
ライプニッツの輝ける7日間
2,640円(税込)
発売日:2026/01/29
- 書籍
- 電子書籍あり
「最後の万能の天才」の多彩な生涯を7日間の出来事で描く画期的〈評伝〉。
数学や哲学で多大な業績を残し、歴史家や発明家としても活躍した知の巨人ライプニッツ。時に政治に口を出し、時に論争を巻き起こしながら、バロック時代を「転がる石」のように生きた70年の生涯から岐路となった7日間を取り上げ、遺された10万ページのメモと2万通の手紙を元にその思考と業績を再構築した比類なき書。
はじめに
第1章 パリ、1675年10月29日 進歩への楽観と、絶えざる遍歴
ハエ/コーヒー、少しのワイン、そしてたっぷりの砂糖/大都市の夢/セーヌの岸辺で/紙とインクの、白と黒の魔法/転がる石、ライプニッツ/計算としての世界/無限の記号/世界を変えた一枚の紙
第2章 ツェラーフェルト(ハルツ)、1686年2月11日 譲歩を伴う創造:課題としての世界
ベラクルスを出航する銀を積んだガレオン船/宮廷のよろず屋兼細工屋/風車をめぐる騒動/白い雪、黒いインク/三角関係/物理学の向こう側/可能的アダム、可能的世界/ただ一つの最善の世界/万物のつながり/すべては動いている/行政プロジェクトとしての世界の改善/スマトラからの鉱石
第3章 ハノーファー、1696年8月13日 世界は眠っている、あるいは、万物は生きている
燃え尽きと過熱/宮廷の呪縛の中で/自己義務としての自由/ヘレンハウゼン王宮庭園の水の芸術/夏の雑談/ハエの再生、ふたたび/この世界に死は存在しない/叫ぶ機械/自伝的な回想/ぼやけた無限/魂の砂漠/一人の人間の中に何人のライプニッツが?/移ろう生命の形/モナド2.0
第4章 ベルリン、1703年4月17日 世界を1と0に分解する:デジタル未来への道
世界の公式を探して/ラブ・サマー/ブリューダー通りで/命がけの伝達/欧州からの情勢報告/中国から学ぶ/デジタルの夢/0と1でできた世界/2進法の構造をした中国の経書/2進法の記号をもつ魔方陣/現実の構造/未来への移行
第5章 ハノーファー、1710年1月19日 歴史と小説のあいだ:いかにして悪から善が生まれるか
万事は見方の問題である/図書館の扉の外で/毛皮の裏地のナイトガウンと、厚手のフェルトの靴下/歴史学者の道具/教皇の椅子に座った女性?/法廷に立つ神/悪のポジティブ化/怒れる残忍な、ローマ最後の王/現実と虚構のあいだの二つの形/時間の経過
第6章 ウィーン、1714年8月26日 ネットワーク化された孤立:孤独と共同性のあいだの緊張領域
もう一度深呼吸を/成功と孤独/遠くて近い権力/遠隔関係の難しさ/動乱の日々/出立を控えて/愛と幾何学/神と計算を競う/窓のない魂?/明日のことはわからない
第7章 ハノーファー、1716年7月2日 未来への助走:螺旋状の進歩とポストヒューマンの理性
自分を超えて考える/活力に満ちて/源泉へ/新しいヨーロッパのために/良い機嫌に陰りがさす/精神的同類としての博学者/地球の年齢は?/熱から生まれた火トカゲ/そもそも始まりは存在するのか?/過去への回帰/ハエを理解する/人生のある一日
エピローグ
謝辞
訳者あとがき
注釈
略語
図版のクレジット
書誌情報
| 読み仮名 | ライプニッツノカガヤケルナノカカン |
|---|---|
| シリーズ名 | 新潮クレスト・ブックス |
| 装幀 | Toru Kageyama/Illustration、新潮社装幀室/デザイン |
| 発行形態 | 書籍、電子書籍 |
| 判型 | 四六判変型 |
| 頁数 | 320ページ |
| ISBN | 978-4-10-590205-6 |
| C-CODE | 0398 |
| ジャンル | 文学・評論、自伝・伝記 |
| 定価 | 2,640円 |
| 電子書籍 価格 | 2,640円 |
| 電子書籍 配信開始日 | 2026/01/29 |
書評
徹底的な「接近」でライプニッツの謎に迫る
生涯のあいだに1300人もの人と文通を交わしながら、政治と宗教と科学の境界をまたいだ思索を続け、鉱山の改良から選帝侯家の家史編纂まで、常にいくつもの未完のプロジェクトを抱えたまま各地を馬車で忙しく駆けまわり、数学や論理学、哲学などさまざまな学問領域において、決定的に新しい思考の道を切り開いていったライプニッツ。彼が生前にメモとして書き残した膨大な思考の断片は、遺稿としてハノーファーの「ライプニッツ文書室(Leibniz Archiv)」にいまも保管されている。
2014年の秋に私も、雑誌「考える人」の企画で、数学の歴史を辿る「ヨーロッパ数学紀行」の道中にこの文書室を訪れたことがある。初めてライプニッツの肉筆を目にしたとき、その踊るような筆跡に生々しい思考の息吹を感じて、胸が高鳴ったことをよく覚えている。膨大な遺稿を前にして何より感じたことは、その過剰なまでの思考のエネルギーだった。とてもではないが、このすべてを読んで理解することなど誰にもできないに違いないと思った。とどまることなく湧出し続けたライプニッツの思考は実際、いまだ全貌の把握できない魅力的な謎として、圧倒的な存在感を放ち続けている。
全貌が見えない思考に、後世の読者はどう向き合えばいいのだろうか。この難問に対して、本書の著者であるミヒャエル・ケンペは、ユニークなアプローチを考案した。すなわち、ライプニッツの広大な思考の領野を、外から引いて眺めようとするのではなく、逆に本人に徹底的に接近してしまおうというのだ。このために著者は、ライプニッツの膨大な遺稿をひもときながら、彼の生涯全体のたった「7日間」を蘇らせていくことに専念するという方法を編み出した。そうすることで彼の思考が生成する現場が実際、生々しく目の前に立ち上がってくるのだ。
どんな巨人でも、近づいてみれば同じように人間であり、みなそれぞれに弱い。ライプニッツもまた、ときには挫け、自信を失い、些細なことに思い煩ったりしながら生きていた。経済的な心配であったり、健康上の不安であったり、ライプニッツを日々煩わせたのもそんなありふれた悩みだった。
だが弱さは彼の欠点ではなかった。欠乏こそが善を生み出すことを彼は知っていた。実現しないプロジェクトや、失敗に終わる計画も少なくなかった。むしろ本書を読むと、計画通りに進んだ仕事などほとんどなかったことがわかる。それでも彼は、立ち止まらなかった。そこにこそ彼の非凡さがあった。
ライプニッツは何より、研究のための自由を求めた。そのためには権力者からの支援を必要とした。だが自由であるためには、権力に依存しない必要もあった。この矛盾した要求のなかから彼の固有の生き方が生まれた。
ライプニッツは、政治的な力を持つ複数の人に仕える一方で、特定の誰にも従属しない生き方を選んだ。そのため、ヨーロッパの各地に支援者がいるにもかかわらず、どこにも本当の安住の場所はなかった。
とてつもなく多様な関係の可能性に開かれていながら、誰に対しても心をあけ渡すことはしない。開かれていながら閉じている。世界全体と絡み合いながら、孤立している。そんな彼自身のあり方そのものと、彼の形而上学の中核的概念である「モナド」を重ね合わせて読み解く第6章は特に、個人的にも深く頷きながら読んだ。
モナドは難解な概念だ。宇宙の鏡としての単純実体であるモナドは、相互に表現し、反映し合う。にもかかわらず「モナドには、何かが出入りできるような窓がない」。
ライプニッツは「世界をそれぞれ根本から独立したものだと考えると同時に、すべての個は根本から結ばれているととらえて」いた。モナドはまさにこの緊張状態を体現する実体だが、同時に、ライプニッツ自身の似姿でもあった。ライプニッツはとてつもなくたくさんの人と交流したが、誰とも深く付き合いすぎることはなかった。あらゆるものと交流しながら、決して「窓」を開くことがないライプニッツの魂は、まさに彼が描くモナドそのもののようであった。
本書は、ライプニッツの葛藤と決意、自由と孤独のあいだに揺れる魂の動きを間近に感じながら、彼の思考が生成する現場に「参加」する経験を味わえる、貴重な一冊である。
(もりた・まさお 独立研究者)
波 2026年2月号より
単行本刊行時掲載
関連コンテンツ
短評
- ▼Morita Masao 森田真生
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ライプニッツはあまりにも巨大で、その全貌を把握するのは不可能に近い。だが本書では、遠くから見晴らそうとするのではなく、むしろハエのように、木漏れ日や砂糖の香りまで感じられる距離に接近し、巨人の日常と創造の現場に肉薄していく。すべては他のすべてとつながっている──そう信じたライプニッツの生涯の、たった「7日間」をともにするという経験を通して、いつしか彼の生きた鼓動まで聞こえてくる。外から眺めるのではなく、思考が生成する現場に「参加」していくこと。「ライプニッツを読む」ことは、こんなにも可能性に開かれていた。
- ▼Rüdiger Safranski リューディガー・ザフランスキー
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素晴らしいアイデアだ。ライプニッツの人生と業績が新たな転機を迎えた特定の日から出発し、最終的に一つの世界全体を解き明かす。伝記文学における驚くべき傑作だ。
- ▼Daniel Kehlmann ダニエル・ケールマン
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ミヒャエル・ケンペは、現代にふさわしいライプニッツの伝記を書き上げた。この豊かな知性を正当に評価するのは難しい。しかし、ケンペはまさにそれを成し遂げた。7日間を通して人生全体を描き出し、7つの重要な瞬間が、偉大で矛盾に満ちた人物像を形作っている。
- ▼Peter Neumann ペーター・ノイマン[ディー・ツァイト]
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驚異的な本だ。ライプニッツの人生と思想、旅路、そして書斎での姿が、これほど鮮やかに描かれたことはほとんどなかった。
著者プロフィール
ミヒャエル・ケンペ
Kempe,Michael
1966年生まれ。歴史学者。ハノーファー在住。コンスタンツ大学とダブリン大学トリニティ・カレッジで歴史と哲学を学び、コンスタンツ大学で教授資格を取得した。2010年には著書“Fluch der Weltmeere: Piraterie, Volkerrecht und internationale Beziehungen 1500-1900”を刊行。2011年より、ハノーファーにあるゴットフリート・ヴィルヘルム・ライプニッツ図書館内に設置された、ゲッティンゲン科学アカデミーのライプニッツ研究所の所長を務めている。長年にわたり、人間としてのライプニッツ、そして哲学者・歴史家・数学者・図書館司書・発明家としてのライプニッツの研究に取り組んできた。
森内薫
モリウチ・カオル
英語・ドイツ語翻訳家。上智大学外国語学部フランス語学科卒業。訳書に、ティムール・ヴェルメシュ『帰ってきたヒトラー』、アネッテ・ヘス『レストラン「ドイツ亭」』、マリー・ムーティエ『ドイツ国防軍兵士たちの100通の手紙』、ブルンヒルデ・ポムゼルほか『ゲッベルスと私』(共訳)、マイケル・ボーンスタインほか『4歳の僕はこうしてアウシュヴィッツから生還した』、ハラルト・イェーナー『ドイツ戦後史 1945-1955』など多数。



































