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人体大全―なぜ生まれ、死ぬその日まで無意識に動き続けられるのか―

ビル・ブライソン/著 、桐谷知未/訳

2,970円(税込)

発売日:2021/09/16

  • 書籍
  • 電子書籍あり

全ヒト必読! 30億年の進化の果てに獲得した「奇跡のシステム」その全貌に迫る。

ほぼ同じDNAをもつ二人が、何もかも異なるのはなぜか。毎日5個もの細胞が癌化しているのに、なぜ簡単には死なないのか。生命体とウイルスのちがいとは――。医療・医学の最前線を取材し、7000じょ個の原子の塊が2キロの遺骨となって終わるまでのすべてを描き尽くした、全米各紙絶賛のエンタメ・ノンフィクション!

目次
第一章 ベネディクト・カンバーバッチのつくりかた
あなたがあなたでいられる理由/何をしているのかほとんどわからないヒトゲノム
第二章 わたしたちは毎日皮膚を脱ぎ捨てている
皮膚は最高の「センサー」である/皮膚と人種差別/指紋の「万人不同性」の発見/わたしたちの体は生きた「エアコン」/皮膚微生物という便利な同居人
第三章 微生物との「甘い生活」
人の九割は細菌?/三万年眠り続けたウイルス/抗菌薬の登場/抗生物質と細菌の終わりなき死闘
第四章 脳はあなたそのものである
脳はあなたのすべてである/脳ほどあてにならないものはない/「宣言記憶」と「手続き記憶」/脳と人格は関係があるか/脳が傷つくとどうなるか
第五章 頭のなかの不思議な世界
世界最大の「頭蓋骨コレクション」/「見える」という奇跡/ヘッドホンの使い過ぎにご注意を/嗅覚は私的な感覚
第六章 あなたの「入り口」は大忙し
「食べる」と「話す」と「呼吸する」を同時に行なう場所/バスタブ二百杯分の唾液/味覚受容体は口内以外にも存在する/「うま味」の発見/チンパンジーには不可能で、わたしたちにしかできないこと
第七章 ひたむきで慎み深い心臓
体内でもっとも「ひたむき」な器官/開胸手術の歴史/血液は何をやっているのか/血液型の発見
第八章 有能な「メッセンジャー」ホルモン
ランゲルハンス島の謎/ヒトが過食になりやすい理由/肝臓は数週間で再生する/テニスボール大の結石
第九章 解剖室で骨と向き合う
ヒトは死なないように設計されている/死体が足りない!/骨だって生きている/骨と筋肉と腱の華麗なるコラボレーション/わたしたちは生涯で二億歩歩く
第十章 二足歩行と運動
二足歩行の代償/旧石器時代の設計と飽食の時代
第十一章 ヒトが生存可能な環境とは
ヒトはワニのひと月分の食糧を毎日食べている/ヒトが生存可能なのは地球の全表面積の四パーセント/アメリカに提供された七三一部隊の研究成果
第十二章 危険な「守護神」免疫系
侵入者から体を守る頼もしい味方/臓器移植と拒絶反応/アレルギーという負の側面
第十三章 深く息を吸って
大気汚染は喘息の発作を起こすが病因ではない/タバコメーカーと医学界の攻防/六十八年間しゃっくりし続けた男
第十四章 食事と栄養の進化論
ヒトの進化と加熱調理の関係/ビタミンとミネラルの発見/タンパク質/炭水化物/脂肪/飢餓よりも肥満に苦しむ人が多い時代/塩をめぐるパラドックス
第十五章 全長九メートルの管で起こっていること
胃は過大評価されている/胃に穴があいたままの男/薬剤師助手であるというだけで開腹手術をさせられた男
第十六章 人生の三分の一を占める睡眠のこと
クマは「冬眠」しているのではない/睡眠中のほうが活発に活動する前脳/「体内時計」という発見/睡眠不足がわたしたちにもたらすもの
第十七章 わたしたちの下半身で何が起こっているのか
消えゆくY染色体/セックスという優れた「生存戦略」/女性はミトコンドリアの神聖な番人/誤解まみれの生殖器
第十八章 命の始まり
極端に非効率なヒトの生殖/母になることとあの世に行くこと/進化の代償としての難行
第十九章 みんな大嫌いだけど不可欠な「痛み」
どのように痛みを数値化するか/よい痛みと無意味な痛み
第二十章 まずい事態になったとき
どこからともなく現われ、消えていくウイルス/感染症は畜産の発達の副産物である/いちばん危険なのは進化のはやいインフルエンザ
第二十一章 もっとまずい事態(つまり、がん)になったとき
がんは「許可なき自殺」/麻酔なしの切開手術/母親の腹部に放射線を当ててみた医師と物理学者の兄弟
第二十二章 よい薬と悪い薬
盗まれた栄誉/長生きしたければ金がいる/健康な人とは「まだ検査を受けていない人」のこと/過剰医療で得をするのは誰か
第二十三章 命が終わるとはどういうことか
「人を死なせるのはライフスタイル」という時代/わたしたちの寿命は細胞にプログラムされている/人が百十歳まで生きる確率は七百万分の一/アルツハイマー病にお手上げ状態/人が死んだあとに起こること
短いあとがき
謝辞
訳者あとがき
図版出典一覧
参考文献

書誌情報

読み仮名 ジンタイタイゼンナゼウマレシヌソノヒマデムイシキニウゴキツヅケラレルノカ
装幀 デルフトの医師ウィレム・ファン・デル・メール博士の解剖学講義の図 ミヒール・ファン・ミーレフェルト画 デン・ハーグ市美術館蔵/カバー、(C)Alamy/カバー、PPS通信社/カバー、新潮社装幀室/装幀
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 512ページ
ISBN 978-4-10-507231-5
C-CODE 0098
ジャンル 科学
定価 2,970円
電子書籍 価格 2,970円
電子書籍 配信開始日 2021/09/16

書評

「素人にこんなオモロイ本を書かれたら困るがな」的な医学エンタメ

仲野徹

 医学系書籍の現状と将来について講演する機会に、いくつかの提案をしたことがある。その時、特に重要性を強調したのは、良き書き手の育成である。売れ筋の医学系書籍をしらべてみると「トンデモ本」が並んでいて愕然とする。その理由のひとつは、まともな医学系書籍は面白くない、あるいは、面白く書ける人が少ないということにある。できれば「このようなオモロイ本を書けるような著者を育てるべきだ」と例をあげて話したかったのだが、あまり適当な本を思いつけなくて諦めた。その講演のすぐ後で、本書を読む機会があった。あぁ惜しい、タッチの差であった。この本を知っていたら胸をはって紹介できたのに。
 この本、まず何しろ面白い。それだけでなくて、わたしのような医学研究者にとっても、知らないことが多くて勉強になった。著者はいったい何者なのかと、ビル・ブライソンがこれまでに書いた本を調べてみた。多くは旅行関係で、他には『人類が知っていることすべての短い歴史』(新潮文庫)とか、どれも医学とは関係がない。医学に明るい優れた書き手が必要であると偉そうにいいながら、おいおい、素人にこんなレベルの本を書かれたら困るがな、というのが、著述を兼業とする医学専門家としての正直な感想だ。同時に、いや、素人だからこそ専門家的な「常識」にとらわれずに書けたのではないかという気もする。純粋に自分が面白いと思うことを、他人を面白がらせるように書いてある。しかし、ここまで内容が正確なのは驚きだ。取材や調査が膨大であったに違いない。
 いきなり目にはいってくる第一章の扉は映画「SHERLOCK/シャーロック 忌まわしき花嫁」で主人公ホームズを演じた有名映画俳優の蝋人形写真だ。そのタイトルは「ベネディクト・カンバーバッチのつくりかた」。いったい何が書いてあるのかと読んでみると、カンバーバッチを原材料からつくるとしたら、いったいどれくらいの費用が必要かという内容である。なるほど、つかみはこう来るかと思っていたら、話はそこから、からだの設計図である遺伝子、その物質的基盤であるDNA、さらには全遺伝情報であるゲノムへと急展開する。いやぁ、うまいっ!
 どの章の扉写真もひねりが効いていてニヤッと笑える。「第十七章 わたしたちの下半身で何が起こっているのか」では、細胞内でエネルギーを産生する小器官であるミトコンドリアがデザインされているのだが、見ようによってはペニスだ。というより、そう見えるように意図されているとしか思えない。本文の内容も、Y染色体は父から子へ、ミトコンドリアは母から子へと伝わるというようなお堅い話から、男女の生殖器の話や、ヒトがセックスにかける時間や頻度までと幅広い。なるほど、扉写真はうまい具合にこういったトピックスの隠喩にしてあるようだ。
 これら二つの章からわかるように、内容は変幻自在にして縦横無尽だ。いかに多岐にわたっているかを知ってもらうために、あちこちの章から小項目をいくつか紹介すると、「皮膚と人種差別」、「脳と人格は関係があるか」、「アメリカに提供された七三一部隊の研究成果」、「胃に穴があいたままの男」、「睡眠不足がわたしたちにもたらすもの」、「セックスという優れた『生存戦略』」、「よい痛みと無意味な痛み」、「どこからともなく現れ、消えていくウイルス」、「がんは『許可なき自殺』」、「人が死んだあとに起こること」などなど。むっちゃそそられませんか?
 全部で二十三章もあるので、それぞれは十数ページから二十数ページと短いものだ。なので、各章のテーマについて網羅的に詳細に説明されている訳ではない。ただし、簡潔ではあるけれども知っておくべきツボは確実に押さえてある。そのうえ、ユーモアたっぷりな書きぶりで、文章に切れ味がある。さらには、あちこちにある捨て台詞もいい。下世話きわまりないが、先に紹介した第十七章では精子の噴出距離にまで話が及んでいる。平均は十八〜二十センチで「約一メートルの射出が科学的に記録されている」と書かれている。普通はここまでだろう。しかし、「どんな状況での記録かは明記していない」と、誰もが気になること(?)を、きちんと括弧内に書き添えてくれている。ブライソン、なんと親切なんだ。
 いやぁ、これだけの内容だと、米国ではさぞかし売れたのだろうと原著をアマゾンで検索して我が目を疑った。なんと、レビュー数が一万を超えているではないか。もちろん、☆の数の平均は四・五と高評価だ。
 最初に述べた講演では、良き書き手だけでなく同時に良き読者の育成も必要であると力説した。面白い医学本を読んだので、さらにいろんなことが知りたくなった。また別の本も手に取ってみよう。この本を読めば、そう考える人が増えてくれるにちがいない。素晴しい一冊ではないか。

(なかの・とおる 生命科学者、大阪大学大学院教授)
波 2021年10月号より
単行本刊行時掲載

短評

▼ワシントン・ポスト
我々は自分の体を所有していない。進化こそが我々の体を所有し、我々はそれを占拠しているだけに過ぎないことをブライソンは明らかにしている……あなたは自分がいかに素晴らしくデザインされていて、なおかつ奇妙なことだらけかと驚くだろう。

▼ニューヨーク・タイムズ
ブライソンの新作は、日常生活を送っている間に我々の体が人知れず行っている何千もの仕事を詳らかにしている。読者は自分たちの体に感謝することになる……ブライソンは知られざるヒーローを見つけ出して書くのが本当にうまい。

▼ウォール・ストリート・ジャーナル
本書のテーマは「進化は往々にしてやっつけ仕事である」ということだ。我々人類はその場しのぎの結果であり、一時的な解決方法と応急措置の産物だということがよくわかる。とはいえ、ヒトはこれまでのところ首尾よくやってきたのであり、それは奇跡的なことなのである。

著者プロフィール

1951年、アイオワ州デモイン生れ。イギリス在住。幅広いテーマでベストセラーのあるノンフィクション・ライター。主な著書に『英語のすべて』、『アメリカ語ものがたり1・2』、『究極のアウトドア体験』、『ドーナッツをくれる郵便局と消えゆくダイナー』、『人類が知っていることすべての短い歴史』、『シェイクスピアについて僕らが知りえたすべてのこと』、『アメリカを変えた夏 1927年』などがある。王立協会名誉会員。これまで大英帝国勲章、アヴェンティス賞(現・王立協会科学図書賞)、デカルト賞(欧州連合)、ジェイムズ・ジョイス賞(アイルランド国立大学ダブリン校)、ゴールデン・イーグル賞(アウトドア・ライターならびに写真家組合)などを授与されている。

桐谷知未

キリヤ・トモミ

翻訳家。東京都出身、南イリノイ大学ジャーナリズム学科卒業。ビル・ブライソン『人体大全─なぜ生まれ、死ぬその日まで無意識に動き続けられるのか』、アダム・ファーガソン『ハイパーインフレの悪夢─ドイツ「国家破綻の歴史」は警告する』(黒輪篤嗣との共訳)、カリ・ニクソン『パンデミックから何を学ぶか─子育て・仕事・コミュニティをめぐる医療人文学』、キャロリン・A・デイ『ヴィクトリア朝 病が変えた美と歴史─肺結核がもたらした美、文学、ファッション』、フィリップ・ボール『人工培養された脳は「誰」なのか─超先端バイオ技術が変える新生命』、ジョセフ・E・スティグリッツ『これから始まる「新しい世界経済」の教科書』など訳書多数。

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