
温泉放浪記
2,365円(税込)
発売日:2025/12/17
- 書籍
- 電子書籍あり
帰りたい宿がある、忘れられない人がいる。心ほどける湯けむり紀行。
子どもの頃からの温泉好きで、風情ある温泉場、大事な宿や人との一期一会の思い出は数知れず。北海道から九州まで──東の横綱・鳴子温泉郷、西の横綱・大分の温泉はもちろん、じつは書かずにとっておきたかった宿、千人風呂での大失敗も……。おいしいものや文学・歴史方面にも寄り道する気まま旅。どうぞご一緒に。
はじめに
1章 北海道の湯
北海道湯めぐり2024
思い出の湯
2章 北東北の湯
秋の名湯迷走
青森、秋田は忘れられない宿ばかり
3章 東の横綱、鳴子温泉郷
大好きな鳴子で5泊6日
4章 山形の湯
山形ドライブ温泉紀行
肘折温泉はしご作戦
湯舟沢温泉再び 心優しい一軒宿
まだまだあるよ、山形の湯
母のふるさと、鶴岡大好き
5章 宮城、福島の湯
畑をしながら立ち寄り湯
石巻、追分温泉のこと
福島周辺は名湯の宝庫
そのほか福島県の湯宿
「秘湯の宿」に子連れ旅
コラム あきれた宿
6章 関東の湯
ダムに沈んだ川原湯温泉 群馬
三遊亭円朝を追いかけて、群馬、栃木、茨城
群馬で1泊するならば
父と家族と栃木の湯
ひとり立ち寄りのひそかな楽しみ 千葉・東京の黒湯
ほどよい距離の別天地、神奈川の湯
コラム 身軽な女性
7章 静岡、長野の湯
建築も見所 静岡の湯
下田・金谷旅館の混浴千人風呂で大失敗
戸倉上山田から野沢温泉
信州なつかしい宿
8章 日本海側の湯
新潟の宿五つ
能登の宿 思い出とこれから
石川の名湯
コラム 男二人の温泉旅行
9章 関西の湯
有馬温泉 桜吹雪の似合う街
京都、兵庫 ひとり旅
紀伊半島の湯
10章 中国・四国の湯
温泉少なめ地帯のとっておき
道後温泉の存在感
コラム たまに失敗して気をつけていること
11章 西の横綱、大分の温泉
しばらくは由布院の湯にいます
豊後竹田、炭酸泉のぶくぶく
別府鉄輪温泉、万歳
九重町、小国町の温泉
12章 九州、北へ南へ
熊本の湯めぐり
「五足の靴」と天草の宿
街なか温泉から、島の温泉、クラシックホテルの温泉まで
コラム シニアの旅の流儀
あとがき
書誌情報
| 読み仮名 | オンセンホウロウキ |
|---|---|
| 装幀 | 保立葉菜/装画、新潮社装幀室/装幀 |
| 発行形態 | 書籍、電子書籍 |
| 判型 | 四六判変型 |
| 頁数 | 256ページ |
| ISBN | 978-4-10-410005-7 |
| C-CODE | 0095 |
| ジャンル | 文学・評論 |
| 定価 | 2,365円 |
| 電子書籍 価格 | 2,365円 |
| 電子書籍 配信開始日 | 2025/12/17 |
書評
この本は買って読んだほうがいいと思う
私も温泉は大好きです。
「温泉!」と誰かが言ったとします。
「温泉! いいよねえ温泉!」
と私は唱和します。温泉はいい。
森まゆみさんは、子どもの頃から温泉が好きだった。と、はじめに書き出された。
そうだろうなァ、これだけのボリューム(全12章、250頁以上)、温泉について書ける人は、そうそういない。資料を書き写すんじゃない、すべて体験した温泉を懐かしそうに思い出して、愉しそうに書いてこの分量です。
読んでいると、自分の温泉の思い出が、湯口からチョロチョロと流れてくる気がします。そうそう、と目の前のお湯で顔を洗って、
「あ~~!」
と言ってみる。でも、もう、ずいぶん温泉に行ってないなあ、いいなあと声に出しながら行を追っていきます。
(1)湯に貴賤なし、湧いているだけでありがたい。
(2)3000湯踏破とか、数を競わない。達成感は求めない。
(3)温泉は自然の恵み、自然の都合で出なくなることもある。それは宿のせいではない。
と、こんな調子で10項目の温泉観が書き連ねられてあっていちいち納得します。
本当に森まゆみさんは温泉が好きだ。
あとがきに、「本書は温泉ガイドではない。私が高校生くらいで温泉に行きだしてから半世紀以上、心に残った温泉、大事な宿を記した随筆である」とあります。
でもこれだけ沢山の温泉が載っていれば、もちろん、温泉ガイドになると思うけど。
私が思うのは私が読んだ以上に、それぞれの読者はそれぞれの愉しみを味わうだろうということ。
まず、森さんの思い出の温泉と、同じところに「自分も行ったぞ」と、同じお湯に入ったことのある人は、自分のその温泉に浸ることができます。
私にも、いくつかのそういうお湯がありました。
それが沢山ある人は、私よりずっとずっと愉しめるでしょう。たとえば、種村季弘さんがこの本を読んだらどうだろう。
私よりもっともっと、この本の愉しみを、同感をもって未読の読者を誘うことができるはずです。
種村季弘さんの『雨の日はソファで散歩』という本に、「ゆかりの宿」っていう短い随筆があります。
「私の住んでいる温泉町の某旅館の門前に『藤村ゆかりの宿』の立て札があることは、前々から散歩の途中などに目にしていましたが、べつだん気にもとめないでおりました」
というはじまり方をして、こうつなぎます。
ある日、私もひと風呂浴びてからバス停でバスを待っていると、女の子の仲良しグループ三、四人が旅館の立て札をチラと見て、「へー、フジムラゆかりの宿かァ」
と、言ってるところに遭遇したらしい。
藤村ゆかりというタレントだか、アイドルだかがいて、ここが常宿で、それは世間周知の常識なのに、自分だけが今のいままで知らなかったのか。三、四人の女の子は、その三、四人全員が藤村ゆかりのことを、本当は知らないまま、あいまいにそのまま捨て置いて、去っていきます。
森さんの『温泉放浪記』を読みながら、オレはこの三、四人の女の子だなあ。と思いました。
もちろん島崎藤村は知ってますけど、でも松浦武四郎は名前を知ってるくらいだし、本郷新は初耳だし、土師清二、宮城ふさ、は知らない。田宮虎彦も大町桂月も松崎天民も、名前を聞きかじった程度だし、宮尾しげをや岡本一平の絵はわかるけど甲賀三郎って誰? もちろん、つげ義春も二岐渓谷も知ってるけど、田中比左良って誰?
という具合で、森さんの知識と興味の広さが、そのゆたかさが、どんどん広がっていくわけです。
たとえば建築家の名前を見てその設計した建物の特徴を知っていたら、興味はさらに深くなるはずだし、自分が知らなかった世界がぐんぐん広がっていくはずです。
この本は、買って時々開いて、パソコンで検索して、画像を開いて、というようにして楽しめる本だと思う。おもしろくて世界をどんどん広げてくれる本だ。
と、いうのが私の結論です。
森さんは、温泉宿に掛けてある軸の文字が読めないと、あーでもないこーでもないと考えて、やっと解読できたときにとっても愉しいそうです。
私は、なんで日本語なのに、あんなに分かんない字で書くんだ?! といつも思っていて、どうして、掛軸めくったところに「答」を貼っておかないんだ? という人間です。
(みなみ・しんぼう イラストレーター、エッセイスト)
波 2026年1月号より
単行本刊行時掲載
著者プロフィール
森まゆみ
モリ・マユミ
作家。1954年東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。1984年に地域雑誌「谷中・根津・千駄木」を創刊。1992年には地域の歴史と文化を掘り起こすコミュニティ活動を評価され、雑誌の発行元・谷根千工房がサントリー地域文化賞を受賞。1998年『鴎外の坂』で芸術選奨文部大臣新人賞、2003年『「即興詩人」のイタリア』でJTB紀行文学大賞、2014年『『青鞜』の冒険 女が集まって雑誌をつくるということ』で紫式部文学賞を受賞。歴史的建造物の保存活動などにも取り組み、1999年に日本建築学会文化賞を受けている。近著に『じょっぱりの人 羽仁もと子とその時代』『谷根千、ずーっとある店』『野に遺賢をさがして ニッポンとことこ歩き旅』など。無類の旅好きで年に半分は旅の空。


































