと女の子のダンサーを捕まえて話しかけている。
何より予想外だったのは、こんなに私を撮るの? ということですね。「自宅撮影もある」とは聞いていたものの、芸術監督はある意味裏方ですから、まさか私の家に来るなんて思いもしなかった。インタビューで本音を話しすぎて炎上しかけたこともありました。でも、自分の言ったことは本心ですから、これで万が一バレエ界にいられなくなったとしても、まあいいやっていう気持ちでした。そのぐらいの覚悟で始めたので、後悔はありません。
ただ、どれだけ動画が再生されても、それが実際にバレエ観劇に繋がるかというのは結果が出るまで本当にわからなかったんです。だから、昨年の新春公演「白鳥の湖」でチケットが売り切れた時は衝撃を受けました。当日、劇場のロビーは初めてお会いするお客様で溢れていて、それが何より嬉しかったです。
そんなこんなで苦労も多かったわけですけど、もし今密着開始前の自分と話せるとしても、この密着を勧めると思います。だって何もしなかったら、いくらバレエを頑張ってもこんな風にチケットが売り切れることはなかったはずですから。渡邊さんにはまず、感謝の言葉を伝えたいです。
この先も時代は目まぐるしく変わっていくと思います。今私が常識だと思っていることも、5年後にはどうなっているかわからない。変わらないものを守るために、必要な変化を恐れない自分でいたいですね。
(たかべ・ひさこ 谷桃子バレエ団芸術監督)
波 2025年2月号より
単行本刊行時掲載
著者プロフィール
渡邊永人
ワタナベ・ヒサト
1995年神奈川県生まれ。映像ディレクター。20歳でテレビ番組制作会社に入社後、ディレクターとして『ハイパーハードボイルドグルメリポート』等を担当。2024年12月現在は『THE ROLAND SHOW』『進撃のノア』等のYouTube動画を手掛ける制作会社に所属。谷桃子バレエ団公式YouTubeの他、小学館の漫画編集部に密着した『ウラ漫―漫画の裏側密着―』等を制作している。