君たちが忘れてはいけないこと―未来のエリートとの対話―
1,485円(税込)
発売日:2019/05/29
- 書籍
- 電子書籍あり
怖いもの知らずの高校生、佐藤優に体当たり! 「知」を追求する者同士の世代を超えた真剣勝負。
世界の行方も日本の未来も、決めるのは僕たちだ! 世界的に広がる格差をなくすには? 資本主義の終焉はいつ訪れる? 後悔しない大学の選び方は? 社会のリーダーに必要な教養とは? 切実でイキのいい問いを遠慮会釈なくぶつける高校生たちに、自らの知識と経験を惜しみなく語り伝える名講義完全採録。
それは大ウソつきか、まるで分かっていないかのどちらかです。
真の学歴社会が到来している。
それは企業を興して、他人の労働を搾取することです。
安全保障問題や軍事問題があることを覚えておいてください。
産業を維持するために必要なインフラなんです。
イスラム社会におけるイスラム教です。
自分たちの味方が敵に見えていることだ。
能力があって倫理観の欠如した官僚によって起きた案件なんだ。
社会の上層部に残ることがほぼ確定しています。
ぜひ小説を読んでください。
本書に登場した書籍一覧+α
書誌情報
読み仮名 | キミタチガワスレテハイケナイコトミライノエリートトノタイワ |
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装幀 | 新潮社装幀室/装幀 |
発行形態 | 書籍、電子書籍 |
判型 | 四六判変型 |
頁数 | 272ページ |
ISBN | 978-4-10-475215-7 |
C-CODE | 0095 |
ジャンル | ノンフィクション |
定価 | 1,485円 |
電子書籍 価格 | 1,485円 |
電子書籍 配信開始日 | 2019/11/01 |
書評
マイケル・サンデルではまにあわない
最近はあまり現場の仕事をしなくなったけれど、編集の仕事をしていると、いろいろな才能の持ち主に出会う。書けばうまい、インタヴューに強い、対談が巧みだ、講演で聴かせる、タイトリングに長けている、あとがきで泣かせる、書評が適確だ、等々。いろいろである。
こうした才能には逆もあるし、片寄りもある。書けるけれど話すとめちゃくちゃ、相手との距離が保てずに話す、予定どおりの講演しかできない、文章は妙にレトリカルなのに授業は通りいっぺん、すべて上等だが実は人格が破綻している、論文は書けるがエッセイはへたくそ。こちらもいろいろだ。だから、おもしろい。
佐藤優はリテラルもオラルも抜群で、かつ多産であって、どんなときも焦点が間抜けにならない。人倫もすばらしく、付きあってみるとすぐわかるが、配慮にも富んでいる。
読書派であることは夙に知られているけれど、たんに読書量を誇っているのではなく、文脈の中でも「その書物」(著者・版元・刊行期・内容)との遭遇距離をまちがえないで引用したり挿入できる才能がある。私が知るかぎり、最近の日本ではピカ一だ。
加えてさらに気付かされたのは、セッションにも強いということだ。作家でこの能力を見ることはめったにないのだが、佐藤さんはナマの「多勢に無勢」にも強い。外交官の経験にもとづくのか、熾烈な裁判をくぐり抜けてきたせいかはわからないが、私も何度か現場を共有して目を見張った。
灘高の生徒を相手に話しこんだ『君たちが忘れてはいけないこと―未来のエリートとの対話―』にも感心した。高校生エリートを相手にしていることを活かして、生徒たちが用意した論点・質問・疑問をみごとに采配している。通りいっぺんのセッションではない。誘導の場面、切り込みの場面、諭しの場面、転換の場面、いずれも申し分なく配分されていた。
灘高生が気になっているのは、日米関係、グローバルスタンダードの行き過ぎ、ベーシックインカムの実現可能性、天皇制の行方、SNSやAIの限界のこと、基地問題、民主主義とポピュリズムの関係、トランプや北朝鮮やイスラム過激派の動向といったもので、まあ、予想のつく論題が多い。ただ、そこには灘高生なりの憂慮と不安、日本の将来の見えなさ、納得のいかない思い、深められない苛立ちなどがある。これらを佐藤さんは、まさに「知の鵜匠」や「インテリジェンスの伯楽」のように捌いていくのである。
当然、高校生には無知も誤解も先走りも思いこみもある。とくに歴史観が乏しい。それを適切な事例をふんだんに出しながら補い、必須なところは解説し、あっというような判断基準を惜しみなく出していく。事例は軍事情報から小説・映画・マンガに及び、そのつど読むべき書物が差し出されるのだ。
しかし、この本を読んで感心したのは、こうした対応力の愉快だけではなかった。2020年代の世界情勢のなか、令和の時代に入った日本および日本人が何を考えなければならないのか、このことを実に分厚く、鋭利に、証拠だてて展開している問題設定力と解読力に感心した。たんに深めようとしているのではなく、設定された問題のレベルを問うて、その設定問題なら打ち切ってしまうという、さしずめ「知の地政学」ともいうべき「知政学」が発揮されているのも魅力的なのである。
もうひとつ感心するのは、「踏み込むべきところ」と「怖いところ」をちゃんと示していることだ。高校生にはどこで踏み込んでどこで控えるかが、わからない。そういう社会感覚的なアフォーダンスを扶けてあげているのだ。大学で取り組むべきことも、社会で仕事をするときの心得も、存分に助言されている。この親心は、実は佐藤さんの隠れた魅力だろう。
当然、オトナたちも読むべきである。私はどこかでオトナたちに苦言を呈することに倦きてしまったところがあるのだが、佐藤さんのリテラシーやオラリティとなら筏を組んで同舟できそうだ。思想議論としても、民主主義、反知性主義、ポピュリズム、ボナパルティズム、帝国主義、ファシズム、リバタリアニズム、統計主義などの、歴史的で未来的な捉え方が、大いに参考になる。マイケル・サンデルなどではまにあわない。
(まつおか・せいごう 編集工学研究所所長)
波 2019年6月号より
単行本刊行時掲載
イベント/書店情報
著者プロフィール
佐藤優
サトウ・マサル
1960年生れ。1985年、同志社大学大学院神学研究科修了の後、外務省入省。在英大使館、在露大使館などを経て、1995年から外務本省国際情報局分析第一課に勤務。2002年に背任と偽計業務妨害容疑で逮捕・起訴され、東京拘置所に512日間勾留。2005年2月執行猶予付き有罪判決を受ける。2009年6月に最高裁で上告棄却、執行猶予付き有罪確定で外務省を失職。2013年6月に執行猶予期間を満了、刑の言い渡しが効力を失った。2005年、自らの逮捕の経緯と国策捜査の裏側を綴った『国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて』で毎日出版文化賞特別賞を受賞。以後、作家として外交から政治、歴史、神学、教養、文学に至る多方面で精力的に活動している。主な単著は『自壊する帝国』(新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞)、『獄中記』『私のマルクス』『交渉術』『紳士協定―私のイギリス物語』『先生と私』『いま生きる「資本論」』『神学の思考―キリスト教とは何か』『君たちが知っておくべきこと―未来のエリートとの対話』『十五の夏』(梅棹忠夫・山と探検文学賞受賞)、『それからの帝国』など膨大で、共著も数多い。2020年、その旺盛で広範な執筆活動に対し菊池寛賞を贈られた。