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宮部みゆき全一冊

宮部みゆき/著

2,420円(税込)

発売日:2018/10/22

  • 書籍
  • 電子書籍あり

長年単行本未収録だった、幻の短篇小説3本! ファン必携のコンプリートブック、満を持して誕生!!

未収録エッセイ15本、映画監督や作家との未収録対談、超ロングインタビュー、作家生活&全作品年表、いしいひさいち漫画2本、藤田新策・新潮文庫装画画廊、こより・『この世の春』挿画ギャラリー……など。秘められていた宮部作品のルーツと創作の原点を収録。本人による貴重な自作(「負の方程式」)朗読CD付!

目次
作家生活30周年記念超ロングインタビュー
立ち止まって振り返る30年の道のり
[発掘]単行本未収録小説
殺しのあった家
泣き虫のドラゴン
あなた
作家生活&全作品年表 新保博久
「受賞の言葉」ワンダーランド
漫画「前戯なき戦い」いしいひさいち
[発掘]単行本未収録エッセイ(Part1)ライフスタイル
異常気象のわたし/文庫の海に漕ぎだして/階段の途中に/作家の一日/なんでもありの船の旅/『平成お徒歩日記』のさわりのさわり/うちのパソコンの呟き
『この世の春』挿画ギャラリー こより
[発掘]単行本未収録対談(Part1)憧れのあの人との出会い
市川崑「ラストシーンは決まっていた」/佐藤優「フィクションとノンフィクションはぐるぐる巡回している」/津村記久子「理不尽な世界と人間のために」
藤田新策画廊「新潮文庫」装画のすべて 藤田新策
『ソロモンの偽証 第I部 事件』刊行開始記念インタビュー進化する悪意
漫画「ソロモンの仮説」いしいひさいち
[発掘]単行本未収録エッセイ(Part2)書評
難しいことを、わかりやすく/“私”はどこに行くのか/一枚の絵のなかに/大御所キング様の発言集/台風、来る/騙される心/解らなくていい/不幸のみなもと
[発掘]単行本未収録対談(Part2)本を巡る幸せな語り合い
出久根達郎・久世光彦「名作短篇30を読む」/北村薫「名短篇はここにある」/小林信彦「ムーン・リヴァーの向こう側」/佐々木譲「キングはホラーの帝王キング」/宮城谷昌光「つながりゆく文学の系譜」
「ENGINE」編集部の皆様へ
宮部みゆきの「この短篇を読め!」佐藤誠一郎
刊行に際しての一言 宮部みゆき

書誌情報

読み仮名 ミヤベミユキゼンイッサツ
装幀 椋本完二郎/装幀
雑誌から生まれた本 小説新潮から生まれた本
発行形態 書籍、電子書籍
判型 A5判
頁数 224ページ
ISBN 978-4-10-375015-4
C-CODE 0093
ジャンル 文学賞受賞作家、文学賞受賞作家
価格 2,420円
電子書籍 価格 1,936円
電子書籍 配信開始日 2019/12/06

書評

進化をやめない大器の三十年

佐藤誠一郎

「四十にして惑わず」という論語の有名な言葉に、近ごろ新解釈が現れたらしい。孔子の時代にはまだ「惑」の文字はなく、その部分は「或」であったことから、意味としては「四十になって何か新しい分野を切り拓く」というふうに解するほうが自然だというのである。
 本書収録の作品年表を眺めていて、このことに思い当った。「宮部みゆき作家生活30周年記念超ロングインタビュー」でご本人が「二十世紀と二十一世紀で、私、違う作家になっちゃった」と言うとおり、20世紀末に刊行された『理由』と、21世紀初頭の『模倣犯』あたり、つまりミレニアムを機に、新解釈版「四十不或」が作家の内部で起こっていたことになるではないか。作家生活半ばで安定したスタイルを確立してそこに安住したのではなく、むしろそこから脱出することに成功した、ということだろう。
 ミレニアムと言えば、本書の「単行本未収録小説」の中の「あなた」は、まさにその瞬間に書かれたものだ。2002年元旦の朝日新聞の全面を飾った短編である。主人公はごく稀にしかお目にかからない「あなた」という二人称。「あなた」が誰なのかはお読みいただくしかないが、人知を超えた運命とか、宇宙の進化といったものを感じさせる作品だった。
 故事に関する新解釈の話をもう一つ。「大器晩成」という誰もが知っている言葉があるが、これも用字の研究から長い間の通念が変わりそうなのだという。当時は「晩」ではなく「免」と書かれていたので、正しくは「大器免成」となり、「大器は完成することがない」というのが元来の意味だったというわけだ。
「年表」をめくって誰しも気づくことは、宮部作品が実にコンスタントに世に送り出されてきた点だ。三十年も作家をやっていると、何度かスランプに陥ったりしそうなものだが、この年表には「空白の一年」といったものが見当たらない。スランプに陥る暇もあらばこそ、この作家は常に「もっと先」を追い求めているようだ。
 本書の「宮部みゆきの『この短篇を読め!』」で、小説に使われる小さなモチーフが、二十年ほどを経て進化したケースをひとつ紹介しておいた。最初期の短編集『我らが隣人の犯罪』収録の「サボテンの花」、舞台化もされた人気作だが、このプロットの一部を構成するモチーフが、のちに『ソロモンの偽証』で応用されているのだ。
 何も「ルーツ発見!」と自慢したいわけではない。宮部みゆきは三十年の作家生活の間に、実に様々な着想の種を撒き、その遺伝子を後年グンと進化させてきた。その一端が分かって楽しくて仕方ないのである。ただ、見逃してならないのはその連続性だ。
「単行本未収録小説」の冒頭作品「殺しのあった家」は、今現在小説新潮誌上に連載中の「Ghost Story」のプロトタイプだと言えるし、「泣き虫のドラゴン」は『ブレイブ・ストーリー』の源流だとみることが出来る。ただしプロットの一部が似ていても肝心のテーマは別のところにある。これこそが連続性であり「進化」なのだと私は思う。
 一人の作家が、後年書くことになる作品の数々まで若い頃に設計して、プロトタイプを前もって発表しておいた、なんてことはマサカに属する話だけれど、そのマサカが、この年表から現実味をおびてくるから怖ろしい。
「大器免成」のお話に戻るが、宮部みゆきはまさに「完成されることのない大器」なのだろう。現在までのところ『この世の春』が彼女の最高傑作と考えられるが、その最長不倒記録だって早晩塗り替えられてしまうことだろう。逆に言えばそれがこの作家の「業」なのかもしれない。
 本書には各界の最先端におられる著名人との対話も沢山収められているが、彼女はそうしたカッティング・エッジな話題にすぐさま対応できる柔軟さがあって、ごく遠慮深いその受け答えの中に「進化し続ける大器」の秘密があると感じるのは私だけではあるまい。
 結果として本書は所謂「ファンブック」のカテゴリーを大幅にハミ出すことになった。初めて宮部みゆきを読んでみようという人にも、昔からのファンで娘とその感動を共有したいというプロ級の読者にも、要求に応じた答えが見つかるはずだ。

(さとう・せいいちろう 編集者)
波 2018年11月号より
単行本刊行時掲載

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著者プロフィール

宮部みゆき

ミヤベ・ミユキ

1960(昭和35)年、東京生れ。1987年「我らが隣人の犯罪」でオール讀物推理小説新人賞を受賞。1989(平成元)年『魔術はささやく』で日本推理サスペンス大賞を受賞。1992年『龍は眠る』で日本推理作家協会賞、『本所深川ふしぎ草紙』で吉川英治文学新人賞を受賞。1993年『火車』で山本周五郎賞を受賞。1997年『蒲生邸事件』で日本SF大賞を受賞。1999年には『理由』で直木賞を受賞。2001年『模倣犯』で毎日出版文化賞特別賞、2002年には司馬遼太郎賞、芸術選奨文部科学大臣賞(文学部門)を受賞。2007年『名もなき毒』で吉川英治文学賞を受賞した。他の作品に『ソロモンの偽証』『英雄の書』『悲嘆の門』『小暮写眞館』『荒神』『この世の春』などがある。

大極宮 (外部リンク)

宮部みゆき 作家生活30周年記念特設サイト

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文学賞受賞作家
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