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映画の話をしているはずが、いつのまにか自分たちの何かを語ってしまっている。

あの映画みた?

井上荒野/著 、江國香織/著

1,728円(税込)

本の仕様

発売日:2018/06/29

読み仮名 アノエイガミタ
装幀 MASAMI/イラストレーション、新潮社装幀室/装幀
雑誌から生まれた本 小説新潮から生まれた本
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 206ページ
ISBN 978-4-10-473152-7
C-CODE 0095
ジャンル 文学賞受賞作家
定価 1,728円

「ねえねえ、あれ観た?」「うわー、それ観たい!」映画と物語をこよなく愛し、生活に不可欠なものと断言する仲良しの女性作家ふたりが、いい女、いやな女、食べもの、三角関係、いい男、老人、子供、ラブシーンなどのテーマで選んだ100作以上の映画について語り尽くす一冊。読んだらきっと、観たくなる!

著者プロフィール

井上荒野 イノウエ・アレノ

1961年東京都生まれ。1989年「わたしのヌレエフ」でフェミナ賞、2004年『潤一』で島清恋愛文学賞、2008年『切羽へ』で直木賞、2011年『そこへ行くな』で中央公論文芸賞、2016年『赤へ』で柴田錬三郎賞を受賞。他の著書に『もう切るわ』『ひどい感じ 父・井上光晴』『つやのよる』『だれかの木琴』『結婚』『虫娘』『悪い恋人』『リストランテアモーレ』『ママがやった』『綴られる愛人』『あなたならどうする』『その話は今日はやめておきましょう』など多数。

江國香織 エクニ・カオリ

1964年東京都生まれ。1987年「草之丞の話」で「小さな童話」大賞、1989年「409ラドクリフ」でフェミナ賞、1992年『こうばしい日々』で坪田譲治文学賞、『きらきらひかる』で紫式部文学賞、1999年『ぼくの小鳥ちゃん』で路傍の石文学賞、2002年『泳ぐのに、安全でも適切でもありません』で山本周五郎賞、2004年『号泣する準備はできていた』で直木賞、2007年『がらくた』で島清恋愛文学賞、2010年『真昼なのに昏い部屋』で中央公論文芸賞、2012年「犬とハモニカ」で川端康成文学賞、2015年『ヤモリ、カエル、シジミチョウ』で谷崎潤一郎賞を受賞。他の著書に『ちょうちんそで』『はだかんぼうたち』『なかなか暮れない夏の夕暮れ』など多数。小説以外に、詩作や海外絵本の翻訳も手掛ける。

書評

映画のことを話すのは楽しい!

山内マリコ

 映画の話は楽しい。それは、小説や音楽、演劇のことを話すより、なぜだか群を抜いて楽しい。仲良しの作家二人による映画対談集『あの映画みた?』では、「いい女」や「いい男」、はたまた「ラブシーン」「三角関係」「食べもの」「子供」「老人」といったテーマごとに、お互いが思いつくまま、好きな映画を存分に語っている。
 井上荒野と江國香織は三十年来の友人で共に映画好き。この二人が、「一緒に食事をしたりお酒を飲んだり」しながら映画の話をしている場面を想像するだけで、なんだか豊かな気持ちになってくる。気の合う者同士の会話は、「そうそう」と肯定し合ううち、二人でしか行けない高みに達して、本人すら気づいていなかった自己発見にいたったりする。その瞬間のスパークが、本書にはあふれている。
 たとえば「いい女」。二人とも挙げた「髪結いの亭主」のアンナ・ガリエナが、「ハモンハモン」でお母さん役を演じていた女優と気づき、井上さんは「どうも私は、動じない女に『いい女』を感じるみたい」と得心する。一方、江國さんが「いい女」を感じるツボは、「家族のために奮闘する女」と「復讐する女」。そこに共通するものはなんだろう。井上さんが「自分で決めたら、それが社会的に正しかろうと正しくなかろうとやり遂げる女」とトスをあげるのを受けて、江國さんは「そう! 社会通念より個人の正義!」とアタックを決める。映画好きの友とでしかできない、感受性を探求する共同作業。さらには二人で、「男とうまくいっていない時の女の対応に」「『いい女』度が問われる」という発見に至るのである。こういう会話は楽しい!
 もちろん肯定し合うだけではない。ちょっとした意見の齟齬にこそ対談の醍醐味がある。「いやな女」でまっさきに名前が挙がった「卒業」のミセス・ロビンソン。自分は若い男を誘惑しながらも、娘には保守的な結婚をさせようとする。このダブルスタンダードを江國さんは、「今の結婚が満ち足りていないからこそ、娘には安全な結婚をさせたいのかと思った」と言い、井上さんは「彼女は意に沿わぬ結婚をして、今が幸せじゃないから、娘をあまり幸せにはしたくないんだと思う」と指摘。いずれも考えさせる意見であり、同時にそれぞれの性質の違いも垣間見える。二人とも女の欲望の美化に引っかかったという「ピアノ・レッスン」、主人公の最後について、「言い訳がましくていらっとする」井上さんに対し、「うーん。でも、私、あのシーンは好きだった。業の深さの映画だから」と言う江國さん。「そうか、業ね。キレイにまとめてないという見方もできるんだね」と井上さんが受け入れる流れもいい。「やっぱりいやな女は、魅力的な女になっちゃうんだよ」(江國)、「いやな男って思うのは、つまんない男だね」(井上)という結論も最高だ。
 映画の話をしていたら、思いがけないアフォリズムが飛び出すことがある。テーマ「三角関係」における「意外と恋情というものはあてにならない」(井上)「友情のほうがよっぽどあてになります」(江國)なんて、この二人が言うとぐっと含蓄が増す。
 人間、いい映画を観ると、誰かと感動を分かち合いたくなる。好きな映画を心ゆくまで語れる友だちがいることは素晴らしい。井上さんが「髪結いの亭主」でアンナ・ガリエナが着ていた「ああいうワンピースがどこかにないかなって探した時期があった」こと、「籠の中の乙女」のあらすじを聞いただけで「私その映画すごく好きそう!」と昂奮する江國さん。こういうところもすごくいい。
 映画のことを話すのは、本当に本当に楽しいのだ。

(やまうち・まりこ 作家)
波 2018年7月号より
単行本刊行時掲載

目次

はじめに―井上荒野―
いい女
笑い
食べもの
ラブシーン
いい男
ロードムービー
II
いやな女
子供
三角関係
老人
おわりに―江國香織―

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