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JAに何ができるのか

奥野長衛/著 、佐藤優/著

1,320円(税込)

発売日:2017/06/30

  • 書籍
  • 電子書籍あり

組合員数1000万を超える巨大組織に、作家・佐藤優が鋭く切り込む!

「世界に勝つ農業」こそが日本の最重要課題だ。ポストTPP、農政改革、食の安全、従事者の高齢化と後継者不足、ITとAIが切り拓く新領域。岐路に立つJA(農業協同組合)は何を目指し、どこへ向かうのか――日本の農業が抱える問題をあぶり出し、その解決策を探る、改革派の農協トップと舌鋒鋭い論客による最強対談。

目次
第1章 日本の縮図「伊勢」の農業は今
三重県でできない農産物は馬の角だけ
カップ麺に必須の乾燥ねぎの最初の産地
地域の好みに応じたブランドを確立
昭恵夫人も知っていた「伊勢のバラ」
佐藤優の視点――「勝つ農業」は伊勢に学べ
第2章 農業と「私」
生まれながらの「農本主義者」
「米の生る木って、どんな木?」
「都市農業」の今昔に思う
准組合員は農家のサポーター
佐藤優の視点――農業はいつも私のそばにいた
第3章 「共助の精神」が担うもの
資本主義社会の行きつく先は恐慌と戦争
強欲資本主義に対抗する「協同組合」の意義
「信用があってよかった」
HOWからWHYへ 発想の転換を
二宮尊徳と共助の精神
佐藤優の視点――農業を知るにはこの本を読め
第4章 政府の農業改革について考える
身に染みついているコンセンサス・システム
アメリカ・ファーストの行方
TPPの本質は保護主義
TPP騒動の教訓
組織は外から叩かれると強くなる
佐藤優の視点――日本のリーダーは半歩先が正解
第5章 農業とインテリジェンス
ITとAIが切り拓く領域
農業というものが持つ宿命
人為と自然の均衡点
佐藤優の視点――IT労働者をこそリクルートせよ
第6章 「日本の農業は衰退の一途」は本当か
根っこに横たわる社会全体の勤続疲労
日本の産業に流れる農業のDNA
農地解放と「結」
富国強兵と農業政策
事業仕分けを乗り越えて
生きる補助金と死ぬ補助金
農業国ロシアの意外な現実
世界が瞠目したミラノ万博の日本館
「足で稼ぎ、心でつないだ」アスパラガス
佐藤優の視点――久米島高校園芸科の挑戦
第7章 農業から日本を立て直す
子どもの6人に1人が貧困
米の生産量に匹敵する「食品ロス」
どうにも止まらない中国の国家的爆買い
ノーモア アメリカの大豆禁輸
協同組合は「食の安全」の最後の砦
ビール瓶を透かして見るロシア人
危機に瀕するアメリカ型大規模農業
農業を輝かせるべストミックス
山河乱れて国が在る
時代の流れを踏まえた原点回帰
今も心に刻まれた家長の教え
佐藤優の視点――アントニオ猪木氏の「闘魂」の原点
あとがき 佐藤優

書誌情報

読み仮名 ジェイエイニナニガデキルノカ
装幀 新潮社装幀室/装幀
雑誌から生まれた本 週刊新潮から生まれた本
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 176ページ
ISBN 978-4-10-475212-6
C-CODE 0095
ジャンル 産業研究
定価 1,320円
電子書籍 価格 1,056円
電子書籍 配信開始日 2017/12/08

書評

日本の農業に可能性を見る

池上彰

 かつて小田まことの『何でも見てやろう』という旅行記が一世を風靡し、海外旅行をする若者たちにとってのガイドとなりました。
 いま佐藤優氏は、森羅万象あらゆることに興味・関心を抱き、新たに得た知見を私たちに伝えてくれます。いわば現代版の『何でも見てやろう』シリーズのひとつが、この本ではないかと思えてしまいます。読者にJA=農協の新しい姿を教えてくれるのです。
 日本の農業というと、長く自民党政治に守られているうちに、高コスト体質になり、国際競争力を失ったにもかかわらず、政治力を駆使して守ってもらっている。保護されているうちに、農業は衰退の一途を辿っている。
 そんなイメージを持っている人が多いのではないでしょうか。
 事実、2015年の農業就業人口は209万7000人と、20年前の半分になっています。農家の平均年齢は59歳から66歳に上昇しました。一般企業なら定年退職の年齢を過ぎています。後継者が減っているため、平均年齢は上がるばかりです。
 農家が農業を放棄した土地=耕作放棄地の面積は7割も増え、現在は富山県と同じ規模の42.3万ヘクタールに拡大しました。富山県ほどの土地が遊んでいる。実にもったいないことです。
 保護されているがゆえに緩やかな衰退の道に入っている。日本の農業に未来はないのか。いや、そんなことはないと力説するのは、対談相手のJA全中会長の奥野長衛氏です。
 それにしても、日本古来の農業の伝統を受け継いできているはずの農協組織を、なぜアルファベットのJAにしなくてはならないのか。日本たばこがJTで、日本郵政がJPであるのは、まだ理解できますが、なんでわざわざJAにしなければならないのか。それが納得できないのですが、それはともかく、奥野氏は「農業は知的産業だよ」と言います。奥野氏の出身母体であるJA伊勢のバラの栽培は、温室栽培にヒートポンプやドライミストを積極的に導入して成果を上げ、「勝つ農業」を実践しています。
 この地でバラ栽培を始めた人は、米作の専業農家からバラ栽培に経営転換。キッパリ切り替えると、父親も農業から手を引き、息子に一任してしまいます。それが成功へのジャンプ台になりました。
 この経緯を聞いた佐藤氏は、「旧日本軍のように戦力の逐次投入で少しずつ変えるという手法は取らず、ドラスティックな決断をした」ことを高く評価しています。そうか、日本の農業を旧日本軍の行動と比較することで、何をすべきでないかが見えてくるのだ。
 佐藤氏らしい観察眼は、ほかでも発揮されます。特産の青ねぎの出荷に当たっては、金属探知機で、混入物がないかをチェックしているというのです。これぞリスクマネジメント。何かを混入させようという人物が出てきても防ぐことができるし、何か事件が起きてしまっても、自分たちの責任ではないと主張できます。
 このように、何気ない風景をインテリジェンスの観点から見直していくと、そこに活路が見出せます。
 奥野・佐藤両氏が対談の中で力説するのは、「協同組合」という存在の現代的価値についてです。協同組合とは株式会社ではない、農家の人々の協力によって成り立つ組織です。
 一般に助け合いとは、自助・共助・公助の3種類があります。自助とは自分の身は自分で守ること。共助は仲間同士で助け合うこと。そして公助は国家が助けてくれること。協同組合は、このうちの「共助」で力を発揮する組織です。佐藤氏はこう指摘します。
「効率性や利潤の追求においては、協同組合は株式会社に負けてしまう。しかし、中長期的に株式会社で営利を追求する仕事だけをやっていたら、人間は燃え尽き、ぼろぼろになってしまいます」「その意味からも、協同組合に期待するものは大きい」
 そうだった、農協とは農民たちの助け合いの場所だったのです。
 一方、奥野氏はこう述べます。
「もともと日本には、田んぼで稲をつくるのは大変だから、集落ごとに『ゆい』という組織があった。それで、農繁期は、みんな集団で仕事をして、助け合った」
 その伝統が今も息づいているのです。日本の農業に対する読者の見方を変える本です。

(いけがみ・あきら ジャーナリスト)
波 2017年7月号より
単行本刊行時掲載

著者プロフィール

奥野長衛

オクノ・チョウエ

1947年三重県生まれ。関西大学法学部中退。学生時代より生協活動に打ち込み、大阪府内の地域生協の設立に尽力したのち、家業を継ぐかたちで就農。就農後は農業のかたわら、地元野菜を使った漬物の加工・販売事業に進出し、兵庫県内に店舗を出店。JA伊勢組合長を経て、2011年JA三重中央会会長。JA全中監事、理事を経て、2015年8月からJA全中会長に。

佐藤優

サトウ・マサル

1960年生れ。1985年、同志社大学大学院神学研究科修了の後、外務省入省。在英大使館、在露大使館などを経て、1995年から外務本省国際情報局分析第一課に勤務。2002年に背任と偽計業務妨害容疑で逮捕・起訴され、東京拘置所に512日間勾留。2005年2月執行猶予付き有罪判決を受ける。2009年6月に最高裁で上告棄却、執行猶予付き有罪確定で外務省を失職。2013年6月に執行猶予期間を満了、刑の言い渡しが効力を失った。2005年、自らの逮捕の経緯と国策捜査の裏側を綴った『国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて』で毎日出版文化賞特別賞を受賞。以後、作家として外交から政治、歴史、神学、教養、文学に至る多方面で精力的に活動している。主な単著は『自壊する帝国』(新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞)、『獄中記』『私のマルクス』『交渉術』『紳士協定―私のイギリス物語』『先生と私』『いま生きる「資本論」』『神学の思考―キリスト教とは何か』『君たちが知っておくべきこと―未来のエリートとの対話』『十五の夏』(梅棹忠夫・山と探検文学賞受賞)、『それからの帝国』など膨大で、共著も数多い。2020年、その旺盛で広範な執筆活動に対し菊池寛賞を贈られた。

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