
消息
1,980円(税込)
発売日:2025/02/27
- 書籍
- 電子書籍あり
イギリスで日本で、世界で雑踏に転がる言葉。最重要音楽家、初のエッセイ集。
2018年、メジャーデビューを果たしたあと、単身、イギリスへ移住した。SNSから距離を置き、エッセイを書くことで、自己と対話していた。直後、コロナ禍に襲われ、街はロックダウンへ。アルバム制作、22年のジャパンツアー、NYやヨーロッパへの旅、帰郷、軍事侵攻とガザでの虐殺への怒りetc.……2019年から24年までの記録と記憶。
まえがき
2019
年表
自己紹介
ロンドン
ピアス
偉大
2020
年表
テクノロジー
役割
新時代
優しさと怒り
社会人
体温計
時間感覚
2021
年表
スープラ
必勝
アーティスト
出世
衝動買い
2022
年表
さいたま
ロシアのウクライナ侵攻に寄せて
先輩
ジャパンツアー
夢見心地
ダンス
2023
年表
冬のヨーロッパ紀行
人工知能
外食
品格
パレスチナ問題に寄せて
2024
年表
マラケシュ
ハラキリ
Money
フットボール
あとがき
書誌情報
読み仮名 | ショウソク |
---|---|
装幀 | Piczo(カメラマン)/カバー写真、Takeru Urushibara(ヘアメイク)/カバー写真、新潮社装幀室/装幀 |
発行形態 | 書籍、電子書籍 |
判型 | 四六判変型 |
頁数 | 160ページ |
ISBN | 978-4-10-356031-9 |
C-CODE | 0095 |
ジャンル | エッセー・随筆、ノンフィクション |
定価 | 1,980円 |
電子書籍 価格 | 1,980円 |
電子書籍 配信開始日 | 2025/02/27 |
インタビュー/対談/エッセイ
SNSから距離を置いて
エッセイを書き始めたきっかけは、2019年にロンドンへ移住して一、二ヶ月後、Quick Japanの小林さんに連載しませんか、とお声がけいただいたことですかね。でも前々から新潮社の鶴我さんに原稿依頼を受けていて、前の年にリリースしたファーストアルバム「分離派の夏」で「何か書けるんじゃないか」と思ってくれたみたいです。雑誌連載が二ヶ月に一回のペースで始まり、最初はウキウキで浮き足立ってましたね。初回のタイトルが「自己紹介」、二回目は「ロンドン」ですから。目にするものすべてがキラキラと輝いていた。「消息」の連載タイトルと書名は夏目漱石の「倫敦消息」にあやかり、自分の暮らしや活動、その時々で感じたこと、考えたことを綴りました。
しかし連載が始まった翌年の2020年早々、コロナに襲われ、ほっぺたを引っ叩かれた感じでした。誰もがそうだったように、自分と社会について自分も考えた。それまでは「くだらねえ社会とはなるべく関わりたくない」と離れようとしてきたけど、そういうわけにいかなくなった。この年の4月、二十九歳になり、「新時代」というエッセイを書きました。これから自分はどう生きるかというステートメントのつもりで、noteにもあげたら、「いいね!」が二〇〇〇ついて、noteで最も読まれたものとして賞状をもらった。「現実はいつだって厳しく、絶望を感じることばかりだった、でもパンデミックの最中、変化の兆しが見え始め、希望を感じている。われわれは世界を本当に変える唯一無二の武器を持っている」といった内容で、自分のメッセージが伝わった感触と歓びがあり、発信することに意味があると感じました。
2021年頃からイギリスはアフターコロナになり、帰国すると隔離期間だ、入国アプリだと警戒感が強く、日本は遅れてるなと実感した。それでも「イギリスはサイコー、日本? ダサい」とは思わなかった。この本で神社やお詣りの面白さに目覚め、地元のさいたまがロンドンと共通項の多いことに気づき、さいたま改造計画など、日本の良さもたくさん書いています。ロンドンに移り住んだ理由はいろいろありますが、いちばん大きかったのは宇多田(ヒカル)さんにレコーディングで連れて行ってもらったことですね。世界最高のスタジオ・ミュージシャンとエンジニアがいて、レコーディングが終わったあと、ここでやっていけると思った。ピスト・バイクを持って行き、ロンドンの街中をまわりながら、世界へ出ていこうと決心した。一方でまだコロナがくすぶる2022年、規制の厳しかったジャパンツアーでは敢えてイギリスからDJを呼び寄せ、日本社会に風穴を開けようとした。今後も海外と日本を往き来し、音楽や言葉を通して閉じた社会をこじあけていくのが俺の役割かなと思っています。
単行本化にあたってエッセイはシャッフルしないで、年ごとにまとめ、その年に起こった出来事の「年表」をつけました。読者に2024年までの間、「あんなことがあった」、「このニュースに怒った」等々思い出して欲しく、また連載になかった手書きのメモやイラストをふんだんに入れたのは、本に「手触り感」を出したかったから。4thアルバム「Zatto」を同時リリースしましたが、音楽でしか表現できないもの、言葉でしか伝えられないものがあるとわかってもらいたくて、「同時」にしました。
「エッセイを書くこと」は、「自分との対話であり、癒しであり、SNSから距離を置くことができる」と記したら、「とても素晴らしいことだと思う。特にSNSから距離を置く、というところが」と、ある読者から褒められた。別にSNSを否定しているわけではないんです。現に自分もやってるし、お世話になっている。でも、瞬時に発信される短い言葉やその連打で、ひとの人生が狂ってしまうのは、おかしい。社会がヘンな方向へ突き進むのも考え直した方がいい。二ヶ月に一度の頻度、二〇〇〇という文字数が自分には何かを言語化していくのにふさわしく、死ぬまで続けていきたい。このようにして綴ったエッセイの何気ないひと言が読者のこころに響いて、灯りをともせたら、うれしいです。(談)
(おぶくろ・なりあき 音楽家)
波 2025年3月号より
単行本刊行時掲載
担当編集者のひとこと
お寺の宿舎に身を寄せてごみ収集のバイトで生計を立てながら曲を作り、宇多田ヒカル氏に見出されデビュー。1stアルバムが話題沸騰の中、突如ロンドンに渡りレコード会社を設立。4年後、本書とニューアルバムを発表するやいなや、さいたま市長選に立候補表明……経歴を紹介するだけでも紙幅が尽きそうな著者初のエッセイ集は、激動の時代を飾らない言葉で捉えた、風通しの良い一冊になりました。
まるで羽が生えたように自由に生きる著者も、私たちと同じように「パンデミック」、「戦争」、そして異常な「物価高」の時代を生きています。二ヶ月に一度、五年にわたって書き続けた日本への便りは、ともすれば暗い無力感に襲われる私たちを静かに鼓舞しているようです。
昨日とは少し違う今日を味わいたい方はぜひ、スマホの代わりに本書を手に取ってみてください。目の前の景色が少しだけ違って見えることを、編集部の公約といたします。(新潮編集部・MT)
2025/04/30
イベント/書店情報
著者プロフィール
小袋成彬
オブクロ・ナリアキ
1991年4月30日生まれ。埼玉県さいたま市出身のミュージシャン、音楽プロデューサー。立教大学経営学部国際経営学科を卒業後、音楽レコード会社のTOKAを創業。国内外の様々なアーティストの楽曲プロデュースを行う傍ら、自らもアーティストとして2018年にシングル「Lonely One(feat. 宇多田ヒカル)」でメジャーデビュー。2025年1月に4作目のアルバム「Zatto」を発表し、全国5都市を回るツアーを行なう。