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特捜取調室─『国家の罠』20年目の再対決─

佐藤優/著 、西村尚芳/著

2,200円(税込)

発売日:2026/05/13

  • 書籍
  • 電子書籍あり

かつての被疑者と取調官が20年の時を経て対峙する!

鈴木宗男事件に連座して逮捕された外務省職員・佐藤優氏と、その取り調べを担当した特捜検事・西村尚芳氏。「尊敬すべき敵」として対峙した二人が、プレサンス事件や大川原化工機事件などを題材に、検察や特捜の在り方について徹底的に議論し、今だから語れる「国策捜査」の真実を明かす。検察への見方が一変する一冊。

目次

序章 再会
20年ぶりの対面/逮捕と取り調べ

第1章 検察改革とは何だったのか
「検察なめんなよ」/プレサンス事件と郵便不正事件/筋読みとノイズ/金持ちは怖い/大阪地検特捜部の特殊性/「割り屋」の悲劇/大阪地検検事正の準強制性交容疑/人を人として尊重する文化を

第2章 検察批判をどう見るか
(1)黙秘権
黙秘のプラスとマイナス/特捜事件は黙秘で無罪を取れない/弁護士の職業的良心/検察官が怒っていいのは/情状面で不利になることも/過数派が黙秘する理由
(2)人質司法
角川会長はなぜ記者会見後に逮捕されたか/身柄を拘束するもう一つの理由/ゴーン事件のトラウマ/保釈保証金は弁護士費用
(3)取り調べ可視化
明らかになった検事の暴言/動機は「恨み」/検事が怒鳴る時

第3章 ある検察官の歩み
なぜ検察官になったか/7回目で合格した司法試験/消えた6億円事件/あえて「相手の土俵に乗った」オウム事件/自治労の脱税事件/財政系の検察官の仕事/黒とグレーがわからなくなるとき/脱税する人の内在的論理/7000兆円詐欺と地面師とアパグループ/美容師バラバラ殺人事件の衝撃/首の行方/日産自動車不正競争防止法違反事件/検事は「建前」で動く

第4章 『国家の罠』再び──国益と公益がぶつかる時
突然、蓋が開いた/外務省の組織防衛/外務省を揺るがした「有権解釈権の否定」/偽計業務妨害捜査の内幕/三井物産にディーゼル発電機工事を発注した事情/「非日常が日常」の世界の危うさ/官邸からの機密費であれば/北方領土返還外交のリアル/取り調べはフェアだった/鈴木宗男事件との弁護方針の違い/外務省キャリアの嫉妬/拘置所生活は「面白かった」/事件にもプラスがあった/国策捜査とは何だったか/国策捜査の後遺症

第5章 特捜検察必要論
なぜ大川原化工機事件は起きたのか/萩嵜ボガチョンコフ事件/公安警察との付き合い方/特捜はどこから情報を取ってくるのか/政治と検察との距離/特捜検察必要論/特捜検察を立て直すための方策/これからの特捜部への提言

あとがき

書誌情報

読み仮名 トクソウトリシラベシツコッカノワナニジュウネンメノサイタイケツ
装幀 Getty Images/カバー写真、新潮社装幀室/装幀
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判
頁数 256ページ
ISBN 978-4-10-356941-1
C-CODE 0030
ジャンル 社会学、思想・社会
定価 2,200円
電子書籍 価格 2,200円
電子書籍 配信開始日 2026/05/13

書評

「責任を取る」ということ

恩田陸

 私が社会人となった時に、会社の先輩方に口が酸っぱくなるほど言い聞かせられたのは、「責任の範囲」についてだった。ひと一人、取れる責任などたかが知れている。だから、自分の仕事には責任を持たなければならないが、自分の責任の取れる範囲を超えたものは即刻手放しなさい、と言われたのである。
 同時に、自分の身は自分で守らなければならない、とも刷り込まれた。組織というものは、組織全体の保身のために、一部の構成員に責任を負わせて切ることがある。だから、自分の身を守るためには、とにかく上に報告すること、と言われた。当時、私は生命保険会社の新契約の事務部門にいた。生命保険というのは文字通り命に値段を付ける商品であるため、怪しい契約、ヤバそうな契約、というのがしばしば紛れこんでくる。なので、違和感を覚えたものやイレギュラーなものがあったら、その場で報告せよ。要は観察眼を磨き、異状を感じたらすぐに上に上げて、公の話題にしろ、と繰り返し言われたのである。
 そのせいか、足かけ十一年の会社員生活を送った中で、転職してからも、私がいちばん軽蔑したのは「責任の範囲」が分からない人だった。たとえば、外の人に対して「うちのバイトが無能でミスしたんで」と言い訳する人とか、ばっちり決裁印を押しているくせに「知らない」「覚えてない」と白ばっくれる人とか、「なんでも相談してね」と言っておいて、結局「部下の失敗は部下のもの、部下の成功は私のもの」にする人とか。
 本書を一読して、これは「責任」についての話だな、と思った。
 考えてみると、今くらい、世界中で「責任」が話題になっている時代もないのではないかと思う。SNSでも政治でも経済でも、誰もが「私のせいじゃない」と主張し、「悪いのはあいつだ」と責任を負わせる相手を血眼になって探している。皆が被害者の席に座ろうとして椅子取りゲームをしている状態だ。加害者の席だけがいつも空席だが、被害者席に座っているつもりが、いつのまにか加害者席になっていることも珍しくない。
 主なテーマは、ここ二十年の検察の不祥事や司法システムの不備について。カルロス・ゴーンの海外逃亡や、素人目に見てもむちゃくちゃ根拠に乏しい冤罪事件など、信じられないような事件が次々と起きた。録音されているのに暴言を吐く若い検事、証拠の隠蔽や捏造を図った検事に至っては、正直、「なんと無防備な」と思ってしまった。
 私はサービス業の人にやたらと横柄な態度を取る人や、相手によってコロコロと態度を変える人が、心底不思議でならない。いつも「なんて無防備なんだろう」と思うのだ。今この場所ではサービスを提供する側の人かもしれないが、別の場所で会う時、あるいは将来会う時は、逆の立場になったり、あなたの顧客となる人かもしれないのに。
「保身」と「身を守ること」は違う。
 ましてや、検事という、独任制で多くの人の人生、もちろんおのれの人生も左右する仕事に就いているのならば、「責任の範囲」と真の「保身」を考えたら、そうとう用心深くならざるを得ないはずだ。
 誰に対する責任なのか。なんのための責任なのか。
 佐藤優氏と西村尚芳氏の場合、それはひじょうに明確だった。
 佐藤氏は日本とロシアの関係改善という国益。西村氏は、時代の風による騒ぎを鎮めるという公益。どちらも目的ははっきりしており、そのための落としどころを探し、ある意味協力しあった『国家の罠』が共感を得たのは、これこそが大人の、職業人としての責任の取り方だと読者が思ったからなのではないか。
 そう、ひと一人が取れる責任など、たかが知れている。その重さに見合う力と度量がなければ、決して「責任を取る」ことなどできない。そのいっぽうで、自分のできる範囲で責任を果たしたい、と思っている無数の人々もいる。果たして自分の持てる「責任の範囲」はどこまでなのか。それをシビアに見極めることが、「誰かのせい」の大合唱に満ちたこの世界で、心穏やかに暮らしていく「よすが」になるのではないだろうか。

(おんだ・りく 小説家)

波 2026年6月号より
単行本刊行時掲載

著者プロフィール

佐藤優

サトウ・マサル

1960年生れ。1985年、同志社大学大学院神学研究科修了の後、外務省入省。在英大使館、在露大使館などを経て、1995年から外務本省国際情報局分析第一課に勤務。2002年に背任と偽計業務妨害容疑で逮捕・起訴され、東京拘置所に512日間勾留。2005年2月執行猶予付き有罪判決を受ける。2009年6月に最高裁で上告棄却、執行猶予付き有罪確定で外務省を失職。2013年6月に執行猶予期間を満了、刑の言い渡しが効力を失った。2005年、自らの逮捕の経緯と国策捜査の裏側を綴った『国家の罠─外務省のラスプーチンと呼ばれて』で毎日出版文化賞特別賞を受賞。以後、作家として外交から政治、歴史、神学、教養、文学に至る多方面で精力的に活動している。主な単著は『自壊する帝国』(新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞)、『獄中記』『私のマルクス』『交渉術』『紳士協定─私のイギリス物語』『先生と私』『いま生きる「資本論」』『神学の思考─キリスト教とは何か』『君たちが知っておくべきこと─未来のエリートとの対話』『十五の夏』(梅棹忠夫・山と探検文学賞受賞)、『それからの帝国』『神学でこんなにわかる「村上春樹」』など膨大で、共著も数多い。2020年、その旺盛で広範な執筆活動に対し菊池寛賞を贈られた。

西村尚芳

ニシムラ・ヒサヨシ

1960年、石川県生まれ。1986年、金沢大学法文学部卒業後、大蔵省北陸財務局に勤務。1990年検事任官。宮崎地検、福岡地検、名古屋地検などを経て、財政経済に強みを発揮し、特捜検事としてのキャリアを歩む。東京地検特捜部時代の2002年には佐藤優氏の取り調べを担当。2012年東京地検特捜部副部長、2013年横浜地検刑事部長、2014年大阪地検特捜部長、2015年東京高検検事兼最高検特別捜査係検事、2016年東京地検特別公判部長、2017年同刑事部長、2018年青森地検検事正、2019年高松地検検事正を歴任し、2020年退官。その後、霞ヶ関公証役場で公証人を務め、2025年7月より弁護士。

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