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アリババ 中国eコマース覇者の世界戦略

ポーター・エリスマン/著 、黒輪篤嗣/訳

1,760円(税込)

発売日:2015/10/19

  • 書籍

注目のカリスマ経営者ジャック・マーの参謀を務めた米国人エリートが語る。

中国でイーベイを打ち負かし、ヤフーチャイナを買収、アマゾンのジェフ・ベゾスでさえもノウハウを知りたがる世界最大級のネット企業アリババ。中国の片田舎で創業されたネット通販会社は、いかにして時価総額2300億ドルの世界的巨大企業へと発展を遂げたのか? アリババ急成長の内幕とその秘訣、さらに野望の行方──。

目次
はしがき
序 大跳躍
第1章 絶好の場所に、絶好のときにいた、絶好の人物
第2章 急騰!
第3章 急落
第4章 外国人マネジャー
第5章 アリババの洞窟
第6章 ジャックと世界へ
第7章 アリババの空から落ちる絨毯
第8章 中国に逆戻り
第9章 最後まで生き残る
第10章 隔離
第11章 イーベイとの戦い
第12章 グーグルのふたり
第13章 揚子江の鰐
第14章 イーベイ-アリババホットライン
第15章 ヤフー!
第16章 世界を驚かせる提携
第17章 中国検索戦争
第18章 無料サービスはビジネスモデルにあらず
第19章 アリババフィーバー
第20章 アリババとの別れ
第21章 冬
第22章 春
第23章 アリババの世界
第24章 アリババと四十の教訓
原註

書誌情報

読み仮名 アリババチュウゴクイーコマースハシャノセカイセンリャク
発行形態 書籍
判型 四六判
頁数 272ページ
ISBN 978-4-10-506951-3
C-CODE 0098
ジャンル 実践経営・リーダーシップ、IT
定価 1,760円

書評

ネットでの「爆買い」も支える中国eコマースの巨人

富坂聰

 北京で時々訪れる友人のマンションにはコンシェルジュがいる。日本人がイメージするマンションの管理人ではない。いわゆる高級マンションのステイタスとしてのコンシェルジュである。ホテルマンのような制服を着て出迎えてくれる。小窓から来訪客を一瞥するあの管理人とは違う。
 その高級マンションの入り口には広々としたスペースがあり、このぜい沢な空間の使い方がハイクラスの排他性を強調しているようにも感じさせていた。
 ところがここ数年、マンションを訪れるたびにこの広々とした空間が狭くなっていることに気付かされた。コンシェルジュの横に設置されているロッカーが、来るたびに増設されているからだった。しかも、ロッカー一つ一つのサイズも大きくなる傾向にあり、大型のものだと人一人がスッポリ入ってしまうほどの容量がある。
「このロッカースペースが広がってゆくスピードは、ここの住民がどれほど凄まじい勢いで通販を楽しむようになってきているのかを知るバロメーターでもあるのさ。留守中に届く荷物を保管する場所が足りなくなって増設しているんだ」
 と友人は教えてくれた。聞けば、彼の友人たちの住むマンションでも同じような現象が起きているのだという。
「これはそのまま『淘宝(タオバオ)』や『天猫(ティーモール)』の勢いでもあるんだ」
 どちらも中国電子商取引の覇者といわれるアリババが個人向けに運営するショッピングサイトだ。特に淘宝の会員数は二億人を超え、その国内シェアは八割といわれる。
 二〇一五年の年が明けるころ、中国では若者を中心に手に持ったスマートフォンを激しく振って、落としてしまったことで壊れてしまい、大勢の人が修理に駆け込むという現象が広がったことがあった。これはアリババのライバル企業である騰訊(テンセント)が、電子マネーの主導権をめぐってアリババとの間で熾烈な争いを繰り広げるなか、アリババがユーザーを引き付けようと“お年玉”を用意したことで起きた社会現象であった。人々が“お年玉”をゲットするためには、「スマホを激しく振る」という仕掛けがあったことで、事故が多発したというわけだ。
 この一事に限らずアリババはこれまでたくさんの社会現象をつくりだしてきた。通販事業の強い需要に後押しされるように流通革命を引き起こしたのもその一つだ。
 もともとアメリカと同じく国土が広く、店舗での買い物に限界があるとされた中国は、通販との親和性が高いとされてきた。だが、フタを開けてみると親和性があったのは店舗が身近にない田舎よりも、むしろ都会の方であった。
 通販に熱狂する都市住民のニーズに後押しされ、通販サイトの品ぞろえはどんどん充実してゆき、それがまた人々を通販に引き付けるという相互作用のなかでアリババは急拡大を続けたのである。
 その過程では、「子供が売りに出されて問題になったこともあった」(北京の夕刊紙記者)。まさに中国ならではの「何でもあり」には驚かされるばかりだが、通販の隆盛は衰えることなく発展し続けたのである。
 この大躍進の立役者であるアリババの創業者ジャック・マーは、“戦う経営者”として知られる人物だ。これまで、国の規制や官僚主義と闘い、いくつもの風穴をあけてきた。そうした対立の中では、日本では官製メディアと揶揄される中国のメディアが、そろってジャック・マーの味方をする場面が見られた。それも国民からの圧倒的支持を取り付けている強みなのだろう。
 中国の経済界を代表する人物として全国民からの認知度も高くゆるぎない地位を確立したジャック・マーは、社会への影響力も強く、いまや「彼の存在自体が社会現象」(同前)とまで言われるほどである。
 中国の経済発展の黎明期に現れた経営者のほとんどは変わり者だといわれるが、ジャック・マーも例外ではない。本書は、アリババの副社長を務めた米国人の筆により、その神秘的で癖の強い人物像が余すところなく描かれているという点で実に興味深い。冒頭で紹介される、ジャック・マーのこんな言葉が印象的だった。
「わたしは百パーセント、中国製です。英語は独学ですし、テクノロジーのことはとんとわかりません。アリババが今まで生き残ってこられたのは、わたしがコンピュータ音痴だからでした。目の見えない人間が目の見えない虎の背にまたがっている。それがわたしです」

(とみさか・さとし ジャーナリスト、拓殖大学教授)
波 2015年11月号より

著者プロフィール

2000年から2008年まで、アリババグループに同社初のアメリカ人社員の一人として勤務。副社長を務め、国際サイトの運営や国際マーケティングを指揮した。アリババを退社後、アリババと創業者ジャック・マーの成功の軌跡を追ったドキュメンタリー映画『揚子江の鰐』を制作。新興市場の電子商取引に詳しく、アフリカ、アジア、南米の電子商取引企業のコンサルティングを手がけている。上海在住。

黒輪篤嗣

クロワ・アツシ

翻訳家。上智大学文学部哲学科卒。ノンフィクション、ビジネス書の翻訳を幅広く手がける。おもな訳書に『ハイパーインフレの悪夢』、『アリババ』(ともに新潮社)、『レゴはなぜ世界で愛され続けているのか』(日本経済新聞出版社)、『ドーナツ経済学が世界を救う』(河出書房新社)などがある。

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