ホーム > 書籍詳細:巨大なラジオ/泳ぐ人

その言葉は静かに我々の耳に残る――短篇小説の名手ジョン・チーヴァーの世界。

巨大なラジオ/泳ぐ人

ジョン・チーヴァー/著 、村上春樹/訳

2,484円(税込)

本の仕様

発売日:2018/11/30

読み仮名 キョダイナラジオオヨグヒト
装幀 CSA Images/装画、Getty Images/装画、新潮社装幀室/装幀
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 388ページ
ISBN 978-4-10-507071-7
C-CODE 0097
ジャンル 文芸作品、文芸作品
定価 2,484円

彼を抜きに五〇年代のアメリカ文学は語れないと村上春樹は言う。ジョン・チーヴァーはサリンジャーと同時代にザ・ニューヨーカー誌で活躍し、郊外の高級住宅地を舞台に洒脱でアイロニーに満ちた物語を描いた。ピュリッツァ賞も受賞した都会派作家の傑作短篇選! 全作品から村上春樹が二〇篇を厳選して翻訳し、各篇に解説を執筆。

著者プロフィール

ジョン・チーヴァー Cheever,John

(1912-1982)米国マサチューセッツ州クインシー生まれ。高校中退後に書き上げた小説が批評家マルカム・カウリーの文芸誌「ニュー・リパブリック」に掲載されデビュー。1940年代から「ザ・ニューヨーカー」誌に東部の郊外住宅地に暮らす中産階級の人々を描いた短篇を数多く発表、J・D・サリンジャーと同時代に都会派の短篇小説家として活躍した。1957年の長篇小説『ワップショット家の人びと』で全米図書賞。短篇小説を集めた『The Stories of John Cheever』はベストセラーとなり、1979年のピュリッツァー賞、全米批評家協会賞を受賞した。O・ヘンリー賞、ウィリアム・ディーン・ハウエルズ賞も受賞。1970年代にはアイオワ大学で作家レイモンド・カーヴァーとも親交が深かった。

村上春樹 ムラカミ・ハルキ

1949(昭和24)年、京都市生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。1979年『風の歌を聴け』(群像新人文学賞)でデビュー。主な長編小説に、『羊をめぐる冒険』(野間文芸新人賞)、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』(谷崎潤一郎賞)、『ノルウェイの森』、『国境の南、太陽の西』、『ねじまき鳥クロニクル』(読売文学賞)、『海辺のカフカ』、『アフターダーク』、『1Q84』(毎日出版文化賞)、『騎士団長殺し』がある。『神の子どもたちはみな踊る』、『東京奇譚集』などの短編小説集、エッセイ集、紀行文、翻訳書など著書多数。海外での文学賞受賞も多く、2006(平成18)年フランツ・カフカ賞、フランク・オコナー国際短編賞、2009年エルサレム賞、2011年カタルーニャ国際賞、2016年ハンス・クリスチャン・アンデルセン文学賞を受賞。

村上春樹 Haruki Murakami 新潮社公式サイト

書評

アメリカ短篇小説の黄金時代を味わう

金原瑞人

 翻訳者村上春樹氏が三十年以上前から、いつか訳してみたいと考えていたジョン・チーヴァーの短篇小説十八編とエッセイ二編をまとめた一冊である。巻末に添えられた柴田元幸氏との対談でも言及されているように、1950年代の「ニューヨーカー」には、「サリンジャーが書き、チーヴァーが書き、カポーティが書き、フラナリー・オコナーも書いていた、そういう勢いが」あった。そのアメリカ短篇小説の黄金時代を代表する作家のひとりチーヴァーの作品の特徴は、いわゆる短篇小説の型がくずれそうなくらい、彼独特の感性や視点やメッセージが盛りこまれていながらも、どれもが短篇としての矜持を保っていることだろう。
 高級アパートメントに住む三十代後半の夫婦が買った新しいラジオが、ほかのうちの声を拾うことに気づく話(「巨大なラジオ」)。ブロードウェイのプロデューサーの目に止まって、劇作家としてデビューすべくインディアナ州から家族を連れてニューヨークにやってきた男が経験する悪夢のような話(「ああ、夢破れし街よ」)。飲んだくれや、薬中や、酔っ払うと手が着けられなくなる乱暴者といった男にばかりほれてしまう女を遠くから見守っている男と、その男のたどる奇妙な運命を描いた話(「トーチソング」)。ゲイの男を乗せることを拒否するエレベーター係が目にする、ゲイの男の悲劇(「バベルの塔のクランシー」)。
 最初の数編をごく簡単にまとめるとこんな感じだ。どれも一見、物語性が強く、概要がつかみやすい。そして、それぞれ、洒脱にまとめようとか、ブラックな展開にしようとか、エンディングはうまくひっくり返してやろうとか、そういう意図も素直に伝わってくるし、どれも見事に決まっている。
 たとえば、「林檎の中の虫」という短篇は、同じ形の軽いひねりがどこまでも続いていく。完璧に幸せなクラッチマン夫妻を見て、人々は、あんなに大きなガラス窓がついているのは、罪の意識にさいなまれているからだ、ふたりの屍体性愛を思わせるような庭いじり好きは病的だなどと考える。ところがそんなことはなく、ふたりは健全に幸福だ。また人々は、夫妻がもうけたふたりの子どもに対しても、不幸にいたる様々な物語を想像する。しかし、そんなことはない。やがて子どもが巣立ってしまって、夫妻は精神的空虚さを感じるようになるのではないか、という憶測も飛ぶが、ふたりは「幸福に幸福に幸福に幸福に暮らしたのでした。」と結ばれる。この意味ありげなエンディングもうまい。つまり、ここに収められた短篇は一九世紀後半から二〇世紀半ばまで欧米で培われてきた短篇小説の面白さを十分に味わわせてくれる。
 しかし、もっと面白いのは、思い切りチーヴァー的なディーテイルの書きこみだ。たとえば「カントリー・ハズバンド」は、飛行機が悪天候に突っこんで緊急着陸するものの、全員無事に外に出るところから始まって、それに乗っていたフランシスがうちに帰って、九死に一生を得た話をしようとするけれど、だれも耳を貸してくれない。なんだか松尾スズキが戯曲を書いて、古田新太が主演しそうなとてもおかしい話なのだが、それだけでなく、細部がおかしい。メイドの顔を見たときのフランシスの描写とか。「彼の記憶は言うなれば盲腸――退化器官のごときものだった。過去から逃げられないという限界は彼にはまったくなかった。彼の限界はむしろ、過去からしっかりと逃げ切ってしまったところにあった」というチーヴァーならではの皮肉のきいた文章。そしてフランシスは戦争末期のことを思い出し、「中年期の黄昏の恋」にのめり込んでいく。このチーヴァーならではの、いきなりの展開が逆に必然に思えてしまう語りのうまさ。
 短篇の最後に置かれた「ぼくの弟」も、一家の鼻つまみ者になっている弟のことを延々と様々な場で描写していくところは読者も、なんとなくそうだろうなと思っているけれど、そんな予想を半分以上破りながらのチーヴァー的展開は読者の胸を突く。
 短篇の枠組みを巧みに利用しながら、それを自分的ディーテイルと展開でゆがめ、ずらしていくチーヴァーの魅力があふれている作品集。

(かねはら・みずひと 翻訳家)
波 2018年12月号より
単行本刊行時掲載

目次

  ジョン・チーヴァーの世界(まえがき) 村上春樹

巨大なラジオ The Enormous Radio
ああ、夢破れし街よ O City of Broken Dreams
サットン・プレイス物語 The Sutton Place Story
トーチソング Torch Song
バベルの塔のクランシー Clancy in the Tower of Babel
治癒 The Cure
引っ越し日 The Superintendent
シェイディー・ヒルの泥棒 The Housebreaker of Shady Hill
林檎の中の虫 The Worm in the Apple
カントリー・ハズバンド The Country Husband
深紅の引っ越しトラック The Scarlet Moving Van
再会 Reunion
愛の幾何学 The Geometry of Love
泳ぐ人 The Swimmer
林檎の世界 The World of Apples
パーシー Percy
四番目の警報 The Fourth Alarm
ぼくの弟 Goodbye, My Brother
何が起こったか? What Happened
なぜ私は短編小説を書くのか? Why I Write Short Stories
解説対談 村上春樹×柴田元幸

感想を送る

新刊お知らせメール

ジョン・チーヴァー
登録する
村上春樹
登録する
文芸作品
登録する
文芸作品
登録する

書籍の分類

この分類の本

巨大なラジオ/泳ぐ人

全国の書店、または以下のネット書店よりご購入ください。

※ 書店によっては、在庫の無い場合や取扱いの無い場合があります。あらかじめご了承ください。
※詳しい購入方法は、各ネット書店のサイトにてご確認ください。

  • amazon
  • 楽天ブックス
  • 7net
  • e-hon
  • HonyaClub
  • TSUTAYA ONLINE
  • 紀伊國屋書店
  • エルパカBOOKS - HMV
  • honto