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池上彰が話す前に考えていること

池上彰/著

1,650円(税込)

発売日:2025/11/27

  • 書籍
  • 電子書籍あり

わかりやすさナンバーワン! 伝えるプロの、すごい「頭の使い方」とは。

池上さんの解説は、なぜあんなにわかりやすい? 「要点は3つまで」「相手ファーストで話す」「論破は不毛」「ノイズを浴びる」──伝えるプロのすごい頭の使い方とは。生放送の現場リポート、子ども番組の司会、選挙特番での鋭い質問など、唯一無二の経験で培った177の実行スキルを収録。池上流・思考整理術のベスト版!

目次

いつも考えていることとは──まえがきにかえて

序章 点と点をつなぐ

インプット編
1章 情報を浴びる
2章 ふるいにかける
3章 解像度を上げる
4章 アナログを武器にする
5章 思いをキャッチする

アウトプット編
6章 書いて伝える
7章 話して伝える

思考を養う生活
8章 ルーティンを磨く
9章 時間の手綱を握る
10章 読書を心の糧とする
11章 後悔なく生きる

書誌情報

読み仮名 イケガミアキラガハナスマエニカンガエテイルコト
装幀 小口翔平+畑中茜+佐々木信博(tobufune)/ブックデザイン
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 208ページ
ISBN 978-4-10-476202-6
C-CODE 0030
ジャンル ノンフィクション
定価 1,650円
電子書籍 価格 1,650円
電子書籍 配信開始日 2025/11/27

書評

すぐ役に立つことは、すぐ役に立たなくなる

佐藤優

 池上彰氏は、今や絶滅危惧種のような正統派ジャーナリストだ。これまでにも池上氏は取材法や思考法について多数の作品を発表しているが、本書は旧約聖書の箴言(教訓となる短い言葉)の形態を取っている。どこから読んでも役に立つ実用性の高い1冊だ。
 池上氏は、取材の大原則についてこう述べる。〈新聞記事には「性格」があり、大まかに2つのパターンに分けられます。/1.事実を報じるもの/2.意見、推測、見通しを述べるもの/私たち読み手に求められるのは、「どこまでが事実で、どこから先が意見や推測なのか」を峻別する力でしょう〉。
 いまやこういう区別をした上で記事を書くジャーナリストは少数派だ。そんな正論はもはや現下のジャーナリズムには通用しない。もっとも私が親しくしているのは、池上氏に加え、船橋洋一氏(元朝日新聞社主筆)、手嶋龍一氏(元NHKワシントン支局長)、西村陽一氏(元朝日新聞社常務取締役)など、伝統的取材方法を重視する絶滅危惧種のジャーナリストばかりだ。日本のジャーナリズムの文化が顕著に変化したのは、2022年2月24日に勃発したロシア・ウクライナ戦争によるところが大きい。その後、日本のマスメディアも大多数の有識者も、物事を分析し評価するにあたっては、事実、当事者の認識、評価を分けて行わなければならないという基本を忘れてしまったようだ。これが、ガザ紛争によって一層加速した。2023年10月7日にハマスがイスラエルに対してテロ攻撃を行った当初1カ月くらいは、イスラエルに同情し、ハマスのテロ行為を断罪する報道が主流だった。日本の国際政治学者も「日米同盟は日本の生命線だ。イスラエルはアメリカにとって事実上の最重要同盟国である。故に日本はイスラエルを支持すべきである」という単純な三段論法で、イスラエル支持の論陣を張った。しかし、イスラエルのハマス掃討作戦が長期化すると、人道的見地からマスメディアはイスラエルを激しく非難するようになった。そして、三段論法でイスラエルを擁護していた有識者は沈黙し、イスラエル国家の存在を認めない中東研究者や、人権論者が幅を利かせるようになった。ジャーナリストから、「佐藤さんは不思議な立ち位置ですね。親ロ派の人は、通常、親パレスチナなのですが、佐藤さんは親イスラエルですね」と尋ねられるようになった。筆者は、事実、当事者の認識をそれぞれ紹介し、その上で自らの評価をしているに過ぎないが、そのことがなかなか理解されない。ロシア・ウクライナ戦争勃発から3年半経った現在、日本の言論空間は正邪の判定をまず行い、そこから断片的事実を拾い上げて議論を展開するという状況になってしまった。しかも正邪の判定に際してはインターネットが無視できない影響を与える。インターネットが情報空間と人間の認知を歪めている。池上氏は本書においても「エコーチェンバーの外に出る」「知識はインスタント麵じゃない」「ネットは『たこつぼ』化する」など、インターネットが真実を知る妨げとなる要素につき警鐘を鳴らしている。
 こういう病的状況を読者に自覚させ、国民の真実を知る権利に奉仕する方向へとメディアを回帰させようとする闘いに、本書を通じて池上氏が挑んでいると私は見ている。ロシア・ウクライナ戦争やガザ紛争についても、機微に触れる情報を入手したときは、私は常に池上氏と共有している。冷酷なリアリストの私と比較して、池上氏はヒューマニストだ。ロシアによって侵攻されたウクライナの人々、イスラエルのハマス掃討作戦で犠牲になっている無辜のパレスチナ人に対する共感と連帯の気持ちを常に抱きながら報道している。ただし、事実、当事者の認識、評価を区別し、報道するという原則を絶対に外さない。だからウクライナやハマスのプロパガンダ(宣伝)に池上氏が利用されることはないのだ。
 池上氏が、水準の高い報道を続けられるのは、同氏の根底に教養主義があるからだ。〈読書体験は、実生活にすぐ役立つものばかりではありません。むしろ、すぐには役に立たないことのほうが多い。しかし、かつて慶應義塾の塾長だった小泉信三がいったように「すぐ役に立つことは、すぐ役に立たなくなる」。/漢方薬のように、じわじわ効いてくるのが基礎知識であり、教養なのでしょう。/一見仕事には結びつきそうになくても、長い目でみれば心の栄養になったり、自分の世界を広げてくれたりする本もあります。そういう本が回り回って仕事にも生きてくるのを、とくにフリーになってからはひしひしと感じています〉。マスメディアと大多数の有識者が、事実よりも感情を重視し、恣意的感想を分析や論評と思い込んでいる時代に、池上氏が説くように地道な読書と思索によって教養を身体化していくことが真実に近づく早道と思う。

(さとう・まさる 作家/元外務省主任分析官)

波 2025年12月号より
単行本刊行時掲載

インタビュー/対談/エッセイ

池上さんと村上さんが話す前に考えていること

村上信五池上彰

SUPER EIGHTのメンバーで、司会者としても活躍する村上信五さんは、池上彰さんの新刊をどう読み解くのか。これまで何度も共演してきたお二人。実は意外な共通点もあり──。

池上 村上さんとは何度も共演させていただいていますが、今でも印象に残っているのはビートたけしさんとご一緒した時のこと。

村上 27時間テレビですよね、よく覚えています。まだコロナ前だったなあと。

池上 初対面で感心したんですよ。村上さんの場を回す力が素晴らしかった。

村上 ええっ、本当ですか。僕は当時30代半ば、総司会を務めるたけしさんが70歳くらいでしたから年齢はダブルスコアです。内心ドキドキしっぱなし。

池上 たけしさん、ときどき“暴走”するでしょ(笑)。そこへ村上さんが絶妙なフォローを入れる。ボケを受け止めつつも、さりげなく身をかわして話を前に進めていました。

村上 うわ、池上さんにそんな風に言っていただけるなんて光栄です。そんなのぜんぜん自覚がなかったですけど、お二人に話していただきたいトピックスは山のようにありましたから、番組を進行していくアテンダーのような役割はしっかり果たさなければと意識していました。

池上 ややこしいジジイ二人をなだめながら、実に立派でしたよ(笑)。

村上 いやいやいや。そんな畏れ多いことを……。スタジオに入る前、池上さんと初めてご挨拶して、「裏表がない人やなあ」と思いました。椅子に座っていらっしゃったのに、パッと立ち上がって丁寧に挨拶してくださって。だから、そのあとすごくお仕事しやすかったんです。僕、「小童が知ったような口をきいて、“そうじゃない”ってお叱りを受けるんじゃないか」とか、勝手に心配して萎縮してしまうようなところもあるんです。でも池上さんには、たとえ自分が知識不足でも、質問をしたらきちんと答えていただけるだろうなという安心感を抱きました。先にそういう空気をつくっていただけたことがありがたかった。そうでなければ、相手のお腹を探りながら進行せざるを得ないですからね。

池上 村上さんは「わからないので教えてください」と正直に言えちゃうタイプ。そういうところも強みの一つでしょうね。知らないことを「知らない」と言うのはけっこう勇気がいることですから。11月に出る『池上彰が話す前に考えていること』にも、「知ったかぶりしない」という項目が……。

村上 ありましたね、知ったかぶりは相手にバレると。これ、僕自身もめちゃめちゃ思っていること。ご本を読ませていただいて、他の項目も共感しかなかったです。「これ、そうですよね!」って。

池上 この本には、私自身の苦い経験から得た学びも詰まっておりまして(笑)。たとえば新人記者時代、落語の大御所のところへ「とにかくすぐ取材に行け」と言われたんです。今ならネットで調べられるけど、当時はそんなものありません。予備知識ゼロで駆けつけたものの、あまりに相手に失礼なので、あたかも知っているかのようなフリをしました。あれはつらかったなあ……。薄々気づかれていたと思います。

村上 そればっかりは仕方ないですよね。さすがに間が持たないですもん。自分自身、これまで山ほど「知ったかぶり」をしてきました。きっとお相手にもバレていたと思うし、「あ、俺いまウソついた」って苛まれる。その小さいウソを隠すのにさらに労力を割かないといけないわけですから。

池上 何もわからないんです、って最初に言えればラクなのにね。

村上 そうなんです。その一言があれば皆さん、教えてくださいますから。そこに行き着くまでに時間がかかりました。僕、23、24歳の時に本格的に東京で芸能活動を始めたんですけど、土地勘もないし文化もよくわからなくて。そのあたりからです、「知らん、わからん!」ってハッキリ言えるようになったのは。ずっと大阪にいたら、知ったかぶり期間はもう少し長引いていたかもしれない。

しくじりは無駄にならない

池上 ところで村上さん、小さい頃は恥ずかしがり屋だったそうですね。

村上 そうなんですよ。あかんたれ(泣き虫)で、幼稚園に行くにも恐る恐る。母の後ろに隠れたりなんかして。

池上 私はというと小学校、中学校に上がっても引っ込み思案で女子生徒と気軽に話なんかできませんでした。大学時代のガールフレンドには「あなたの話ってホントつまらない」ってそっぽを向かれたり。

村上 あ、そのエピソードは新刊にも書かれていましたね。

池上 トラウマものです(笑)。シャイで口下手だという自覚がありました。でも、仕事を始めたらそんなことは言っていられません。記者1年生はまず地方に赴任してサツ回りから始めます。毎日欠かさず警察署の刑事デカ部屋へ行って、コワい刑事たちにジロリと睨まれながらも、とにかく話をしなきゃならない。

村上 そこは僕にも共通する部分かもしれないです。根が恥ずかしがり屋でも変わらざるを得なかった。この業界に入って喋らなきゃいけない状況に置かれたから、多少はそれらしく動けるようになっただけなんです。
 若い頃って皆、「ホントの自分」が好きじゃないですか。ホントの自分はこうじゃない、こんな仕事をするなんて自分らしくないって葛藤したり。でも、ホントの自分なんてそんな若いうちからわかるものなんでしょうか。環境が変わればいくらでも変化できるんちゃうかなって思うんです。

池上 良い意味でも悪い意味でも「環境に抗うすべはない」んだよね。私は社会部の記者時代、あれをリポートしろ、こんな番組をつくってみろと命じられると、「そんなのできそうもない」って尻込みしていました。能力も経験もないですからね。でも、「いや、待てよ。ここで踏ん張れば自分の成長に繫がるかもしれない」と考え直して、あえてちょっとだけ背伸びするようにした。すると、それをやり遂げた時に「自分はここまでできるようになった」と自信に繫がったんです。

村上 めちゃめちゃわかります。その一歩を踏み出せるかどうかが大切なんやと思います。そこで躊躇してしまう人は多いから。

池上 若い頃の積み重ねはあとになって活きてくるんですよね。だからこそ、勇気をもって一歩前へ。

村上信五

村上 まさに「たくさん恥をかく」ことの大切さですね。僕、いまだに「上手いこと喋れたな」とか思うことはないです。自分で「上手く喋れたなあ」っていくら思っても、果たして本質の部分が相手に伝わっているか。ほとんど伝わっていないんやろな……と反省することのほうが多くて。伝えるってつくづく難しいことだと思います。

池上 上手く話せたって自分で思ったら、そこで成長が止まってしまうのでしょうね。私にとってテレビは「出る」もの。時間がないので「観る」ことはなかなかできません。だけど、後から「ああ、収録のあの時ああ言っておけばよかった。こうしておけばよかった」とあれこれ思い出すこともあります。恥ずかしくなっていたたまれなくなったりね。

村上 言葉のニュアンスがちょっと違ったかなとか、あそこは間違えたなとか。でも野球でいえば、まったく同じ打席は回ってこないし、同じ球は二度とこない。だからミスしても落ち込むんじゃなくて、次に似たようなシチュエーションを迎えた時にしっかり対応できるようにしよう、と前向きに考えるようにしていますね。

池上 「しくじりは無駄にならない」んです。

村上 またしても格言が! 本当にそう思います。学ぶということは続けていきたいです。
 池上さんは情報整理能力がむちゃくちゃすごい。そもそも入っている知識の量が違うし、膨大にある引き出しの中からの言葉のチョイス、アウトプットする順番と、とてつもないスキルをお持ちです。それに加えての説得力。どれも過去に培われた経験に裏打ちされているんやと思います。たとえば「凄惨な事件だった」って言うじゃないですか。これって実際に足を運んで取材したかただからこそ言えること。僕がポンと使っても薄っぺらさがすぐにバレると思うんです。“ガワ”の部分はコピーできても、中身が伴っていないから。だから安易に真似はしません。

「ヤバい!」のヤバさ

池上 真似はしない。だけど学び続ける。先ほどから描写力、表現力がすごいなあと思いながら聞いております。

村上 ちょっとは腕が上がりましたかね(笑)。この流れで思い出したのが、ご本のなかにあった「慣用句に逃げない」。僕より下の世代のかたにも役立つだろうなあと感じました。詰め込み型の勉強が得意なタイプって、引用も含めて「これを言ったら賢くみえそうだな」という表現方法を使いがちだと思うんですけど、池上さんが書かれているとおり、ちゃんと自分の中に落とし込んだものを自分の言葉で喋れているのかという部分のほうが大事じゃないかと。難しい慣用句を、ちょっと背伸びして練習で使う分にはぜんぜん構わないと思うんですけどね。

池上 私はよく「手垢のついた表現」と言っているんです。

村上 「嬉しい悲鳴」ですとか。

池上 そうそう。最初に思いついた人はすごい感性の持ち主だと思います。けれど、今はありきたりの表現だったりしますでしょ。

村上 無理やりオリジナリティにこだわって造語を生み出せばいいという話でもないんですけど、たとえば何でもかんでも「ヤバい!」の一言で済ませるのは……。

池上彰

池上 それこそ「ヤバい」ですよね。ポジティブなこともネガティブなことも、あらゆることが表現できてしまう。たとえば村上さんみたいなイケメンをみて「ヤバい!」って言いますよね。もちろん良い意味で使っているわけです。ああ、なるほど、あまりにも素敵な相手に出会って、思わず吸い寄せられそうになる自身の心の揺らぎを「ヤバい」と表現しているのか──。初めて聞いた時にはとても新鮮だったんですけど、そのうちに皆が使い始めて。

村上 僕自身、スラングというか、池上さんが仰るところでの「手垢のついた表現」は使わないように気をつけています。明らかにジョークとして受け止めてもらえる場面でしか言わないですね。日常の積み重ねって、ふとした瞬間に出てしまうじゃないですか。それは、いざという時に隠せないもの。言葉に気をつけているうち、自ずと所作も変わってくるんじゃないかなって。

池上 所作だなんて懐かしい言葉が。本当に、言葉遣いによって人の佇まいって変わりますよね。同感です。

村上 あえて崩すこともありますしね。正論ばっかり言っていると説教臭くなってしまうから。それから、「完璧主義は脇におく」。これにはハッとさせられました。僕、今年の4月に『半分論』(幻冬舎)という本を出したんですけど、このなかでまさに自分が書かせていただいた部分だった。

池上 読みましたよ。お忙しいのによく書かれましたね。

村上 ありがとうございます! これまでの経験を土台に「こうやって思考するようになった」というエッセンスをまとめてみたんです。僕らは百点満点をとるように学校教育を受けていますし、人前に出てパフォーマンスする時にも常に完璧を求められます。それに応えるために全力でリハーサルも積みますけど、その結果、万一上手くいかない部分があったとしてもクヨクヨしない。ゆっくり長く努力を続ける。僕、すごく嬉しかったんです、「あ、池上さんも同じ感覚で仕事に向き合っていらっしゃるんだ」ってわかったから。

池上 私も村上さんの『半分論』を読んで、私と表現の仕方は違うけれど、考えていることの趣旨は同じなんだなと感じました。

村上 ほんまですか。嬉しいなあ……。他にも刺さるポイントが多すぎて、読みながらページの角をたくさん折っているんです。「“真実を伝える”という言葉は嫌いです」。これも胸にズシンと響きました。僕なりの解釈ですけど、インターネット、とくにSNSの台頭とともにフェイクニュースという言葉が生まれた。コロナ下では陰謀論も流行りましたよね。その対極として「真実とは何か」と疑問をもつ人が増えた気がします。新聞やテレビの報道よりも、ネットで辿り着いたマイノリティの発信をみて「より真実に近づいたぞ」って喜ぶ風潮もあった。
 池上さんはご自身で取材されているからこそ、いくつもの「点」を「線」に繫ぐことができるけど、局所的な部分だけ追っている人って「点」が少なすぎて、「線」に繫ぐことが難しいんちゃうかと思うんです。ましてや真実に辿り着くことなんて、生きているうちにできるのかなって。

池上 真実なんて「神のみぞ知る」ですよね。人間にはわからない。事実を必死に集めることはできても、拾い集めた事実をどう組み立てるかによって出来上がる形はまったく違うものになるんです。仮に真実というものがあって、それが銅像の形をしているとしましょう。この銅像を形づくる破片を集めることなら私たちにもできるけど、その破片の組み立て方によって銅像の完成形はまったく違うものになる。だから「これが真実だ」って高らかに宣言するんじゃなくて、「少しは真実と呼ばれるものに近いのかな?」という気持ちで追求するのが我々の仕事だと思っています。

村上 さっきの「完璧主義は脇におく」というところにも繫がりますよね。100パーセントの真実なんてあり得ない。

池上 そう。頑張って100パーセントを目指さなきゃいけないんだけど、できるわけがないんです。テレビの番組企画で「○○の真実」というタイトルでやりましょう、と提案されることもありますが、「ごめんなさい。“真実”というのはやめてほしいんです」といつもお願いして変えてもらっていますね。

村上 キャッチーにしたい意図はわかりますけど、エンタメ色を強くすることが手段じゃなく目的になっては本末転倒ですよね。ニュースの本質をみんながちゃんと理解できることが一番大事なんじゃないかなあ。

丸5日間、缶詰に

池上 ところで、村上さんは読書家でいらっしゃるそうですね。

村上 読書家だなんて、そんな。池上さんに比べたら100分の1も読んでいないですけど、読むのは好きです。趣味ですよね、知らなかったことを学べるのが楽しい。取っ散らかっていますけど、今読んでいるのは『国家はなぜ衰退するのか』(ハヤカワ文庫)。地政学の本です。

池上 ああ、作者がノーベル経済学賞を受賞しましたよね。

村上 2年くらい前まで地政学についてまったく知識がなかったんですけど、ふとしたきっかけで本を読んでみたら「何これ、めっちゃおもろい!」と驚きまして。それで、ラジオ番組「村上信五くんと経済クン」(文化放送)のゲストに、シンガポール国立大学で教鞭を執られている田村耕太郎先生に出ていただいたんです。今年のGWには、田村先生の集中講義も受けさせてもらいました。特別にオンラインで繫いでいただいて、丸5日間、自宅で朝から晩まで缶詰になりました。それまで講義というものを受けたことはなかったので……車の運転免許を取って以来、初めてかもしれないです。

池上 さすがですねえ、常に体ごと新しいことにぶつかっていって。こうやって成長していくんだよね。

村上 これまでほんまに勉強してこなかったので、贖罪の如く「勉強せな!」って。ええ感じに皆さん褒めてくださるから「そのイメージに追いつかなアカン」って無理くり勉強しているところもあるのかもしれないです。地政学は、地理から経済、歴史、文化、宗教、民族までが重なり合っているので、「全部かい!」って(笑)。

池上 どんなすきま時間を読書に充てているんですか。

村上 池上さんと一緒で移動のタイミングが多いですかね。まさに「長距離移動はチャンスタイム」です。飛行機、新幹線に乗る時には絶対に本は持ち込みます。収録の合間に読むこともありますしね。逆に、今日は何時から何時まで読書に充てるぞ、ということはないかなあ。

池上 なかなか読めないですよね。時間の使い方で言うと、私はSNSをやらないんです。そこで他人の悪口を読まされても仕方ないから。オンラインの時間を短くして、スマホにもなるべく触らないようにしています。

村上 時間泥棒ですよね。新聞は読みますけど、僕もネットニュースからは距離を置いています。入浴中、息抜きにスポーツ名場面集のようなネット動画を観ることはありますね。

池上 私も寝る前、犬や猫のかわいいショート動画をよく観るんですよ。最大の癒しです。息抜きに、30分くらいのつもりがだいたい1時間くらい観ちゃうんだけど……。

村上 おんなじです。僕も家のリビングでたき火の動画を流してます。

池上 いいですよねえ、たき火がひたすらパチパチと燃える様子だけを流している動画。眺めていると心落ち着くんですよね。

村上 池上さん、わかってくださるんですか(笑)。これが伝わったの、櫻井翔君以来です。

池上 いつも頭をフル回転させているから、どこかでクールダウンさせる必要があるということですよね。

村上 うわ! まさにそうです。仕事が終わっても妙に頭が冴えてしまって。そのまま帰宅して何か作業しちゃうとリラックスする時間がなくなるので、翌日の仕事のことを考えても非効率やなと思うんです。だから、あえてスイッチを切るように意識しています。大層なことは何もしてないですけどね。

池上 まさに「“時間泥棒”ともたまには仲良く」しないとね。

(むらかみ・しんご)
(いけがみ・あきら)

波 2025年12月号より
単行本刊行時掲載

著者プロフィール

池上彰

イケガミ・アキラ

1950(昭和25)年、長野県生まれ。ジャーナリスト。名城大学教授、東京科学大学特命教授、立教大学客員教授など複数の大学で教鞭を執る。慶應義塾大学卒業後、NHK入局。報道記者や番組キャスターなどを経て、1994年から11年間、『週刊こどもニュース』でお父さん役を務める。2005年に独立。『伝える力』『なぜ、読解力が必要なのか?』など著書多数。

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